これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

安全★第一

2009年08月30日 19時56分41秒 | エッセイ
 台風11号が接近している。
 高校は通学エリアが広いので、生徒の安全確保のため、天気予報や台風情報のチェックが欠かせない。
 私の勤務先では、居住区となる東京23区に警報が発令されたり、鉄道各線が不通になったとき、登校せずに自宅待機するというルールがある。大抵の場合は、前日にホームルームで担任から、「明日、午前7時の段階で警報が出ているかどうかを確認しなさい」と連絡するのだが、夏休みはこれができなくて困る。

 7年前、夏休みに成績不良者を集めて補習をしたことがある。3日間で1学期の内容を復習し、成績アップを目指すはずだったのに、天気予報では初日に台風が来ると予測していた。
 私は困惑した。登校日ではないので、警報が出るかどうかにかかわらず、補習は中止したほうがよい。だが、連絡する機会がない。機転の利く生徒であれば、「こんな天気でやるはずがない」と判断するのだが、「何とか成績を回復したい」と願う真面目な生徒は来てしまうだろう。保護者も心配して問い合わせをするに違いない。
 仕方ない、一軒一軒の家庭に電話連絡をしなければ……。
 対象生徒は30名。気の遠くなる作業だったが、覚悟を決めて電話をかけた。
 平日の日中にもかかわらず、ほとんどの生徒は家にいた。アルバイトなどで連絡がつかないと予想していたから意外だった。本人がいなくても母親がいたり、留守番電話に録音したりと、連絡は順調に進んでいた。
 しかし、数軒、誰も電話に出てくれない家庭があった。携帯電話の普及にともない、コール音だけが虚しく響くケースが増えた気がする。
 さて、どうしよう?
 その日はたまたま別の補習があったので、参加している生徒を頼ってみた。
「ねえ、青木の携帯番号知ってる?」
「うん、わかるよ」
「実は、明日の補習は中止ですっていう連絡をしたいんだけど、家の電話がつながらないの」
「じゃあ、しといてあげるよ」
「わーい、ありがとう!!」
という感じで、大体の生徒が協力してくれるのだが、中にはこんな対応もあった。
「先生、学校では携帯を使っちゃいけないんですよ。僕はお断りします」
 以前、集会中に着信音が鳴ってしまい、私に携帯を取り上げられたことのある生徒だった。彼にしてみれば、「都合のいいときだけ何だ!」という心境だったのだろう。よく考えてみれば、その通りである……。
「いいよ、先生。アタシがかけとくね」
 面倒見のよい女子が、見かねて代役を引き受けるという場面もあった。
 生徒のネットワークは決してあなどれない。こちらも、いずれ携帯電話は持ち込み禁止となるのだが、いざというとき大丈夫だろうか。
 半日がかりで、どうにかこうにか、生徒全員に連絡がついた。

 皮肉なことに、準備万端に整えておくと台風はそれていくことが多い。今回もそうなると思っていたのに、珍しく風雨ともに強く、翌朝は大荒れの天気となった。
 明け方、風のうなり声と強い雨音で目が覚めた。家屋が揺すられ、髪をつかんで引きずられる女性のように樹木が体を歪め、悲鳴を上げている。全開のシャワーの如く、強く激しい雨が窓ガラスに体当たりしてくる。
 こんな悪天候では、たちまち傘が壊れ、頭のてっぺんからつま先までビショ濡れになるだろう。

 夏休みだし、補習なくなったし、無理して出勤しなくてもいいよね……。

 私は受話器を取り上げて、休暇の申請をした。

 あっ、自分が行きたくなかったから、補習をなくしたなんてことはないですからね!
 多分、いえ、絶対!!



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)


コメント (18)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

仲間はずれ

2009年08月27日 20時48分50秒 | エッセイ
 先日、お台場に行ったとき、あえて夫を誘わなかった。
「2人で行こうね」と娘のミキが言ったからだ。中学生ともなると、父親を疎ましく思うものなのだろう。
「今度は、東京タワーに行きたい~!」
 ミキのリクエストに、条件つきでOKすることにした。夫だけ仲間はずれは可哀想だ。
「じゃあ、今度はお父さんも連れていってあげようね」
 とたんに、ミキは、難しい顔になって答えた。
「お父さんも? ミキは別にいいけどさ、お母さんがイヤなんじゃないの?」
 今度は、こちらが「へ?」となる番だった。
「お母さんは、よくお父さんの悪口を言ってるから、一緒に行きたくないんだと思ってた……」
「そうだったの? いつもミキはお父さんの言うことを聞かないから、一緒に行きたくないんだと思ってた……」
 どうやら、お互いに気を利かせたつもりで、とんちんかんなことをしていたらしい。

 この間の日曜日、何も知らない夫は、「今日は留守番じゃない~」と喜んで東京タワーについてきた。予想以上に喜んでいたので、私もミキも良心が痛んだ。
 赤羽橋駅から歩いていくと、タワーの赤い足元が見えてきた。



 到着したら、まずはエレベーターに並び、大展望台を目指す。時間は午前10時を少々回ったところだったが、すでに長蛇の列ができていた。
 10分ほどで順番が来て、地上150mの大展望室2階にやって来た。あまり天気はよくないが、景色はなかなかのものだ。





「お母さん、ミキはルックダウンウィンドウってヤツが見たい!!」
 ルックダウンウィンドウというのは、大展望台1階にある透明な床のことで、高さ145mから下を覗き込むことができる窓だ。階段で下に降りると、探し物はすぐに見つかった。
「わっ、コワ~イ」
 高所恐怖症の人には無理だろう。足の下には絶景が広がっていた。



 ウィンドウの近くにプリクラ機があった。私とミキは、「撮ろう撮ろう」とノリノリでのれんをくぐったが、夫は恥ずかしいと思ったのか、さりげなく機械から離れていってしまった。
「あ~あ、行っちゃったよ」
 深追いせずに、二人で次から次へとポーズを決め、撮りまくった。撮影が終わるとプリントだ。
「4ポーズ選んでくださいだって。お母さん、どれがいい?」
「じゃあ、あれとそれとこれとあれ」
「落書きしようよ」
 ミキは付属のペンを取り、背景に大きく「親子」と書いた。間もなくプリントが完了し、受取口に写真が吐き出されてきた。ミキは、プリクラを手にして満足そうに笑った。
「お母さん、このプリクラどこに貼る?」
「そうね、年賀状なんてどう?」
「いいね~!」
 はたと気づいた。
 来年の年賀状は母子家庭だ……。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お台場や ガンダムは西 フジ東

2009年08月23日 19時50分11秒 | エッセイ
 先週、娘のミキとお台場に行ってきた。
「フジテレビに行きたい」というミキと、「ガンダムを見たい」という私の利害関係が一致した結果である。
 まずは、フジテレビからチャレンジした。
 私はテレビをほとんど見ない。天気予報だけは毎日見ているが、バラエティ番組もドラマも歌番組も、見たいとすら思わない。そんな人間がフジテレビを訪れたところで、楽しめるはずがないと気づいたのは入館後だった。
 まずは25階の展望室へ行ったが、人が多くて景色もろくに楽しめない。ガラス越しにこの程度の風景が見えただけだ。



 続いて、22階の「クイズ ヘキサゴン」に向かった。ミキは上地雄輔が好きなので、 うじゃうじゃとあふれる人の波にもメゲなかったけれども、私はすでに「帰りたい~」と弱音を吐いてばかりいた。
が、「羞恥心」の衣装には心を動かされた。私は華やかな服が大好きだ。すかさずデジカメを構えて言う。
「あらっ、これいいじゃない。撮るわよ」
「うん、撮って撮って!」



 あとは、フジテレビならではのお土産、「はちたま人形焼」と「球体まんじゅう」を買ったくらいだ。ミキは、他にもキャラクター物をいくつか買っていたが、待っていただけでクタクタに疲れ切ってしまった。
 さあ、やっとガンダムの番が来た。だが、ミキはフジテレビから離れたくなかったらしい。
「ねえ、パスポートがあるから、あとで時間があったら来てもいいんだよね」
 未練がましい言葉に、私は顔を引きつらせた。

 ガンダムは、潮風公園「太陽の広場」に展示されている。すでに歩道には、通勤通学時間帯の駅前並みの人通りである。まさか、みんなガンダムに行くのでは??
 しかし、実際そうだったのだから驚きだ。「ガンダム会場」と書かれた出入口に行列は吸い込まれ、またそこから吐き出されてくる。中高年のファンはもちろんのこと、大学生や中高生、小学生もいて、年齢層の偏りは見られない。
「お母さん、喉が渇いた……」
 ミキが自動販売機を見て話しかけてきたが、並んでいる人数を見て黙った。
「やっぱり、いいや」
 カーブを左に曲がると、ガンダムの背中が見えてくる。



「大きいね」
 ミキが首を伸ばし、感心したように言う。
 まず、背中側からご対面というアイデアは成功している。いきなり正面だと恐れ多いので、まずは控え目に後姿からご登場願うのが正しい手順だろう。テレビやインターネットで何度も見た雄姿だけれども、実物のずっしりした重量感には到底及ばない。
「背中にツノみたいのが生えてるよ」
 ミキは、ガンダムをまったく知らないので、教えてあげなければならない。
「あれは、ビームサーベル。戦うときに使うの」
「ふーん。ツノかと思ったよ」
 ミキは広場を囲っているフェンスに近づき、意外なことを言った。
「ねえ、ここで一枚撮っていこうよ」

 歩けば歩くほどガンダムに近づき、凛々しい横顔も見えてくる。



 ガンダムの足元まで歩くことのできる「タッチ&ウォーク」ゾーンに入る手前が、正面から撮影するのに最適のポジションだ。
 正面から見た実物大のガンダムは、実に堂々としていて感動モノだった。

 写真、写真を撮らなくちゃっ!



 私は命の次に大事な日傘をミキに手渡し、手加減なしで照りつける真夏の太陽に逆らうように、ガンダムにピントを合わせて何回もシャッターを切った。
 目のライトが点灯しており、バルカン砲の発射口も手抜きなしだ。


 
 巨大な体躯にもかかわらず、ガンダムは常に紳士的な雰囲気を醸し出す。「タッチ&ウォーク」ゾーンに入っても、私はこのモビルスーツの撮影を続けた。下から見上げるガンダムもまた迫力がある。



「階段では立ち止まらないでください。足元での撮影は一回にしてください。ではどうぞ」



 ようやく順番が来て、係員の事務的な声を合図に、私とミキはガンダムの足に駆け寄った。意外に軽い素材でできているような手触りだ。正義の戦士を思わせる、滑らかな感触だった。
「お母さん、こっち向いて」
 子供のように喜んでガンダムに触る私を、ミキがカメラにおさめてくれた。
 ガンダムの足の間を通り抜け、後ろを向くと、ビームサーベルを格納した大きな背中が見えた。
 暑い中、日傘なしの無防備な姿で、腕も顔もジリジリと焦がされながら、一心不乱に撮影しただけの価値はある。
 まだ見ていない方は、今月中に足を運んだほうがよいだろう。

 義理で付き合っただけのミキが、何度もガンダムを振り返ったあと、こう言った。
「ねえ、お昼を食べたら、またガンダム見に来ようよ」
 
※ 午後は逆光になるため、ガンダム撮影には向いていません。
  午前中にお越しになるのがベストかと思われます。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)

コメント (22)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しいメル友

2009年08月20日 19時56分00秒 | エッセイ
 先日、中1の娘のミキが、クラブで仲良しの先輩にメールアドレスを教えてもらった。
「家のパソコンからメールしてもいい?」
 夫はメールに反対だ。
「家のパソコンは、お父さんのアドレスになってるんだぞ。ダメだ!」
 ミキはふくれっ面をして、黙り込んでしまった。
 たしかに、プロバイダ経由のアドレスを、安易に教えたくないという気持ちはわかる。
「じゃあ、フリーメールでミキのアドレスをゲットすればいいよ」
 私が口出しして余計なことを言うと、今度は夫が黙り込んでしまった。

 まずは、Googleを試してみる。
「アドレスとパスワードを考えて。単語を4個くらいつなげないと、使えるアドレスにならないかも」
 私の注文に、ミキは食欲で答えた。
「じゃあ、ウニ、大トロ、イクラ、甘エビかな?」
 GoogleのGmailでは、ドットが使えるようだ。
 uni.ootoro.ikura.amaebiとつなげていくと、何やら「三菱東京UFJ銀行」を連想してしまうのは、私だけだろうか……。
 何でもくっつければいいというアドレスは、幸いなことに使用可能だった。
 しかし、Gmailはやけに重い。すぐ砂時計になってしまうので、やめにした。
 次は、私も使っているgooにトライした。
 gooメールは、ドットの代わりにハイフンやアンダーバーで区切りを入れるので、さきほどのアドレスにちょっと手を入れればよい。スムーズにアカウントを取得することができ、めでたくミキのメールデビューとなった。
「あのさ、最初にお母さんと練習したい」
 ミキの要望に応え、私は張り切って練習相手を引き受けた。
「今、空メールを送ったから、アドレス帳に登録しておくんだよ。受信メール画面から返信ボタンを押すと、メール作成ができるの」
 ちょっとやり方を教えるだけで、子供はあっという間にコツをつかむ。細かい操作を教えなくても、すぐさま返信が届いた。
「登録完了(^_^) いつでもメールしてOKだよ!」

 ゲッ! 顔文字も入れたのか!!

 練習後、すっかり自信がついたようで、ミキは先輩あてのメールを作成しはじめた。
 10分ほどして送信したが、なかなか返事が返ってこない。その先輩も、親のパソコンを使っているという話だから、ときどきメールチェックする程度なのだろう。
「返事が来なくてつまらないよ~! お母さん、明日またメールちょうだい」
 メールを始めたばかりの頃は、私も同じだったなと思い出す。

 翌朝、私は職場に向かう電車の中で、ミキあてのメールを打った。
「おはよう。今日はちゃんと宿題をするんだよ」
 どうせメールを送るなら、他に伝達事項はないかと頭を働かせてみた。
「そうそう、爪も切っておいてね」
 我ながら、何とつまらないメールかと呆れるが、ミキはそう思わなかったようだ。
「メールありがとう☆ 宿題やってるよ。爪もちゃんと切るから安心してね」

 ふ~ん、口で言うよりメールで伝えるほうが、素直に聞くかも……。

 予期せぬ効果に、情報化社会を実感した。
 これからは、子供とのコミュニケーションの手段として、メールを積極的に活用すべきなのかもしれない。

 一日の勤務を終え、新鮮な気分で帰宅すると、夫がプリプリ怒って一日の様子を伝えてきた。
「ミキはパソコンばかりしていて、ろくに勉強しなかったよ」
 すべてを言い終える前に、ミキの言い訳が割り込む。
「だって、先輩からメールが来てたんだもん。返事出さないといけないから、仕方ないじゃない」
「だから、お父さんはメールに反対なんだ!」
 二人の言い合いが始まり、私は呆然とした。まさか、こんなことになっていたとは。
 ふと、ミキの指を見ると、爪が伸びたままだった。私の視線に気づいて、ミキが先手を打ってくる。
「ああ、爪は今切ろうと思っていたの。本当だよ!!」

 ……いかん、早まったかな!?



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (20)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

昔の名前が出ています

2009年08月16日 22時09分39秒 | エッセイ
 私の旧姓は「忍田(おしだ)」という。
 あまりない名前なので、必ずといっていいほど「何て読むの?」と聞かれ、電話口では「よしだ」と間違われることが多く、苗字の説明をするのも面倒だった。
 そして、勤務先の高校にも同じ「忍田」姓を持つ男子がいる。
 縁もゆかりもないことは明白だが、何となく気になる存在になっている。

 忍田少年が、私の学校に入学してきたのは2年前のことだ。新入生名簿を見てビックリした。幸か不幸か彼のクラスの授業はなかったので、さりげなさを装って、ひそかに担任に探りを入れた。
「忍田君って子はどんな生徒なんですか?」
「いやあ、ごく普通の子ですよ。成績優秀じゃないけど落ちこぼれでもなく、問題児じゃないけど模範生でもない、平均的な生徒ですね」
 安心したような、がっかりしたような……。
 ちなみに、外見も、到底イケメンの部類には入らないが、目を背けるほど不細工でもないというレベルだった。

 同僚が言うには、同じ苗字の生徒が問題を起こすと、非常に気分が悪いものらしい。
 たとえば、前の学校に「川原」という男子生徒がいた。テストがあれば、名前だけ書いて早々に机に突っ伏し寝てしまい、見かねた教員が肩を揺すって起こそうものなら、「うるせえんだよ、あっち行けよ!!」と怒鳴りだすような生徒だった。
 職員室では、たびたび川原の問題行動が話題に上り、「また川原が暴言を」「川原が赤点です」「川原は課題未提出です」といった声が聞かれた。
 この生徒に心底ウンザリしていたのは、同じ苗字を持つ「川原先生」である。
「また、川原、川原って呼び捨てにされてるのよ。自分のことじゃないってわかっていても、つい反応しちゃうのよね。ああ、やだやだ」
 実は、この学年にはもう一人川原という男子生徒がおり、そちらのほうも不登校という問題を抱えていたのだった……。
 川原先生のイライラは続く。
「どっちの川原もダメなのよ。いい加減にしてほしいわね」
 やがて不登校の川原君は立ち直り、めでたく卒業することができたが、キレやすい川原君は成績不良で進級できなかった。職員会議で担任よりこんな報告がなされ、川原先生はとどめをさされた。
「3年×組の川原ですが、3月31日付で退学いたしました」

 しかし、忍田君は平均的な生徒なのだから、そういう心配もないだろう。
 
 そして、2年間は本当に何も問題なしだった。
 この4月から忍田君は3年生になり、私は初めて彼の授業を受け持つことになった。
 授業中の彼の様子は、かねての評判どおりほどほどに出来て、静かだけれども熱心に学習するタイプでもなく、地味で目立たない印象である。

 ある日の昼休み、私は巡回当番で校内を回っていた。階段を下りて3年生の教室にたどり着き、入り口のドアを開けると、教壇の上に忍田君が座っていた。彼は私の気配に気づくや否や、驚いた表情でこちらを振り返った。
 何と、こっそり携帯電話を充電しているところだったのだ! 
 学校の電気は、携帯の充電やアイロンに使ってはいけないと決められている。私は忍田少年から携帯と充電器を取り上げ、ムカムカしながら職員室に引き上げた。

 何よ、平均的な生徒じゃなかったの?!

 担任に取り上げたものを渡すと、「ああ、忍田ですね。最近ダメなんですよ」と言われ、私の胸は重くなった。

 川原先生も、こんな気持ちに!?

 先月は、2時間連続の私の授業に、1時間目は友達2人と遅刻して入ってきて、2時間目はサボっていなくなるという悪さをしでかした。またもや、私は担任に報告した。
「あのう、忍田と○○と××が、2時間目にいませんでした」
「どうも、無断早退して帰ったみたいなんですよ」
 ……ちょっと、デビューが遅かったのかもしれない。この先も、「忍田が」「忍田が」と話題になるのではと、私は不安になった。
 つい先日も、忍田少年は、卒業後、就職を希望している一部上場企業の会社説明会に遅刻するという失敗をしでかした。
「忍田から、間に合いそうもないけれど、どうしたらいいかというふざけた電話があったのよ!」
 電話を受けた担当者は腹を立て、吐き捨てるように言った。
 
「私も旧姓は忍田だったんだから、もっとしっかりしなさいよッ!!」
 と今度、忍田少年に会ったら、絶対言ってやる!!



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (24)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソフトクリームが呼んでいる

2009年08月13日 21時33分34秒 | エッセイ
 夏休みにはクラブ合宿がある。
 今の学校では、合宿の引率をしたことはないが、前の学校では毎年のようにしていた。
 場所は避暑地・清里だから、貸切バスに揺られて観光する気分で臨んだものだ。
 しかし、2000年の合宿だけは、そういうわけにいかなかった。
 
 そのとき、私が引率したクラブは弓道部だった。私は競技をしたことはないが、生徒が自分たちで練習メニューを考え、アイデアを交換しながら自主的に活動していたので、名前だけの顧問だった。
 部員は男女合わせて15名ほどだったろうか。2年生の女子が部長を務めていた。
 ところがこの部長、ものごとを悪い方へ悪い方へと考える、思いつめやすい性格だったから対応に困った。
 たとえば、集合したとき、髪が金髪の2年生がいた。染毛は校則で禁止されているから、この子には合宿への参加を取りやめるか、黒染めを買い宿舎で染めるかのどちらかを選ばせなければならない。結局、染めて参加ということになったが、部長は早くも暗い表情を浮かべていた。
 今にして思えば、予定通りものごとが進まないと不安になる性質だったのだろう。
 練習が始まると、引退間近の気楽な3年生が、なかなかおしゃべりをやめない。弓道は集中力がものを言うので、周りでしゃべられると迷惑する。見かねて、私も何度か注意をしたほどだ。
 練習が終わると入浴・夕食となる。夕食では、大食漢の1年生女子が皿を口元に近づけて、吸い込むように料理を食べていた。その豪快な食べっぷりに圧倒され、他の生徒は言葉も出ない。食器は次々と空になり、彼女は茶碗を持って「おかわり、おかわり~」と炊飯ジャーに走った。
 食の細い3年男子が、料理を残したまま箸を置こうものなら、すかさず声をかける。
「それ、食べてもいいですか?」
「う、うん、やるよ。」
 彼女は満面の笑みを浮かべて皿を受け取り、口元に近づけて胃の中に流し込むを繰り返し、見ているほうが気持ち悪くなった。
 彼女が食べ終わり、というより、食べ尽くして何もなくなったので、ごちそうさまができそうだった。が、隅っこにいる1年女子が、亀に失礼なくらいのスローペースでまだ食事をしているではないか。見ると、お皿の上には、半分以上もおかずが載っている。

 なんだって、こう極端な二人がいるかなぁ!!

 私も生徒もイライラしたが、その子は焦るわけでもなく、極めてマイペースに食事を続けた。10分後にようやく終了し、「ごちそうさま」ができた。

 部屋に戻ると、ドアをノックする音がした。開けてみると、そこには部長が泣きそうな顔で立っていた。
「先生、私、部長を務める自信がありません……」
 全身に灰色のオーラを漂わせ、部長は消え入りそうな声で言った。
「じゃあさ、部屋の中で話そうよ」
 私はドアを閉め、部長の話に耳を傾けた。みんなが勝手なことをするとか、言うことを聞いてくれない、協力してくれないなどの不満が噴出した。
 だが、2年生は2人しかいないので、もう一人の金髪娘に部長を任せるわけにはいかない。私は部長をなだめて、「合宿が終わる頃にはまた違った雰囲気になるよ」といい加減なことを言って励ました。

 翌日、部長は依然として元気なしだったが、自分の役割はきっちり果たそうと努力しているように見えた。私はちょっと安心した。
 昼食後は2時間ほど昼休みがある。部屋にいても退屈だったので、私は歩いて5分ほどの場所にある土産店をのぞいてみた。
 そこで買ったのはソフトクリームだ。
 まとまりのない部員に加えて、負のエネルギーを発散する部長が、私にストレスを与えていた。しかし、この舌触りの滑らかな白いデザートは、浮世の憂さを忘れさせてくれる。ソフトクリームが呼んでいるかのように、私は連日、暇さえあれば土産店に通い詰めた。昼休みはもちろんのこと、午後の練習が終わってから夕食までの休憩時間にも歩いていった。多分、4日間で6個は食べたと思う。

 相変わらず、大食い女とノロノロ女が食事の雰囲気を乱していたが、三日目ともなると徐々にまとまってきた感じだった。部長は言っても無駄だと思ったのか、その後は私の部屋を訪れることもなく、最後の夜を迎えた。
「先生、花火やっていい?」
 3年生が、密かに準備していたらしい。バケツと水を用意して、後片づけをしっかりする約束でオーケーした。
 高校生といっても、まだまだ子供だ。花火の光に照らされた顔は、どの子もはち切れそうな笑顔を浮かべている。大食漢の女の子も、おかずを取られた3年生も、金髪を黒に染めた2年生も、楽しくて楽しくて仕方ないといった様子だ。
 後ろの方に部長が見えた。ぎこちないながらも、口を開けて目を細め、笑っているではないか!

 ああ、この子が笑ったところ、初めて見たかも……。

 花火は何種類もあり、とてもきれいだったが、私は部長の顔に釘付けになってしまった。

 最終日は、初日と全然違う雰囲気で、お世話になった宿舎のかたに全員で挨拶をし、東京に戻った。長い長い合宿だった……。
 戻らなかったものがひとつある。
 それは、私の体脂肪率だ。ストレス解消に、ソフトクリームばかり食べていたら、体脂肪率が過去最高を記録してしまった。

 に、にじゅうよんパーセント……!!

 体脂肪計に乗り、私はショック死しそうだった。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (16)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動く十円玉

2009年08月09日 21時05分20秒 | エッセイ
 先日、お風呂上りに台所で涼んだときのことだ。
 濡れた髪を拭こうと下を向いたとき、視界の端でとらえた物体があった。

 まさか……。

 ゴクリと生唾を飲み込んで物体に近づくと、思ったとおり、十円玉のような影が床をすばやく移動していた。

 出たよ……。

 私は天を仰いだ。
 裸眼視力が0.1未満なので、幸いなことに、私にとってその物体は十円玉にしか見えなかった。
 本当は、楕円の十円玉なのだろう。2本の長~い触角を持ち、毛の生えた6本の足があるはずだ。

 エッセイ仲間に、カエルが死ぬほどキライという女性がいる。
「カエル」という言葉を発することすら拒否し、彼女はカエルを「ヤツ」と呼ぶ。
 たとえば、こんな風に。
「子供のとき、学校に行こうとして玄関のドアを開けたら、そこに『ヤツ』がいたのよ。私はショックで動けなかったわ……」

 そこまでではないが、私もこの十円玉を憎んでいるので、名前は言いたくない。
 いや、私だけではないだろう。ほとんどの人が、十円玉を嫌いなはずだ。
 昔の職場の話だが、男性3人、女性2人の5人で向き合って仕事をしていたことがあった。
 春先の平和な昼下がり、ややもすれば眠気を催しそうになるときに、突如としてそれは現れた。
 
 カサササササ……

 いやらしい音とともに、それは床から机に這い上がり、猛スピードで5人の机の上を横断していった。私は「キャーッ」という悲鳴をあげずにはいられなかったが、「うわぁーっ!!」という、もっと大きな声にかき消されてしまった。
「オレ、ダメなんだよ!! いつもカミさんに捕ってもらっているんだ!!」
 見ると、最年長のベテラン男性が、髪をかきむしるようにして取り乱している。
「いや、私だってダメですよ!! 昔、Tシャツに入られたことがあって、それ以来!!」
 隣の理論家男性も、顔面蒼白で真っ直ぐ立っていられない様子だ。
 残された3人は、唖然として顔を見合わせた。「私たちで何とか退治しないといけないのかな?」と困惑している間に、十円玉は逃走したのだった……。

 職場と違って自宅で十円玉を逃したら、「また出没するかもしれない」という恐怖に支配されてしまう。ここはひとつ、確実にしとめなくては。
 殺虫剤もあるが、床や壁がテラテラと汚れるので、私はあまり好きではない。やはり、古風に新聞紙などで叩き潰すのが得策だろう。
 
 一体、どこに行ったのか?

 十円玉を見失い焦ったけれども、人が近づく気配を察してか、十円玉は走り出てきた。
 床からガラス戸に上ったところで、丸めた新聞紙を振り上げた。

 バシッ!!

 渾身の一撃が十円玉を襲い、衝撃で床に落ちてきた。チャリーンという音の代わりに、ポトッという軽い音がした。すかさず叩いてとどめをさす。
 これで、もう大丈夫。
 私は深く深呼吸をした。
 死亡推定時刻、午前1時2分。
 殺害現場の後片付けが大変だ。何重にも重ねたティッシュペーパーで死骸を撤去し、床に散らばった足や羽、体液をふき取るのだから。
 
 カシミアを使うのは、ちょっとシャクだなぁ。

 一瞬、夫が愛用している、「ギャツビー アイスデオドラント ボディペーパー」を使おうかと企んだ。
 しかし、バレたら泣かれると思い、トイレの除菌クリーナーを取りにいった。念入りに床を拭けばもう大丈夫だ。
 私は安心して、もう一度深呼吸をした。
 
 よかった、ゴキブリを退治できて……。

 あ、言っちゃった~!



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (24)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロールシャッハな午後

2009年08月06日 19時46分12秒 | エッセイ
 ロールシャッハテストをご存じだろうか。
 これは被験者にこんな感じのインクのしみを見せ、それから何を想像するかによって人格を分析しようとする性格検査である。



 スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって考案されたことから、この名前がつけられたそうだ。

 わが家の役割分担のひとつをご説明しよう。
 食器を洗うのは、夫の仕事である。
 その日、私は休暇を取り、夫と一緒に冷やしうどんの昼食をとった。
 しかし、食べ終わるやいなや、夫が出掛けてしまったので、私が洗い物をする羽目になった。
「たまには、頑張るか~!」と、気合いを入れて流しに立つと、大きな皿が目に入った。
 場所を取るから最後に洗おうと考え、先につゆの空き瓶に手を伸ばした。これはキャップを外してすすぎ、リサイクルに出せばよい。
 ふたの開け口を引っ張り、本体から取ろうとしたが、硬くてなかなか外れなかった。

 えいえいえいっ!!

 渾身の力をこめると、赤いキャップはじりじりと後退しはじめ、ついにポンッと音を立てて離れた。「やった!!」と笑顔になったのもつかの間、不覚にも手を滑らせ、瓶ごと落としてしまった。

 ガッツーン……。

 瓶は皿の上にダイビングし、鈍い音が響いた。次の瞬間、丸かったはずの大皿が、放射線状に分断されて小さくなった。

 やばっ、割れちゃったよ~!!

 私はしばし呆然とした。
 後回しにせず、先に皿を洗っておけばよかったと悔やんだが、もう遅い。



 皿をジッと見つめていたら、破片の形から、ロールシャッハテストを連想した。

 さて、この破片から想像されるものは何?

 うーん……、ピザ!!

 他には?

 えーと……デコレーションケーキ!

 はい、あなたは食い意地の張った性格でーす。

 あったりぃ~♪



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あんこ椿研修

2009年08月02日 20時35分44秒 | エッセイ
 毎年、8月上旬になると思い出すことがある。
 かれこれ20年ほど前、私が教員になった年のことだ。
 当時、東京都は3泊4日の新規採用者研修を、大島セミナーハウスで実施することになっていた。
 もちろん、私も参加する羽目になったのだが、これは社会人初の試練といっても過言ではなく、大変ツラいものだった。

 まず、船の二等船室があり得なかった。毛布を手渡され、だだっ広いフロアで雑魚寝しろと言うのだ。
 私の父は、東海汽船の関連会社に勤めていた。その関係で、割引料金で船に乗ることができたため、我が家は毎年、特一等の船室で八丈島まで家族旅行をしていた。決して豊かな暮らしをしていたわけではないが、船に関してはぜいたくできたのだ。
 個室内には2段ベッドが2個あり、約8時間もの船旅を昼寝したりトランプしたりで、ゆったりと楽しめた。

 それなのに、ダニがいそうな床にゴロ寝しろってか!?

 大島まで4時間余りだったろうか。デリケートな私は、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
 しかし、顔見知りの参加者、葛西さんは反対のことを言った。
「おはよう! よく寝てたね~。私は寝付けなかったから、デッキでずっと海を見てたんだ」
 彼女に言わせれば、私は消灯後まもなく爆睡し、死んだように眠っていたという。さらに、とどめの一言が脳天を直撃した。
「いいね、笹木さんて。どこでも眠れるんだね。羨ましいな~」

 ……おかしい。そんなはずは……。

 船から下りると、大島は、信じられないくらい蒸し暑かった。気温はさほど高くないが、湿度がえらく高い。顔にも首にも汗が噴き出し、不快きわまりない状態になった。
 早速、セミナーハウスの部屋に入った。私は葛西さんと同じ部屋だったので安心した。
 しかし、クーラーがない。窓を全開にしても、まったく涼しくならないではないか。
「うわ、最悪……」
 4人部屋の全員が言葉を失った。こんな暑い部屋に4日間も!?
 荷物の整理が終わると、研修が始まった。教科ごとに分かれて、さまざまなテーマについて協議するのだが、この部屋にもクーラーがなかった……。
「え? 私の部屋はクーラーあったよ」
 国語科・葛西さんの話から察するに、教科によって当たりはずれがあるらしい。
 私は国語科でないことを呪った。

 今、振り返ってみると、私は大学を卒業したばかりで幼かったのだろう。同室の女性はみな年上で、私立での講師経験があったり、民間企業での社員経験があったりして大人だった。狭いベランダで、星を見ながら一緒にビールを飲んだり、職場での苦労話を聞いたりして、楽しかっただけでなく勉強になった。
「こんな暑い部屋じゃ眠れないよぅ~」
 夜になり、私がこんな泣き言を言えば、「ハイハイ」と団扇をパタパタさせ、寝付くまで交代であおいでくれた。
 てんで子供だったと、恥ずかしく思う。

 激動の大島研修は、まだまだ続く。
 1990年8月2日は、国際的にも大きな事件が起きた日だった。
「クウェートがイラクに侵攻されたって! 今、ニュースでやってたわよ。笹木さん、知ってた?」
「いやぁ~、初耳ですっ!」
 食堂にある唯一のテレビには、すでに人だかりができていた。
 一体、クウェートはどうなってしまうのだろう? と心配になったが、実は、私たちにも別の問題が近づいていた。

 クウェート問題のあとの天気予報で「台風接近」が報じられた。
 台風の進路は伊豆諸島方面に向かっており、ちょうど帰る日に上陸しそうな勢いだったのだ。
「どうなるの?」
「台風が来たら、船が欠航するから帰れないよ」
 参加者は、それぞれ不安を口にしつつも、取るべき道はひとつしかないと予想していた。
 夕食後、食堂に全員が集められ、指導主事から研修予定変更の連絡がなされた。
「台風接近が懸念されておりますので、一日繰り上げて、明日の午後の便で帰ります」
 参加者は大人なのでポーカーフェイスを装っていたが、誰もが、その一言を待っていたに違いない。

 やった、この灼熱地獄の大島から、一日早く帰れるんだっ!!

 連日の暑さに辟易していた私は、歓声を上げて走り回りたくなった。
「では、先に日当をお渡しします」
 この研修では、参加者に一日あたり千円ほどの日当が支払われた。高校生のバイト代1時間分が、教員の研修の一日分なのだから笑ってしまう。
 さらに、苦笑する言葉が追いかけてきた。
「一日早く帰ることになったので、日当から一日分の×××円を返金してください!!」
 誰もが言葉を失い、固まった。

 せこい、せこすぎる……。
 
 こうして、波乱万丈の大島研修は幕を閉じたのだった。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (22)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする