これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

御朱印ください

2023年10月01日 22時07分08秒 | エッセイ
 涼しくなってきたので、武蔵野三十三観音巡りを再開することにした。
「そうだ、文化祭振替休業日の火曜日なんかいいかもね。空いていて」
 出かけるのはもっぱら土日ばかり。多くの人が働いている平日に外出することが、とびきりの贅沢という気がした。
 しかし、翌日は仕事である。遠出せず、西所沢駅から歩いて巡ることのできる4つのお寺だけにしよう。
 その一つに新光寺というお寺がある。ここの印象は強烈で忘れられない。
「おおっ、キレイな観音様だなぁ~」



 第一印象はよかった。入ってすぐの場所で、すかさずスマホを出して撮影する。写真の出来映えを確認するため画面を見たら、藪蚊が「ブウ~ン」と飛んできて、液晶にとまった。やたらと大きくて、触覚も足も真っ黒なのに、白い斑が点々としている。見た瞬間に鳥肌が立った。
「ヒッ」
 心臓がジャンプしていても、手は反射的に蚊を叩きつぶす。境内で、観音様の前なのに殺生してしまったことを反省し、仏罰が下りそうだと天を仰ぐ。
 心臓の鼓動が落ち着いたところでお線香を上げ、観音堂にお参りする。あとは御朱印をいただくだけだ。観音堂の隣にそれらしい建物があったので、インターホンを押してみたが何の反応もない。
「あれっ、誰もいないのかな」
 人の気配も感じられず、引き戸に手を掛けたら、スルスルと抵抗なく開いた。中にはお経を収める箱や小銭の入った受け皿などが重ねられており、閉店処理をしたままの状態となっている。どうやら、人はいないらしい。
 そして、人の代わりに、ここにも藪蚊が何匹も潜んでいた。まさか留守番をしているわけではないだろうが、私の脳裏には「三十六計逃げるに如かず」という言葉しか浮かんで来ず、脱兎のごとく逃げ出した。おかげで、虫刺されの被害はない。これも条件反射であろう。
 あとから知ったことだが、ネットで調べてみたら、このお寺は日曜日であれば有人となるようだ。それ以外の日は、セルフサービスで記入済みの御朱印を入手することができるようなことが書かれていた。残念ながら、私の目には蚊ばかりがクローズアップされ、御朱印を見つけることができなかったが。
「キイ~、悔しいな」
 先日、新聞にも、9月の長雨でボウフラが繁殖し、涼しくなったこの時期に蚊に刺されやすいとの記事が載っていた。御朱印欲しさに長居していたら、何カ所も刺されて難儀したに違いない。人間、諦めが肝心だ。
「新光寺には、12月の日曜日に行けばいいや」
 巡礼は、仏の心で回りましょう。

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9月の時候の挨拶は?

2023年09月24日 22時10分41秒 | エッセイ
 職場で使っているパソコン、東芝dynabookを開く。



 先日、近隣の小・中学校の校長先生宛に会議の開催文を送ろうと考え、文案を考えながらWordを立ち上げた。
「さて、9月の時候の挨拶は何だったかな」
 ビジネス文書は挨拶から始まるのが普通だ。検索すると、「秋涼の候」がトップに出てくる。だが、その日の都心の最高気温は33度。まったく涼しくない。
「ダメダメ。他のを探してみよう」
「秋晴の候」なるものもあったが、大気が不安定で雷雨に見舞われることもあり、これまた相応しくないようだ。「白露の候」にいたっては、熱帯夜の連続で朝露の影も形もないから、不適切極まりないと言わざるを得ない。
「そういえば、中学校の校長先生は教科が国語だったわね」
 ふと思い出して警戒する。アンポンタンであることは、バレずに済ませたい。
 季節外れの暑さは手紙にまで影響を及ぼしているようだ。職員室を出ると、廊下の熱気がムア~。ちょっと歩けば汗がジト~。
「ふうふう、7月に使う挨拶の方がピッタリじゃない?」
 たとえば、「盛夏の候」や「炎暑の候」などにしたら、校長先生たちは何度も首を上下に振って、力強く頷いてくれるかもしれない。まあ、やらないけれど。
 迷った挙句、私が選んだものは「仲秋の候」である。ちょっと風流で雅な雰囲気ではないか。
 そそくさとプリントアウトした開催状を封筒に収め、ポストに投函したら、土曜日から涼しくなってきた。29日の金曜は中秋の名月が拝めるようだし、やっと秋らしくなるのかと嬉しく思う。
 クーラーなしで寝られるとは、幸せだなぁ!

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群馬土産ひもかわうどんを食らう

2023年09月17日 21時27分52秒 | エッセイ
 その日の昼食は、天神峠に行ったときに購入したひもかわうどんにした。



「なになに、できるだけ大きな鍋にお湯をたっぷり沸かしてくださいってか」
 ネットで作り方を確認すると、幅広うどんのためか、通常よりもゆとりを持って茹でることが推奨されている。ならば、我が家で一番ビッグサイズのパスタ用鍋がよかろう。推定水量は10リットル。これなら文句なかろうと自信を持って臨んだが、結論からいえば甘かったようだ。
「沸騰したら、麺がくっつかないように1枚ずつお湯に入れるわけね」
 ドドッとまとめて放り込んだら、ミルフィーユになるのであろう。上から丁寧に剥がし、グラグラしている湯の中へ沈める。ここまではオーケー。茹で時間は10分なので、鍋の様子を見ながらじっと待つ。
「あれれ、麺がすごく膨らんできたよ」
 茹でる前は2cmほどの幅だった麺が、倍ぐらいの太さになってきた。こうなると、麺が鍋いっぱいに広がって、身動きがとれなくなる。入れ過ぎたかと後悔しつつ、苦しまぎれに箸でちょこちょこかき混ぜた。
「うーん、10リットル入れても4人前は無理みたい。麺を分けて煮物の鍋に1人前、パスタ鍋に3人前にすればよかった」
 次回があることを前提に、あの手この手を駆使したい。
 4cmに膨れ上がった麺は10分後に茹で上がり、水洗いをした後、ザルに上げる。そうめん用の上品な器では収まり切れないので、味噌汁のお椀を使った。



「わあ、すごい」
 家族を呼ぶと、ワンタンの皮が長くなったような麺に感嘆の声が上がる。見た目のインパクトが強烈なのは間違いない。ネットには「麺というよりラザニア」といった評価もあり、その通りだと頷いた。
「美味しいね」
「うみゃい」
 反応は上々だ。七味を掛けても掛けなくても、うどんの旨味が口の中に押し寄せてくる。計算外だったのは、1本を切らないように茹でた割に、口に入る限界は3分の1本であったことだろうか。最初から半分程度に切って茹でることをオススメしたい。
 混みあった鍋の中を箸でかき混ぜたせいか、裂けてしまった麺もあった。



 扱いは丁寧に、と自戒する。
 10月には紅葉を見るため、ここを再訪したいと思っている。
 土産はもちろん、ひもかわうどん!

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牛肉のない牛丼をことわざで表すと

2023年09月10日 09時25分59秒 | エッセイ
 平日の夕食作りは夫に任せているが、週末は自分で好きなものを作る。毎週土曜日、スーパーに行って土日分プラス翌週の弁当のおかずを買うのが常だ。
 しかし、昨日はどうしようもない買い忘れをした。
「お昼は牛丼にしようと思ったのに、牛肉スライスを忘れた……」
 紅ショウガやら玉ねぎやらは買ったというのに、何たる失態。かといって、もう一度スーパーに行く元気はない。
「小さなことはできたのに、肝心なものを忘れるってことわざがあったな」
 このパターンに一番近いのは「仏造って魂入れず」だろうか。牛丼作って牛肉入れず、という偽ことわざが浮かんできたが、それはもはや牛丼ではないと一人でツッコミを入れた。
「そうだ、弁当用に買った牛モモステーキ肉があったじゃない!」
 焼き肉用の中厚切り肉がないときは、ステーキ用の肉を5mm厚さのそぎ切りにすることがある。月曜にピカタを作ろうと思って買った肉だが、冷凍庫の豚や鶏に変更すればすむ話だ。これをさらに薄く切って牛丼用にすれば、円満に解決すると閃いた。
「おいし~い! 今日の肉は余計な脂がなくてさっぱりしているね」
 知らん顔をして食卓に並べたら、家族から褒められた。牛丼詐欺だな、これは。
 失敗は昼だけではなかった。卵が結構たまっていたので、夕食の副菜は卵の信田煮(しのだに)にしようと思っていた。信田煮には油揚げがいる。湯通しして口を開き、卵を割り入れたら楊枝で口を閉じ、砂糖醤油のつゆで煮るだけという手軽さがよい。


  (料理本からのイメージ)
 鉄分、カルシウムなどがバッチリとれる上、まろやかで家族も大好きだ。しかし、エコバッグの中には油揚げがなかった。
「しまった、これも買い忘れかぁ~!」
 うっかりにも程がある。これをことわざで表すと、「画竜点睛を欠く」ではないか。信田煮、油揚げを欠く。ぴったりではないが、一番近い気がした。
 この場合はメニューを変更しないと無理だろう。卵を消費できる別の料理を考えていたら、ジャガイモが1個だけ残っていたことを思い出した。
「卵とジャガイモを使った料理といったら、スパニッシュオムレツかな」
 レシピを検索する。ピピッときたのが、理恵蔵さんという方の「スペイン人に教わったスパニッシュオムレツ」である。材料がシンプルな上、別の作業をしながら作れる点に惹かれた。
 玉ねぎのみじん切りをたっぷりのオリーブオイルに入れ、弱火で放置、あめ色になったらさいの目切りのジャガイモを入れ、フタをして放置、ときどき塩コショウをして混ぜ混ぜ。ジャガイモがホクホクになったら取り出して、ボウルに割り入れた卵液と合わせ、フライパンで焼けばできあがり。



「珍しいね、オムレツなんて」
「いい味」
 こちらも家族に好評だった。理恵蔵さん、ありがとうございました。
 何とかなったからよかったけれど、買い物リストは慎重に作らなくちゃね。

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バーモントカレー甘口に限る

2023年09月03日 17時26分04秒 | エッセイ
 昨日、母と墓参りに行ってきた。今回は姉と娘のミキも来てくれて、4人で賑やかに墓石を拭き、花と線香を供えてきた。
 祖母の命日に合わせ、5月にお参りしたときは、雑巾がない、ゴミ袋を忘れたなどと失敗の連続だったが、今回はバッチリ。正午を回ったあたりで帰りのタクシーに乗り込んだ。
 お昼は蕎麦にしたくて、運転手にどの店がよいかを聞いてみた。
「駅前には2軒あるんですが、1軒はやめた方がいいです。もう1軒はまあまあだけど、わざわざ行くほど美味しいわけじゃないですよ」
「そうですか。じゃあ、まあまあの店で下ろしてください」
「わかりました」
 実に正直な運転手さんだった。やはり地元に人に聞いてみないと、裏事情はわからない。
 駅から2kmほど離れた場所には、有名な蕎麦屋があるらしいが、そこまでしなくてもよいだろう。
「こちらが無難な店ですよ、どうぞ」
 車から下りて店の入口を開けたら、すでに満席だった。せっかく教えてもらったけれど、これでは入れない。かといって、別の蕎麦屋に行く気はないので、眉がㇵの字になる。同じ表情を浮かべた姉と相談した。
「どうしようか」
「蕎麦じゃなくていいから、何か食べられるところを探そう」
「カレーでよければ、いつもお茶する店にあるよ」
 そんなわけで、5月にも来たカフェでランチということになった。全体的に駅前の人出は多かったが、運よくこちらは席が空いていた。81歳の母にメニューを説明する役は娘に任せて、私も食べたいものをチョイスする。うーん、肉が食べたいな……。
 まずは姉が口火を切る。
「みんな決まった? アタシも野菜カレーにするわ」
「ミキはハヤシライス」
「角煮カレー」
「おばあちゃんも野菜カレーだって」
 母が「ご飯は少なめにして」とつけ加える。
「わかった」
 あら、ご飯の量を減らすなんて珍しい……。母は年の割にはよく食べる方なのだが。そういえば、昨年4月に腸の手術をしているし、年々体力は落ちているだろうから、もっと気をつかわないといけないのかもしれない。
 そんなこんなで体調に気を取られ、母の味覚をコロッと忘れていた。
「お待たせしました」
 角煮カレーが来たぁ~!



「ご飯少なめの野菜カレーです」
「あ、こっちです」
 母の前にトレイを誘導する。野菜が意外に大きくて、箸を使った方が食べやすいようだ。箸を持ったついでなのか、母は先に野菜を全部食べてしまい、ご飯とルーが残っていた。スプーンに持ち替え、ご飯を2~3回口に運ぶと、困ったようにつぶやく声が聞こえた。
「あれえ、これは辛いね」
 そこでやっと思い出した。母は山葵の辛さなら平気なのだが、カレーはハウスバーモントカレーの甘口でないと厳しいのだ。この店のカレーは、実際には中辛程度なのに、ひと口食べては水を飲み、ツラそうに食べている。野菜はひとつも残っておらず、ご飯を減らしたことも裏目に出たのだろう。ハヤシライスを勧めればよかったと後悔した。
 まだ私が小学生だったとき、母の友人である美容師さんの店に遊びに行ったことがある。髪を切ってもらって、夕飯にカレーをいただいた。だが、このときも母は辛くて食べ切れず、母のカレーに慣れていた私も口の中が燃えていた。
「食べさせたくなくて、うんと辛くしたんだ。もう友達じゃないよ」
 母はそう決めつけ、帰り道では悪口が止まらなかったが、私は違うと思った。きっと、美容師さんの家では普通の辛さなのだけど、母にとって過酷な辛さだっただけ。学校の給食だって、カレーはまあまあ辛いのだから、中辛以上にチャレンジしていこうと子どもなりに考えた。今では辛口だって問題ない。

「ふー、食べられたよ」
 頑張ったようで、母の皿がからっぽになった。多少はホッとしたけれど、無理をさせてしまったかと気が引けた。
 調べてみたら、カレーが辛いときには、メープルシロップやハチミツをかけると食べやすくなるらしい。
 次の墓参りは1月を見込んでいる。
 ハチミツは……一応持っていく?

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霧の谷川岳

2023年08月27日 22時52分25秒 | エッセイ
 コロナが5類引き下げとなってから、親友の幸枝と出かける機会が増えた。
「今度、天神峠に行ってみない?」
「どこにあるの、それ」
「上毛高原からバス。割に近いよ」
「ふーん。行ってみたい」
 よくわからなかったので、ネットで調べてみたら、麓の土合口駅まではバスで行き、そこからロープウェイに乗って天神平駅に上がり、リフトか徒歩で天神峠に到着するようだ。それはともかく、天神平から分岐するもう一つの道を行けば、あの谷川岳に登れるということもわかり驚いた。
「えっ、すごい。せっかくだから、ちょっとだけ谷川岳も登ってみたいな~」
 アウトドア派の幸枝は何度も谷川岳を制覇している。どんなものかと聞いてみたら、予想に反して彼女はいい顔をしなかった。
「初心者コースって書いてあるけど、岩場が多くて危ないよ。下りられなくなって泣いている女性もいたし、毎回のように救助のヘリが飛んでるからね」
「ふーん」
「しかも、登ったと思ったら下りになって、また登り直し。それの繰り返しだけど大丈夫なの」
「……大丈夫じゃないかも」
 ちぇ~っと思ったが、足手まといになってもいけないので、今回は素直に諦めることにした。山は逃げないから、もっとコンディションのよいときにしよう。
 当日、東京都心の最高気温は37度だった。汗をかきかき電車に乗り、大宮から新幹線に乗って上毛高原に着く。まずは、標高746mの土合口駅からロープウェイに乗った。
 料金表を見ると、「ペット800円」との表示に気づき、クスリと笑う。犬などは喜んで走り回ることだろう。



 しばらくすれば、標高1319mの天神平駅に着く。一気に573mも上がってきたわけだ。ロープウェイから外に出ると、空気がひんやりしていた。
「うっ、寒ッ!」
 それもそのはず、霧が深くて景色が霞んでいる。





「遠くが見えない」
 展望の頂と書いてある案内板を目にして、どこがだよと毒づいた。



 そんなときでも幸枝は楽しんでいる。
「じゃあさ~、まず、あの鐘を鳴らしてみよう!」



 カランカラーンと乾いた音が響き、トレッキングが始まった。行く手は霞んでいるけれど……。



 幸いなことに雨は降りそうにないが、山も見えない。
 めげずに、上り坂を歩いていく。





 途中で、石の上に載っている犬の糞にギョッとした。踏んでしまったら大変じゃないかと顔をしかめる。街中でも山の上でも、糞の処理はしっかりしていただきたいものだ。
 標高が高くなるにつれ、徐々に景色が変わってきた。





「おお~、何か山らしい景色が見えてきた!」
「霧が晴れてきたね」





 まもなく天神峠。天神平駅からリフトに乗れば、山道を歩かずに来られるので、スカート姿の女性や軽装の男性も見えてくる。苦しい思いをしたくはないが、山の空気や景色を堪能したいという方にはいいだろう。
「着いたっ!」
 標高1500mジャストの天神峠に到着だ。181m上がるのに約40分かかった。



 しかし、霧しか見えない……。
 1977mの谷川岳が見える絶景スポットも、ひたすら白い。



「うーむ」
「むむむ」



 展望台に上って、「そのうち霧が晴れるのでは」と期待し待ってみたが、一番よく見えたときでもこの程度。



 私に登られたくなくて、谷川岳は姿を見せてくれないのかも。拒否されると「なんでよ~!」と余計に燃えてくる。
「今日は無理だね」
「うん。神社でお詣りして帰ろう」



 諦めて下山を始める。帰りはゲレンデから下ってみた。こちらは割に明るい。





 谷川岳は一部しか見えなかったけれど、他の山が見えたから気分も上がる。山には人の気持ちを高揚させる何かがあるから、山岳信仰なるものが生まれたに違いない。毎日、仕事で小さいながらもトラブル多発でストレスを抱えているが、「そんなものは、どうでもいい」と割り切れるようになるのが不思議だ。
 ロープウェイに乗る前にランチをいただく。シチューのパングラタンにした。



 ちなみに、おみやげは幅4cmのこのうどん。



 埼玉県鴻巣市の川幅うどんよりは細いが、家族には「おもしろい」と好評だった。まだ食べていないけど。
 さあ、次こそ、谷川岳につながる道に行ってみよう。

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むくみが悩み

2023年08月20日 21時35分27秒 | エッセイ
 むくみやすい体質は損だ。
「ああ、また靴下のあとがついてるよ。指輪も抜けないし、キーッ!」
 夏は特にいけない。汗腺が発達していないのか、あまり汗をかかない割に、喉が渇くものだから、どうしても水分を多くとりがちだ。仕事を終えて履き替えた靴がきつくなり、翌朝は顔が腫れぼったくなる。運動しても、出た水分より飲んだ水分の方が多くて、かえって体重が増えると虚しい。
 唯一の救いは熱中症になりにくいことだろうか。体に水分をため込んでいるので、暑い部屋で掃除をしても、料理をしても、具合が悪くなることはない。
「もしかして、暑い部屋にいるから、むくんでしまうのかも?」
 どちらが先なのだろうか。体脂肪計に乗ると、16%とか17%という数値が表示されるので、やはり、余計な水分で重くなっているようだ。
 友人から「ラクダみたいだね」と言われたときは苦笑するしかなかった。猛暑、酷暑の毎日に適応しようと、体が変化したのかもしれない。でも、ラクダではちょっと……。
「むくみを撃退する食べ物ないかな」
 心当たりがないこともない。たとえば、血行をよくする玉ねぎなどは、間違いなくプラスに働くだろう。生食の方が効果大と知り、ネットでレシピを見て「酢玉ねぎ」を作ることにした。
 まずは玉ねぎを薄切りにする。



 これに酢・水・ハチミツを煮立てたものをかけ冷ます。
 保存容器に入れ、6時間たったら食べられる。



「うん、酸っぱくて美味しい。これだったら簡単だから続けられるわ」
 玉ねぎは一度に4分の1個、約50gを食べないと効果が期待できないという。毎日せっせと食べていたら、尿量が増え、体が軽くなってきた。これはいいと思っていたのに、1カ月ほどで問題が起きた。
「いたたたた、歯が、歯が」
 私は歯が弱い。虫歯の治療跡だらけで、知覚過敏になっている箇所も多いせいか、酢との相性が悪かった。硬いものを噛むと痛みが走り、料理方法を変える必要に迫られた。
「じゃあ、焼き玉ねぎかな」
 次にチャレンジしたのは玉ねぎのソテーだ。
 薄切りにするところは同じだが、油を敷いたフライパンに入れる点が違う。



 そのまま火をつけ、フタをして弱火で蒸し焼きにする。



 10分ほど経ったらかき混ぜて、さらに10分焼けば甘味が出て食べやすくなる。
 これに醤油をかけ、かつおぶしをまぶせばでき上がりだ。



 粗熱がとれたら容器に入れる。といっても、結構な量なので、それなりに大きくないと入りきらない。それでまた、酢玉ねぎの瓶を使った。



「液体じゃないのに、何かおかしくない?」
 家族からは不評だったけれど、他に選択肢はない。知らん顔をしてやり過ごした。
 かくして、むくみは順調にとれている。体重もかなり減ってきた。お腹周りもスッキリして体が軽い。血行がよくなると、肌も若がえり、40代に見られることもある。
 私と同様に、むくみやすい方はぜひお試しを!
 それにしても、この暑さはいつまで続くのだろう。
 もし、クーラーが壊れたりしたら、玉ねぎをやめてラクダに戻ろうっと。

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日傘の買い替えどき

2023年08月13日 20時32分17秒 | エッセイ
 夏の日傘は必需品。
 紫外線が気になる年代から使ってきたが、しばらく経つと破れたり折れたりして買い替え、今のものは6代目ぐらいだ。



 刺繍が気に入り、できるだけ長く使いたいと思っている。



 傘だけでなく、収納袋の防水性も高く、濡れた状態でバッグにしまっても安心できる。



 ところが、結構、トラブルが起きて、私に買い替えを迫ってくる。
「あれえ、柄が畳めない……」
 最初の問題は伸ばした柄が縮まらないというものだった。布の部分は畳んであるのに、バッグから鶏の骨のような柄がニョキッと顔を出し、どうにも見苦しい。
「滑りが悪くなってるからいけないんだ。オイルを塗ってみよう」
 解決策がひらめく。さすがに天ぷら油はやめた方がいいだろうと、スクワランオイルを塗ってみる。すると、スムーズに動くようになり、伸びた柄を押し込もうと悪戦苦闘することはなくなった。
 次に、伸びた柄を固定できないというトラブルに見舞われた。
 ある日、傘を閉じたときに「ポロッ」と落ちていく何かを見た。すぐにはわからなかったのだが、伸ばした柄を固定するための金具だったらしい。



 ボール状のパーツがついていた場所に丸い穴が空いていたので、「これはまずい」とわかった。駅に着き、傘を差しても、「ひゅうぅ~」と柄が縮まってしまう。このぐらいの、冗談みたいな長さになってしまい、非常に困った。



 きっと、すれ違った人から「何だアレ、あはは」と指を差されるだろう。うーむ。
「そうだ、金具があったところを持てばいいんじゃない?」
 取っ手ではなく、少々上の部分を持てば、この問題もクリアだ。はっはっは。
 しかし、最大の問題を知ってしまい、ちょっと困っている。
「笹木先生、UV加工には寿命があるので、日傘は毎年買い替えるものなんですよ」
 若手の女性職員からやんわりと、紫外線対策について指摘を受けた。調べてみたら、たしかにそんなことが書いてある。1年とは書いていないが、2~3年でUV加工の効果がなくなるため、買い替えのタイミングを迎えるものだという。
「えー、今年でもう3年目だから、効果ないかも。まだ使えるのにどうしよう」
 ひとまず、9月まではこれでいこう。
 来年は……同じ傘を死に物狂いで探してみようかな。

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しょっぱいマンデリンフレンチ

2023年08月06日 21時37分00秒 | エッセイ
 毎朝、職場に着くとすぐにコーヒーをいれる。
 マンデリンフレンチの豊かな風味が口いっぱいに広がり、幸せな気分になったところで楽しくない仕事に取りかかる。仕事が嫌いなわけではないが、休日に家でのんびり過ごす方がよいに決まっている。特に月曜日は気合いが必要だ。
「ぶつくさ言ってないで、さあ頑張ろうか」
 その日も、エンジンがかかったはずだったが、何やら左の奥歯がジンジン脈を打っていた。
「いたたたた」
 どうやら熱いコーヒーが歯に沁みたようだ。上の奥歯、ちょうど犬歯の隣あたりが痛い。虫歯だったら厄介だが、気をつけて様子を見なくては。
 モチベーションはイマイチ上がらなかったが、その日はそれ以上悪くならなかったからまだよかった。
 問題は次の日だ。お約束のモーニングコーヒーを三口ほど飲んだところで、上の奥歯だけでなく、下の奥歯まで痛くなってきた。
 ズキズキ、ズキズキ。
 痛みと連動して左目から涙がブワッとにじむ。頬を伝って口に入り、しょっぱい味がした。これはただ事ではない。
「ひー」
 涙だけではなかった。左耳付近のリンパも腫れているし、肩も凝っている。これは医師に診てもらわないとダメだろう。私は涙目で電話を掛け、歯科の予約を取った。
「笹木さん、これは知覚過敏ですね」
「あらまあ、またですか」
「磨くとき、どうしても左側に力が入っちゃうんでしょう。何本も削れています」
「ああ……」
 心当たりはある。歯ブラシを替えたせいだ。「やわらかめ」と表示されているものを買ったのだが、なぜか、それまで使っていた「ふつう」表示のものより硬かった。そのときは、疑問を感じながらも「まあいいや」と思ってしまった。力を抜いて磨けば平気だろうと考えていたが、朝の慌ただしい時間だと雑になる。そこで傷ついたのかもしれない。
「薬を塗っておきますから、来月また見せてください」
「はい」
 医師が塗ってくれたものは、白いコーティング剤のようなものだった。完全に沁みなくなったわけではないが、通院前に比べれば9割減といったところか。あとは時間の経過とともに軽くなっていくはず。
「あー、腹立つわぁ。あの歯ブラシは掃除用にしてやる」
 硬い分、さぞかし汚れが落ちるだろう。
「で、新しい歯ブラシはどうしよう」
 もしや、買い置きがあったかもと引き出しを漁ってみる。
「あったあった」



 パッケージには「ふつう」と書かれたものが見つかったが、これは夫に使ってもらおう。
「他のないかな」
 別の引き出しを開けて探してみると、それらしいものが目に入る。
「ややっ」



 ラッキーなことに、以前使っていたものと同じメーカーで「やわらかめ」のものが見つかった。
 買い置きをすっかり忘れ、「ヘッドの小さいやつにしようかなぁ」と安易に買い替えたことが間違いだったわけだ。
「最初から、これを使えば痛い思いをしなくてすんだのに」
 唯一の利点は、痛くて食欲が抑えられ、余計なものを食べずに済んだことかもしれない。
 ようやく涙がとまってきた。
 明日はきっと、熱いマンデリンフレンチが美味しく飲めるはず!

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ソフトボール音痴

2023年07月30日 21時37分30秒 | エッセイ
 勤務校のソフトボール部が決勝トーナメントに進出すると、主顧問の教員から聞いた。
「へー、すごいじゃないですか」
「ピッチャーの調子がいいんです。組み合わせにも恵まれたのかな」
 予選リーグを楽に通過したわけではないが、絶対に勝てないという強豪はいなかったらしい。大会予定表を見せてもらうと、決勝は私の家の近くにある高校で行われるとわかった。
「あら。見に行こうかな」
「ぜひ、来てくださいよ!」
 じゃあ行くか、との軽いノリで家を出る。氷水の入った水筒と、塩分チャージを忘れてはならない。



 普通、生徒への差し入れを持っていくものではないかという気もしたが、手ぶらでいいと言われたのでその通りにした。
「こんにちは~」
 現地に到着し、生徒や主顧問に挨拶をして試合を待つ。その間に、副顧問の村田先生もやってきた。
「笹木先生じゃないですか。珍しいですね」
「初めて来ました」
「僕は顧問の端くれだから、一応、毎回来ているんですよ」
 主顧問はベンチで生徒に指示を出し、采配を振るうが、副顧問の彼はベンチの外で応援するだけと決めているらしい。木陰となる場所が少なかったこともあり、「この辺がいいですよ」と教えてもらった。



「やあ、君たち。氷を持ってきたから使って」
 村田先生は手慣れた仕草で、保冷バッグからロックアイスを取り出した。そういえば、サッカー部の合宿についていったとき「氷はいくつあってもいい」という話を聞いたことがある。次があったら、私も真似をしようっと。
「見て下さい、あっちのチームは部員がたくさんいますよ」
 村田先生の指の先を見ると、対戦チームの女の子たちがテントの下で道具の準備をしているところだった。たしかに、うちのチームより人数が多い。
「あ、ホントだ。ソフトボールって何人いないといけないんでしたっけ。11人?」
「9人ですよ」
「野球と同じですね。11人はサッカーか」
「そうそう」
「9回までやるんですか」
「どうだったかな。僕が見に来るときはコールドか、時間切ればかりだったから」
 彼は大会要項を取り出し、ルールを確認した。
「えーとね、この大会では、3回以降で10点差、5回以降で7点差がつくとコールドになるってことと、110分経過したら新しいイニングに入らないってことが書いてあります」
「ふーむ」
「正式なルールは知りませんが、暑いし高校生だから、そうやって回しているんでしょう」
「なるほど」
 周囲にいた保護者らしき人たちの冷たい視線を感じた。もし字幕があったら、「は? ナニ? そんなことも知らないで試合を見に来てんの?」と表示されたであろう。せめて最低限の予備知識を仕込んでくるべきだったと、体を小さくした。
「始まりましたよ」
 わがチームは後攻のため、まずは守備から始まる。ピッチャーは順調にアウトを重ね、0点に抑えてチェンジ。こちらの攻撃を迎え、1番バッターがライト前ヒットで塁に出た。
「そういえば、体育の授業でソフトボールをやったとき、ランナーは、ピッチャーが球を投げたら走れと言われたおぼえがあります」
「そうそう。ピッチャーにプレッシャーを与えないと」
 2番バッターもヒット。打撃は好調らしく、次々とランナーが出塁して、この回だけで3点入った。時間は11時を回っている。都内には熱中症警戒アラートが出されていたが、強い日差しや熱気に負けず、選手たちは大きな声を出してフィールド内を走り回る。
「いやあ、みんな元気ですね」
「練習で暑さに慣れているんでしょう。でも出番のないときは日陰にいさせないとね」
 4回の表でストライクが入らなくなり、ピッチャー交代となったが、追加点を取れたこともあり、試合は115分後に9対6で勝利した。
 残念ながら2回戦では負けてしまった。でも、ギリギリの人数でよく頑張ったと思う。
 家に帰り、正式なルールを確認した。
 ソフトボールは7回までと決まっているらしい。
「今さら聞けないよね……」ということは、こっそりネットで調べて解決しておこう。

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遙かな尾瀬ぇ~

2023年07月23日 22時58分55秒 | エッセイ
 親友の幸枝は、ことあるごとに山に出かけている。
「今度は尾瀬に行こうかな。あ、一緒にどう?」
「いいねぇ、行く行く」
 大学時代のゼミの教授も山が好きで、「今頃の尾瀬はニッコウキスゲがキレイですよ」などと話していたことを思い出す。狭い電車に揺られ、パソコンとにらめっこしてばかりの毎日から脱出するチャンスだ。ちょっと遠いけれど、楽しんでくるぞと気合いを入れた。
 朝は4時に起き、5時半に練馬の家を出て、現地に着いたのが10時半過ぎだった。5時間もかかるとは、やはり「遥かな尾瀬ぇ~」なのである。若い世代は、この「夏の思い出」という曲を知らない人が多いようで残念に思う。



 歩く前に、体育会系の幸枝がウォーミングアップを始めた。私もアキレス腱を伸ばしたり、膝の屈伸をしたりしたが、目の前にトンボがたくさんいたので、ついついそちらに気を取られた。



 近づくとササッと逃げていく。
「虫よけスプレーをかけてきたからかな。ちぇ~っ」
 嫌われてしまったかと悲しくなったが、中にはあえて接近してくるトンボもいた。しかも、ウエアにとまったりして、スプレーをものともしない。大物なのか鈍感なのかわからないが、しばし、トンボとの触れ合いが楽しかった。
「さあ行こう」
 準備のできた幸枝について木道を目指す。尾瀬には平坦なイメージがあったが、30分以上、斜面を下っていくので「帰りは上りか、大変そうだな」と覚悟をした。行きはよいよい、帰りは怖いとはこのことだ。
 やっと木道に出てホッとした。見上げれば、原色のような青い空に、ふわふわした白い雲が浮かび、足元には一面の緑が広がっている。



 これですよ、これ。



 東京のコンクリートジャングルとは真逆の大自然。期待していた通りの景色が広がっていた。



「後ろが至仏山(しぶつさん)で、前に見えるのが燧ヶ岳(ひうちがたけ)だよ」
 幸枝が何やら説明していたが、うわの空で「ああ」とか「うん」などの返事をした。山と緑に囲まれた場所に来られたことがうれしくて、それどころではなかったのだ。





 この木道はあなどれない。振り返って至仏山を撮ろうとしたら、重いリュックにバランスを崩し、落ちてしまった。水場でなかったからよかったものの、場所によってはずぶ濡れになる。気をつけよう。





「ニッコウキスゲはまだ先だよ」
「ふーん」
 1時間ぐらい歩いただろうか。





 木道だけでなく、吊り橋も渡っていった。



 この日の尾瀬は28度だった気がする。都心の最高気温が37度と報道されていたので、汗はかくけれど、かなり涼しい。
「あったあった」
 ようやくニッコウキスゲの咲く場所に到着した。



「なんか、まばらだね」
 幸枝の顔が曇る。来るのが早かったのか、遅かったのかと不満気だったが、初心者の私にはさほどのダメージはない。



 大学時代の教授も、同じことを言ったかもしれないなと口端を上げた。



 時間の都合で、ニッコウキスゲを見たら引き返し、来た道を戻っていく。



 青白緑の3色セットの空間で、マイナスイオンを十二分に浴びリフレッシュできた。山の丸みに「またおいで」と呼びかけられた気がして、微笑みながら別れを告げる。
 尾瀬のトイレは入山者の負担となるため、1回につき100円が必要だ。さすがに長財布はかさばるので、小さな財布を探したが見当たらず、ファスナー付きの袋に入れる破目になった。



 ちょっと恥ずかしい。次回はミニミニ財布を用意しなくては。
 身軽になってから最後の上りに備える。何カ所か、途中に休めるスペースがあるので、体力に自信のない人でも何とかなる。でも、体力自慢の幸枝と一緒では、そういう雰囲気にもならず、黙々と段差を上って行った。
 足は痛くないが、肺のあたりが苦しくて、すぐに息切れする。弱音を吐きたくなっても、我慢して動くしかない。ツラくても歩いて歩いて、上って上ってを繰り返すと、やがて終わりが見えてくる。
「着いた~!」
 ゴールを迎えたときの清々しさが、登山の醍醐味だろうか。
 苦しかったことも忘れ、「次はいつ?」と予定を探る。
 ぜひ、紅葉の尾瀬に行ってみたい。

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この暑さ、災害級

2023年07月16日 23時06分25秒 | エッセイ
 その日は娘も仕事が休みだったため、一緒に有楽町に行き、昼食をとって帰ってきた。外はとても暑い。災害級と報じられていたが、私は駅前のスーパーで夕食の食材を買わねばならない。
「ミキ、一緒に買い物する?」
「うーん、疲れちゃった。何か調子悪いな。お父さんに迎えに来てもらうから、悪いけどお母さんは一人で帰って」
「いいよ。じゃあ気をつけて」
 クソッと思ったが顔には出さず、食材を抱えて自宅に向かう。こっそり、スパークリングワインも買ってしまった、わっはっは。日傘を差しているのに、腕にも顔にも、アスファルトからの照り返しが熱風となってまとわりつき、オーブンに入れられたみたい……。歩いているうちはまだよいが、信号で止まると、首からも額からも汗がジワジワとしみ出し、水滴となって流れ落ちる。ああ不快だ……。
「ただいま」
「おかえり」
 先に帰った娘が涼しい部屋で横になっていた。
「お腹の調子も悪いから、ちょっと寝るわ」
「おやすみ」
 しばらくすると、インターホンが鳴り、宅配便が届いた。そうそう、14時から16時の時間指定でパジャマを頼んだのだっけ。時計を見ると15時だ。荷物を受け取ったらコーヒーをいれ、おやつにしよう。
「ミキ、コーヒーいれるけど起きる?」
「そんな元気ないからいいや」
 なかなか復活しないようだ。夕飯も少ししか食べられず、食後はお腹が冷えるからとクーラーを消して、座布団の上で休んでいた。
「ミキ、お風呂あいたよ」
「じゃあ、入ろうかな」
 そのとき、ようやく「ただ事でない」と気がついた。立ち上がろうとした娘が、クラクラして倒れ込み、すぐに起き上がれなかったのだ。
「ああ目まいがする。貧血かなぁ、気持ち悪くなってきた」
 私はすぐにピンときた。
「違うよ、たぶん熱中症」
「ええっ」
 今は便利な世の中なので、スマホで熱中症の症状や対処法が調べられる。
「貧血じゃないのか。わきの下を冷やすといいって書いてあるけど保冷剤ある?」
「あるある」
「うわあ、すごく気持ちいい」
「やっぱりね」
 買い置きのポカリスエットを飲ませ、氷枕も準備した。



「お風呂はいいや」
「そりゃ無理だ」
 冷やして飲んで、本格的に眠ったら、翌日には回復していた。ああよかった。
 朝食をとりながら、2人で熱中症になった原因を探ってみる。
「エアコン消してたからじゃない」
「お腹が冷えると思ったんだよ。失敗した」
 一つ目の理由はこれだろう。
「食事を抜くと危険って書いてあったよ」
「お昼はスタバのサンドイッチだけだったもんね。コーヒーしか飲んでないし」
 二つ目もわかった。
「車で帰ったのに、何で具合悪くなったんだろう」
「違うよ、お父さんは迎えに来てくれなかった」
「え? ミキも歩いて帰ったの?」
「そう。お母さんの荷物が届くから行かれないって言われた」
「あ、あれか~!」
 三つ目は私が作った理由だったらしい。言われるまで全然気づかなかった。
 すぐに治ったからよかったけれど、重症化していたら、一生言われるところだった。危ない危ない。
 すっかり元気を取り戻した娘は、体調管理のコツをつかみ、暑い中でも出かけていく。毎日、大きめの南高梅を食べると調子が上がるらしい。
「今日は池袋で熱中症になったおばあさんを助けてきたよ。氷を買って冷やしてあげた」
「偉いじゃない」
「学習したからね」
 今日も暑かったので、熱中症の救急搬送が多かったことだろう。
 助けてもらった人は、別の人を救ってあげれば、救急隊員の負担が軽くなるのではないかしら……。

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月日は百代の過客

2023年07月09日 21時57分39秒 | エッセイ
 7月最初の日に、前の月のカレンダーを切り取った。
「一年の半分が過ぎちゃったのか、早ッ!」
 10年日記も同様で、7月1日のページを開けると、ちょうど半分の厚さになっている。月日の流れは本当に早い。
 これが延々と繰り返されて、今に至っている。旅人としてとらえた芭蕉の発想には、大いに共感する。
 このブログも、オープンしてから結構な時間が過ぎた。gooブログは編集画面に「ブログ開設から○○○日」との表示があり、ちょうどこの頃が「5550日」であった。
「へー、もうこんな日数になるのか。そうだ! 記念に5555日目の画面を保存しておきたいな」
 せっせと、というべきか、執拗にというべきか、自分でルーティンを決めてネチネチと続けることは得意だ。読者の方は、初期から現在にかけて多少なりとも入れ替わったようだが、閲覧数は更新の原動力と言っていい。見てくれる方がいるからこそモチベーションが上がるのだ。この場を借りて、ぜひ御礼をお伝えしたい。
「よし、7月6日が5555日目ね、おぼえておかなくちゃ」
 このときは、そう思っていたのだが……。
 仕事やら家事やらに追われて、すっかり忘れてしまい、思い出したのは7月8日であった。
「ああっ、記念すべき日がぁ~!」
 そんなわけで、記念にならない「5557日目」の画像を保存した。



 何とも締まらないが、ないよりはマシであろう。
「ところで、5557日って何年なんだろう。365で割ればいっか」
 電卓を持ってきて、ポチポチと計算した。
「おおっ、15年だって! すごい!」
 そういえば、2008年4月に始めたのだと思い出した。たしかに15年経っている。小学生だった娘は27歳となり、私のオバちゃん度はかなりアップした。振り返り、ずいぶん遠くまで来たことに気づいて仰天である。
 さて、ちょっと悔しいので、5678日目にリベンジを目指すことにした。
「えーと、11月6日かな? 今度こそ忘れないようにしなくちゃ」
 携帯のスケジュール機能はよくわからないが、職場ではアウトルックを使っている。
 こっそり「新しい予定」として登録しておこうっと。

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幻の新潟みやげ

2023年07月02日 16時49分04秒 | エッセイ
 夫が一泊で新潟に行くことになった。
「おみやげは何がいい?」
「うーん、そうねぇ」
 職場には新潟出身の職員が複数いて、みやげをもらったことがある。
 柿の種。



 都内で買うよりパリパリしていて美味しかった気がする。
 朱鷺の子。





 何種類かあるようだが、黒が一番気に入った。



 よし、頼むならこれにしよう。
 しかし、ちゃんと画像を確認しなかったものだから、商品名を間違えて伝えてしまった。
「じゃあ、朱鷺の玉子ってやつがいいな」
「朱鷺の、玉子?」
「そうそう」
「わかった」
 たぶん、カモメの玉子と混同したのだ。いかんなぁ。
 新潟は父の故郷でもある。子どものときから、あれこれおみやげをもらっていたが、コロナ禍以降は親族との行き来がなくなったようで、出かける話を聞いていない。久しぶりの新潟感に気分が上がる。

 一泊旅行はあっという間に終わり、夫が帰ってきた。
「ただいま。笹だんご買ってきたよ」
 まずは娘のリクエストである笹だんごが登場する。



 バラ売りしていることは知らなかった。プラスチック製のカゴに入った10個入りなどをイメージしていたので、ちょっとびっくり。つぶあん、こしあんが選べるとあって、芸の細かさに「へえ~」と感心した。
 中身も記憶と違っている。



 昔は中央がくびれていたのに、今はずん胴になったようだ。小型化したことを歓迎する人もいるだろう。
「美味しい」
 味は昔と同じ。緑が濃くて、ビタミンがたくさんとれるのではないかと期待した。
「ママに頼まれたおみやげも買ってきたよ」
「わーい」
「温泉たまご饅頭だったよね」
「え……」



 ドーンと出てきた箱に、しばし言葉を失った。
「玉子」を強調し過ぎたのだな、きっと。
 まあ、これはこれで美味しいような気がするから、よしとしよう。
「朱鷺の子」さん、またいつかどこかで……。クスン。

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ベルリン交響楽団 with フジコ・ヘミング

2023年06月25日 21時44分19秒 | エッセイ
 池袋にフジコ・ヘミングさんが来るというので、何も考えずにチケットを購入した。



 開催日が迫ってくると正気に返り、平日の夕方、仕事を片づけてホールに向かう算段を考える。
「えーと、19時開演だから18時半には着きたいよね。てことは18時に夕食。学校を出るには17時か、キツい~」
 いつも18時に退勤しているので、1時間前倒しは厳しいが、近場でフジコさんのピアノを聴けるチャンスはそう多くない。何としても定時に上がり、しっかりご飯もいただいて演奏を聴かなくては。
 しかし、そういうときに限ってトラブルが起きる。
「その言い方、パワハラですよ。訴えます」
「はあ? どこがパワハラなんですか。意味わかんないんですけど!」
 いつもは仲のよい2人の職員が、なぜか16時頃ケンカを始めた。どうも意見の食い違いから揉めているらしい。延々と続くようなら仲裁しないといけないだろうが、時間が時間が!
「もう僕は子どものお迎えがあるから帰ります。あなたにつき合っていられません」
「何て失礼なことを! もういいですっ」
 和解はしていないが、ひとまず終わったらしい。ふう。
 コーヒーカップを洗い、パソコンの電源を落として、私は着々と帰り支度を進めていた。あと10分。
「ピーッピーッピーッ」
 けたたましく警戒音が響く。機械警備だ。誰かが解除せずにどこぞの部屋に立ち入ったらしい。何でこんなときに! 「うえええええ!」と顔が引きつった。
 しかし、気の利く原先生が私より先に立ち上がり、「見てきまーす」と爽やかに走って行ったので、やることがなくなった。天使のようだ。何てありがたい原先生。
 かくして、無事17時に職場から脱出できた。あとは東横線と副都心線が遅延しないことを祈るばかりだ。
「池袋、池袋です」
 こちらも難なくクリアし、まずは夕食にありついた。



 急ぐときは寿司に限る。
 茶わん蒸しとカニのお椀もついていたので、気分が盛り上がってきた。



 予定通り、18時半には東京芸術劇場に到着する。
 コンサートホールに行くのは初めてかも。



 天井の絵がキレイ。







 余裕をもって席に着き、開始のそのときを待つ。この期待感がよいのだ。
 今回はベルリン交響楽団とのコラボなので、フジコさんの出番はそう多くない。それでもピアノが聴きたかった。音楽には格別の関心はないけれど、ピアノの音だけは好きだ。子どものときはピアノを習い、上達しなくてもあの音色を奏でる時間を楽しんでいた。私にとってピアノは特別な楽器なのだ。
 今回はピアノ以外の楽器も聴くことができた。生演奏の迫力はその場にいないと味わえない。奏者の熱気が伝わってきて、音符の荒波を何度もかぶった気分になる。
 すごい!
 長い時間ではなかったけれど、たしかに私は音の海で泳いでいた。
 決してサブスクやCDでは味わえない臨場感に、来てよかったと口端を上げた。職場を出るまでは心臓に悪かったけれど。
 年に一回ぐらいは、音楽に触れる時間を確保したいものだ。

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