これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

羽田の記憶

2022年04月24日 21時26分59秒 | エッセイ
 午前3時起床。
 紅茶をいれ、朝食の用意をする。前夜は20時まで地域の会合があり、夕食を抜いたから空腹なのだ。
 食べる前に軽くラジオ体操、ストレッチを行い、体をほぐす。少しでも体を動かせば、血行がよくなり、肩こりや腰痛が改善される。運動不足だからこそ、毎日続けないといけない。
 朝食後は着替えて化粧をし、忘れ物がないよう確認して家を出た。時計は4時15分。予定通りだ。ひとまず、練馬駅に向かい、4時55分発のリムジンバスに乗らなくては。
 この日は、午前6時30分羽田空港第1ターミナル集合というミッションがあった。
 電車を使えばもう30分遅くまで寝ていられたが、リムジンバスの方が楽で速い。乗り込んでしまえば、あとは居眠りしようとメールを打とうと自由に過ごせるところが好きだ。
 残念ながら、旅行するのは私ではない。勤務校の3年生が修学旅行に出発するため、発熱等により保安ゲートを通れない生徒がいたとき、保護者に引き渡すための見送り要員として、羽田に向かったのであった。
 だけど、何だかうれしい。ワクワクする。
 思えば、この時間のリムジンバスは、もっぱら家族旅行で何度か遠出したときに使っていた。体に刻まれた「早起きはお楽しみの始まり」という記憶が今でも生きている。コロナ禍で、もう2年以上出かけていないのだから、「どこかに行きたい」というくすぶった欲求を刺激してしまったのだろう。
 車内で目を閉じていても、全然眠くならず、5時45分に羽田空港到着となった。
「さて、何をしよう」
 集合の6時半まであと45分もある。飲食店は軒並み閉まっているが、出発ロビーには自動販売機が並んでいた。
「わーい」
 深煎りのブラックコーヒーをホットで飲んだ。おそらく、時間を持て余すことを想定して、読みかけの本も用意してある。普段だったら、まだ家で身支度をしている時間なのに、誰にも邪魔されない場所で、コーヒーをいただきながら読書を楽しめることに幸せを感じた。
「おはよう~!」
「おはよう!」
 大学生らしき若者グループが、大きなキャリーケースを引きながら挨拶を交わしている。彼らもどこかに出かける高揚感が、言葉や行動に表れていた。出発ロビーには弾んだ会話や明るい表情があふれ、そこにいるだけで幸福感のかけらが味わえた。
「さて、6時20分か。そろそろ行こう」
 区切りのよいページで本を閉じ、紙コップを捨てて集合場所に向かった。本校生徒も教員も、出発ロビーの人たちと同様に、笑いながら会話をし、盛り上がっている。あらためて、旅行の力の大きさを感じた。
 幸い、体調不良者もなく、生徒も教員も、全員保安ゲートを通れるようだった。ゲートの手前で校長先生が振り返り、声をかけてきた。
「では、あとをよろしくお願いします」
「はい。いってらっしゃいませ」
 後姿を見送りながら、ミッションを無事終えたことに安堵する。
 勤務時間にはまだ早い。ひと仕事終えたご褒美に、三本珈琲店でケーキを食べることにした。



 フルーツサンドなどのモーニングも美味しそうだったが、すでに朝食を終えていたので、泣く泣くあきらめた。もっと念入りに調べていれば、がっつり食べてこなかったのに! もちろん、ケーキもふわふわでイケる味だったのだが。
 このあと「空弁」も買い、電車を乗り継いで出勤する。私の疑似旅行は終了した。
「いただきまーす」



 空弁を食べながら、次の旅行は北海道がいいかな、なんて計画したりして。


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入院は 忘れた頃にやってくる

2022年04月17日 21時25分32秒 | エッセイ
 母が急きょ、入院した。
「下血したから病院に行ったら、腸に穴が空いているって言われて、今度手術だよ」
 たしか、今年で79歳。体にガタがきてもおかしくない。痛みがないのが、せめてもの救いだ。あっという間に手術の日が来て、なんとか無事に終わったようで、ひとまずホッとした。
「面会はダメって聞いたから、来なくていいからね」
 おっ強気。心配をかけまいとする母の気づかいだろうが、鵜呑みにしていいものかどうか。たしかに感染対策は必要だろうけど、今は遠くから回復を祈っておこう。
 心配なのは母だけではない。82歳の父を一人にして大丈夫かと気になった。
「平気だよ。ご飯ぐらい、自分で作れるでしょ」
 母はそう言うが、父が料理をする場面を見たのは何十年前だったか。母が元気になって退院しても、父が家で衰弱していたら元も子もない。あとから「見に行けばよかった」と後悔するのはイヤだ。とたんに不安が倍増して、実家に電話をかけてみた。
「あ、お父さん? 砂希だけど、元気なの」
「なんだ、砂希か。久しぶりだな。元気だよ」
 意外なことに、父は張りのある声で、ハキハキと受け答えをしていた。最後に会ったのは2年前の1月だったけれど、そのときよりも、遙かにしっかりしている印象だった。
「ご飯は食べた?」
「食べたよ」
「何を作ったの?」
「ご飯を炊いて、家でとれた野菜と一緒に食べた」
「へー、やるじゃん」
 じゃあね、と挨拶して電話を切った。なんで、急に自立したのかと首を傾げつつも、歓迎すべき変化だ。これなら、食事を作りに行かなくても平気かもしれない。なにしろ、私だって4倍になった通勤時間と、慣れない職場での気疲れで休みたいのだから。
 昨日も父に電話をした。
「今日は何を作ったの」
「毎日似たようなもんだな。ご飯は今日でなくなるから、明日、また炊かなくちゃ」
「じゃあ、炊き立てを食べられるじゃない」
「そうだな」
 よかった、やっぱり大丈夫そうだ。親はなくとも子は育つというけれど、世話しなくても親は元気、なんて言葉もあったりして。
 そんなこんなで、この土日は家にいたのだが、持ち帰り仕事が一向にはかどらない。ダラダラと過ごし、すぐに眠くなったりして、半分も終わらなかった。
「あー、ダメだ。体が働きたくないって言ってる」
 思えば、3月末から異動の準備で忙しく、短い睡眠時間と長時間労働を繰り返してきた。疲れたら無理せず、ペースダウンしないと身が持たない。
「やめやめ。あとは明日にしよう」
 そう決めて、さっさとパソコンや資料をしまった。
 もう若くないのだから、全力で仕事をしてはいけないと悟った。
 親の面倒をみられる余力を残し、休み休み働かなくては。
 今度、実家に行くときは、カレーでも用意して、こんな感じに作ってあげようかな。






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まずは名前をおぼえましょう

2022年04月10日 21時48分55秒 | エッセイ
 今月から勤務の職場は、職員50名ほどの中規模校であった。
「おはようございます。笹木といいます。よろしくお願いします」
 定番の挨拶をして席に着く。顔見知りが数人いても、残りの45人は初対面だ。このままでは一生、顔と名前が一致しないのではと不安になる。
「でも、いつの間にかおぼえちゃうもんなのよね、人の顔って」
 名前をおぼえるにはコツがある。全員を一斉に記憶するのではなく、まずは関わりのある人から。10人ぐらいおぼえたところで名簿の出番だ。関わりの薄い人は、顔を合わせるチャンスが少ないので、まず名前をおぼえて、やっと会えたところで「この人だったのか」となればよい。
 一週間後には、ほとんどの職員の区別ができるようになった。
「若い頃は4日ぐらいでできた気がする……」
 加齢とともにペースは落ちるが、ゴールは同じだ。ひとまずホッとした。
 ところで、ここの校長は、今まで経験した学校の中でも、かなり細かい人に見える。職員に話すことを文章化し、シナリオを見ながら進行させていた。内容だけでなく、時間などにも神経が行き届いている感じだった。
 前任校の校長は、アドリブが得意だったので、入学式や卒業式などの式辞は文にしていたけれど、あとは行き当たりばったり。本人ですら、何を話すかわかっていないという状況だった。普通の人は、真似してはいけない。
「始業式の前に着任式があります。代表で誰かに挨拶してもらいたいのですが、笹木先生でいいですか」
 用意周到な校長が、面倒なことを頼んできた。しょうがない、引き受けるか。
「そうだ、私も原稿を書いてみよう」
 持ち時間は、せいぜい5分程度。わざわざメモを読むほどの内容でもないし、何を話すか、頭に叩き込んでおこう。
 寝る前に練習をする。メモを見ないで伝えたいことを声に出し、準備万端で臨みたい。
「うわっ、もう1時」
 すっかり睡眠不足になったが、練習の甲斐あって、本番では80点ぐらいはあげられる出来栄えとなった。めでたし、めでたし。
 さて、こういった日々の出来事は、しっかり日記に書いてある。10年日記を使っていても、そろそろなくなりそうだ。新しいものを買わないと。
 娘に注文してもらった商品がこれ。



 どのページも華やかで、気分がグッと上がる。





 新しい職場にいるときに、2冊目の日記に突入しそうだ。
 読み返したとき、プッと笑いがこみ上げてくるような内容にしたい。


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年度の変わり目

2022年04月03日 21時03分34秒 | エッセイ
 3月31日を最後に、3年間勤めた学校から異動した。
 ラストとはいえ、時間との戦いの結果、去り行く余韻に浸る余裕なんぞなかった。
「ひええ、片付けが終わらない! もう8時だよ」
 もはや去りがたさを感じる時間ではなく、一刻も早く帰って、温かいご飯にありつきたい。超特急で書類をリサイクルに出し、PCをシャットダウン。これでおしまいだ。
 時計を見ると8時半ではないか。これから荷物を準備すれば、どうにか9時までには帰れるだろう。
 もう、職員としてこの学校に来ることはないのに、気が急いて、うしろを振り返る気持ちになれなかった。
「早く早く。あっ、雨が降ってる」
 天気予報は見ていたが、レインウェアはとうの昔に持ち帰ってしまった。まさか、こんなザーザー降りになるとは。
「いいよ、もう。このまま行っちゃえ」
 大きめの雨粒が額にも肩にもぶつかってきた。なんと非情な。前がよく見えないけれど、時間が時間だから、車もほとんど通らない。そのまま自転車にまたがり、15分間突っ走る。最終日に濡れネズミになるなんて、タイミング悪う~。
 家に着き、食後にひと息ついてから、職員からいただいたお菓子などを開けてみた。
「あら、これは食べ物じゃないね」



 アナスイのオシャレな柄が見える。箱の裏には「エコバッグ」と書いてあった。



「へえ~、可愛い! いいのもらっちゃった」
 ひと目で気に入った。センスのいい贈り物がうれしい。
 もっとも、言葉の贈り物が一番ありがたい。最後だからと、何人かの職員が別れの挨拶をしてくれたことを思い出す。泣き虫ではないけれど、目の周りがジンジンと熱っぽくなった。この先、違う職場になっても、いつかどこかで会いたいものだ。
 翌日、すぐに令和4年度がやってくる。ずぶ濡れになっても風邪をひかなくてよかった。
 さっそく、エコバッグに上履きや文房具などを入れて、地元の駅に向かう。行き先は渋谷方面。副都心線乗り入れの電車は本数が少ないので、乗り遅れるわけにはいかない。
「ギャッ、もうこんな時間!」
 頭でわかっていても、荷物が重くて、早く歩けなかった。結局、最後は小走りになり、目当ての電車に飛び乗った感じだ。
 ずぶ濡れに、駆け込み乗車。
 新しい職場には、旧知の友人が何人かいて、笑顔で迎えてもらった。
 でも、気持ちを引き締めないと、いろいろと失敗しそうな予感がする。
 ファイト~!


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