これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

プラスチックの罪

2016年08月28日 21時17分22秒 | エッセイ
「ドキュメンタリー 海の怪物 プラスチック 」という映像をご覧になったことがおありだろうか。
 生協の学習会でプラスチックが人体に与える害を学び、知らなかったとはいえ、これまで何の疑問も持たずにペット飲料を買い、個包装された菓子を選んでいた自分を恥じた。
「なにそれ?」という方には、ぜひご覧になっていただきたい。今や、カリフォルニア州では小売店でレジ袋の提供が禁止され、サンフランシスコ市ではペットボトル入り飲料の販売を禁止するなど、海外では熱心にプラスチックを削減しようという動きがある。その理由を理解してほしい。
 プラスチックはなぜ悪なのか。理由は2つある。
 1つ目は永遠に自然分解されないこと。缶でさえ、450年経てば自然分解されるというが、プラスチックにはそれがない。劣化すれば細かく砕けるけれど、決してなくなることはない。洗顔料に含まれるマイクロビーズ(スクラブ)もプラスチックである。石油産出量の8%に相当する、年間3億トンのプラスチックが世界各地で生産され、どんどんどんどん増え続けている。
 2つ目は毒性が強いこと。素材や添加物にノニルフェノールやビスフェノールAなどの環境ホルモンが含まれることはもちろん、海に漂う有害化学物質を吸い寄せるという性質を持っている。たとえば、使用禁止となったDDTやHCHなどの農薬、殺虫剤は、この世から消えたわけでなく、ごくごく薄い濃度で海洋中を漂っている。ところが、プラスチックはこれらの有害物質を粘着テープのように拾い集めてしまう性質があるのだ。波間に揺られてあっちへこっちへ流れるうちに、人体に危害を及ぼす物質がベタベタとへばり付けばどうなるか。海水中の濃度に比べて、プラスチックに付着するDDTやHCHなどの濃度は、実に10万倍から100万倍に達する数値に上ることが判明している。
 今、地球規模で問題になっているのは、5mm以下のサイズの「マイクロプラスチック」である。どんなに小さくなっても、プラスチックは自然分解されないため、有害化学物質の衣を何重にもまといながら、海中を浮遊している。魚はプランクトンと一緒に、このプラスチック片を食べてしまうのだ。発がん性があり、造血障害を引き起こし、肝腫瘍を作り出す恐れのある、毒入りの破片を。
 魚にも食物連鎖がある。小さな魚は大きな魚、大きな魚はさらに大きな魚に食べられ、汚染物質が濃縮されていく。そして、連鎖の頂点に立つのは人間だ。人間は汚染された魚を食べている。自らの手で作り出し、放棄したはずの毒を食べている。
 魚だけではない。海鳥、貝、ウミガメ、クジラの体内からもマイクロプラスチックが検出され、環境ホルモンのダメージとともに、有害化学物質からの打撃を受けている。人類がプラスチックを生み出した罪は、こんなにも大きいのだと気づき、苦しくて何も言えなくなった。
 生協の学習会で、講師の東京農工大学教授、高田秀重教授がおっしゃった言葉が浮かんでくる。
「マイクロプラスチックは、主にポイ捨てされたゴミが原因です。レジ袋などが路上に落ちていますよね」
「ペットボトル、レジ袋など、使い捨てプラスチックを減らしましょう」
「プラスチックのリサイクル費用は自治体の負担となっています。私たちの税金をもっと有効に使うには、はじめから使わないのが一番です」
「我々は地球という惑星に住む場所を借りているだけなので、キレイにして返すのが普通です」
 絶望感に打ちのめされている場合ではない。
 私たちができるのは、まずプラスチック製品を買わないこと。
 ブログで危機的状況を発信すること。
 教員という立場を生かし、生徒たちにプラスチックの脅威を伝えること。
 できることから、脱プラスチック生活を始めていこう。


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ホワイトベース実物大キャプテンシート

2016年08月25日 22時00分04秒 | エッセイ
 台風9号とともに、私の大きな仕事も去った。
 少し息抜きをしようと、大学2年の娘に話しかけてみる。
「3日くらい休めるよ。どこか行きたいところある?」
「わーい、遊園地に行きたい!」
「としまえんでいい?」
「やだよ。那須ハイランドパークはどう? コースターがたくさんあるって」
 早速ホームページにアクセスすると、コースターよりも楽しそうなイベントが画面に飛び出した。
「えっ、ガンダムワールド? ホワイトベース実物大キャプテンシート初公開だって。ここいいね」
 娘はコースター目当て、私はガンダム目当てで新幹線に乗り、那須まで駆けつけた。



「雷が鳴ったら、すべての乗り物の運転を中止しますので、ご了承ください」
「はい」
 チケット売り場のお姉さんに念を押され、ドキドキしながら入園する。このところ、大気の状態が不安定で雷雨が続いているようだが、セブンイレブンでガンダムワールドの撮影券つき一日券を買った手前、「今日ばかりは勘弁してくれ~」と祈るしかない。
「お母さん、天気が崩れる前にコースターだよ」
「うん、わかってる」
 ここは家族連れやカップルをターゲットにしているようで、ソフトな乗り物ばかりだ。富士急ハイランドを贔屓にしてる身には物足りないものの、外を歩いていても暑くない点では二重丸。夏は避暑地のレジャー施設が一番と実感した。
 青いレールのビッグバーンコースターは気に入ったので2回乗った。



 しかし、トイレに寄ったとき、鏡を見て重大な失敗に気づかされた。
「ああっ、髪がグチャグチャになってる! まだガンダムで写真撮ってないのに、ひいい~」
 晴れているうちにコースターに乗ることしか考えておらず、ガンダムワールドを後回しにしたツケだ。
「くくくっ、しょうがないよ」
 写真を撮らない娘は笑っていた。もしや、諮られたのかもしれない。
 昼食後、ようやくガンダムワールドに行く。



 中では同年代の中高年たちが、チビっ子より熱心に鑑賞していた。



「パパ、こっちにアムロがいるよ」
 未就学児と思しき男児が、父親に展示品を教えていた。



 ファーストガンダムの登場人物を知っているとは頼もしい。きっと親子でDVDを見ていたのだろう。
 展示品は大半がシャア関連である。ファンの好みをよく分析していると感心し、何枚も写真を撮った。





 終盤は、一番の目玉であるホワイトベース実物大キャプテンシートにたどり着いた。
 ここで、チケットについていた撮影券を出す。



 シートの座り心地は悪くなかったし、高いところからの景色はよかったが、背後のシートに連邦軍の制服を着た誰かが座っていたら、より臨場感が楽しめたと思う。



「もう帰ってもいいや~」
 すっかり満足して本音を漏らすと、娘が口を尖らせた。
「は? まだまだでしょ」
 ガンダムが終わったあとも晴天が続いていたので、疲れていたけれど、引き続き乗り物に並んだ。水のかかる「リバーアドベンチャー」や、写真を撮ってくれる「ウォーターコースター」はかなり人気があるらしい。ハードでなくても、水と戯れる乗り物は、動きが予想できなくて面白かった。
 温泉地らしく足湯もある。



 16時を回り、湯を抜くところだったらしく、水位は低かったけれど気持ちよかった。短時間だったのに、一日中歩いた疲れが取れたのは驚きだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
 幸い雨は降らなかった。
 ハードな仕事を終えたご褒美をもらった気分になる。
 また明日からしっかり働こうっと。


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日産自動車 横浜工場へ

2016年08月21日 21時21分41秒 | エッセイ
 日産自動車・横浜工場を見学してきた。
 ここで作っているのはボディーではなくエンジン。



 エンジンの部品数は450前後あるらしいが、ほとんどは購入し、自前で作っているのはわずか5個だというから驚いた。



 2階講義室の近くに、たくさんのミニカーが飾られている。
「あ、Zがある」
 フェアレディZは何度見てもカッコいい。



「うちの車もある」



 そう、わが家の愛車はエルグランドなのである。
 1階には、1936年に発売されたダットサンも飾られていた。



「サラリーマンの平均月収が70円だった時代に、この車は販売されました。いくらだと思いますか」
 案内のお姉さんからクイズが出された。近くにいた、どこぞのお父さんが答える。
「10000円」
「もっと安いです」
 今度は、お父さんの息子がボーイソプラノで答える
「1000円」
「もうちょっと高いです」
 答えは、1750円という値段だった。家が1500円だから、車の方が高価だったのだ。
「この車は免許なしで運転できました。ウインカーは飛び出し式で、車の中からレバーを操作して、曲がる方向を知らせたのです」
「へー」
 ちなみに、1959年のダットサンはこれ。



 お次は工場に入れてもらえる。工場内は撮影禁止だが、ファナック製の黄色いロボット2台が、文句も言わずにせっせと働いていた。部品を洗浄するときは終わるまでジッと待ち、洗い終わると嬉しそうにアームを動かし始める。感情はないはずだが、愛嬌があって可愛い。
 人間もたくさんいる。中でも「匠」と呼ばれる熟練職人は、顔写真と名前が掲示されており、職人たちの憧れの的である。
「誰でも匠になれるというわけではありません。何年たっても、なれない人はなれません」
 ……お姉さんの説明は厳しかった。匠の名は、GT-Rのエンジンに刻まれる。「このエンジンは、私が責任を持って作りました」という証なのである。そういう人生も素敵だ。
 エンジンが完成するまで2時間かかるというが、高度に自動化されたラインに圧倒された。これぞ「モノづくりニッポン」という技術だ。約2時間のコースだったのに、驚きの連続で全然長く感じなかった。
「お疲れさまでした。これで終了ですので、おみやげのミニカーをお持ちになってお帰りください」
 ミニカーは好きだ。大勢来ていたちびっ子たちも、そのお父さんたちもニコニコしていた。
 さすがに工場だけあって、ミニカーも組み立て式になっている。



 ボディーを自分の手ではめ込み、完成!



「わあい、できたできた~!」
 ここの見学は、かなりハイレベルで満足度が高い。
 新子安は遠かったけれど、行ってよかった。


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介護の合間に

2016年08月18日 20時02分29秒 | エッセイ
 夏休みはもらったが、泊りがけでは出かけられない。
「今日は俺がおばあちゃんの世話をするから、夕飯よろしく」
「はーい」
 義母は要介護状態になって半年ほど経つが、あまり食欲がないらしい。日中は、寝ているかテレビを見ているかである。週に2回は入浴サービスを頼み、お風呂に入れてもらえるようだ。
 昼間は夫の弟たちが介護を担当してくれて、夜になると夫が義母を寝かしつけたり、夜中にベッドから落ちたりしないかを監視する。弟たちが都合の悪い日は、夫が食事も担当する。とてもお出かけどころではない。
「気晴らしに、美味しいものでも食べようか」
「うん」
 たまたま、水道橋に行った。東京ドームホテルの周辺には「後楽園飯店」という中華レストランがあり、「フカヒレの姿煮入り汁そば」なる料理が名物だという。フカヒレといえばコラーゲン。美肌のために昼食にしようと思ったが、一人だけ美味しいものを食べるのは気が引ける。おみやげ用もあるので、家族分を持ち帰って、みんなで食べようと思った。
 少々値は張るが、どこにも出かけないのだから、これくらいはいいだろう。
「ただいまご用意いたしますので、そちらに掛けてお待ちください」
 待ち時間にはウーロン茶も出る。ちょうど喉も渇いており、気の利くことだと感心した。
 介護疲れの夫におみやげを見せる。
「あっ、フカヒレだ! すご~い」
 箱は木製のようだ。



 待ち時間に保冷剤をセットしてくれたらしい。



 1箱2人前。



 うちは3人家族なので、2箱買ってきた。
 作り方は簡単だ。フカヒレを湯煎にかけ温める。液体スープを丼に移し、300ccのお湯でとく。麺を1分20秒茹でたら丼に入れ、フカヒレを載せてできあがり。
 茹でた青梗菜も入れてみた。



「うま~い! 家でこんな料理が食べられるんだね」
 夫も娘も大喜びだ。フカヒレのプリプリした食感と、マイルドなあんかけ、コシのある麺の組み合わせが素晴らしい。
「デザートに種なしピオーネを買ったのよ」
「へー」
 ブドウでは、巨峰やピオーネ、マスカットなどが好き。たまたまスーパーで、粒が揃ってキレイなピオーネがあったので購入してきた。房の下のほうから実をとると、甘いものが食べられると聞いたが本当だろうか。
 1つ、2つ実をとって気がついた。
「あっ、ハート型の実があるよ」
「えっ」



 今まで、ハート型のマッシュルームやイチゴは見たが、ピオーネは初めて。
 何かいいことありそうな気がする。
「きっと、幸福のピオーネだね」
「あはは」
 夫には、さっそく幸運が舞い込んだ。
「おそばが1食余るから、パパにあげるよ」
「うほ~」
 雄叫びを上げて、夫が盛大に喜んでいた。
 介護生活の中にも、楽しみを見つけなくちゃね。


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私がスイーツをやめたワケ

2016年08月14日 21時27分29秒 | エッセイ
 メンタルは強いほうだ。困難にはファイティングポーズで立ち向かい、逃げたら負けの気がする。
 しかし、そうではない人も多い。すぐに傷つき、気力を失って立ち直れなくなる友人を知っている。
 何が違うのだろう。
「これか~!?」
 ヒントをくれたのは、この本である。



『心療内科に行く前に食事を変えなさい』
 そっか、食事ね。
 これは人づきあいの参考になる予感がする。早速ゲットした。
 筆者はマスコミに露出度の高い医師のようだが、私はテレビを見ないので全然知らない。語り口から、率直で「困った人たちを助けたい」という気持ちが伝わってくる。信頼できそうだ。
 読んでいるうちに、「おや?」と注意を引く症状を見つけた。
「当てはまるものをチェックしましょう。寝起きが悪い、湿疹や肌荒れ・あごのニキビに悩んでいる、手足が冷えやすい・冷え性だ、立ちくらみやめまいがする」
 んん? これって私のことでは……。
 それは、貧血の箇所だった。検査の数値上、私は軽度の貧血に分類されているが、筆者の診断によると女性の8割が貧血だという。
「湿疹ができやすい、鼻水が止まらない、便秘になりやすいなどの不調に悩まされている人は、鉄不足から皮膚や粘膜が弱くなっている証拠」
 実は、5月末から鼻水がグズグズと続いている。かかりつけ医からはアレルギーと言われ、2種類の錠剤を服用しているがすでに3カ月。いつになったら治るのだろうと思っていた。
「口の周りのポツポツもなくならないし、油断すると便秘になるし、絶対鉄不足だよ」
 この本は、タイプ別の食べ物や食べ方を教えてくれるところがいい。
「まず、ヘム鉄(肉・魚)をとろう」
 これにも心当たりがある。ちょうど3年前に『長生きしたけりゃ肉は食うな』という本に刺激を受け、肉を減らしたせいなのではないか。
「やーめた。肉よ肉。今日から肉をたくさん食べようっと」
 実際に、肉をたくさん食べるようにしたら、肌がキレイになり、薬なしでも鼻がすっきりしている。
 もう一つ、図星を指された箇所があった。
「キレやすい、低血糖タイプ」
「甘いものが食べたくて仕方ない、音がうるさく感じることがある、ランチ後1~2時間すると眠くなってやる気が出ない」
 私はスイーツをこよなく愛している。血糖値が気になるため、空腹時には食べないけれど、お弁当のあとにデザートでバウムクーヘンやプリンをパクリ、くらいならいいよねと思っていた。しかし、このタイプにも当てはまるものが多く、心配になってきた。
「ランチにご飯やスイーツなどの糖質を多くとると、血糖値は急激にグンと上がります。そうなると、膵臓は急いで血糖値を下げようとして、大量にインスリンを分泌します。すると血糖値は急降下。脳に糖分が行かなくなり、急激な眠気や集中力の低下、だるさなどを感じることになります」
 うん、まさにこれである。
 ときどき、仕事中に抗いがたい睡魔に襲われることがある。会議中だろうと、面談中だろうと、お構いなしだ。体がだんだん重くなり、やがて身動きがとれなくなる。椅子に座っているのに、ぬかるみにはまってしまったような状態だ。心は幽体離脱し、夢の中をさまよい始める。人の話し声が遠くなり、まったく頭に入ってこない。
 この「泥沼地獄」を何とかしなくては、と思っていたところだった。
「ベストなおやつは、インスリンを分泌せず、かつ脳の働きを高めるタンパク質や脂質の食品です。チーズ、ナッツ、牛乳や豆乳、するめや小魚スナックなど」
 ふむふむ、なるほど。
 今までに、スイーツの功罪を、こんなにわかりやすく教えてくれた人はいなかった。
 糖尿病予備軍と診断されてから、甘いものはかなり控えてきたが、まだまだ手ぬるかったようだ。これを機に、スイーツは記念日やお祝いなどの特別な日だけにしよう。泥沼地獄はもうたくさんである。
 日常的なおやつはこれ。



 比較的塩分の少ないナチュラルチーズ、とりわけカマンベールチーズが私の好みだ。トロリとした食感がたまらない。
「食後のスイーツだけでそうなるの? 多分、インスリンの分泌量が少ないんですよ。僕もだから」
 糖尿病を患う同僚からは、こんなアドバイスももらい、さらに気が引きしまる。
 友人の顔を思い浮かべて買った本だが、結局は自分のためになった。


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残暑お見舞い申し上げます

2016年08月11日 21時26分31秒 | エッセイ
 たしか、今月に入ってすぐだったと思う。
 出勤すると、私宛ての郵便物に3月に卒業した女子生徒からのハガキが入っていた。
「暑中お見舞い申し上げます」
 自宅の住所がわからず、学校あてに送ったのだろう。気の利くことだ。
「私は短大の課題とレポートに追われ、毎日ヘトヘトですが、楽しく過ごしております」
 ほおお。
 楽しいか、それはよかった。
 この子は真面目で善良な人柄なのだが、係や委員会のメンバーを決めるときなど、誰かを誘って「一緒にやろうよ」と言えないタイプである。いつも最後に一人だけ余ってしまい、人づきあいが上手とはいえない。
 新しい環境で上手くやっていけるか心配していたけれど、充実した毎日を送っているようで安心した。
「先生もお体にお気をつけてお過ごしください」
 はいはい。
 クーラーに浸かって生活しているせいか、夏バテとは無縁である。「夏は食欲が落ちるのよね」と嘆く友人とは対照的に、3食では足りずにおやつまで食べている。強いていうなら、冷房で首や腰が凝るくらいで、他はすこぶる健康だ。
 早速返信を出そうと思ったが、家には官製ハガキすらなかった。切手はあるので、「今度書けばいいや」と思っているうちに立秋が過ぎる。まずい、もう11日になってしまった。
 今日は山の日。今年から新しく増えた祝日だが、「何も夏休みにしなくたっていいのに」と生徒はみんなブーブー言っている。会社勤めの方も、お盆休みとかぶるかもしれない。でも、買い物に行く時間がとれたという点ではよかった。今日こそは、のびのびになっていたポストカードを探さなくては。
 目指すは地元の書店。本だけでなく、バースデーカードやポストカードも売っているのだ。夏らしくて元気が出るような絵柄はないかと、カードラックを回した。
「あっ」
 すぐに、ピンとくるデザインが見つかった。



 裏返すと「みなとみらいの花火」というタイトルがついている。
 作者は「HIROKO KANOU」となっていた。知らない名前だけど、この絵はいい。夜空に開く大輪の花が集合写真のように整列し、イラストならではの豪華さである。フリーハンドの線に温かみがあり、買おうと即決した。
 隣にも、同じタッチのポストカードが並ぶ。



 こちらのタイトルは「港の花火」となっている。空が明るいところを見ると、日没直後の19時頃か。この船は「ロイヤルウイング」という名前だった気がする。花火の配置はこちらのほうが賑やか。まるでチョコレートの詰め合わせのような楽しさがある。
「よし、これも」
 こちらは那須の両親に宛てて送るか。花火なんぞ見られないだろうから、きっと喜ぶだろう。
「さーて、書くぞ」
 書き始めは、もちろん「残暑お見舞い申し上げます」。
 皆様も、暑さに負けずご自愛ください。


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ペットボトルの赤ちゃん

2016年08月07日 21時27分34秒 | エッセイ
 コカ・コーラ イースト ジャパン多摩工場の見学に行ってきた。



 清涼飲料水はめったに飲まないが、母は無類のコーラ好きである。パーティー当日には必ずビッグサイズのボトルを用意しておくのが常だ。コーラの作り方にはかなり興味があった。
「ようこそ、お越しくださいました」
 通された大部屋で、早速コーラの瓶が配られる。



 2度まで冷やした瓶コーラが一番美味しく感じるのだとか。子どもの頃は、ペットボトルがなかったから、もっぱらこれだった。固いキャップを外すため、栓抜きは必需品だったが、今はまったく存在感がない。
 まずは映像学習から。この工場では、ペットボトル、缶、瓶飲料の生産をしているが、思わず「へえ~」と感心する内容も多い。
 たとえば、ペットボトルは赤ちゃんのまま運ばれてくる。



 左側の「コレ」と書かれたチビちゃんならば、運搬に必要なトラックが少なくてすむから、排気ガスやガソリンなどを抑えることができる。この赤ちゃんを工場内で100度の熱と風を加えて膨らませ、「ソレ」にするのだ。あとは、飲み物を入れてフタをし、ラベルを着せれば商品のでき上がり、でき上がり。
 映像が終わると室内での自由時間がある。
 コカ・コーラ営業担当者のユニフォームを着ることができるが、半分仕事だったので遠慮しておいた。



 反対側には工場のユニフォームも用意されている。



 工場の方にはポケットがない。これは、ポケットから製品に異物が混入することを防ぐためらしい。
 コーラの中身もわかりやすく説明されている。



 あの褐色の色は、カラメルがなせる業だったのか。
 この日は、アクエリアスとジンジャーエールを生産していると書いてあった。



「はい、それでは工場内の見学に参ります。みなさま、ロビーまでお進みください」
 自由時間が終わると、実際に稼働している機械を見に行くのだが、ここからは撮影禁止なので写真はない。
 工場の生産は自動化されているから、ものすごい速さでアクエリアスが続々と完成していく。完成品は段ボールに詰め込まれ、これまた自動で封がされる。おびただしい数の商品に仰天し、「あと1年くらいは作らなくていいんじゃないかしら」という気がした。
 缶飲料の機械は稼働していなかったが、映像で生産の様子を見せてくれる。こちらはさらに生産性が高く、1分間に1500缶もの数量を作ることができるという。
「てことは、1時間に9万缶、8時間で72万缶……」
 うーん、気が遠くなりそうだ。
 最後に、瓶飲料の機械を見た。こちらは1本1本にキャップを打刻する手間がかかるが、それでも1分間に600本生産できるという。キャップの向きを揃えるのも、一つずつ瓶に打ち込むのも、すべて自動でできる。近未来をイメージさせる技術に、ただただ唸るばかりだった。
「本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
 係のお姉さんと挨拶を交わし、工場をあとにする。
 この日はたくさんの小学生や未就学児が、保護者たちと来ていた。
 子どもたちにこそ見てほしい。普段、何気なく飲んでいる飲料が、高い技術力を持った機械から作られていることを。
 大人になったとき、もっと進んだ技術を発明する子がいるかもしれないし。


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ポケットの中には

2016年08月04日 20時00分50秒 | エッセイ
 子どもの頃から「ふしぎなポケット」という歌が好き。
 ポケットを叩くと中のビスケットが増えるなんて、食べ盛りのチビっ子たちの夢だ。私の服にも、そんなポケットがついていればいいのに。
 教員という仕事には、医師の着る白衣が便利。



 これのおかげで服は汚れないし、左右の大きなポケットが収納力を発揮する。
 高校生なら、相当数がLINEに熱中している。我慢できずに、授業中にコソコソ操作する者も多い。そんなことでは勉強に集中できないから、勤務校では取り上げて放課後まで返さない。
 ある先生が、英語の授業中に男子生徒からスマホを預かった。これを教卓に置いたまま授業を続けていたら、いつのまにか消えていた。周りの生徒に聞いても「知りません」と言うばかり。そのうち、「取り上げたものをなくすなんて、どういうことですか」「弁償、弁償!」と総攻撃を受け、本当に参ったと嘆いていた。
 こういうときこそ白衣の出番!
 ポケットには、取り上げたスマホがスッポリ収まるからありがたい。
「はい、その携帯は預かります」スポッ。
「ピアスを取りなさい」スポッ。
「ネックレスを外しなさい」スポッ。
 ポケットというより肌密着型手さげ袋だ。これなら生徒もあきらめがつくようで、今のところ取り返されたことはない。
 ポケットにはまだまだ入る。そのうち、資料についていた付箋紙もスポッ、教室掲示の座席表もはがしてスポッ。何でも放り込む癖がつき、いつの間にやら、移動式ゴミ袋と化していた。
 ビスケットの増えるポケットが欲しかったのに、ゴミの増えるポケットになっていたなんて!
 これではいけない。
 モヤモヤした気分から救ってくれたのは、気のいい女子生徒。
「先生、これ、ディズニーのおみやげ!」
 笑顔とともに個包装されたミッキーのクッキーをもらった。
「ありがとう」とポケットにしまおうとして手が止まる。まずは余分なゴミを捨ててからだ。あれもこれも放り出して、ポケットを空にする。
 きれいにリセットしてから、可愛いクッキーをスポッ。
 叩いても増えないが、「おすそ分けもらってウレシイ」気持ちが大きく膨らんだ。


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