これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ぶりっ子と窓際族

2009年02月26日 20時02分04秒 | エッセイ
 ものを食べるとき、左の歯だけで噛む癖がある。口の中の、右半分はからっぽだ。
「左で十回噛んだら、右でも十回噛みましょう。左右で同じ回数を咀嚼することで、体のバランスが保たれます」
 たしか、あるタレントが美を保つ心がけとして、こんなことを言っていた。
 そこで、仕事が与えられず、窓際族と化した右側の出番である。暇を持て余している右の歯に、噛む仕事を与えてみたのだが……。左側の味覚ばかりが発達したのか、右側で食べてもさほど美味しく感じない。

 舌先では「甘い」味を感じ、奥に進むと「塩辛い」「酸っぱい」味に敏感な場所がある。一番のどに近いところは「苦い」味を感じるところだ。
 基本的には左右対称となっているから、右で噛んでも左で噛んでも同じ味になるはずなのに、どうして味が落ちてしまうのだろう?
 やがて、仕事することに慣れていない右の歯は、頬の内側の肉を噛むという失敗をしでかした。

 ううう、痛い……。

 激しい痛みと血の味が、口の中に広がった。
 結局、右の歯には仕事を任せられない。おかげで、酷使された左の歯はしょっちゅう虫歯になるし、銀歯が取れて歯茎は腫れるしで、もうボロボロだ。私がおばあさんになったとき、きっと左半分は残っていないだろう。でも、右半分は生き残るのではと思う。

 一方、荷物を持つ手は右が多い。左手で持つこともあるが、やけに重く感じるのだ。どちらで持っても、同じ重さのはずなのに。
 歯と同様で、交互に荷物を持ち替え、片方だけに負荷を与えないことが大切だと聞いたことがある。しかし、隙あらば怠けようとする左手に、それを求めることは難しい。
 仮に、左手にバッグやスーパーの買い物袋を持たせたとしよう。5分も経たないうちに「もう持てな~い」と、ぶりっ子調で弱音を吐くのだ。
 よせばいいのに、右手が奉仕精神を発揮し、「では、それがしが……」と荷物をバトンタッチすることになる。
 かくして、右手は常に重いものを持たされ、左手はブラブラ遊んでいるというわけだ。

 こんな毎日では体の歪みが心配なので、整体に行ってみたい。
 働き者の左の歯と、労働をいとわない右の手で、うまくバランスが取れればいいのに~。



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おひな様競争

2009年02月22日 20時58分59秒 | エッセイ
「人形は顔が命」というフレーズの、ひな人形のCMが流行ったことがあった。
 わが家では、速さが命である。
 初めて7段飾りのひな人形を出したとき、実に3時間もかかった。慣れるにつれ、所要時間は短くなり、昨年は2時間を切っている。
 さて、今年はさらに記録を伸ばすことができるだろうか。

 まずは屋根裏の収納庫から、人形入りダンボール1箱、小道具入りダンボール2箱、ひな段入りダンボール1箱の計4箱を運び出すことから始める。これがひと仕事だ。
「オレ、腰を傷めるといけないからパス」
 腰痛持ちの夫は早々に退散してしまい、健康な私一人でやるから時間がかかる。
「うう~、重たいぃー」
 ひな段の箱は20kgほどあるので、中身を小分けにして運ばないと無理だ。が、あとの箱は非力な私でも楽々下ろせる。4箱出したところで、すでに10分経過していた。

 次に、ひな段の骨組みを作る。そこに、緋毛せんと呼ばれる赤い布を敷く。この毛せんには折りジワがつくので、アイロンをかけてくださいと書いてあるが、毎年無視している。

 だって、人形やお道具を置けば、シワになっててもわかんないんだも~ん♪

 ぐちゃぐちゃの毛せんを強引に止め具で固定し、屏風、ぼんぼりと順番に並べていく。ぱっぱ、ぱっぱと手際よく作業しても、時計を見たら45分経過……。やっぱり時間がかかるものだ。
 台を並べたら、人形を出す。最初は殿と姫だ。殿には烏帽子をかぶせて紐を結び、刀を脇に差し込む。この刀は、ちゃんと鞘が抜けるようになっていて、チャンバラもできる。でもやらない。
 姫は扇を広げて持たせるだけだから簡単だ。
 次は三人官女。座っているから官女は中央に、口を開けている官女は向かって左、結んでいるものは右に置く。銚子の種類が違うので、慎重に持たせる。

 そして、五人囃子ではなく七人雅楽。両親に買ってもらうときは、にぎやかなほうがよいと思って、二人分多いものを選んだくせに、いざ並べるとなると「余計な時間がかかるじゃないか~」と気づいた。樂太鼓・褐鼓(かっこ)・笙・ひちりき・横笛・琴・琵琶をセットするのだが、琵琶を持たせるのが難しい。本を読んでいた娘のミキに、ちょっと愚痴ってみた。
「琵琶じゃなくて、テナーサックスとかにしてくれれば、首からストラップでぶら下げられるのにね~」
「えっ、じゃあ、その隣には、トランペットやトロンボーンがあるの?」
 ミキも、ニヤニヤ笑いながら話を合わせてきた。
「うん。七人雅楽じゃなくて、八人吹奏楽なんていうのはどう?」
「ははは、無理無理。八人じゃ吹奏楽はできないよ。第一、ヘンでしょ!」
 いいアイデアだと思ったのだが……。

 おっと、こんなことをしている場合じゃない。その次は隋臣だ。白髪の左大臣は向かって右に、若い右大臣は左に置く。おいかけという、もみあげのようなふさふさは、耳の横にくるよう調節しておく。
 最後に三人仕丁を左から、怒・泣・笑の順に並べればOKだ。
 あとは、箪笥、長持、鏡台、火鉢、重箱、牛車などのお道具類を置くだけ。右近の橘、左近の桜もセットすれば出来上がりだ。
「わぁ、きれい~!!」
 見に来たミキが、感動の声を上げていた。



 どんなもんだーい!

 本年の所要時間、1時間半なり。これは新記録である。
 来年はミキにも手伝わせ、1時間以内を目指したい!



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パトロールのご褒美

2009年02月19日 20時44分36秒 | エッセイ
 練馬区では、パトロールカーの貸し出しを行い、地域の防犯に力を入れている。



 そして、娘の通う小学校では、PTA活動の一環として月に一度、この車を借りてパトロールを実施している。
 今年は委員を引き受けたため、先日、夫とこの車に乗る機会があった。最低でも2人でパトロールするようにと言われているのだ。
「じゃあ、一人がナビゲーターをして、もう一人がマイクでしゃべってくれますか」
 水色の制服に身を包んだ初老の運転手が派遣され、地図を見せながら、てきぱきとパトロールの手順を説明しはじめた。
「まず、この通りに出てから学区域の外側を回って、そこからぐるっと……」
 地図を見てもちんぷんかんぷんなので、ナビは夫に任せることにした。
「後ろでマイク使いますか? じゃあ、これ持ってください」
 私が渡されたのは、バスガイドが使うような、黒くて四角いマイクだった。私の声が、ここからスピーカーを通して、街中にバラ撒かれると思うと緊張する。

 ううっ、ちゃんとしゃべれるかなぁ~??

 助手席に夫が乗り込むと、こちらのドキドキに配慮することもなく発進だ。私は、さきほどPTA室で借りた、「パトロールのアナウンス例」という紙を取り出し、何を言えばいいのかを確認した。

「こちらは○○小学校PTAです。ただいま、安全・安心パトロールを行っております」
 これは必ず言う言葉らしい。そのあとに加える言葉が、いくつかのパターンで紹介されている。
「よい子のみなさん、通学路を通ってまっすぐおうちに帰りましょう」
「よい子のみなさん、出かけるときにはおうちの人に行き先を告げましょう」
「地域のみなさん、子供たちの危ないところを見かけたら、声をかけてください」
「よい子のみなさん、チャイムが鳴りました。おうちに帰る時間です」

 しかし、時間は午後2時を少々回ったところである。道に児童の姿はまったくない。となると、地域のみなさんというパターンしか使えないではないか。
 パターンが決まったところでマイクのスイッチを入れ、おそるおそるアナウンスを始めた。
「こちらは○○小学校PTAです……」
 声の大きさや速さは大丈夫か? ワンオクターブ高い声にしたほうが聞き取りやすいだろうか?
 しかし、気にしているのは私だけで、夫と運転手は道路談義に花を咲かせていた。
「ここは右と左、どっちに行きましょうか?」
「じゃあ、左でお願いします」
「うわあ、停車車両が! 右でいいですか」
「じゃあ、その次を左に……」

 おいおい!! 人が一生懸命しゃべってるんだから、聞けよっ!

 ついつい気持ちが入り込み、マイクを口に近づけすぎて、うっかりチューしてしまった。

 ヤバッ!

 声量が乏しいせいか、私はよくこの失敗をする。
 同僚のオジさまがたと、カラオケに行ったときなど悲惨だ。デュエットは勘弁という人のあとにマイクを使い、不覚にもブチュッとしてしまった日には歌う気も失せる。

 そんなことを思い出し、私の前にこのマイクを使った人が、どんな人なのかと不安になった。

 きっと、PTAの奥様方よ。そうよ、そうに違いない!!

 無理やり納得して、同じフレーズを何度も繰り返した。しつこく、30回は言ったと思う。
 3時近くになると、1年生らしい子供たちの姿が見えはじめた。「地域のみなさん」バージョンはいい加減飽きたので、嬉々として「よい子のみなさん」に切り替えた。やっぱり最初は「まっすぐおうちに帰りましょう」だろうな……。
 慎重に新パターンのアナウンスを始めたら、夫と運転手が子供たちに手を振り笑っていた。反応がおかしかったのか、夫がまたしゃべりはじめた。
「あっ、あの子、ビックリして目を丸くしてますよ」
「何だこのオヤジ、って顔してますね」
「ははは、違いない。パトカーに乗った不審者ってところでしょうか」
「誰も手を振ってくれませんねぇ、ははは」

 ……また聞いてないし。

 地域の住民にはうるさがられ、夫と運転手には無視され、一人でアナウンスを続ける虚しさといったらない。

「じゃあ、学校に戻りましょうか」
 小一時間のパトロールはわけのわからないうちに終わり、マイクをふきふきして返した。心の中では一応、「次に使う人ごめんなさーい」と謝っておいた。

 一応の義務は果たし、家に帰ってから、喉のヒリヒリ感に気がついた。

 あれっ、風邪ひいたかな?

 すぐに原因に思い当たった。あのマイクだ。
 インフルエンザや麻疹などは、カラオケボックスでもらってくることが多いと聞いたことがある。
 きっと、あのマイクにもバイ菌が……。

 パトロールのご褒美までもが虚しかった。



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頭の黒いネズミさん♪

2009年02月15日 21時21分20秒 | エッセイ
 去年も、バレンタインデーには、夫に本命チョコをあげた。
「はい、パパ、チョコレート」
「お父さん、ミキからもチョコレート」
 夫は大喜びで包みを開け、一口味見をするが、あとは大事に冷蔵庫にしまっておくのが常だ。残りは、なかなか食べようとしない。
「もったいなくて食べられないよ~」
 意外に貧乏性だったりする。
 私は夕食を作るとき、無性に甘いものが欲しくなる。しかし、太ることを恐れて、菓子の買い置きは極力しない。そんなとき、冷蔵庫のチョコレートを思い出す。

 …………。

 休みの日、夫が珍しくチョコレートの箱を開け、続きを食べようとした。しかし、中身を見た瞬間、「あっ!」という叫び声を上げ、手が止まってしまった。ミキが何事かと近寄り、声を掛けた。
「お父さん、どうしたの?」
「お父さんは食べてないのに、こんなに減ってる!!」
「ミキじゃないよ! こないだ、お母さんが食べてたの見たよ」
「わぁ~、頭の黒いネズミだぁ~!!」

 チッ、ばれたか。

 モタモタしているのが悪い。この家は早い者勝ちなのだ。
 しかし、大事に取っておいたものを横取りしたのだから、多少なりとも良心の呵責を感じないこともなかった。

 そして迎えた今年のバレンタインデー。去年の教訓から、あらかじめ私が食べる分も数に入れて、質より量作戦を取った。
「はい、パパ、チョコレート♪」
「はい、ミキからもチョコレート♪」
 夫はお歳暮のような大きな包みに驚いていた。
「わあ、今年のチョコは、すごく大きいねー」
 そりゃそうだ。箱の中身は、エスプリ・ド・メリー50個入りなのだから。25個入りの2段重ねになっている、ボリュームたっぷりのチョコレートをわざわざ選んできた。



「ありがとう。いただきまーす」
 夫も私も2個ずつ食べた。
「ミキは友達からもらったチョコを食べるから、いらないよ」
 娘はいわゆる「友チョコ」なるものをたくさんもらい、メリーには見向きもしなかった。

 そして一夜明けた今日、夫が出かけたあと、コーヒーをいれたらお茶うけが欲しくなった。今年は堂々とチョコレートをいただける。
 ブルーベリー、アーモンド、オレンジ、ラムトリュフ……。
困ったことに、美味しくてなかなかやめられない。太ってスカートがはけなくなる自分を想像し、どうにか誘惑を断ち切った。
 夕方、夫が帰ってきた。
「ただいま~。お腹すいた」
 彼は冷蔵庫から大きな箱を出すとフタを開け、またもや「あっ!」という大きな声を出した。
「……穴ぼこだらけだ……」
ミキもニヤニヤ笑いながら、箱の中を覗き込んだ。
「アハハハ、またお母さんだ~」
 しかし、今年の夫は負けていない。私に対抗すべく、アーモンド、ジャンドゥヤ、マカダミアナッツ、抹茶と立て続けに口に放り込んだ。
 かくして、あっという間にこんな状態である。



 このペースだと、今週中にはからっぽになりそうな勢いだ。
 
 う~ん、来年は50個入りを2箱かな……。



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想い想われ、振り振られ

2009年02月12日 20時41分18秒 | エッセイ
 教員の異動は、まるで恋愛のようだ。

 行きたい学校に選ばれて相思相愛になることもあれば、希望先からすげなく袖にされて他の学校をあてがわれたり、まだ残りたいのに「人事構想に入っていない」と追い出されたりと、片想いの場合も珍しくない。

 私の場合、最初の異動は職場結婚がきっかけだった。校長から告げられた転入先は、今はなき教育困難校で、目の前が真っ暗になった。
「いや~、大変なところになっちゃったね。刺されないように気をつけないと」
 同僚の、半分面白がっているような発言にカチンときて、「大丈夫ですっ!」と言い返して乗り込んでみたものの……。
 やっぱり大変な苦労をした。教育困難校の彼など持つものではない。でも、今では若いうちに経験しておいてよかったと思う。

 このように、期待はずれのお相手から選ばれてしまった場合、異議申し立ての期間にあれこれ言い訳してお断りすれば変更の余地もあるが、大抵は認められないようだ。
 知り合いの数学科の男性も、不本意な異動に腹を立て、転入先での面接にジャージで臨むという抗議行動に出た。また、別の男性はあっさり退職してしまった。あっぱれである。

 この教育困難校では異動希望者が他に比べて多く、多くの教員が「早く出たい」と思っていた。当然、全員の希望が叶うはずもなく、毎年運のいい人だけが転出できた。
 どうやら、その学校での異動できるかできないかの基準は、指導力にあるようだった。生徒指導が得意で、授業も面白いと評判の先生ほど、なかなか出られない。
「校長室のドアを開けたとたん、アナタはありませんからって追い返されたよ」
 国語科の男性は3年連続で異動できず、足踏み状態がつづいていた。だが、引っ越しを機に私が希望を出したら、あっさりと受け入れられた。
「なに!? 笹木さんズルいよ! 俺なんてずっとここなのに、一発でオーケーなんて許せない」
 彼は子供のようにスネてしまった。
 このときばかりは、役に立たないと見られてよかったと思った。

 二度目の異動先として希望したのは、家から一番近い学校だった。話が通じて、ある程度の礼儀をわきまえている生徒ならば、私はレベルにこだわらない。遠くていい学校よりも、学力はともかく、自転車で通える本命の彼に私は惚れ込んでいた。
 めでたく、希望通りになったときの喜びといったらない。初めて相思相愛の異動先に勤務できたのだ。一人で電車に乗っていても、思い出してはニヤーと顔がゆるみ、相当アブナイ人になっていた。
 しかし、はしゃぎすぎたせいか、2月に転入先から呼ばれ、面接をする当日にインフルエンザで倒れた。ちょっとお粗末……。
 最低でも10年は本命の彼とラブラブでいたいと思っていたのに、異動のルールが変わってしまい、最大でも6年しかいられなくなった。残留を希望したものの認められず、「とっとと出て行け」とまでは言われなかったが、異動対象となった。

 どうせなら、二番目に近い学校に行きたいと希望したのだが、見事に振られた!!
「近くて愛着のある学校」から「遠くてイマイチの学校」への異動だ。
 遠いといっても、私たち地方公務員は都内の異動に限定されているから、北海道や九州に行くわけではない。民間企業の転勤族から見れば、くだらないと一笑に付されるだろう。

 その「イマイチの彼」に勤務して、まもなく4年目が終わる。初めは抵抗があったが、今では「住めば都」と感じるようになった。人も学校も、先入観で判断したらダメなのだ。
 ここにいられるのもあと2年……。
 たまたま、今日は校長・副校長との面接があり、こんなことを言われた。
「笹木さんは、今まで全日制しか経験していないから、次は定時制になると思いますよ」

 定時制!? ついに夜の仕事になるのか!!

 かなりの衝撃を受けて職員室に戻った。
 キャパシティは広いつもりでいたけれど……。寝るのが遅くなると、お肌のためにはよくない。
 ナイトワークスの彼はできれば避けたいなぁ。



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誰でも不審者

2009年02月08日 20時57分03秒 | エッセイ
 夫が、さるバレーボールチームのロゴ入りウエアをもらってきた。トレードカラーの緑のスウェットにニット帽だ。
「ほら、ここにチーム名とマスコットが入っているんだぞ。スゴイだろ~」
 誇らしげに、真新しいそのウエアを私と娘に見せると、おもむろに着はじめた。
「どうだ?」
 仁王立ちする夫を見て、私たちは声を失った。10秒ほど経ってから、歯に衣着せぬ娘が意見した。
「……お父さん、そのニット帽やめたほうがいいよ。不審者みたいだよ」
「えっ、不審者!?」
 夫は仰天し、あわてて鏡を覗き込んだ。
「あっ、本当だ! 全然似合わないっ!!」
 私と娘はゲラゲラと笑い転げたが、夫はショックを隠せず、ひたすらしょげていた。

 ニット帽が似合う人は少ないと思う。一歩間違えれば、たちまち不審者となるアイテムだから、あっという間に怪しい人のできあがりだ。
「お父さん、その帽子かぶって小学校に来ないでよ」
 ちょうど、学校公開週間ということもあり、娘が釘を刺した。夫は悔しそうに答えた。
「ミキが悪さをしたら、これをかぶって行ってやるからな」
「えー、やだやだ、絶対やだ! 悪いことしないから来ないでよぅ」

 しかし、夫の不審者ぶりなどまだまだ序の口だ。
 昔の同僚に、鳥山明の『ドラゴンボール』に出てくる登場人物の一人、魔人ブウに似ている人がいた。

 当時勤務していた学校は、2月にマラソン大会を実施するのが常だった。とにかく寒い時期だ。生徒は走るからよいが、教員はしっかり防寒をしないと風邪をひく。
「ねえ、ちょっと……。小川さん、やばくない?」
 同僚の女性が目配せするほうを見ると、魔人ブウこと小川先生の姿があった。ダウンジャケットだけにしておけばいいものを、ニット帽までかぶっており、とてつもなく危険な人に見えた。
 私のこれまで見た中で、もっともニット帽の似合わない男ナンバーワンであることは間違いない。
「うっわー、あれはマズイでしょ! 近づかないほうがいいわね」
「でも笹木さん、あなた彼と一緒のチェックポイントでしょ」

 あっ!! そうだった! すっかり忘れていた。

 生徒がコースを間違えないように、曲がり角のチェックポイントには複数の教員が待機し、指示を出すことになっている。私はその年、彼と同じ場所を割り当てられていたのだった。
「やだぁ~、あんな変質者みたいな格好している人と一緒に立つのー?!」
 思わず泣きを入れたが、周りの反応は冷たい。
「ははは、頑張って!」
「離れていればいいじゃない♪」
 ……まったく、他人事だと思って。
 チェックポイントに向かっていやいや歩いていると、後ろから小川先生の呼ぶ声がした。
「あ、笹木さん、一緒だったよねー。よろしく!」
 仕方なく私は振り返り、弱々しい声で返事をした。
「……あ、よろしくお願いします……」
 振り返った私を見て、小川先生はプッとふきだした。
「その紫外線対策のサングラスに、花粉用のマスクをしていると、相当怪しい人に見えるよ。やり過ぎでしょ」
「えっ、そうですか? いつもこんな感じなんですけど」
 思いがけない指摘に、私は動揺した。

 ってゆーか、あんたに言われたくないよ!!



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結婚式は繰り返す

2009年02月05日 20時37分51秒 | エッセイ
 今年で、結婚して満17年になる。
 一生に一度かどうかは人それぞれだが、このときばかりは私もわがままを言った。
「教会で結婚式を挙げたい~!」
 ちなみに、私も夫もキリスト教徒ではない。信者でもないのに、教会での挙式は至難の業だった。

 小学生のとき、私はキリスト教会の日曜学校に通っていた。たしか、2年生のときに、仲良しの子から誘われたのだ。女の子たちの間ではちょっとした流行りになっていて、小学生集団ができていた。
 日曜学校は8時半に始まり、讃美歌を歌ったり聖書の朗読と解説を聞いたりして、小一時間で終了となる。春には復活祭、夏にはキャンプ、冬にはクリスマス会といった行事も開催され、地域の少年少女の社交場でもあった。
 もっとも、建物自体は小さくオンボロで、1階は普通の民家、2階を改築して教会にしただけだ。鉄製の塗装のはげた階段を昇り、アルミサッシの出入口から中に入る造りとなっていた。
 神父さんはお年を召した方だったが、若い先生も多く、お兄さん、お姉さんのような感じがした。
 私が5年生のころ、神父さんから爆弾宣言があった。
「来週の日曜日は、白川先生がこの教会で結婚式を挙げます。よかったら、みなさんも来てください。時間は3時からです」
 ええーっ、と私たちはどよめいた。
 白川先生というのは、お姉さん的存在の若くてきれいな先生だ。他にも結婚式場はたくさんあるのに、この華やかさとは対極にある教会を選ぶとは、よほど思い入れのある場所だったのだろう。私は絶対に参列すると決めた。
「結婚式に招待されたのなら、お祝いを持って行かないと」
 手ぶらにならないように、母と贈り物を買いに行った。
 しかし……。
 素晴らしくセンスのよい母が選んだ店は、ディスカウントストアのロヂャースだった……。
 私は子供心にも、「何でここで買うんだろう!?」と疑問に思った。
「これこれ。玄関や居間に飾ったらきれいだよね」
 母が手に取ったのは、色とりどりのガラスをはめ込んで描かれた鳥の絵だった。
 どうやら母は、食料品を買い出しに行ったついでにこれを見て、気に入ったらしい。まあいいか。
 翌週のお式には、よそゆきのワンピースを着て、鳥の額縁を持って、教会まで出掛けた。
「砂希ちゃんもプレゼント持ってきたんだね。何にした?」
 近所の直子ちゃんも、花柄の包装紙に包まれた薄手の贈り物を用意していた。
「絵だよ。直子ちゃんのは?」
「あたしは、ノートとシャーペンと消しゴムにした」
 ……それは、結婚式の贈り物として相応しくないのではと感じたが、こちらもロヂャースだから、あえて何も言わなかった。
 いつもは殺風景な部屋に、赤い布が敷いてある。50人ほどかけられる座席は、すでに親族らしい大人で満席だ。私は直子ちゃんとうしろの壁際に立っていたが、そこも間もなくいっぱいとなり、入りきれない人たちが入口付近に集まっていた。ステンドグラスもない地味な教会に、これだけ多くの人が集まったのは初めてではないだろうか。
「新婦のご入場です」
 一斉に割れんばかりの拍手が起きた。純白のウエディングドレスをまとった白川先生が、人ごみをかきわけ、お父さんと一緒にヴァージンロードをゆっくり歩いてくる。入念な化粧を施した顔は、とびっきりの笑顔で彩られ、肖像画のように美しかった。

 なんてステキな結婚式……。

 キレイな花嫁に、温かい祝福のシャワーが、幼い私に強烈な印象を残した。

 そんな経験があるものだから、チャペルウエディングにこだわったというわけだ。
「やっぱり、どこの教会も、信者以外の挙式はしないってさ」
 あちこちに問い合わせをしてくれた夫が、ため息をつきながら言った。最悪の場合、結婚式場の小さなチャペルにするしかない。
 しかし、夫には奥の手があった。
「オレが卒業した高校の礼拝堂でできるか聞いてみるよ」
 夫はミッション系の中高一貫教育を受けているので、卒業生として問い合わせたところ、めでたく承諾を得ることができたのだった。

 かくして望み通り、いや、望み以上の結婚式となった。
 チャペルが相当大きかったから、白川先生のように満員御礼とはならなかったが、夫の教え子である女子バレーボール部の生徒がこぞって来てくれた。

 かつての私のように、生徒たちの中にも教会での結婚式に心を動かされ、憧れるようになる子がいるかもしれない。

 読者のみなさま、今回の記事でめでたく100編目となりました。
 ここまで続けてこられたのも、みなさまに応援していただいたおかげです。
 今後とも、ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。



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鬼はどっち?

2009年02月01日 20時07分17秒 | エッセイ
 保育園児だった頃、娘のミキは怖がりだった。虫や蛇はもちろん受け付けないし、幽霊やお化けの話を聞くだけで、夢に出てきてしまうのだから。
 鎌倉の大仏を見て大泣きしたところを見ると、秋田のなまはげだったら気絶したかもしれない。
 だから、ミキにとって節分は大嫌いな行事だった。
「イヤだなぁ、今日は節分だから、鬼が保育園に来るんだよ」
 朝食をとりながら、ミキがうんざりした表情でつぶやいた。どうやら、毎年保育士の一人が鬼に扮し、豆まきをすることになっているらしい。
 実は、鬼の正体が保育士だとわからないところが子供だ。
「じゃあ、頑張ってやっつけないとね」
 私は励ますつもりで言ったのだが、余計だったようだ。

 夕方、ミキを園まで迎えに行き、豆まきの話を聞いた。
「鬼が怖かったから、みんなで豆をぶつけたんだけど、すぐになくなっちゃったの」
 あらかじめ渡されていた豆は少なくて、鬼を退治する前に尽きてしまった。
 
 大変! 鬼をやっつけなくっちゃ!!

 ミキは恐怖から逃れようと必死だったせいか、いつもより頭の回転がよかった。

 あっ、石があるじゃん!
 
 豆じゃなくても鬼退治はできる。ミキはやおら足元の石を拾い、鬼にぶつけてみた。鬼は痛がっているようだった。
 その様子を見ていた他の園児たちも、次々と石を拾い、鬼めがけて投げつけた。豆よりも大きな威力を発揮し、鬼は体をよじってもがいている。もう少しでやっつけられそうだ。ミキは俄然元気になった。
「砂! 砂もかけちゃえー!!」
 石と砂の総攻撃を受け、鬼の面が吹っ飛んだ。面の下の顔を見たとたん、園児たちはビックリ仰天し、すぐさま攻撃をやめた。

「鬼だと思ったら、理香先生だったんだよ。ミキは知らなかったから、いっぱい石をぶつけちゃった」
 ミキの報告に、私は心底げんなりした。

 まったく、何てことをしてくれたんだ……。

 翌朝、私は連絡帳にお詫びの言葉を書いた。
「昨日は、ミキが鬼役の理香先生に石をぶつけたそうで、大変申し訳ありませんでした」

 鬼は、ミキのほうだった……。



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