横山秀夫/文春文庫
2015年2月10初版。比較的最近の長編作品で、TVドラマにもなっているらしい。
以前に読んだ作品としては「第三の時効」がある。同じ警察モノでも著者の作品には、いわゆるアクション場面がほとんど出てこない。「第三の時効」も心理描写が多かったが、「64」は、更に徹底した心理描写になっているように思う。それはそれで一つの手法として面白いと思うが、組織の権力闘争的な場面が延々続くと、違和感が出てこないでもない。そこはうまくしたもので、適当に事件が起きるようになっており、飽きさせない。
最初は14年前の事件であり、時効寸前なので、一つの未解決事件として扱うのかな、と思っていたら、実はこれが徐々に蘇ってくる。それも、歴代の刑事部長が隠し続けてきた、誘拐事件に関わる決定的な捜査ミス、その隠蔽が明らかになるという形で。
キャリアと所轄の軋轢もさることながら、上げ足取りか梯子外しか人事異動が刑事に与えるストレスも大変なものだ。
家に帰れば、娘は失踪して久しく、更に妻はノイローゼ寸前という状況が待っている。強面警察官もプライベートでは辛苦をなめている。何とか乗り切ろうと、もがいている姿がある。この「執拗な努力」が、意外にも「64」解決に向かうことになる。全ては14年前のことであり、状況証拠ばかりが並ぶけれども、何かしら閉塞感、無力感に風穴が開く、一筋の光が差し込む。明日への希望というほど晴れがましいものではないけれども、えらい長編であるだけにホッとする結末である。