これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

岩崎ミュージアム☆ドレス体験

2017年07月30日 20時33分51秒 | エッセイ
 ついに、念願の岩崎ミュージアムに行くことができた。



 横浜にあるこの美術館では、クラシックなドレスを着て記念撮影ができる。コスプレ好きな私が執着しないはずはなく、何度も足を運んではフラれていた。
 今回は、時間を決めて予約を入れたから、撃沈されず、確実に撮影できるはずだ。
 心にゆとりがあるせいか、施設前の植木が気になった。



 このカットは何をデザインしたのだろう。とぐろを巻いた蛇? ソフトクリーム? それとも……。
 ドレス体験は10時半からなので、それまで館内を見て回る。聖母マリアのまとったようなドレスから、マリー・アントワネット、エリザベス女王、サリバン先生などの着るようなドレスが何種類もあり、流行の変遷が見て取れた。服飾に興味のある人なら、ここは退屈しないに違いない。
 ようやく時間になった。他に客はいなかった。ここに来るまでを振り返ってみても、横浜全体の人出が少なかったと思う。そんな疑問をスタッフにぶつけてみたら、うなずきながら答えてくれた。
「ええ、土日は混みますし、月曜は休館日ですから、火曜・水曜は比較的空いていますね」
 なるほど! 横浜で何か見たいのであれば、火・水を狙って来ればいいのか。
 ドレスは11種類あった。先にドレスの種類を予習していたから、どの時代の衣装なのかが頭に入っている。予備知識を仕入れてから着るのがオススメだ。
 敬虔なルネサンス、華麗なロココ、モダンなバッスルにも心を惹かれたが、私が着たいと思ったのは、裾が大きく膨らんだ乙女全開のクリノリンであった。
「それでは、こちらでお着替えをお願いします」
 女性スタッフが別室で着付けをしてくれる。例によって、胸の辺りがブカブカだ……。こういうドレスは、グラマーな人のほうがよく似合う。鶏ガラに近い人には、ドレスを背中で詰めてくれるので、どうにか見られる程度にはレベルアップする。だが、ドレスに「着てもいいわよ」と許可をもらって袖を通させてもらっているような、ぎこちなさを感じて仕方がない。
「では、撮影いたしますので、お履き物をお願いします」
 撮影は1階だ。現像してくれるのは1枚だけだが、手持ちのスマホやカメラでも撮ってくれる。何枚も何枚も。一人で出かけたので、これはありがたかった。
「お疲れ様でした。では、お着替えをお願いいたします」
 所要時間は20分程度だったろうか。相変わらず、他の客はいない。混雑時は、こんなにのんびりできない気がするから、やはりこの日でよかった。
 5分ほど待ち、写真を受け取る。



 イメージ通りの仕上がりでうれしい。
 ついでに、ポストカードもいただいた。



 疲れた。メルパルクでお昼を食べて、さっさと帰ろうっと。
 退館時に、もう一度植木の間を通る。
 空腹のせいか、今度は向かって右がウインナーロール、左がチョココロネにしか見えなかった。


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同棲してもいい?

2017年07月27日 20時46分21秒 | エッセイ
 昭和生まれの私からすると、今の若者たちの結婚観には違和感がある。
「二十代の次女が、彼氏と同棲してもいいかって聞いてきたのよ。どうしようかしら」
 年上の友人である富美さんが、困った声で相談してきた。彼女には3人子どもがいて、長男は子持ちのシングルマザーと熱愛中、長女は彼氏ナシ歴3年で専ら仕事に明け暮れ、末っ子の次女が同棲を希望している。平穏な我が家から見ると、なかなか激しい。
「相手によりますね。どんな男なんですか?」
「真面目で働き者よ。2回くらい会ったことあるけど、悪くないわね」
「つき合って何年くらいなんですか?」
「1年経っていないんじゃないかしら」
「普通、結婚してもいいかと聞きますよね。ずっと籍を入れないつもりでしょうか」
「そこよね。期限つきにしておかないと」
 話している途中で、教え子だったセイナを思い出す。やたらと涙腺が弱く、産休中の先生が無事出産と聞いては泣き、体育祭が成功したときも泣き、卒業式でも号泣するような幼い子だったのに、30歳を迎えてSNSに「同棲中」とアップしていた。高校時代とのギャップが大きすぎて、親でもないのに私が戸惑い「ゲゲッ」とつぶれたカエルのような声を出した。
 あれから2年は経ったと思うが、その後どうなったのだろう。facebookを開き、セイナのタイムラインをのぞいてみた。
「このたび入籍しました」
 花の写真とともに、短い結婚報告がアップされていた。同棲開始からちょうど半年後のことだ。
「セイナちゃん、おめでとう! 結婚っていいものだよ。幸せになってね」
 おや? これは私のコメントではないか。
「笹木先生、ありがとうございます」
 なんと、私は返事のコメントまでもらっていたのに、何ひとつおぼえていなかった。ノリで書いたとはいえ、歳をとるのは恐ろしい……。
 富美さんから、メールが届いた。
「今日、次女の彼氏が挨拶に来ました。結婚前提の同棲にすること、半年で結論を出すことを条件に許可しました。色々とありがとう」
 やはり、半年が一つの目安である。結婚のリハーサルとして相手をよく観察してほしい。
 別の友人から聞いた話だが、あるカップルは派手に結婚式を挙げ、たくさんの親戚を招待したというのに、籍は入れず一緒に暮らしてもいないという……。果たして、それで結婚したといえるのだろうか。
 オバさんの古い頭では、今どきの結婚事情についていけませんわ。


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スズメはスズメでも……

2017年07月23日 21時28分16秒 | エッセイ
※ ゴキブリではありませんが、記事中に虫の画像がありますので、虫の苦手な方はご注意ください。

 ブロ友さんに教わって、4月上旬にブラックキャップを設置したら、今年は1匹もゴキブリを見ていない。
 去年は、イギリスのEU離脱を問う国民投票の時期には、すでに何匹も出没していたから、効果は十分表れているようだ。おかげで、心安らかな夏休みを過ごしている。
 今日はスポーツクラブで汗を流してきた。ときどき、パラパラと雨が落ちてきたから、自転車は危険かと心配したが、午後は明るくなってよかった。安心して自転車に乗り、30分ほど体を動かして帰宅する。自転車置き場に駐輪しようとして、ふと足を止めた。
「あら? これは枯葉かしら……」
 娘の自転車に、年老いた葉っぱのようなものがへばり付いている。



 よく見ると、左右対称で触角らしきものがある。葉ではなく虫? 大学3年の娘は、ゼミだのバイトだのと忙しく、滅多にジムに行かないので、自転車のカゴには蜘蛛の巣が張り、サドルは砂だらけで荒れ放題になっている。虫にとっては、居心地のよい場所なのかもしれない。
「うーん、たぶん、これは蛾だな……」



 虫に気づかれぬよう隠し撮りをして、パソコンで調べてみた。思った通り、スズメガ科のセスジスズメという蛾であることがわかった。
「スズメかぁ。ピッタリ」
 感心している場合ではない。セスジスズメの幼虫は、農作物の葉を食い荒らす害虫だそうな。わが練馬区には畑が多いから、どこぞの葉をモシャモシャと平らげ、サナギになって羽化し、ここまで飛んできたのではないか。
 成虫は、飛行機に似ている。ネットには「ステルス蛾」などと書かれたものもあり、思わず笑った。よく特徴をとらえているではないか。この蛾が空中戦に適しているとは思えないが、竹やぶなんぞに入り込んだら、枯葉と見分けがつかないだろう。きっと長生きするに違いない。
「じゃあ、元気でね」
 セスジスズメにさよならして家に入る。幸い、娘は外出中で、今日は帰ってこない。自分の自転車に、大きな蛾がとまっていたと知ったら、半狂乱になりそうだ。いなくてよかった。
 玄関の周りや、窓の近くには屋外用ブラックキャップが目を光らせている。
 蛾にはどこ吹く風だろうが、ゴキさえいなければ、我が家は平和なのだ。


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求ム 折り畳み傘

2017年07月20日 20時31分16秒 | エッセイ
 ひと月ほど前に日傘が壊れてしまった。
 日傘といっても、晴雨兼用の折り畳み傘だから、雨の日にも元気に働いてくれた。ところが、あるときから留め具が機能しなくなり、開いたはいいが差している途中で「ぺしゃん」とつぶれてしまうのである。まるで、から傘お化けのようで恥ずかしい。もったいないが、捨てるしかなかった。
 他に日傘がないわけではない。
 引き出しの中を探してみると、8年前に買った日傘が眠っていた。



 バラのプリントが気に入っていたのに、さすがに8年も経つとババ傘である。取っ手の塗装は剥げ、布地の折り目がところどころ擦り切れている。UV加工されているはずだが、紫外線をはね返す力があるとは思えぬほどくたびれてしまった。おそらく、一昨日、池袋を襲った雹に遭遇していたら、ズタボロにされたであろう。
 新しい傘が欲しいよぅ~!
 でも、店まで行くのは面倒だ。通販のカタログを引っ張り出し、これですませることはできないかと企んだ。
 私が欲しいのは、軽くてオシャレで、晴雨兼用の折り畳みである。某カタログには2つの候補が載っていた。ねっとりとした視線を注ぎ、時間をかけてチェックする。
 ひとつめの傘は、3000円台で100gと、軽量ながら頑丈なところがウリらしい。問題は、紺と灰色の2色しかなく、無地で面白味のないところである。たとえるならば、気の利いたジョークのひとつも口にできない、昭和の男の傘版といったところであろうか。晴雨兼用で軽量ときたら、女性をターゲットにしていると思うけれど、この野暮ったさでは買う気も失せる。
 ふたつめの傘は、5000円台で260gだが、UVカットだけではなく、遮熱率96.6%と驚異的な涼しさが特長のようだ。色はアイボリーとネイビーの2色で、内側の黒色が映えている。波をイメージしたカットとフェミニンな刺繍で縁取られており、なかなかオシャレである。だが、「撥水加工済みなので、小雨程度の雨にも差せる」との文字を見て、大雨には対応できないことに気づいた。特に、夏場は夕立ちが多い。雨から私を守ってくれるどころか、私が守ってやらねばならぬ傘に用はない。お疲れ様でした。
 ババ……もとい、おばあちゃん傘、もうちょっと頑張ってちょうだいね。
 いっそのこと、こんな傘はどうかしら。




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砂の正体

2017年07月16日 23時13分28秒 | エッセイ
 私のカップは、キッチンの水切り台の前が定位置だ。



「ふー、暑い暑い。うがいしなきゃ」
 今日は、友達に会うために出かけて、夕方、戻ってきた。液体石けんで手洗いし、カップに手を伸ばす。浄水器のボタンを押して水を入れたが、中を見て仰天した。
「やだ、砂が入ってる。濁り水?」
 ……まさか、浄水器で濁り水はないだろう。砂が出るなら故障だから、業者を呼ばねばならぬ。いや待て、もともと、カップに砂が入っていたのかもしれない。夫が昼食を作るとき、食材から飛んだのであれば、慌てて電話する必要はない。
「もう一度やってみよう」
 カップを洗って、再度浄水器の水をくむ。今度は砂らしきものが見当たらない。やはり、カップに入っていたようだ。きちんと食器棚にしまえばよかった。うがいをすませて辺りを見渡す。床には白菜の切れ端や、炒めた玉ねぎのスライスが落ちていた。男の料理は雑でいけない。
「お茶、飲もうっと」
 緑茶の中では狭山茶が一番好きだ。湯飲みも、カップの隣が定位置となっている。アリスのカップを戻し、空いた手で湯飲みを持ち上げた。
「あれれれ」
 何と、こちらも砂まみれ。カップにも湯飲みにも、黒いツブツブがたくさんまとわりついている。しかし、よく見ると、砂ではないようだ。
「これって、コーヒー?」
 買い置きのカセットコーヒーをチェックする。朝は3袋あったはずだが、2袋に減っている。ということは、夫が飲んだに違いない。



「ちょっと、パパ。水切り台の前でコーヒーいれた?」
「うん」
「カップにも湯飲みにも、粉が飛び散っていたよ」
「あ、ごめん、失敗しちゃって。掃除したつもりだったんだけど」
 どうやら、不器用な夫は、カセットを開けるときに粉をこぼしたらしい。調理台や水切り台はきれいにふき取ったものの、カップ類の中にまで入りこんでいたことに気づかなかった。その後、事情を知らない私が「大変! 砂が混じってる」と誤解したというわけだ。
「コーヒー、美味しかった。スタバで買ったの?」
「スーパーで売ってるのよ」
「へー、そうなのか」
 浄水器の故障でないとわかれば、ひと安心だ。
 しょうがないな、明日もう1箱買っておくか。


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ハクソー・リッジ もう一つの戦い

2017年07月13日 22時26分52秒 | エッセイ
 その日は、2年生の生徒を連れて、オープンキャンパスに参加することになっていた。
 いつもより遅い時間に、のんびり出発の支度をしていると、テレビの星占いが始まる。
「今日の運勢第1位はてんびん座です!」
 よしよし、きっと、いいことあるぞ。
 星占いの通り、生徒の遅刻や欠席もなく、オープンキャンパスは昼過ぎに終了した。
「先生、さよ~なら~」
「はい、気をつけて帰ってね」
 このあと授業はないし、急ぎの仕事もない。時計を見ると、まだ12時半ではないか。たまには、午後休暇をとるのも悪くない。
「よし、まずはランチだ」
 せっかく渋谷に来たのだから、東急に行こう。ちょうど、パリ祭というイベント開催中で、美味しそうなプレートが私を待っている。



「甘いものも解禁しちゃえ」
 休暇をとった解放感から食欲も上向きだ。食後はプティガトーも追加した。



「いやあ、極楽極楽。やっぱり1位の星座は違うわね」
 優越感に浸って店を出る。お次は映画館だ。メルギブファンとしては、公開中の映画「ハクソー・リッジ」を見逃すわけにいかない。



 すでに公開3週目に突入したので、上映回数が減った。興行成績がイマイチなのだろうと、勝手にスカスカの劇場を予想していたが、館内はほぼ満席である。レディースデーでもサービスデーでもないから、ちょっとうれしい。
 あらすじを紹介したい。ヴァージニア州出身のデズモンド・ドスは、第二次世界大戦で志願兵となるが、信仰上の理由から銃を持とうとしない。上官に叱責され、仲間の隊員から嫌がらせを受けても、決して信念を曲げることはなかった。
 ある夜、デズモンドは就寝中に襲われる。デズモンドが銃を持たないことで、連帯責任を負わされた隊員が、長距離を走らされたことへの報復だった。ベッドごとひっくり返され、数人から殴る蹴るの暴行を受けた。暴力的な場面では、見ている側も力が入る。
「ん?」
 異変はそのとき始まった。私のお腹の中でも、何かが暴れ出しそうな予兆がある。朝、ちゃんとトイレをすませたのに……。うごめく腹部に気づき、眉毛がハの字になったが、しばらく耐えていると落ち着いてきた。やり過ごせたかと、大きく息を吐いた。
 おそらく、調子に乗って、高カロリーのものを食べすぎた報いであろう。グラスシャンパーニュも2杯飲んだし。この映画は139分と長く、腕時計に目をやると、あと1時間以上もある。はたして、最後まで持つかと不安になった。
 スクリーンでは、いよいよデズモンドが沖縄に上陸し、戦いに参加する場面になっていた。ハクソー・リッジと呼ばれる崖を登った先には、たくさんの遺体が散乱している。砂にまみれて横たわりネズミに食われている者、内臓をはみ出させて息絶えた者、ただの肉片になってしまった者など、とても平常心では見られず、体がこわばった。
「あ」
 いかん、またお腹の中で殴る蹴るが再開したではないか。今度はさっきより激しい。集団ではないが、2人がかりで暴行を受けているようなツラさである。嵐が通り過ぎるのを待とうとしたら、額が汗ばんできた。冷房は十分利いているのに困ったことだ。
 デズモンドは、両足を腿から吹き飛ばされ、苦し気なうめき声を上げている負傷兵の手当てを始めた。足を失う痛みに比べたら、こんな腹痛、どうってこたあない。辛抱、我慢、とヘソのあたりに言い聞かせたが、一向に効き目が感じられない。
「よし、切羽詰まる前にトイレに行こう」と決心し、戦いがひと段落した場面で席を立った。一部、見られなくなるのは残念だが、苦しい思いをしてまで頑張る必要はない。もちろん、これはやせ我慢で、本音としては「腹痛に負けたダメなヤツ……」と落ち込んでいたのだが。
 数分後、無事、用を足して劇場に戻る。でも、通路側ではないので、人の目の前を通行する迷惑を考えた。結局、出入口付近で鑑賞することにする。残り時間はあと40分。亡霊のように、暗闇に潜んでジイッとスクリーンを眺めた。どう見ても怪しいヤツである。どこが1位の星座なのかと苦笑しつつも、腹痛から逃れた喜びの方が大きくて、すんなりストーリーに戻っていかれた。
 デズモンドは、敵・味方の区別なく、負傷兵を助け続けた。自らの危険を顧みず、最後まで武器をとらず、信念に従って戦ったのだ。腹部の爽快感と合わせて、鑑賞後は心の中にそよ風が吹いてきた。すごい人間がいたものだ。私はデズモンドを尊敬する。
 本日の教訓。
 長い映画を見る前に、お腹がビックリするような食事をしてはいけない。粗食に徹するべし。
 喉元過ぎれば熱さを忘れるものである。お腹の痛みは記憶に焼き付けておこう。


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アルチンボルド展の魅力

2017年07月09日 21時23分23秒 | エッセイ
 ブロ友さんから情報を得て、アルチンボルド展に行ってきた。



 国立西洋美術館に入ってすぐ、「作品数が少ない」と口を尖らせた。リストを見ると、全部で86の作品が並んでいるようだが、アルチンボルドの絵はわずか26に過ぎず、残りは別の画家で誤魔化している。しかも、このうち10作がデザインであることを差し引くと、じっくり鑑賞したくなる絵は16に減る。「これしかないのか」と不満を抱きつつも、その16作があまりにもすご過ぎて、退屈しなかった。
 アルチンボルドは「寄せ絵」と呼ばれるだまし絵のパイオニアである。花や動物、果実、魚などを何十種も描き込んだ結果、人の上半身ができ上がるのだから、発想の斬新さに驚かされる。しかも、それぞれのパーツが、質感豊かで実にリアルだ。
 たとえば、リーフレットに載っている代表作をご紹介しよう。
 ブドウや洋梨、カボチャ、栗などでこんな顔が。



 シカやサル、馬、象なども、たくさん集まれば人になる。



 タコ、エビ、ヒラメ、サメ、カニからも人間が生まれる。



 きっと、描いている画家本人も楽しんでいたのだろう。それぞれのパーツには生命が吹き込まれたかのように、表情豊かで生き生きとしている。絵の中には、いくつもの暗号が隠されているらしい。「ふふふ、この意味がわかるかな?」などといたずら心全開で描いたのかもしれない。
 「庭師/野菜」というタイトルのこの絵は、上下絵である。籠の中には、何の変哲もない野菜が詰め込まれているように見えるが、上下を逆さまにすると、あーらら、男の顔になるから不思議。



 本物は色鮮やかで、写真にはない妖しい輝きを放っている。心の窓を開けて、じわじわ近づいてくる魔力を感じる。ぜひ、空いている今のうちに、美術館まで行かれることをおススメしたい。
 もうひとつ、おススメしたいのが、展示室入口にある「アルチンボルドメーカー」だ。スマホやカメラはロッカーに入れぬよう気をつけて。自分の顔をモチーフに、オリジナル寄せ絵を表示してくれるので、素通りする手はない。
 機械は2種類あり、それぞれ正面の顔、横顔を映してくれる。
 まずは左側の機械から。
 正面。



 横顔。



 次に右側の機械へ。
 正面。



 横顔。



 おおっ、ぶさいくだな~!
 それでも、アルチンボルドが身近に感じられ、ホクホクしながら美術館を出た。いい展示を教えてもらって幸せだ。
 長居しなかったのは館内が寒かったからだ。心ゆくまで鑑賞したいという方は、嫌味っぽく、中綿入りの冬のジャケットをお持ちになるとよいだろう。
 9月24日まででーす!


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子どもの貧困を考える

2017年07月06日 22時07分19秒 | エッセイ
 遠くに住んでいる友達が、念願の作家デビューを果たした。



 講談社児童文学新人賞佳作に選ばれたというから大したものだ。
 エッセイだけでなく、いつかは私も小説を書いてみたいと思うが、架空の出来事をあたかも事実であるかのように描写するのは難しい。「は? 説得力ゼロなんだけど」と読者に呆れられて終わりそうな気がする。
 今回、まりさんは「子どもの貧困」をテーマにした。
 主人公の麻美は、まだ中学生だ。兄弟はおらず一人っ子。母子家庭なのに、その母親が働いていない。部屋はゴミだらけで食事も作らない。水道はとめられてしまった。給食だけが頼りの毎日だ。同じクラスの子からは「臭い」と避けられ、友達もいない。ないないづくしである。
 数ページ読んですぐ、40年前の記憶が蘇ってきた。麻美みたいな男の子が、同じクラスにいたからだ。
 小学1年生だったか。アキラという、体の小さな男の子が、やたらと先生に叱られていた。念のためにつけ加えると、仮名である。
「アキラ君。ずっと給食費を払っていないから、1万円になっちゃったわよ。今度こそ持ってきなさい」
 当時、給食費は銀行引き落としでなく、現金で徴収していたのだ。ところが、アキラだけは4月から一度も支払いをせず、たまりにたまって1万円に膨れ上がったのだとか。担任の先生は集金袋を高く掲げ、みんなの前でアキラに念を押した。
「うわっ、1万円だって」
「アキラんち、貧乏だな」
 昭和の子には人権がない。先生に好き放題に責められ、クラスメイトに驚かれ、アキラは苦笑いをするしかなかった。
 着ているものや持ちものから、アキラの家が裕福ではないと察することは簡単だった。シミのついたヨレヨレのTシャツ、穴の開いたズボン、擦り切れて汚れたバッグ……。でもそれは、アキラのせいではない。
 入学して間もなく、休み時間に、男子が大笑いして騒ぎ出したことがあった。
「うわ、アキラがオナラした! くせー」
 おそらく、家庭できちんとしつけをしていなかったのだろう。アキラは、人前でオナラをすることが恥ずかしいと思っていなかったように見えた。何かをすれば笑われ、何かを言えばからかわれ、先生からは怒られてばかりだったのかもしれない。
 そして、悲劇は真冬の寒い時期に起きた。
「みなさん、今日からアキラ君は学校に来ません」
「ええ~、何で?」
「昨日、アキラ君の家が火事になったからです」
 先生が、まるでワイドショーのレポーターのように話し始めた。アキラ君には弟2人と妹1人がいたこと、その夜は子どもだけだったこと、ストーブをつけようとしたら灯油がなかったこと、箸を使ってポリタンクから灯油を注いだときにこぼしてしまったこと、そこから火が燃え広がり、火事になってしまったこと……。
「アキラ君は、弟や妹を置き去りにして、自分だけ窓から逃げたんです。アキラ君しか助かりませんでした……」
「…………」
 今にして思えば、「ここまで言うか」という説明である。
 弟や妹を見捨てて、自分だけ逃げた? 
 同じ言葉が、頭の中をグルグルと何回転もしている。幼い子どもには衝撃が大きすぎて、誰もが受け止め切れなかった。
 以来、私は貧困家庭の子どもの話を聞くと、すぐさまアキラを思い出すようになった。同時に、喉にカボチャの煮物が詰まったような息苦しさを感じて、どうにもやりきれない。トラウマになっていたのだろうか。
『15歳、ぬけがら』でも、麻美が食事の前に「いただきます」を言わなかったり、セミの名前を知らなかったりと、普通ではなかった。親子の会話がなく、家庭が機能していない証拠だ。
 でも、麻美は学習支援塾『まなび~』に通うようになり、少しずつ変わっていく。何がどう変化していくかは読んでのお楽しみだが、麻美に社会性が芽生えてくると、思い出の中のアキラ少年までが成長している気分になる。貧困から抜け出そうと、前向きに生きる姿が、「もしかして、アキラも立ち直ったかもしれない」と思わせるのだ。息苦しさが緩み、少し楽になってきた。
 まりさん、この本に出会えてよかったです。
 これからも、ずっと応援していますからね!


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15000円で何を買う?

2017年07月02日 21時07分54秒 | エッセイ
 教員になって長いが、今回初めて、専門誌にちょっとした記事を書いた。



 この雑誌は、基本的にはWeb販売らしい。特約店のみ店頭販売をしているようだから、知り合いに読まれることはまずないだろう。したがって、「うわ、笹木だ。ヘッタクソ、つまんね~」などとディスられる心配はしていない。ホッ。
 なにしろ、教育関連の記事だから、私の書きたい内容ではないのだ。旅行もグルメも登場しないし、コスプレやガンダムとも無縁。事件も落ちも必要ないから、楽といえば楽なのだけど、書いても書いても楽しい気分にはなれなかった。仕事なんだから当然か……。
 一応、ギャラがもらえる。4500字で15000円が高いのか安いのか、まったく見当がつかないが、アマチュアなのだから、書く機会をいただけただけでもありがたいと思わなければ。
 ちなみに、今日は所属校の公開講座があった。私が当番だったので、時給5000円で講師を務めた。3時間の講座だからお、手当は同じく15000円である。どう考えても、こちらの方がお得だ。
 先日、出版社からギャラの明細が送られてきた。報酬15000円に対する「源泉額」が差し引かれていたが、原稿料収入にも国税庁が目を光らせているとは知らなかった。国税庁のホームページを見てみると、100万円以下の原稿料には、10.21%の源泉額を徴収するとある。だから、15000円×10.21%=1531円が源泉額となっていた。
 なるほど、なるほど。
 つまり、手取り額は13469円である。記念すべき初原稿料なので、豪華やランチや洋服代に消費せず、将来の「書く」という行為に投資したい。
「そうだ、前からポメラが欲しかったのよね」
 キングジムから発売されているデジタルメモ、ポメラには何年も前から興味があった。



 ポメラは、パソコンと違ってネットにつながらないところがいい。たとえば、エッセイのネタを入力しようと思っても、先にコメントチェックをしていたり、SNSにログインしていたりで、なかなか進まないのが現状だ。調べ物ができない点は不便とはいえ、作業能率はアップしそうな気がする。
 ひいきのヨドバシドットコムを見てみると、少し前の型なら2万円ちょっとのお値段がついていた。公開講座のお手当と合わせれば、自己負担なしで買えるじゃないか! と胸を張った。
 さーてさてさて。
 ささやかな、自分への記念品が楽しみだ。


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