これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ソフトボール音痴

2023年07月30日 21時37分30秒 | エッセイ
 勤務校のソフトボール部が決勝トーナメントに進出すると、主顧問の教員から聞いた。
「へー、すごいじゃないですか」
「ピッチャーの調子がいいんです。組み合わせにも恵まれたのかな」
 予選リーグを楽に通過したわけではないが、絶対に勝てないという強豪はいなかったらしい。大会予定表を見せてもらうと、決勝は私の家の近くにある高校で行われるとわかった。
「あら。見に行こうかな」
「ぜひ、来てくださいよ!」
 じゃあ行くか、との軽いノリで家を出る。氷水の入った水筒と、塩分チャージを忘れてはならない。



 普通、生徒への差し入れを持っていくものではないかという気もしたが、手ぶらでいいと言われたのでその通りにした。
「こんにちは~」
 現地に到着し、生徒や主顧問に挨拶をして試合を待つ。その間に、副顧問の村田先生もやってきた。
「笹木先生じゃないですか。珍しいですね」
「初めて来ました」
「僕は顧問の端くれだから、一応、毎回来ているんですよ」
 主顧問はベンチで生徒に指示を出し、采配を振るうが、副顧問の彼はベンチの外で応援するだけと決めているらしい。木陰となる場所が少なかったこともあり、「この辺がいいですよ」と教えてもらった。



「やあ、君たち。氷を持ってきたから使って」
 村田先生は手慣れた仕草で、保冷バッグからロックアイスを取り出した。そういえば、サッカー部の合宿についていったとき「氷はいくつあってもいい」という話を聞いたことがある。次があったら、私も真似をしようっと。
「見て下さい、あっちのチームは部員がたくさんいますよ」
 村田先生の指の先を見ると、対戦チームの女の子たちがテントの下で道具の準備をしているところだった。たしかに、うちのチームより人数が多い。
「あ、ホントだ。ソフトボールって何人いないといけないんでしたっけ。11人?」
「9人ですよ」
「野球と同じですね。11人はサッカーか」
「そうそう」
「9回までやるんですか」
「どうだったかな。僕が見に来るときはコールドか、時間切ればかりだったから」
 彼は大会要項を取り出し、ルールを確認した。
「えーとね、この大会では、3回以降で10点差、5回以降で7点差がつくとコールドになるってことと、110分経過したら新しいイニングに入らないってことが書いてあります」
「ふーむ」
「正式なルールは知りませんが、暑いし高校生だから、そうやって回しているんでしょう」
「なるほど」
 周囲にいた保護者らしき人たちの冷たい視線を感じた。もし字幕があったら、「は? ナニ? そんなことも知らないで試合を見に来てんの?」と表示されたであろう。せめて最低限の予備知識を仕込んでくるべきだったと、体を小さくした。
「始まりましたよ」
 わがチームは後攻のため、まずは守備から始まる。ピッチャーは順調にアウトを重ね、0点に抑えてチェンジ。こちらの攻撃を迎え、1番バッターがライト前ヒットで塁に出た。
「そういえば、体育の授業でソフトボールをやったとき、ランナーは、ピッチャーが球を投げたら走れと言われたおぼえがあります」
「そうそう。ピッチャーにプレッシャーを与えないと」
 2番バッターもヒット。打撃は好調らしく、次々とランナーが出塁して、この回だけで3点入った。時間は11時を回っている。都内には熱中症警戒アラートが出されていたが、強い日差しや熱気に負けず、選手たちは大きな声を出してフィールド内を走り回る。
「いやあ、みんな元気ですね」
「練習で暑さに慣れているんでしょう。でも出番のないときは日陰にいさせないとね」
 4回の表でストライクが入らなくなり、ピッチャー交代となったが、追加点を取れたこともあり、試合は115分後に9対6で勝利した。
 残念ながら2回戦では負けてしまった。でも、ギリギリの人数でよく頑張ったと思う。
 家に帰り、正式なルールを確認した。
 ソフトボールは7回までと決まっているらしい。
「今さら聞けないよね……」ということは、こっそりネットで調べて解決しておこう。

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遙かな尾瀬ぇ~

2023年07月23日 22時58分55秒 | エッセイ
 親友の幸枝は、ことあるごとに山に出かけている。
「今度は尾瀬に行こうかな。あ、一緒にどう?」
「いいねぇ、行く行く」
 大学時代のゼミの教授も山が好きで、「今頃の尾瀬はニッコウキスゲがキレイですよ」などと話していたことを思い出す。狭い電車に揺られ、パソコンとにらめっこしてばかりの毎日から脱出するチャンスだ。ちょっと遠いけれど、楽しんでくるぞと気合いを入れた。
 朝は4時に起き、5時半に練馬の家を出て、現地に着いたのが10時半過ぎだった。5時間もかかるとは、やはり「遥かな尾瀬ぇ~」なのである。若い世代は、この「夏の思い出」という曲を知らない人が多いようで残念に思う。



 歩く前に、体育会系の幸枝がウォーミングアップを始めた。私もアキレス腱を伸ばしたり、膝の屈伸をしたりしたが、目の前にトンボがたくさんいたので、ついついそちらに気を取られた。



 近づくとササッと逃げていく。
「虫よけスプレーをかけてきたからかな。ちぇ~っ」
 嫌われてしまったかと悲しくなったが、中にはあえて接近してくるトンボもいた。しかも、ウエアにとまったりして、スプレーをものともしない。大物なのか鈍感なのかわからないが、しばし、トンボとの触れ合いが楽しかった。
「さあ行こう」
 準備のできた幸枝について木道を目指す。尾瀬には平坦なイメージがあったが、30分以上、斜面を下っていくので「帰りは上りか、大変そうだな」と覚悟をした。行きはよいよい、帰りは怖いとはこのことだ。
 やっと木道に出てホッとした。見上げれば、原色のような青い空に、ふわふわした白い雲が浮かび、足元には一面の緑が広がっている。



 これですよ、これ。



 東京のコンクリートジャングルとは真逆の大自然。期待していた通りの景色が広がっていた。



「後ろが至仏山(しぶつさん)で、前に見えるのが燧ヶ岳(ひうちがたけ)だよ」
 幸枝が何やら説明していたが、うわの空で「ああ」とか「うん」などの返事をした。山と緑に囲まれた場所に来られたことがうれしくて、それどころではなかったのだ。





 この木道はあなどれない。振り返って至仏山を撮ろうとしたら、重いリュックにバランスを崩し、落ちてしまった。水場でなかったからよかったものの、場所によってはずぶ濡れになる。気をつけよう。





「ニッコウキスゲはまだ先だよ」
「ふーん」
 1時間ぐらい歩いただろうか。





 木道だけでなく、吊り橋も渡っていった。



 この日の尾瀬は28度だった気がする。都心の最高気温が37度と報道されていたので、汗はかくけれど、かなり涼しい。
「あったあった」
 ようやくニッコウキスゲの咲く場所に到着した。



「なんか、まばらだね」
 幸枝の顔が曇る。来るのが早かったのか、遅かったのかと不満気だったが、初心者の私にはさほどのダメージはない。



 大学時代の教授も、同じことを言ったかもしれないなと口端を上げた。



 時間の都合で、ニッコウキスゲを見たら引き返し、来た道を戻っていく。



 青白緑の3色セットの空間で、マイナスイオンを十二分に浴びリフレッシュできた。山の丸みに「またおいで」と呼びかけられた気がして、微笑みながら別れを告げる。
 尾瀬のトイレは入山者の負担となるため、1回につき100円が必要だ。さすがに長財布はかさばるので、小さな財布を探したが見当たらず、ファスナー付きの袋に入れる破目になった。



 ちょっと恥ずかしい。次回はミニミニ財布を用意しなくては。
 身軽になってから最後の上りに備える。何カ所か、途中に休めるスペースがあるので、体力に自信のない人でも何とかなる。でも、体力自慢の幸枝と一緒では、そういう雰囲気にもならず、黙々と段差を上って行った。
 足は痛くないが、肺のあたりが苦しくて、すぐに息切れする。弱音を吐きたくなっても、我慢して動くしかない。ツラくても歩いて歩いて、上って上ってを繰り返すと、やがて終わりが見えてくる。
「着いた~!」
 ゴールを迎えたときの清々しさが、登山の醍醐味だろうか。
 苦しかったことも忘れ、「次はいつ?」と予定を探る。
 ぜひ、紅葉の尾瀬に行ってみたい。

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この暑さ、災害級

2023年07月16日 23時06分25秒 | エッセイ
 その日は娘も仕事が休みだったため、一緒に有楽町に行き、昼食をとって帰ってきた。外はとても暑い。災害級と報じられていたが、私は駅前のスーパーで夕食の食材を買わねばならない。
「ミキ、一緒に買い物する?」
「うーん、疲れちゃった。何か調子悪いな。お父さんに迎えに来てもらうから、悪いけどお母さんは一人で帰って」
「いいよ。じゃあ気をつけて」
 クソッと思ったが顔には出さず、食材を抱えて自宅に向かう。こっそり、スパークリングワインも買ってしまった、わっはっは。日傘を差しているのに、腕にも顔にも、アスファルトからの照り返しが熱風となってまとわりつき、オーブンに入れられたみたい……。歩いているうちはまだよいが、信号で止まると、首からも額からも汗がジワジワとしみ出し、水滴となって流れ落ちる。ああ不快だ……。
「ただいま」
「おかえり」
 先に帰った娘が涼しい部屋で横になっていた。
「お腹の調子も悪いから、ちょっと寝るわ」
「おやすみ」
 しばらくすると、インターホンが鳴り、宅配便が届いた。そうそう、14時から16時の時間指定でパジャマを頼んだのだっけ。時計を見ると15時だ。荷物を受け取ったらコーヒーをいれ、おやつにしよう。
「ミキ、コーヒーいれるけど起きる?」
「そんな元気ないからいいや」
 なかなか復活しないようだ。夕飯も少ししか食べられず、食後はお腹が冷えるからとクーラーを消して、座布団の上で休んでいた。
「ミキ、お風呂あいたよ」
「じゃあ、入ろうかな」
 そのとき、ようやく「ただ事でない」と気がついた。立ち上がろうとした娘が、クラクラして倒れ込み、すぐに起き上がれなかったのだ。
「ああ目まいがする。貧血かなぁ、気持ち悪くなってきた」
 私はすぐにピンときた。
「違うよ、たぶん熱中症」
「ええっ」
 今は便利な世の中なので、スマホで熱中症の症状や対処法が調べられる。
「貧血じゃないのか。わきの下を冷やすといいって書いてあるけど保冷剤ある?」
「あるある」
「うわあ、すごく気持ちいい」
「やっぱりね」
 買い置きのポカリスエットを飲ませ、氷枕も準備した。



「お風呂はいいや」
「そりゃ無理だ」
 冷やして飲んで、本格的に眠ったら、翌日には回復していた。ああよかった。
 朝食をとりながら、2人で熱中症になった原因を探ってみる。
「エアコン消してたからじゃない」
「お腹が冷えると思ったんだよ。失敗した」
 一つ目の理由はこれだろう。
「食事を抜くと危険って書いてあったよ」
「お昼はスタバのサンドイッチだけだったもんね。コーヒーしか飲んでないし」
 二つ目もわかった。
「車で帰ったのに、何で具合悪くなったんだろう」
「違うよ、お父さんは迎えに来てくれなかった」
「え? ミキも歩いて帰ったの?」
「そう。お母さんの荷物が届くから行かれないって言われた」
「あ、あれか~!」
 三つ目は私が作った理由だったらしい。言われるまで全然気づかなかった。
 すぐに治ったからよかったけれど、重症化していたら、一生言われるところだった。危ない危ない。
 すっかり元気を取り戻した娘は、体調管理のコツをつかみ、暑い中でも出かけていく。毎日、大きめの南高梅を食べると調子が上がるらしい。
「今日は池袋で熱中症になったおばあさんを助けてきたよ。氷を買って冷やしてあげた」
「偉いじゃない」
「学習したからね」
 今日も暑かったので、熱中症の救急搬送が多かったことだろう。
 助けてもらった人は、別の人を救ってあげれば、救急隊員の負担が軽くなるのではないかしら……。

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月日は百代の過客

2023年07月09日 21時57分39秒 | エッセイ
 7月最初の日に、前の月のカレンダーを切り取った。
「一年の半分が過ぎちゃったのか、早ッ!」
 10年日記も同様で、7月1日のページを開けると、ちょうど半分の厚さになっている。月日の流れは本当に早い。
 これが延々と繰り返されて、今に至っている。旅人としてとらえた芭蕉の発想には、大いに共感する。
 このブログも、オープンしてから結構な時間が過ぎた。gooブログは編集画面に「ブログ開設から○○○日」との表示があり、ちょうどこの頃が「5550日」であった。
「へー、もうこんな日数になるのか。そうだ! 記念に5555日目の画面を保存しておきたいな」
 せっせと、というべきか、執拗にというべきか、自分でルーティンを決めてネチネチと続けることは得意だ。読者の方は、初期から現在にかけて多少なりとも入れ替わったようだが、閲覧数は更新の原動力と言っていい。見てくれる方がいるからこそモチベーションが上がるのだ。この場を借りて、ぜひ御礼をお伝えしたい。
「よし、7月6日が5555日目ね、おぼえておかなくちゃ」
 このときは、そう思っていたのだが……。
 仕事やら家事やらに追われて、すっかり忘れてしまい、思い出したのは7月8日であった。
「ああっ、記念すべき日がぁ~!」
 そんなわけで、記念にならない「5557日目」の画像を保存した。



 何とも締まらないが、ないよりはマシであろう。
「ところで、5557日って何年なんだろう。365で割ればいっか」
 電卓を持ってきて、ポチポチと計算した。
「おおっ、15年だって! すごい!」
 そういえば、2008年4月に始めたのだと思い出した。たしかに15年経っている。小学生だった娘は27歳となり、私のオバちゃん度はかなりアップした。振り返り、ずいぶん遠くまで来たことに気づいて仰天である。
 さて、ちょっと悔しいので、5678日目にリベンジを目指すことにした。
「えーと、11月6日かな? 今度こそ忘れないようにしなくちゃ」
 携帯のスケジュール機能はよくわからないが、職場ではアウトルックを使っている。
 こっそり「新しい予定」として登録しておこうっと。

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幻の新潟みやげ

2023年07月02日 16時49分04秒 | エッセイ
 夫が一泊で新潟に行くことになった。
「おみやげは何がいい?」
「うーん、そうねぇ」
 職場には新潟出身の職員が複数いて、みやげをもらったことがある。
 柿の種。



 都内で買うよりパリパリしていて美味しかった気がする。
 朱鷺の子。





 何種類かあるようだが、黒が一番気に入った。



 よし、頼むならこれにしよう。
 しかし、ちゃんと画像を確認しなかったものだから、商品名を間違えて伝えてしまった。
「じゃあ、朱鷺の玉子ってやつがいいな」
「朱鷺の、玉子?」
「そうそう」
「わかった」
 たぶん、カモメの玉子と混同したのだ。いかんなぁ。
 新潟は父の故郷でもある。子どものときから、あれこれおみやげをもらっていたが、コロナ禍以降は親族との行き来がなくなったようで、出かける話を聞いていない。久しぶりの新潟感に気分が上がる。

 一泊旅行はあっという間に終わり、夫が帰ってきた。
「ただいま。笹だんご買ってきたよ」
 まずは娘のリクエストである笹だんごが登場する。



 バラ売りしていることは知らなかった。プラスチック製のカゴに入った10個入りなどをイメージしていたので、ちょっとびっくり。つぶあん、こしあんが選べるとあって、芸の細かさに「へえ~」と感心した。
 中身も記憶と違っている。



 昔は中央がくびれていたのに、今はずん胴になったようだ。小型化したことを歓迎する人もいるだろう。
「美味しい」
 味は昔と同じ。緑が濃くて、ビタミンがたくさんとれるのではないかと期待した。
「ママに頼まれたおみやげも買ってきたよ」
「わーい」
「温泉たまご饅頭だったよね」
「え……」



 ドーンと出てきた箱に、しばし言葉を失った。
「玉子」を強調し過ぎたのだな、きっと。
 まあ、これはこれで美味しいような気がするから、よしとしよう。
「朱鷺の子」さん、またいつかどこかで……。クスン。

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