カミサン伝説「13日は金曜日編」真面目なカミサン屋作
「明日13日は金曜日だぞ」
「それがどうした」
「知らないの」
「何が?」
「ジェイソン」
「アメリカの建国記念日だっけ」
「もういい」
俺が悪かった。
あほーの龍之介に聞いたのが悪かった。
信用しない奴は痛い目にあえばいい。
いや、知らぬが仏かもしれない。
俺は忘れもしない。13日の金曜日。
生まれて初めて足を捻挫した日。
手を骨折したことはあったが、
その激痛は骨折とは比較にはならなかった。
初めて犬のうんこを踏んだのに気づかず、
家に帰り、母ちゃんに殴られた日。
そして、もうやめよう。
過去を振り返るだけで明日が恐ろしくなる。
今はインチキかもしれないが、
魔よけの効果があると言われる
カミサンの像に頼るしかない。
本当は、明日は一日家にこもっていたかった。
しかし。
なんと、飛行機で北海道へ日帰りで出張だ。
まあ、飛行機が落ちることはないだろうが、
とてもイヤな予感がして怖い。
ネットで購入したカミサンの像の説明書によれば、
この小さな像を付属の布で磨き、
付属の紐付きの小袋に入れてお守りのように首にかけ、
毎朝、飲食の前に
「カミサン、カミサン、カミサン、今日も幸あれ」と
大声で叫ぶだけで、不幸を避けられるという。
はっきり言って、インチキくさいが、
過去を振り返れば、試してみる価値はある。
購入してまだ半月足らずだが、
今のところ自分の知る限り、
自分はもとより家族や友人にも不幸な出来事は起こっていない。
といっても、明日でこの像の効果が本物か否か実証されるわけだが。
怖さのせいか、
緊張のせいか昨日はほとんど寝られなかった。
起きると同時に枕元においてあった
カミサンの像を付属の布で磨き、
付属の紐付きの小袋に入れて首にかけ
「カミサン、カミサン、カミサン、今日も幸あれ」と
大声で叫んだ。
後は成り行きにまかすだけだ。
ふー、無事に家に戻ってきた。
この像のおかげかもしれない。
時計を見るともう午後11時だ。
どうにかクリアしたようだ。
風呂に入るのも面倒なのでこのまま寝よう。
翌朝目が覚めた。もう6時だ。どこも異常がない。
やった。カミサンの像のおかげだ。
喉が渇いたので水を飲む。
油断した。
その前にアレをやらなければいけなかった。
そして、時差を忘れていた。
どこかの国ではまだ13日。
そして、13日は金曜日だ。
何か心臓がバクバクしてきた。苦しい。
カミサンの像よ助けてくれ。
しかし、像がない。枕元にあるはずの像はない。
息苦しさをこらえながら、
カミサンの像が入っていた箱を探す。
あった。その中の説明書の中の注意書きを読む。
「カミサンの像は人を守るための像です。
ですから、儀式を忘れても罰があたることはありません。
ただし、カミサンの像は
あなたに忘れられた悲しさのため消えるでしょう」
ふー、もう一寝入りしよう。
以上は本当の話です。
みなさんもお一ついかがですか。
13日の金曜日が終わりに近づいた
今ならお安くしておきますよ。
(終)