今年のひな祭りパーティーは、2月22日と早かった。
「また寿司でいいかな~?」
「いいよ」
妹一家や姉夫婦、そして両親にメールを送ると、すぐに返事が返ってくる。
わが家では、ちらし寿司は作らない。母が作らなかったから作り方がわからないし、にぎりの方が断然美味しい。
最近はネットで注文するのだが、「シャリ小さめ」という選択肢があることに気づいた。
小食の義母と、血糖値を気にする私には、実に都合がよい話である。さっそく注文フォームにチェックを入れる。ふと、姉の顔も浮かんできた。声をかけないと、「裏切り者~」となじられるかもしれない。
面倒だったが、気の小さい私はしぶしぶ姉に電話をかけた。予想通り「私もシャリ小さめがいいわ~」という返事である。手間を惜しんでいたら、当日横取りされたかもしれない。聞いてよかったと安心した。大食漢の母には声をかける必要はないが、妹に声をかけないと「私は聞かれなかった」とひがまれる心配がある。こちらにも電話をすると、まだ育ち盛りのようで、「小さくなくていいわ」との答えが返ってきた。
ガクッ。
寿司だけでは足りないから、当日はヒレカツ、カボチャの麻婆ソースがけ、そしてカニシューマイとエビシューマイを作った。シューマイは、新しい得意料理のひとつで、親族に披露するのは初めてである。
作り方は簡単だ。鶏ひき肉とエビのミンチ、カニのほぐし身を混ぜて味つけし、シューマイの皮に包んで10分間蒸すだけ。しかし、具を手で丸める時間がなかったため、雑にスプーンですくって皮に載せ、湯気の上がった蒸し器に放り込んだものだから、今回は見てくれが悪い。
「うん、シューマイ美味しいよ」
姉や母は褒めてくれたけれど、見た目を美しくするのも大事だ。次はもっとキレイに作ろう……。
「暑い暑い」
父は服の胸元をパタパタと引っ張りながら言った。年をとって体温調節が下手になったのか、額に玉の汗が浮かんでいる。
「カーディガンを脱げば?」
「うん」
妹と私の娘が相談している声も聞こえる。
「奈津お姉ちゃん、ミキはあと何持っていけばいい?」
「そうだね、パジャマとか下着とか用意した?」
部屋の隅では、娘が妹の家に泊まりに行く準備を始めたようだ。このあと、車に同乗して、2泊することになっている。
食事のあとはケーキを食べ、お開きとなった。
「じゃあね~」
娘が手を振り、両親や妹一家と一緒にさいたま市に出かけて行った。
翌日、母からメールが来た。
「昨日はごちそうさま。お父さんがカーディガンを忘れたらしいけど、そっちにあるかな」
ああ、あのときの……。
探してみると、テレビの影に紺のカーディガンが隠されていた。これでは忘れるわけだ。手に取ると、ポケットに何か入っていることに気づいた。
免許証だ~!
こんな大事なものを忘れるなんて。妹の家にいるときはいいが、両親が那須に帰るときに、無免許運転をさせるわけにはいかない。「急いで送るから」と返信し、段ボールを探した。
少し大きめの箱しかなく、カーディガンを入れてもゆとりがある。せっかくだから、すき間にお茶やコーヒー、バウムクーヘンなどを詰めた。
まだ入る。
そういえば、ひな祭り用のひし餅もあった。
これも入れたら、ピッタリ収まった。
「荷物が着いたよ、ありがとう」
翌日、母から連絡が来た。免許証はもちろんのこと、コーヒーやお菓子、特にひし餅がうれしかったらしい。
「ひし餅を飾りたくなったから、久しぶりに、うちもおひな様を出してみたよ」
母からのメールは、語尾に音符記号がつきそうな様子だった。父の物忘れも、たまには役に立つものだ。
那須のおひな様が、箱から出てきて、談笑している気がした。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「また寿司でいいかな~?」
「いいよ」
妹一家や姉夫婦、そして両親にメールを送ると、すぐに返事が返ってくる。
わが家では、ちらし寿司は作らない。母が作らなかったから作り方がわからないし、にぎりの方が断然美味しい。
最近はネットで注文するのだが、「シャリ小さめ」という選択肢があることに気づいた。
小食の義母と、血糖値を気にする私には、実に都合がよい話である。さっそく注文フォームにチェックを入れる。ふと、姉の顔も浮かんできた。声をかけないと、「裏切り者~」となじられるかもしれない。
面倒だったが、気の小さい私はしぶしぶ姉に電話をかけた。予想通り「私もシャリ小さめがいいわ~」という返事である。手間を惜しんでいたら、当日横取りされたかもしれない。聞いてよかったと安心した。大食漢の母には声をかける必要はないが、妹に声をかけないと「私は聞かれなかった」とひがまれる心配がある。こちらにも電話をすると、まだ育ち盛りのようで、「小さくなくていいわ」との答えが返ってきた。
ガクッ。
寿司だけでは足りないから、当日はヒレカツ、カボチャの麻婆ソースがけ、そしてカニシューマイとエビシューマイを作った。シューマイは、新しい得意料理のひとつで、親族に披露するのは初めてである。
作り方は簡単だ。鶏ひき肉とエビのミンチ、カニのほぐし身を混ぜて味つけし、シューマイの皮に包んで10分間蒸すだけ。しかし、具を手で丸める時間がなかったため、雑にスプーンですくって皮に載せ、湯気の上がった蒸し器に放り込んだものだから、今回は見てくれが悪い。
「うん、シューマイ美味しいよ」
姉や母は褒めてくれたけれど、見た目を美しくするのも大事だ。次はもっとキレイに作ろう……。
「暑い暑い」
父は服の胸元をパタパタと引っ張りながら言った。年をとって体温調節が下手になったのか、額に玉の汗が浮かんでいる。
「カーディガンを脱げば?」
「うん」
妹と私の娘が相談している声も聞こえる。
「奈津お姉ちゃん、ミキはあと何持っていけばいい?」
「そうだね、パジャマとか下着とか用意した?」
部屋の隅では、娘が妹の家に泊まりに行く準備を始めたようだ。このあと、車に同乗して、2泊することになっている。
食事のあとはケーキを食べ、お開きとなった。
「じゃあね~」
娘が手を振り、両親や妹一家と一緒にさいたま市に出かけて行った。
翌日、母からメールが来た。
「昨日はごちそうさま。お父さんがカーディガンを忘れたらしいけど、そっちにあるかな」
ああ、あのときの……。
探してみると、テレビの影に紺のカーディガンが隠されていた。これでは忘れるわけだ。手に取ると、ポケットに何か入っていることに気づいた。
免許証だ~!
こんな大事なものを忘れるなんて。妹の家にいるときはいいが、両親が那須に帰るときに、無免許運転をさせるわけにはいかない。「急いで送るから」と返信し、段ボールを探した。
少し大きめの箱しかなく、カーディガンを入れてもゆとりがある。せっかくだから、すき間にお茶やコーヒー、バウムクーヘンなどを詰めた。
まだ入る。
そういえば、ひな祭り用のひし餅もあった。
これも入れたら、ピッタリ収まった。
「荷物が着いたよ、ありがとう」
翌日、母から連絡が来た。免許証はもちろんのこと、コーヒーやお菓子、特にひし餅がうれしかったらしい。
「ひし餅を飾りたくなったから、久しぶりに、うちもおひな様を出してみたよ」
母からのメールは、語尾に音符記号がつきそうな様子だった。父の物忘れも、たまには役に立つものだ。
那須のおひな様が、箱から出てきて、談笑している気がした。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)