先日、新しい職場の歓送迎会があった。同じ日に古い職場の歓送迎会も行われ、見事にバッティングしてしまったが、先に誘ってくれた現職場の方に行くことにした。かなり後ろ髪を引かれたけれど、体は一つしかないからどうにもならない。
「こんばんは、お久しぶりです」
「元気でやっていますか」
転入者と転出者が顔を合わせる機会はこれが最初で最後。職場を去った方の現況を聞きつつ、私は空になったグラスが気になっていた。
「うーん、何を飲もうかな。白ワインでいいか」
都内の某ホテルであった。花束贈呈が終わり、次の転出者が舞台に進む合間を狙って、こそこそとワインコーナーに進んだ。
「赤と白がございますが、いかがいたしましょう」
係のお姉さんが愛想のよい声で話しかけてくる。白と言いかけて、スパークリングワインの瓶に気がついた。
「これ、さっき乾杯したときのスパークリングですか」
「はいそうです。まだ残っていますよ」
「わあ、欲しいです」
お姉さんがスパークリングをグラスに注いでくれた。ふふふ。飲み放題のリストにないようだが、半端に余っていたから提供したのだろう。良心的でありがたい。
しかし、平べったくて、少量しか入らないグラスだったので、飲んだ気がしない。

調べたら、クープ型のシャンパングラスというらしい。すぐ空になってしまい、挨拶が終わるのを待って、またお姉さんのところに行った。
「おかわりお願いしま~す」
お姉さんは私の気持ちを察したようで、空のワイングラスを取ってくれた。

「よろしければこちらにお入れしましょうか」
「はい、ぜひ」
これならクープ型の3倍は入るだろう。ニマニマしていたら、後ろにいた英語科の若手、マサト先生も便乗してきた。
「あっ、僕にもスパークリングください」
残念ながら、他にワインコーナーに近づく人はなく、ビールやソフトドリンクが人気のようだ。ちょっと淋しい。そうだ、挨拶も聞いてあげなくてはいけない。
「今の学校ではテニス部の顧問になりましたが、部員が1人しかいません」
「ええ~」
舞台の上は5人目になった。みなさん、新しい職場で頑張りつつも、戸惑いながら過ごしているようだ。料理はビュッフェだったが、まずまずでスパークリングにもよく合った。またグラスが空になり席を立つ。お姉さんはいなくなっており、おじさんに代わっていた。
「スパークリングください」
「どうぞ、ボトルごとお持ちください」
「いいんですか」
何と気前のよい対応か。大事に大事に瓶を抱えて席に戻った。中身を確認すると、3分の1は残っていたので、「うほほ」と小躍りする。しかし、飲み過ぎてもいけない。そうだ、マサト先生にもあげよう。どこに座っているのかしら。いたいた。隣のテーブルであった。
「見てぇ、これもらっちゃった。飲みませんか」
「マジすか、やったぁ!」
嗜好が同じ相手に喜んでもらえてうれしい。スパークリングに気を取られていたら、デザートコーナーのほとんどが消えていたが、フルーツは残っていたからよい。このあとコーヒーを飲んだら、お開きの時間が迫っていた。
「ここで中締めとさせていただきます」
あれっ、もう?
時計を見ると、1時間半が経過したところだった。このあと集合写真が待っていたので、早めに切り上げたのだろう。
何人もの人と話し、いろいろと見聞きしたつもりだったが、終わったときにはスパークリングワインのことしかおぼえていない。
なんとまあ……。
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転入者と転出者が顔を合わせる機会はこれが最初で最後。職場を去った方の現況を聞きつつ、私は空になったグラスが気になっていた。
「うーん、何を飲もうかな。白ワインでいいか」
都内の某ホテルであった。花束贈呈が終わり、次の転出者が舞台に進む合間を狙って、こそこそとワインコーナーに進んだ。
「赤と白がございますが、いかがいたしましょう」
係のお姉さんが愛想のよい声で話しかけてくる。白と言いかけて、スパークリングワインの瓶に気がついた。
「これ、さっき乾杯したときのスパークリングですか」
「はいそうです。まだ残っていますよ」
「わあ、欲しいです」
お姉さんがスパークリングをグラスに注いでくれた。ふふふ。飲み放題のリストにないようだが、半端に余っていたから提供したのだろう。良心的でありがたい。
しかし、平べったくて、少量しか入らないグラスだったので、飲んだ気がしない。

調べたら、クープ型のシャンパングラスというらしい。すぐ空になってしまい、挨拶が終わるのを待って、またお姉さんのところに行った。
「おかわりお願いしま~す」
お姉さんは私の気持ちを察したようで、空のワイングラスを取ってくれた。

「よろしければこちらにお入れしましょうか」
「はい、ぜひ」
これならクープ型の3倍は入るだろう。ニマニマしていたら、後ろにいた英語科の若手、マサト先生も便乗してきた。
「あっ、僕にもスパークリングください」
残念ながら、他にワインコーナーに近づく人はなく、ビールやソフトドリンクが人気のようだ。ちょっと淋しい。そうだ、挨拶も聞いてあげなくてはいけない。
「今の学校ではテニス部の顧問になりましたが、部員が1人しかいません」
「ええ~」
舞台の上は5人目になった。みなさん、新しい職場で頑張りつつも、戸惑いながら過ごしているようだ。料理はビュッフェだったが、まずまずでスパークリングにもよく合った。またグラスが空になり席を立つ。お姉さんはいなくなっており、おじさんに代わっていた。
「スパークリングください」
「どうぞ、ボトルごとお持ちください」
「いいんですか」
何と気前のよい対応か。大事に大事に瓶を抱えて席に戻った。中身を確認すると、3分の1は残っていたので、「うほほ」と小躍りする。しかし、飲み過ぎてもいけない。そうだ、マサト先生にもあげよう。どこに座っているのかしら。いたいた。隣のテーブルであった。
「見てぇ、これもらっちゃった。飲みませんか」
「マジすか、やったぁ!」
嗜好が同じ相手に喜んでもらえてうれしい。スパークリングに気を取られていたら、デザートコーナーのほとんどが消えていたが、フルーツは残っていたからよい。このあとコーヒーを飲んだら、お開きの時間が迫っていた。
「ここで中締めとさせていただきます」
あれっ、もう?
時計を見ると、1時間半が経過したところだった。このあと集合写真が待っていたので、早めに切り上げたのだろう。
何人もの人と話し、いろいろと見聞きしたつもりだったが、終わったときにはスパークリングワインのことしかおぼえていない。
なんとまあ……。

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