「静なる悪魔とあおむ」
「臭いますか、あっ」
とあおむは口を押さえるが、もう遅い。
「あの辺で声がしたぞ。」
木太郎たちは、掛け時計のあった隠し扉の裏を見た。
「き、木太郎」
隠れている男の顔を見て、いつきが驚く。
「オタクがダミーだったのか」
「だみ?何のことだすか」
「とぼけるな。オタクがダミーだろ」
いつきが大声を出す。
「ダミー、おー、偽物、違いますだす」
と言って、あおむは腹を掻く。
「こいつ、違うな」
「ああ、本当に下品な奴だ」
「どこがだすか」
あおむがマヌケなことを言い出す。
「オタク、こんなところで、何、やってたんだ?」
いつきのマヌケな質問に、
「隠れてますた。それより、大変だす。
みなさん、悪魔に殺されました。
悪魔は今、この扉の下へ降りて行きました。
僕がちゃんと扉を閉めましたから、
4人もいれば、安全だす。
あとは、木太郎さんさえ助けに来てくれれば、
どうにかなるだす」
あおむは、自分にそっくりな顔をしているにもかかわらず、
マヌケなことに丸坊主の木太郎を木太郎とは思っていない。
エイタがいつきと木太郎に視線を送った後、
わざとあおむに木太郎を知らないふりをして質問する。
「木太郎って誰だ。」
「木太郎さんだす。僕ににて人気があるようです。
地下にアスカさんという方を助けに言ったまま、
戻ってこんだす。
でも、悪魔は木太郎さんのことを捜してますた。
アスカさんという方も捜していたようだす。
このそばを動き回って怖いくらいだすた。
そうだす。地下にもナロウサマ
とかいう悪魔がいるみたいだす」
「ナロウサマ?」
「野郎様じゃないのか?」
いつきは首を傾げているところへ
エイタが通訳するように言う。
「野郎様の間違いじゃないか?」
いつきがあおむにいうと、
「ヤロウサマ?うーん、ナロウサマのようだすが、
まあ、どっちでもいいだす」
「こいつ、いい加減な奴だな?
それより、誰が殺されたって?本当か?」
いつきはあおむに問う。
「僕もやられそうになりますたから、
本当だす。でも、僕は露天風呂の中で
息を止めて死んだフリをしたから、助かっただす」
「あの時の死体か」
木太郎が思いだしたように言う。
素っ裸な死体と、結構、
こ綺麗な格好をしたあおむが
同一人物だとは木太郎も気づかなかった。
「ああ、そういえば、
じいさんのような悪魔と
はげの悪魔だと思っただす。
あの時も怖かっただす。
でも、はげさんが悪魔じゃなくて良かっただす。
あの後、あそこはあぶないと思って、
2階に言って、この服に着替えたのだす、
そして、ずっとここに隠れていただす。
そうだす。おしっこが漏れそうだす。」
(続く)