これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

鬼はどっち?

2009年02月01日 20時07分17秒 | エッセイ
 保育園児だった頃、娘のミキは怖がりだった。虫や蛇はもちろん受け付けないし、幽霊やお化けの話を聞くだけで、夢に出てきてしまうのだから。
 鎌倉の大仏を見て大泣きしたところを見ると、秋田のなまはげだったら気絶したかもしれない。
 だから、ミキにとって節分は大嫌いな行事だった。
「イヤだなぁ、今日は節分だから、鬼が保育園に来るんだよ」
 朝食をとりながら、ミキがうんざりした表情でつぶやいた。どうやら、毎年保育士の一人が鬼に扮し、豆まきをすることになっているらしい。
 実は、鬼の正体が保育士だとわからないところが子供だ。
「じゃあ、頑張ってやっつけないとね」
 私は励ますつもりで言ったのだが、余計だったようだ。

 夕方、ミキを園まで迎えに行き、豆まきの話を聞いた。
「鬼が怖かったから、みんなで豆をぶつけたんだけど、すぐになくなっちゃったの」
 あらかじめ渡されていた豆は少なくて、鬼を退治する前に尽きてしまった。
 
 大変! 鬼をやっつけなくっちゃ!!

 ミキは恐怖から逃れようと必死だったせいか、いつもより頭の回転がよかった。

 あっ、石があるじゃん!
 
 豆じゃなくても鬼退治はできる。ミキはやおら足元の石を拾い、鬼にぶつけてみた。鬼は痛がっているようだった。
 その様子を見ていた他の園児たちも、次々と石を拾い、鬼めがけて投げつけた。豆よりも大きな威力を発揮し、鬼は体をよじってもがいている。もう少しでやっつけられそうだ。ミキは俄然元気になった。
「砂! 砂もかけちゃえー!!」
 石と砂の総攻撃を受け、鬼の面が吹っ飛んだ。面の下の顔を見たとたん、園児たちはビックリ仰天し、すぐさま攻撃をやめた。

「鬼だと思ったら、理香先生だったんだよ。ミキは知らなかったから、いっぱい石をぶつけちゃった」
 ミキの報告に、私は心底げんなりした。

 まったく、何てことをしてくれたんだ……。

 翌朝、私は連絡帳にお詫びの言葉を書いた。
「昨日は、ミキが鬼役の理香先生に石をぶつけたそうで、大変申し訳ありませんでした」

 鬼は、ミキのほうだった……。



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コメント (23)
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