勤務校のソフトボール部が決勝トーナメントに進出すると、主顧問の教員から聞いた。
「へー、すごいじゃないですか」
「ピッチャーの調子がいいんです。組み合わせにも恵まれたのかな」
予選リーグを楽に通過したわけではないが、絶対に勝てないという強豪はいなかったらしい。大会予定表を見せてもらうと、決勝は私の家の近くにある高校で行われるとわかった。
「あら。見に行こうかな」
「ぜひ、来てくださいよ!」
じゃあ行くか、との軽いノリで家を出る。氷水の入った水筒と、塩分チャージを忘れてはならない。
普通、生徒への差し入れを持っていくものではないかという気もしたが、手ぶらでいいと言われたのでその通りにした。
「こんにちは~」
現地に到着し、生徒や主顧問に挨拶をして試合を待つ。その間に、副顧問の村田先生もやってきた。
「笹木先生じゃないですか。珍しいですね」
「初めて来ました」
「僕は顧問の端くれだから、一応、毎回来ているんですよ」
主顧問はベンチで生徒に指示を出し、采配を振るうが、副顧問の彼はベンチの外で応援するだけと決めているらしい。木陰となる場所が少なかったこともあり、「この辺がいいですよ」と教えてもらった。
「やあ、君たち。氷を持ってきたから使って」
村田先生は手慣れた仕草で、保冷バッグからロックアイスを取り出した。そういえば、サッカー部の合宿についていったとき「氷はいくつあってもいい」という話を聞いたことがある。次があったら、私も真似をしようっと。
「見て下さい、あっちのチームは部員がたくさんいますよ」
村田先生の指の先を見ると、対戦チームの女の子たちがテントの下で道具の準備をしているところだった。たしかに、うちのチームより人数が多い。
「あ、ホントだ。ソフトボールって何人いないといけないんでしたっけ。11人?」
「9人ですよ」
「野球と同じですね。11人はサッカーか」
「そうそう」
「9回までやるんですか」
「どうだったかな。僕が見に来るときはコールドか、時間切ればかりだったから」
彼は大会要項を取り出し、ルールを確認した。
「えーとね、この大会では、3回以降で10点差、5回以降で7点差がつくとコールドになるってことと、110分経過したら新しいイニングに入らないってことが書いてあります」
「ふーむ」
「正式なルールは知りませんが、暑いし高校生だから、そうやって回しているんでしょう」
「なるほど」
周囲にいた保護者らしき人たちの冷たい視線を感じた。もし字幕があったら、「は? ナニ? そんなことも知らないで試合を見に来てんの?」と表示されたであろう。せめて最低限の予備知識を仕込んでくるべきだったと、体を小さくした。
「始まりましたよ」
わがチームは後攻のため、まずは守備から始まる。ピッチャーは順調にアウトを重ね、0点に抑えてチェンジ。こちらの攻撃を迎え、1番バッターがライト前ヒットで塁に出た。
「そういえば、体育の授業でソフトボールをやったとき、ランナーは、ピッチャーが球を投げたら走れと言われたおぼえがあります」
「そうそう。ピッチャーにプレッシャーを与えないと」
2番バッターもヒット。打撃は好調らしく、次々とランナーが出塁して、この回だけで3点入った。時間は11時を回っている。都内には熱中症警戒アラートが出されていたが、強い日差しや熱気に負けず、選手たちは大きな声を出してフィールド内を走り回る。
「いやあ、みんな元気ですね」
「練習で暑さに慣れているんでしょう。でも出番のないときは日陰にいさせないとね」
4回の表でストライクが入らなくなり、ピッチャー交代となったが、追加点を取れたこともあり、試合は115分後に9対6で勝利した。
残念ながら2回戦では負けてしまった。でも、ギリギリの人数でよく頑張ったと思う。
家に帰り、正式なルールを確認した。
ソフトボールは7回までと決まっているらしい。
「今さら聞けないよね……」ということは、こっそりネットで調べて解決しておこう。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「へー、すごいじゃないですか」
「ピッチャーの調子がいいんです。組み合わせにも恵まれたのかな」
予選リーグを楽に通過したわけではないが、絶対に勝てないという強豪はいなかったらしい。大会予定表を見せてもらうと、決勝は私の家の近くにある高校で行われるとわかった。
「あら。見に行こうかな」
「ぜひ、来てくださいよ!」
じゃあ行くか、との軽いノリで家を出る。氷水の入った水筒と、塩分チャージを忘れてはならない。
普通、生徒への差し入れを持っていくものではないかという気もしたが、手ぶらでいいと言われたのでその通りにした。
「こんにちは~」
現地に到着し、生徒や主顧問に挨拶をして試合を待つ。その間に、副顧問の村田先生もやってきた。
「笹木先生じゃないですか。珍しいですね」
「初めて来ました」
「僕は顧問の端くれだから、一応、毎回来ているんですよ」
主顧問はベンチで生徒に指示を出し、采配を振るうが、副顧問の彼はベンチの外で応援するだけと決めているらしい。木陰となる場所が少なかったこともあり、「この辺がいいですよ」と教えてもらった。
「やあ、君たち。氷を持ってきたから使って」
村田先生は手慣れた仕草で、保冷バッグからロックアイスを取り出した。そういえば、サッカー部の合宿についていったとき「氷はいくつあってもいい」という話を聞いたことがある。次があったら、私も真似をしようっと。
「見て下さい、あっちのチームは部員がたくさんいますよ」
村田先生の指の先を見ると、対戦チームの女の子たちがテントの下で道具の準備をしているところだった。たしかに、うちのチームより人数が多い。
「あ、ホントだ。ソフトボールって何人いないといけないんでしたっけ。11人?」
「9人ですよ」
「野球と同じですね。11人はサッカーか」
「そうそう」
「9回までやるんですか」
「どうだったかな。僕が見に来るときはコールドか、時間切ればかりだったから」
彼は大会要項を取り出し、ルールを確認した。
「えーとね、この大会では、3回以降で10点差、5回以降で7点差がつくとコールドになるってことと、110分経過したら新しいイニングに入らないってことが書いてあります」
「ふーむ」
「正式なルールは知りませんが、暑いし高校生だから、そうやって回しているんでしょう」
「なるほど」
周囲にいた保護者らしき人たちの冷たい視線を感じた。もし字幕があったら、「は? ナニ? そんなことも知らないで試合を見に来てんの?」と表示されたであろう。せめて最低限の予備知識を仕込んでくるべきだったと、体を小さくした。
「始まりましたよ」
わがチームは後攻のため、まずは守備から始まる。ピッチャーは順調にアウトを重ね、0点に抑えてチェンジ。こちらの攻撃を迎え、1番バッターがライト前ヒットで塁に出た。
「そういえば、体育の授業でソフトボールをやったとき、ランナーは、ピッチャーが球を投げたら走れと言われたおぼえがあります」
「そうそう。ピッチャーにプレッシャーを与えないと」
2番バッターもヒット。打撃は好調らしく、次々とランナーが出塁して、この回だけで3点入った。時間は11時を回っている。都内には熱中症警戒アラートが出されていたが、強い日差しや熱気に負けず、選手たちは大きな声を出してフィールド内を走り回る。
「いやあ、みんな元気ですね」
「練習で暑さに慣れているんでしょう。でも出番のないときは日陰にいさせないとね」
4回の表でストライクが入らなくなり、ピッチャー交代となったが、追加点を取れたこともあり、試合は115分後に9対6で勝利した。
残念ながら2回戦では負けてしまった。でも、ギリギリの人数でよく頑張ったと思う。
家に帰り、正式なルールを確認した。
ソフトボールは7回までと決まっているらしい。
「今さら聞けないよね……」ということは、こっそりネットで調べて解決しておこう。
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