これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

無敵の嫁

2010年11月28日 20時43分12秒 | エッセイ
 義母のいる、二世帯住宅に住むようになって、はや13年経つ。
 引っ越してきた当時は、週末、2歳の娘を連れて義母の部屋に行き、お茶を飲みながら世間話をすることもあった。そこで、よく話題にのぼったのが、夫の弟の、元妻である。

「加代さんはね、いつも帰りが遅くて、食事もろくに作らない人だったのよ」
 義弟夫妻は、私たちが引っ越してくる前に離婚したから、加代さんのことはよく知らない。だが、温和で、辛抱強い義母が、唯一我慢できない相手だったのだろう。普段は、誰の悪口も言わないのに、こと加代さんに関しては、いなくなってからも不満を漏らすことがある。
「小学生の子供が、8時9時まで夕飯を食べなかったら、お腹が空いちゃうじゃない? しょうがないから、アタシとお父さんでご飯を作って、食べさせていたのよ」
 義弟夫婦には、幼い男の子がいたが、加代さんは家事や育児よりも、仕事を優先する人だった。そのしわよせは、すべて義母に来てしまい、保育園のお迎えから食事の支度、遊び相手などを手伝っていたらしい。
「それなのに、あの人、帰ってきてご飯ができていると不機嫌になるの。自分が作ろうと思っていたのに、と文句を言って。……そのくせ、残さず食べるんだけどね」

 洗濯物を取り込んでおけば、「どうして畳んでくれなかったんですか」と反撃される。夏の旅行を提案すれば、「私には予定があるのに」と難色を示す。そのくせ、ちゃっかりついて来て、誰よりもはしゃぐのだという。義母は首をかしげながら、理解不能の元嫁について続けた。
「この家には私の居場所がないと言って、あの人は出て行ったのよ。アタシが家のことをやっていたのが気に入らなかったんでしょうね」
 身の回りのものだけ持ち出して、彼女は本や雑誌類をどっさり残していった。読書家だっただけに、何百冊もの本を処分するのが難儀だったそうだ。
「そしたらね、ひと月くらいしたら、ご両親連れて、フラッと遊びに来たのよ! 『来ちゃいました~』なんて言って、いきなりよ」
 義母は、相当驚いたのだろう。当時の感情が蘇ったかのように、1目盛分ボリュームが上がった。
 普通は、一方的に離婚した家に、何の前触れもなく、親を連れて押しかけるなんてことはできない。どうやら、善悪の判断基準が、一般からかけ離れているようだ。
 極めつけは、離婚して半年後、加代さんが電撃再婚したことだろうか。相手は、同じ職場だった男性である。「居場所がない」という離婚の理由は口実で、加代さんは婚外恋愛の相手を選んだのだと、義母は呆れ果てていた。
 
 私も、世間のものさしで測れば、まぎれもなく「悪妻」の部類に入ると思う。
 育児は夫任せだし、部屋の片付けもできない。干した布団をベランダから落とし、落下地点にあった義母の物干し台を破壊したり、ビニールプールに水を入れていることを忘れ、義母宅の水道を無駄遣いした失敗もある。
 でも、義母はいつも笑って許してくれた。
 おそらく、加代さんのおかげだ。彼女に比べれば、私など、スケールの小さな悪妻でしかなく、到底かなわない。無敵の嫁といえるだろう。
 一族にひとり、無敵の嫁がいるとありがたい。
 彼女は、私の隠れ蓑である。




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いってらっしゃい、いってきます!

2010年11月25日 20時14分55秒 | エッセイ
 出勤するときは、専業主夫の夫と中二の娘が、「いってらっしゃい」と送り出してくれる。
 仕事は決して好きではないが、家族からのエールがあると、職場への足取りも軽くなる。

 夫の現役時代を思い返してみると、結構淋しい思いをさせていた気がする。
 車通勤をしていた頃、夫は「道路が混むから」という理由で、朝5時半に家を出ていた。当時、私の起床時刻は6時だったから、起きるともぬけの空になっている。誰にも「いってらっしゃい」を言ってもらえず出発していたようだ。
 電車通勤に変わっても、空いている時間帯に乗りたがる。せっかちな性格も災いし、結局早朝に出掛ける宿命なのだ。私はほとんど、「いってらっしゃい」を言ったおぼえがない。

 休日などは、遅い時間に出かけることもあった。いつもいない人間が、でかい図体でウロウロしていると、こちらの調子も狂う。普段のペースを取り戻したくて、「早く出掛けてくれないかなぁ」とテレパシーを送ってみたが、効果がなかった。
 居心地の悪さを感じたのは、私だけではなかったらしい。まだ幼かった娘も、夫がいることに慣れず、30分おきに「まだ行かないの?」と尋ねていた。最初は「まだだよ」とやさしく答えていた夫も、だんだん苛立ってきて声を荒げた。
「何だよ、お父さんは家にいちゃいけないのか! もういい。早いけど行くよ」
 夫は乱暴に荷物をつかむと、振り返りもせず、大きな足音を立てて玄関に向かった。私と娘は並んで背中を見送り、「いってらっしゃ~い」と仲良くハモった、なんてこともある。

 今、2人に見送ってもらえる私は、ぜいたく者である。
「いってらっしゃい」のあとには、たいてい娘が「気をつけてね、頑張ってね」とつけ加えてくるので、つい、くだらない反応をしてしまう。
「頑張らないよ、気をつけないよ」と返すと、「何、その返事は。やり直し」とダメ出しをくらう。そこで、「頑張りま~す、気をつけま~す」と訂正してオーケーが出る。
 いつも同じパターンだと芸がないから、ときには「頑張りまちゅ、気をつけまちゅ」と赤ちゃん言葉にするなど、バリエーションも考えねばならない。
 先日は、『のだめカンタービレ』に登場する、シュトレーゼマン風に言ってみた。竹中直人演じる、金髪巻き毛のあの役だ。
「がんばーります! 気をつーけます!」
「ば」と「つ」を強調し、外国人風に発音するのがポイントで、なかなかウケがいい。
 また、テレビドラマ『Q10(キュート)』のロボット、前田敦子ちゃんのように、抑揚のない棒読み調で「ガンバリマス、キヲツケマス」も好評だ。
 送り出される側も、創意工夫が大事だと思う。
 
 夜、飲みに行くときは、「いってらっしゃい」のあとに、夫が「遅くならないでね」と付け加える。
 この一言は余計だ……。
 私は、「うっ、釘を刺されたか」と狼狽しながらも、聞こえなかったふりをしてよそ見をし、足をチャカチャカと動かして、逃げるように去るしかない。
「いってきまーす!!」




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色づく秋

2010年11月21日 21時02分06秒 | エッセイ
 晩秋は紅葉が美しい。
 ちょうどこの時期、紅葉見物の旅行に出かけたこともあるが、どこも混雑していて大変だ。先週、土日返上で働いたこともあり、今年は紅葉を諦め、家でまったりと自由時間を満喫していた。
 布団を干しにベランダに出ると、庭の桜から葉がこぼれ落ちてくる。そよ風にあおられ、ひとつ、ふたつと、軽やかに地面に舞い落ちる。なかなか風流ではないか。
 桜の下は、さらに優雅な眺めである。黄色い葉、赤い葉、茶色の葉が色とりどりに散らばり、緑の雑草がアクセントとなって、一枚の水彩画のようだ。



 

 へー。

 自宅で紅葉を楽しめるとは思わなかった。
 色づく秋を堪能し、ちょっと得した気分になる。

 秋の日差しは優しい。春先から夏にかけては、うんざりするほど暑苦しい太陽が、待ったなしで照りつけてくるが、秋の太陽はソフトだ。冷たい魔女から守ってくれるような温かさを持ち、ジリジリと焼き焦がしたりしない。
 それでも、先日、シミの治療で皮膚科に行ったとき、「この時期でも、油断せずに日焼け止めを塗ってくださいね」と医師から釘を刺された。だから、ベランダに出る前、真夏の盛りに使った「SPF50+」の強力日焼け止めを久々に取り出し、塗りたくるのを忘れなかった。

 サンバイザーはいいよね……。

 しばらくぶりに日焼け止めを塗ったので、サンバイザーはサボった。ついでに、外出時の日傘も省略した。なんたって、真夏じゃないのだから、それほど気をつかわなくていいだろう。顔にはさんさんと日光が降りそそいだが、日焼け止めがあれば安心だ。
 ところが……。
 夜、顔を洗うと、頬や目の周りが赤くなっているではないか!!
 それだけではない。赤くなったところがピリピリして痛い。

 うそっ、日焼けしちゃったの!?

 私は呆然と鏡を見つめた。
 あのとき、サンバイザーを使っていれば、日傘を差していれば、と後悔した。
 だが、何か変だ。
 真夏でも、日焼け止めひとつでガードできるのだから、秋の弱っちい日差しで赤く腫れあがるはずがない。となると、考えられる原因はひとつ。

 日焼け止めでかぶれたんだ!!

 強力なものほど、肌への負担が大きい。久々の使用で、私の敏感肌がノックアウトされたらしい……。
 目の周りも頬も、皮を剥いた桃のような、薄いピンクに変わっている。
 個人的には好きな色だが、顔には不向きである。

 こんなところまで、色づかないでくれよ……。

 紅葉するのは植物だけで十分だ。
 早く、白い肌に戻りたい。




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35個のどらやき

2010年11月18日 20時35分58秒 | エッセイ
 急きょ、仕事でお茶菓子を用意することになった。
 予算には限りがあり、高級な菓子は買えそうもない。1個100円から150円までが限度だ。
 デパートに行くと、まずは和菓子屋が目に入る。その日のうちに食べなければならないものや、個包装されていないものは避け、無難で喜ばれそうな品を探す。

 あっ、どらやきだ~!!



 子どもの頃の愛読書、『ドラえもん』の影響だろうか。私はどらやきが好きだ。お値段は137円で、ビニール包装もされている。迷わず「これにしよう」と即断した。

 私には、慎重さに欠ける面がある。特に、好き嫌いといった感覚で行動すると、ろくな結果にならない。この日もそうだった。
「どらやきでお待ちのお客様、大変お待たせしました」
 年配の店員さんがヨロヨロしながら、品物を持ってこちらに向かってくる。手にしているのは、引き出物を入れるような、大きな大きな紙袋だ。私はその大きさに仰天した。

 デ、デカい!!

 ご丁寧にも、底が抜けないよう、袋を二重にしているではないか。思わず、二、三歩、後ずさりしてしまった。
「重いですから、お気をつけてお持ち帰りください」
「は、はい……」
 店員さんから袋を受け取ると、腕に強力な負荷がかかる。

 こりゃ、たしかに重いわぁ!!

 明らかな選択ミスである。何しろ、35個もどらやきを買ったことがないので、こんな重量になるとは予想できなかったのだ。山ほど後悔しながら、ひきずるようにして紙袋を持ち帰った。
 家で重さを量ってみると、4kgもある。
 男性ならともかく、体力の落ちてきたアラフォー女性に、この重量は厳しい。指に食い込んだひもの跡がジンジンし、「バッカで~」と囃し立てているようだった。

 クソッ、失敗した……。

 翌日は、この重たい荷物を職場に持っていかねばならない。キャスターつきのバッグを使いたかったが、そんなもので出勤したら悪目立ちしそうだ。動きやすい格好で、他の荷物を減らし、駅からはタクシーに乗って、どうにかこうにかたどり着いた。
 なんだって、ここまで苦労しなきゃならんのだろう……。
 
 どらやきの活躍する場面が来た。カステラがふわふわで、粒餡の甘味もちょうどいいから、予想通り、大人からの反応はまずまずである。
 だが、生徒にはさほどでもなかったらしい。後片付けのさい、ゴミ袋に餡の塊が捨ててあるので驚いた。
 今どきの若者には、餡が食べられない者もいるという。人の苦労も知らないでと、苦々しく思ったときだ。横から大きな声が聞こえてきた。
「あっ、餡だけ捨ててある! 信じられない! こういうことする人、誰ッ!?」
 見ると、菓子なら何でもござれという女子生徒が、仁王立ちになって怒っている。
「どらやきを、こんな風に扱うなんて許せない!」
 そのとき、気まずそうに下を向いた女子がいた。おそらく、その子の仕業なのだろう。
 私たち大人が注意するより、よっぽど効き目がありそうな気がする。
 あれこれ大変だったが、最後はスッとして終わった。




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ウグイス嬢もまっ青

2010年11月14日 20時26分19秒 | エッセイ
 量販店で買い物をしていたら、館内放送が聞こえてきた。
「お客様に、お車の移動をお願いいたします。大宮××……」
 放送はたいてい、朗らかな女性の声である。「鈴の転がる声」とはよくいったもので、耳に心地よく、気分が安らぐ。
 私の声は低くて、どんよりしている。おそらく、すり鉢で胡麻をゴリゴリすっている音に近い。「もっとキレイな声だったらよかったのに」と、放送を聞きながらため息をついた。

 中には、耳障りな放送もある。
 先日、仕事帰りに、電車に乗っていたときのことだ。
「次は、池袋、池袋です……」
 まったく張りがなく、かすれて弱々しい男性の声が流れてきた。いつもは聞き流す車内放送だが、奇妙なものにはアンテナが伸びる。ついつい、神経を集中させてしまった。
「JR山手線、埼京線、ゼー、地下鉄有楽町線、丸の内線、ヒー、副都心線、はお乗換えです……」
 乏しい声量で、呼吸困難になりながら、どうにか話している雰囲気である。電車の運行に支障はないかと心配になった。
 近くにいた学生風の男の子たちは、遠慮なしに声を上げて笑っている。
「やべーよ、この人、死にそ~!!」
 聞くとはなしに聞いていた、周りの大人たちも、口元を上げて「同意」の意思表示をする。
 車内が苦笑で満ちても、この放送は終わらない。
「どなた様も、お忘れ物のないよう……オォ……お乗換えください……」

 もう、ええっちゅうに。

 妹が、専門学校在学中、卒業旅行でヨーロッパに行ったときのことだ。
 エールフランスの航空機で、パリのシャルル・ド・ゴール空港を目指していたのだが、途中で気流の乱れがあった。
 突然、機体が小刻みに上下左右に揺れ、体もガクガクと振動を受ける。二十歳そこらの学生たちは、あわてふためき、「キャーッ」と悲鳴をあげた。
 ベルト着用サインの点灯とともに、放送が入るが、外国語だから何を言っているのかわからない。ドキドキしながら待つと、ようやく日本語の放送が入った。
「お、お客様に、ごあな、ご案内いたします。ただいま、きる、気流のみみみ乱れた場所を通過しておりますので、ベルトをしっかりはめ、お締めになり……」
 どもったり噛んだりで、乗務員の動転ぶりが伝わってくる。本当は墜落しそうなのを隠しているのではと不安になり、生きた心地がしなかったそうだ。
「そのあと、また放送が入ったときは、別の人に替えられてたんだよ」
 放送を入れることで、かえって乗客の不安を煽るようではまずい。

 聞き手の負担になるような放送は、ただの騒音といえないこともない。
 しかし、ウグイス嬢のごとく、美しくスムーズに流れる言葉は、意外と心に残らないものだ。途中で集中力を失い、最後まで聞かないことも多い。
 むしろ、「何だこれは!」という放送こそ、気になってしまい、全神経を集中させる傾向がある。
 ぜひ聞いてもらいたい内容ならば、わざと変な声にしたり、途切れ途切れに話したりするほうがいいのではないか。
 一見、レベルの低い放送のようで、実はウグイス嬢もまっ青の高等テクニックだったりして……。




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オニ鬼おに

2010年11月11日 20時32分52秒 | エッセイ
 昨日、ATMを利用するため、ファミリーマートに立ち寄った。時計は午後2時を指している。何となく、甘いものが欲しくなる時間である。
 振込みを終え、私は迷わずスイーツ売り場に向かった。

 プリンが食べたい……。

 ゴンドラを見ると、何種類ものプリンがひしめき合っている。シンプルな焼プリンの隣には、図体のでかいプッチンプリンがあり、その隣にはモンブランプリンが肩を並べる。
 どれも甲乙つけがたいと思ったのだが、ひとつだけ異色の輝きを放つプリンがあった。

 ホイップクリームオニ盛 プリン



 これは、カスタードプリンの上に、生クリームをてんこ盛りしたスイーツである。ご存じの方も多いだろうが、プリンにソフトクリームを載せたのかと思うくらい、たっぷりの生クリームがとぐろを巻いている。
 私は、「オニ盛」というネーミングがいたく気に入った。
 もし、「大盛り」や「山盛り」だったら、プリンの上に蕎麦やご飯が載っているようなイメージとなり、スイーツにはふさわしくない。
 オニには、醜悪で怪力を持つ鬼を指すだけでなく、「異形の」「大形の」といった意味もある。
 並外れた、大量のクリームをホイップしたこのプリンには、強烈なインパクトを与える「オニ」がちょうどいい。ただし、漢字で「鬼盛」としたら、なにやら日本酒めいた名前になる。カタカナを使ったのは間違いではないが、直前の「ホイップクリーム」もカタカナなので、ひらがなで「おに盛」にしたほうがよかったかもしれない。
 と、余計なことを考えた。
 職場に戻り、フタを開ける。



 まさに、オニ盛だ……。

 おや? カラメルの位置が妙だ。プリンの下ではなく、プリンの上、つまり生クリームとプリンの間に挟まっているではないか。



 甘味を抑えたクリームと、濃厚なカラメルの相性はすこぶるよい。やはり、この場所がベストなのであろう。
 とてつもなく美味しいプリンである。
 コンビニスイーツは入れ替えが早いそうだから、なくならないうちにもう一度買いたい。
 だが、入道雲のようなクリームに顔をしかめ、「ワタシ、これだけはやめておくわ」と宣言する女性もいる。326kcalは、飛び抜けて高い数値ではないと思うのだが。

 昔の同僚に、このプリンを絶対気に入る男性が2人いる。
 どちらも体育科のベテランなのだが、一人はスーパーマリオのライバル、ワリオに似ていて人相が悪く、もう一人は閻魔大王ばりの強面である。教員というより、ヤクザに近いかもしれない。
 恐ろしい外見に似合わず、この2人はスイーツ男子なのである。しばしば連れ立って、ファミレスに向かう姿を見た。
 ある日、例によって2人でCASAに行き、パフェにプリンアラモード、ケーキなどを注文した。体育科だけあって、食べる量も半端ではない。ズラリと並んだスイーツを前に、さぞや頬も緩んだことだろう。スプーンを手にして、いざ食べようとしたら、「あら、先生」という声が聞こえた。
 声の方向に顔を向けると、そこには保護者が立っていたそうだ。
 2人が「見られてしまった!!」と動揺するのも無理はない……。

 このワリオと閻魔大王ならば、オニ盛はもってこいのおやつである。一度に5個くらい、平らげてしまいそうな気がする。
 美味しいものを食い荒らす、彼らのほうこそ鬼に見える。
 品切れにならないように、舌を引っこ抜いてやりたいものだ。




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筋肉注射

2010年11月07日 21時07分47秒 | エッセイ
 主治医から、「3日連続で注射を受けるように」と指示された。
 注射が好きな人は、ごく少数派だろう。尖った針でブスリと腕を刺される痛みは、なるべくならば避けたい。私は足取り重く、処置室に向かった。
 処置室では、看護師さんが注射器を準備して待ち構えている。私は「もう逃げられない……」と観念した。
「笹木さんですね。これから筋肉注射をしますが、やったことはありますか?」
 はてさて、どうだったろう。
「……ないかもしれません」
「ちょっと痛いんですよ。腕とお尻のどちらがいいですか」
 少々考えた。もう11月なので、お尻を出すのは寒そうだ。
「じゃあ、腕でお願いします」
「右と左は、どちらがいいですか」
「右で」
 看護師さんが、三角筋のあたりをアルコールで拭き始める。さきほどまで事務的だった表情が、生き生きと輝いてきたような気がした。手術の好きな外科医は多いそうだが、注射の好きな看護師も負けず劣らずなのかもしれない。
「はい、じゃあ、チクッとしますよ~♪」
 だが、「チクッ」どころではなかった。「グサッ」という感じで針が筋肉に突き刺さり、ズブズブと深みにはまっていく。たしかに、これは痛い。
「お薬入りま~す。もうちょっと我慢してくださいね☆」
 苦痛に耐える私の耳に、弾むような看護師さんの声が飛び込んでくる。

 ううう~!!

「はい、終わりました。揉んでおきますからね」
 看護師さんは針を抜くと、パッドつきの絆創膏を貼り、親指で上からグイグイ押し始めた。注射よりも、こちらのほうが痛い。思わず、イスから飛び上がりそうになった。
 
 相当な苦痛を味わっただけでなく、注射後2日ほどは腕に穴が開いているようなチクチク感が残る。
「明日は、別の場所にしたほうがいいですよ」というアドバイスに従い、翌日は左腕を出した。
 今度の看護師さんは、感情を表に出さないタイプなのだろう。淡々と注射器を準備し、静かに声かけをしてあっさり終了した。絆創膏の上から揉むこともせず、早々に部屋を出された。
「昨日より痛くない」と喜んだのもつかの間で、時間が経つと、ジワジワと痛みが広がってくる。誰に打たれても、筋肉注射は痛いものらしい。絆創膏をはがすと、パッドではなくテープの部分に血がついている。
 貼るところズレてるし……。

 そして、今日、最後の注射を受けてきた。両腕を使ってしまったので、今度はお尻である。右の中臀筋あたりに、ブスリと狙いを定められた。
 小学生のとき、キリスト教会の日曜学校に通っていた。そこで、「右の頬を打たれたら、左の頬も差し出しなさい」と教わったおぼえがある。あれは、『マタイによる福音書』だったろうか。
 右の腕に注射を打たれた私は、左の腕をも差し出し、さらには右の尻も出している。
「偉くない?」と牧師に同意を求めたくなった。

「はい、終わりましたよ」
 看護師さんの疲れた声を合図に、私はベッドから起き上がった。予想に反して、ほとんど痛みを感じない。
 そういえば、背中やお尻は鈍感な部位だっけ。
 最初から、お尻にしておけばよかったんだな……。




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行ってきました、防衛省

2010年11月04日 20時55分51秒 | エッセイ
 所用で防衛省に行った。
 前を通ることはあったが、中に入るのは初めてだ。正門で担当者と待ち合わせをして、厳重な警戒の中、敷地内に足を踏み入れる。



 悪いことはしていないけれども、いかつい警備員たちの視線に緊張が走る。善良な一般人には、少々荷が重い。
「こちらでお待ち下さい」
 案内された場所は、マイクロバスだった。どうやら、バスで案内してくれるらしい。省内はかなり広いのだと察した。
 バスが動き始めると、陸上のカーキ、海上の黒の制服に身を包んだ自衛官が目に入る。

 スゴッ! カッコいい~!!

 制服フェチの私には、目の保養を通り越して、目の毒になりそうな光景である。どこに行っても制服だらけなのだから、うれしさのあまり、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべないようにしなくては。お腹に力を入れて平常心を装い、澄ました顔でやり過ごした。
 本音としては、「一緒に写真を撮ってください!」と叫びたかったのだが。
 途中、道路の標識を見て仰天した。「慰霊碑 →」となっているではないか。
「はい、右に行くと、殉職した隊員の慰霊碑があるんです」
 担当者の説明に、盛り上がった気分がしぼむ。国を守る仕事は、やはり命がけなのだ。
 目的地に着くまでに、ジョギングをしたり、懸垂をしたりしている男性を何人も見た。文部科学省ならば少数派のタイプだろう。加えて、坊主率も高い。
「第302保安警務中隊などは、月2回床屋に行くことが義務づけられているんです。散髪手当も出るんですよ」
 私は、「うーん」としか答えられなかった……。

「本日の時程です」
 渡された資料に自衛隊らしさを感じた。時間の書き方が4桁表示なのだ。たとえば午後2時ならば、普通は「14:00」と表記するところを、コロンのない「1400」で表す。「私も今度から、こうやってスケジュールを書こうかしら♪」と真似っこしたくなる。

 防衛省で一番の見どころは、「市ヶ谷記念館」という建物である。
 ここは、昭和21年から昭和23年まで、極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判の法廷となった場所だ。時代の証人ともいえる、館内の重々しさに、ひんやりとした空気を感じた。
 また、2階の「旧陸軍大臣室」には、作家の三島由紀夫が割腹自殺を図ったときの、刀傷が残っている。もみ合った際、ドアに3箇所ついたそうだ。





 しかし、私のカメラには、2箇所しか写っていない……。あれれ?
 もうひとつは、どこに消えたのだろう。

 この記念館には、当時の軍服なども多数展示されている。
「キャーッ」と私が萌えたことはいうまでもない。

「自衛官という仕事は、誰かのために命をかける誇りがあります」と、担当の男性は胸を張って断言する。私は「うんうん」と真面目な顔でうなずいた。
 もし、運動神経がよかったら、私も自衛官になっていたかもしれない。
 動機は不純だが……。




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