これは したり ~笹木 砂希~

面白いこと、妙なこと、不思議なことは、み~んな私に近寄ってきます。

袖の下

2009年03月29日 21時18分37秒 | エッセイ
 娘のミキが、小学生最後のイベントとして、友達5人ととしまえんに行くことになった。
「明日はおにぎり作ってね」
 普段は反抗してばかりいるくせに、こういうときだけは調子がいい。当然とばかりの言い草にムッとし、意地悪を言いたくなった。
「あら、コンビニのおにぎりっていう手もあるけど」
「やだよ。みんな、お母さんに作ってもらうって言ってたもん」
 こう出られると、日頃母親業を怠けている私は、グッと言葉に詰まる。その様子を見て、ミキはさらに畳み掛けた。
「みんなが家で、ミキだけコンビニおにぎりだったよ、って言うんじゃないかな~」
 ううっ、ここまで攻められては観念するしかない。
「……わかったよ。鮭とおかかでいい?」
「うん、いいよ! じゃあ、明日よろしく!」
 
 ミキはちゃっかりしているが、決してしっかり者ではない。特に時間に関しては、きちんと確認しておく必要がある。
「何時に帰ってくるの?」
「うーんと、5時半にとしまえんを出るから、6時くらいかな……」
 これを真に受けてはいけない。ミキは時間にルーズな面があり、自分で決めても守ったためしがない。
「ホント? こないだも間に合わなかったじゃない」
「だって、あのときは、みんなが遅かったからだよ。明日は大丈夫だと思うんだけど……」
 たしかに、女の子の集団行動は小回りが利かないものだ。「遅くなると怒られるから先に帰る」とも言えず、笑顔で他の子に合わせなければならない。
 母親である私にはわかるけれど、夫にはこれがまったく理解できないので、いつも頭ごなしに叱られる。ミキは用心深く尋ねた。
「お母さん、明日、お父さんが何時に帰ってくるか知ってる?」
「7時とか言ってたよ」
「7時? よかった」
「お父さんより早く帰ってきなさいよ」

 釘を刺しておいたのに、翌日、6時近くになってこんな電話がかかってきた。
「お母さん、ミキだよ。今豊島園の駅なんだけど、電車が6時9分までないの。だから、家に着くのが6時半になっちゃう……」
 やっぱり!
「またなの? ダメだなぁ。でも、慌てるとろくなことないから、友達と一緒に気をつけて帰ってきなさい」
「お父さんは?」
「まだよ」
 ホッとしたような間があり、「じゃあ」と電話が切れた。
 
 どうにか、ミキは夫より先に帰ることができた。
「時間を守りなさいよ」
 私がたしなめると、ミキはバッグからひものついた小物を取り出した。
「みんながおみやげ買うって言うから、ミキもお母さんに買ってきたんだよ。だから遅くなっちゃったの」
 手渡されたものは、しゃれたストラップだった。



「へえ、可愛いじゃない。ありがとう」
 これを気づかいと取るか、袖の下と取るかは自由だが、私は素直に喜んだ。ミキは満足し、さらに2つのイニシャル違いのストラップを見せた。
「これがおばあちゃんので、これがお父さんの」
 義母は笑顔で「うれしい」と言ってくれそうだけれども、果たして、夫の反応はいかなるものか?

「あ、お父さん、お帰りなさい。としまえんのおみやげ買ってきたよ、ほら」
 夫は「R」と書かれた、ハート型のストラップを受け取り、無言で見つめていた。ピンクのガラス玉がキラキラと輝いている。
「携帯につけてね。じゃあ、ミキお風呂に入ってくる」
 夫は手の平にストラップを載せたまま、ひと言も発しなかった。

 そして今日、ミキは夫の携帯を見て、ブツブツ文句を言っていた。
「ひどいよ、ミキがあげたストラップ、ついてないじゃない!」

 そりゃあ、ついてたら怖いよ~!



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緑色の泣きぼくろ

2009年03月26日 21時01分39秒 | エッセイ
 春はお肌の荒れる季節だ。最近、頬や口の周りがカサカサし、くすんだ色になってきた。
 
 そういえば、昔、ヨーグルトパックを試したことがあったっけ。

 5年ほど前、ヨーグルトパックを友人に教わり、まずまずの成果を上げたことを思い出す。
 たしか、プレーンヨーグルト大さじ1に、ハチミツ小さじ1と小麦粉小さじ1を混ぜ合わせ、顔に塗るだけだったはずだ。
 しかも、5分後に洗い流しておしまいという、実に簡単な美容法だった。
 まもなく肌の調子がよくなったので、「もういいや」とあっさりやめてしまったが、化粧のりも悪いこの頃だから、また復活させてみたくなった。

 早速、材料を揃えてみる。
 わが家では、夕食後のデザートがヨーグルトだから、プレーンヨーグルトは常備している。
 小麦粉は一応あったけれども、賞味期限切れだった。
 そしてハチミツは、中国産だった。

 うーん、賞味期限切れの小麦粉に、中国産のハチミツか……。

 効果のほどは疑問だが、ひとまずやってみることにした。
 まずは材料を混ぜ、お風呂場に用意する。洗顔後、顔に塗って湯船につかり、しばし待ったらお湯で洗い流す。お風呂上りには化粧水や乳液をつけ、お肌を整えたのだが……。
 翌朝、大した効果はなかった。「間違っていたかも」と不安になり、かの友人にメールで確認した。
「基本のパックはそれでいいんだけど、美白のために、さらに抹茶を小さじ1混ぜるといいみたいよ」
 彼女からの返信を読み、スーパーに走る。お目当ての抹茶は、40g入りで800円もした。しかし、リッチな抹茶入りパックのほうが、効果がありそうな気もする。
 せっせと塗って、何回目かで異変に気づいた。なんと、左目の下に、ほくろができているではないか。

 なに、この緑色の泣きぼくろは!?

 抹茶の色素が沈着したとしか思えない、変わった色のほくろである。まさかまさかの展開に、私は鏡の前で唖然とするばかりだった。

 きっと、目の周りに塗っちゃいけなかったんだ……。

 いまさら、悔やんでも遅い。
 加えて、別の後悔もあった。

 抹茶じゃなくて、新鮮な小麦粉と国産のハチミツを買えばよかったのよ~!!


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持つべきものは美人の同僚

2009年03月22日 20時16分19秒 | エッセイ
 同僚のゆき子ちゃんが、悠子さんのお別れディナーを企画した。
「最後ですから、笹木先生おススメの、ホテル西洋銀座のフレンチにしました~」
 ゆき子ちゃんは、30代初めと若く、小柄で長い髪が特徴の可愛い女性だ。
 一方、ディナーの主役の悠子さんはゆき子ちゃんより2歳上で、白い肌と大きな目が印象的な美人である。

 私は、この2人と一緒にいると、1人のときよりも待遇がいいことを発見した。
 たとえば、3人で階段を昇って教室まで行く途中、生徒からこんな言葉をかけられた。
「あ、美女3人組だ」

 ええっ、私も仲間に入れてもらえるなんて!!

 どうやら、2人から発散される美人オーラのおこぼれにあずかり、実物以上に美しく見えるようなのだ。独身貴族の彼女たちと、既婚で4月から中学生の子を持つ私とでは、年齢差も大きいというのに驚きである。
 なぜか、飲み会では料理を取り分けてもらえるし、面倒な仕事は誰かしらが手伝ってくれるようになった。
「いやー、3人でいると華やかですね」
 他の先生からも、よくそんなことを言われた。
 たしか、美容ジャーナリストの齋藤薫氏も、「キャンディーズやスピード、モーニング娘。のように、女はツルむことによって輝きを増す」と雑誌に書いていた。
 つまり、より美しくありたいのならば、美女と一緒に行動すればよいというわけだ。
 しかし、容姿に自信のない女性が集団になると、目を背けたくなる集団になるから避けるようにとの、辛口のコメントもついていた。

 中には、このからくりを見抜く人もいる。特に、40代後半の女性である立川さんの目は、おいそれと誤魔化せない。
「えー、何で笹木さんが、悠子さんやゆき子さんと同じ扱いなのよ。アタシと大して変わらない歳じゃない」
 ドキッとした。正直言って、私はごくごく平均的な顔立ちなので、一緒にいる人のレベルによっては、ブ女○人組に転落する可能性だってある。
 とても美人とはいえない立川さんとツルんだら、齋藤薫氏が言うところの辛口コンビ誕生となってしまうではないか!
 彼女の意見は完全無視し、どうにか美女3人組に割り込むしかなかった。

 ホテル西洋銀座のフレンチレストラン「レペトワ」は、華やかな悠子さんを送り出すのに相応しいところだった。茶を基調にした落ち着きのあるたたずまい、気品を感じさせる調度品に、うっとりと見惚れた。
「スュペリユールのコースにしましょうか」
「いいですね」
 私たち3人は、寿司で言えば特上となるコースを選んだ。シャンパンで乾杯し、思い出話に興じていると、感じのいいウェイターがお料理を運んできた。
「季節の先付 オードブル、本日はワカサギの唐揚げでございます」
 思いのほか地味だったので、ちょっと肩透かしをくらったが、カラッと揚がっていてさっぱりしていた。
「北海道産赤ウニとコンソメゼリーでございます」

 私はウニが好物だ。この3倍くらい入っていればなおよかった。コンソメゼリーとの相性も抜群だった。
「鴨のフォアグラのポワレに野菜のピクルスとレーズンを添え、ヴィネガーとハチミツシロップをかけたお料理になります。」

 鴨には申し訳ないけれども、私はフォアグラが大好きだ。ポワレというのは、フライパンに油脂をひき、具材の表面をカリッと焼き上げる調理法をいう。メニューをよく見ると、今日のコースは何でもかんでもポワレになっていた。
 シャンパンが残り少なくなると、すかさずウェイターがワインリストを持ってきた。ゆき子ちゃんと悠子さんは白を、私は赤をお願いした。
「鮮魚のポワレ 柚子の香る菜の花と空豆のナージュ仕立てでございます。本日は、アイナメでご用意させていただきました」
 ナージュとは、イタリア語で「泳がす」という意味であり、転じて、たっぷりの汁で煮る料理のことを指しそうだが、フレンチでも使うらしい。新鮮なアイナメと、あっさりしたスープが美味だった。
「牛フィレ肉のポワレ あみがさ茸ソース アスパラ添えでございます」

 肉は国産牛を使用とのことだ。しぼり出したポテトとあみがさ茸ソースが、牛フィレとよく合っていた。
「デザートはフルーツのコンポート2種、アイスクリーム4種、苺のタルト、モンブラン、洋ナシとキャラメルのケーキ、カシスのケーキからお好きなものをお選びください」
大きなワゴンに満載されたデザートが、ある意味メインディッシュといえないこともない。しかし、だいぶお腹も膨れてきたので、私は控えめに注文した。
「じゃあ、バニラアイスクリームと苺のタルト、モンブラン、カシスのケーキで」

 続いて悠子さんが口を開いた。
「コンポートとタルト以外、全部ください」
 えっっ!!
 ウェイターは私の倍の時間をかけて、悠子さんのリクエストを盛り付けた。
 つづいて、ゆき子ちゃんが笑顔で言った。
「じゃあ、私はコンポートとモンブラン以外、全部で」
 はぁ……。とてもついていけない。
 このあと、小菓子が出たのだけれども、さすがに半分以上残してしまった。当たり前か。

 何杯もおかわりを注いでくれるコーヒーを飲みながら、私たち3人は飽きることなく話し続けた。
 悠子さん、貴女の穴を埋めるのは、予想以上に難しそうだわ……。
 
★☆★ 美女3人組 新メンバー募集中 ★☆★
・定員……1名
・年齢……不問
・条件……他のメンバーをカバーできる美貌であること
      食欲旺盛であること。
      女装可。
 お申し込みは、笹木まで。



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明るい報復

2009年03月19日 20時16分19秒 | エッセイ
 かつて、「されど敬称」というエッセイで、「様」のついていない年賀状をもらったという話を書いたら、知人の雅昭さんがメールをくれた。
「実は、私も『様』のついていない手紙をもらったことがあります。まったく、無礼ですよね」
 宛名で呼び捨てされると、自分が軽んじられた気がして非常に不愉快になる。私は差出人に対して、特にアクションを起こさなかったが、雅昭さんは手厳しいお返しをした。
「すぐに返事を書いて送ってやりました。もちろん、相手の名前に『様』をつけずにね」

 なんと適切な報復措置! 私もやればよかった。

 もし、パソコンで書かれた宛名ならば、設定ミスとも考えられるが、手書きだったら確信犯だろう。いずれにせよ、気分が悪い。

 一方、友人の聡一には、こんな悩みがある。
「ときどき、『恥一』って名前の手紙が届くんだよな……。人の名前に使う漢字かどうか、考えればわかるのに」
 彼は、腹立たしげにつぶやいた。
「聡」と「恥」では大きな違いである。中には、漢字を正しく覚えられない人もいるので、悪気はないのかもしれない。が、受け取った側は非常にイヤな思いをする。
「俺は、そういうヤツには二度と返事を出さないよ」
 ちょっと物足りないが、これも正しい報復だ。
 今をときめく『天地人』妻夫木聡や、石原軍団のイケメン、徳重聡はどうだろう。こんな字と間違えたら、ファンにぶっ飛ばされそうだ。おお、コワい……。

 15年前に担任を持ったとき、中途退学した生徒から手紙をもらったことがある。彼女は学校を続けることよりも、母親になることを選んだので、子供の話を中心とした近況報告がびっしりとつづられていた。
 しかし、宛名には驚いた。
 笹木 砂希 先生様 となっていたのだ!
 単にルールを知らないだけだろうが、敬称のつけ過ぎはイヤミに感じる。ほめ殺しに近いような不快感だ。

 私の指導に、何か不満でもあったかしら??

 ふと、そんな想いが胸をよぎった。

 聡一には、ぜひ、こんなお返しをしてほしい。
 たとえば、「加藤 耕介」さんが、「恥一」にしてきたら、こんな宛名で返信するのだ。

 下等 耕介 大先生様

 社長殿、でもいいかもしれない。



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子供の使い

2009年03月15日 21時04分59秒 | エッセイ
 先日、同僚からバレンタインデーのお返しをいただいた。今年はカレンダーの都合で、13日の金曜日にやり取りするところがほとんどだと思われる。
 帰宅するなり、早速娘のミキと夫にお披露目した。
「見て見て、これはメリーのチョコレート詰め合わせよ。可愛い缶だね~」
「あとで食べたーい」
 
 

「それから、こっちはゴディバのチョコとクッキーよ」
「あ、ダークチョコレートチップスって書いてある!」



 ゴディバのチョコレートが美味しいことは重々承知しているが、クッキーは食べたことがない。ためしに1個、ミキと半分こにして食べてみた。
「うわ、何これ!! 今まで食べた中で一番美味しいよ~!」 
 ミキが感動して叫び声を上げた。
 たしかに、普通のチョコチップクッキーとはひと味もふた味も違う、気品の漂う味わいだった。サクサクのココア生地と、濃厚でビターなチョコチップの出逢いとでも言えばよいのだろうか。甘すぎず、苦すぎず、香り豊かでまろやかな口当たりなのだ。

「…………」
 さっきから、夫は一言も発しない。多分、私とミキへのお返しをまだ用意していないのだろう。去年はちゃんと準備してあったが、一昨年は見事に忘れられていた。ミキがひどくガッカリしていたことを思い出し、夫に確認する意味も込めて、いただきものを並べたというわけだ。
 これで、明日のホワイトデーは大丈夫だろう。

 今年のホワイトデーは風雨が強く、荒れた天気となった。
 夫は、その日の朝から出かける用事があり、夕方に帰ってきた。
「ミキ、おやつにしよう」
 4時すぎ、娘に声をかけお茶をいれた。夫はテレビを見ていて動く気配がない。

 あれ、おかしいな。いつもなら、ここで「お返しだよ」と出すのに……。

 おやつが終わっても、夕飯がすんでも、夫は何も行動を起こさなかった。
 たまりかねて、ミキがお風呂に入ったとき、私は単刀直入に夫に尋ねた。
「ホワイトデーのお菓子、何も用意してないの?」
「……うん、だって今日オレ車だったから、買う暇なんてなかったし……」
 呆れた。今日出かけることは、何日も前からわかっていたのだから、事前に準備しておくべきだ。忘れていたとしても、スーパーやコンビニで何か間に合わせのものを調達すべきだろう。
「あのさ、ミキは自分のおこづかいでバレンタインのチョコを買ったんだよ。お返しくらいあげないと、かわいそうじゃない」
「うん。でも、何を買えばいいかな?」
 そのとき、私の目は、「得たり」とばかりに不気味な光を放ったかもしれない。
「ゴディバよ。ゴディバのダークチョコレートチップス!」
「ゴディバ? どこで買えばいいの?」
「池袋」
「デパ地下か。わかった」
 念のために付け加えておいた。
「ベルンのミルフィーユも、ミキの好物だよ。それでもいいんだけどね」
「じゃあ、明日は電車で神谷町まで行くから、帰りに買ってくるよ」

 夫は、実用的でない買い物をすることが多い。たとえば、「牛乳がないから買ってきて。タカナシの低音殺菌牛乳がいいな」などと頼んだとしよう。夫は堂々と手ぶらで戻ってきて、「低音殺菌牛乳がなかったから、買ってこなかった」と元気に言うのだ。ないと困るから、代わりのものを買うという機転が利かない。
 また、「今日の夕食、鍋ものがいいな。遅くなるから作っておいてよ」とお願いしたとしよう。夫は冷蔵庫を確認しようとせず、白菜や長ネギ、エノキダケなどの買い置きを無視して、新たに買ってきてしまうのだ。あるものを使うという発想がない。

 まあ、ちょっと心配だけどミキのためだもん。1日遅れのホワイトデー、大丈夫よねっ。

 15日は、夕方に夫が帰ってきた。
「どう? クッキー買えた?」
 しかし、夫は首を横に振って、渋い顔をするではないか!
「ゴディバを2軒回って、店員にも聞いてみたんだけど、今はダークチョコレートチップスを製造していないんだって。売ってなかったよ」
 突き飛ばされたような、強い衝撃があった。
 でも、ないのなら仕方ない。他にも美味しいものはあるのだし。私は気を取り直した。
「……で、代わりにミルフィーユを買ってきたんでしょうね?」
「いや、何も買ってこなかったよ」
 今度は、開いた口がふさがらなかった。

 なんて、使えない男……。

 製造物責任法、いわゆるPL法を適用し、義母に損害賠償を請求したいものだ。



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置き土産

2009年03月12日 20時16分56秒 | エッセイ
 隣のクラスの担任をしている悠子さんには、涙もろいところがある。
 昨日の卒業式では、保護者や教職員の拍手に見送られ、卒業生を先導して退場するときから涙を浮かべていた。そして、帰りのホームルームでは、言葉が出せないくらい大泣きしたらしい。
 卒業生ももらい泣きをして、感動的なお別れとなったという。
 しかし、あとがいけない。昼食後、夢からさめたような表情で、悠子さんが話しかけてきた。
「今、下駄箱を確認してみたら、半分くらいの生徒が上履きや体育館履きを持ち帰っていないんですよ。いっぱい残っていて、がっかりです……」
 生徒はすでに下校したあとだ。悠子さんは、再び泣きそうな顔になっていた。
 
 卒業までに、自分の荷物を持ち帰らせることは、簡単そうに見えて困難である。残された荷物は、学校の業務用のゴミとして処理するしかない。1学年6クラス規模の某都立高では、通常のゴミ処理費用に年間90万円かかる。これに教科書やノート、ジャージ、上履き類のゴミが加わると、他の予算を圧迫する羽目になる。
 これを防ぐためには、個人の荷物は必ず持ち帰らせて、家庭用のゴミとして処分してもらうしかないのだが、いたちごっこになりがちだ。
 担任は、卒業前にいつまでと期日を決めて、ロッカーを空にするよう指導する。生徒も素直に従って、ひとまず荷物を運び出すのだが……。
 安心するのはまだ早い。職員室にいた先生から、耳をふさぎたくなるような伝言があった。
「あ、3学年の先生。今、近所の家庭から、ゴミ集積所に大量の教科書やノートが捨てられているから、引き取りに来てほしいって電話がありましたよ」

 ゲッ!! 

 担任団はカッカしながら、すぐさまゴミの回収に走った。幸い、卒業前だったので、不法投棄した生徒を叱り、今度こそはと持ち帰らせた。
 前の学校では、もっと悪質なことがあった。近所に捨てるとバレるので、電車の中に置き去りにしたのだ。
 今度は、駅員が荷物を調べ、高校名と生徒名を割り出し電話をかけてきた。
「そちらの○○○○子さんという生徒が、網棚に教科書・ノートなどをお忘れになりましたので、引き取りにきていただけますか」
「あ、それは多分いらないものだと思うので、処分していただいて結構ですよ」
「いえ、持ち主がわかっている場合、忘れ物として扱うので、処分できないんです。お引き取りをお願いします」
 運悪く、そこは私が使っている駅の隣駅だった。担任団は、こぞって私に刺すような視線を向けた。
「じゃあ、笹木さん、よろしく」

 キーッ!! 何で私が~!!

 しぶしぶ隣駅まで受け取りに行くと、15キロはあろうかという教科書・ノート類を渡された。とんだ災難だ。翌日、私は自転車にこの荷物を載せて学校に向かった。
「お前がちゃんと持ち帰らないから、こんな騒ぎになったんだぞ!! 許さないからなっ!」
 運良くこれも卒業前だったので、日頃から血圧の高い担任が顔を赤くして生徒を叱りつけ、持ち帰らせることができた。万一、この担任が倒れた場合には、公務災害になったのだろうか……。
 まったく、心臓によろしくない。

 一方、生徒のほうも段々ズル賢くなっていき、名前の部分を破り捨てれば足がつかないと理解する。表紙を妙な形にくり抜いた問題集や教科書類が、廊下に落ちていたことがあった。



「何これ、タチ悪いわね~!」
 私は腹を立て、ページのどこかに個人を特定できる情報がないかと必至に探した。プリントが何枚かはさまっていたので、しめたとばかりに名前を見ると「中野」と書いてある。たしかに、この字は彼のものだ。

 よっしゃ、これも強制送還!!

 とまあ、こんな具合である。卒業後に見つけた荷物は、着払いの宅配便で送った学年もあるらしい。
 しかし、1・2年生の空いているロッカーに突っ込んだまま卒業し、何カ月も経ってから発見された場合にはそれも難しい。
 お片付けは、教師と生徒間の永遠の課題なのかもしれない。

 卒業式の翌日、悠子さんは、置き土産の上履きや体育館履きを捨てた。45リットルのビニール袋が、いっぱいになるほどの量だった。サンタクロースに見えないこともないが、中に入っているのはプレゼントではない。私は彼女に声を掛けた。
「うわ、すごい量。最後の最後にやってくれたよね」
「あ、でも、私がいけなかったんです。朝のホームルームでは上履きを持ち帰るようにと言ったんですけれど、帰りのホームルームでは言い忘れたので。きっと、頭から抜けちゃったんでしょうね」

 たしかに、生徒は直前のことしかおぼえていないものだ。
 うん、多分わざとじゃなかったんだよ、悠子さん!


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卒業証書はかく語りき

2009年03月08日 20時17分16秒 | エッセイ
※お断り:ここに掲載された個人名はすべて仮名となっております。

 いよいよ、今週は卒業式だ。卒業生を送り出すのは2回目である。産休や度重なる異動のため、19年というキャリアの割には少ない。
 卒業式になくてはならないものが卒業証書だ。勤務校では、証書の準備を学年団ですることになっている。
 まずは、証書の取り寄せから始める。日本籍の生徒には和暦表示の用紙となるが、外国籍の生徒は希望すれば西暦表示の用紙をもらうことができる。
 次に、氏名・生年月日・卒業日・卒業生番号の筆耕を依頼する。料金は1枚400円未満が相場らしい。こちらでは、業者ではなく書道の先生に依頼しているので、書き直しもスムーズだ。
 そして、名入りの証書が上がってきたら、押印作業を行う。これがなかなか骨である。
 最初に氏名の上に「飾り印」を押す。これはなくても問題ないが、あったほうが見栄えがする。



 この作業は「押印機」という古めかしい機械を使って行う。法人で使うようなハイテクなものではなく、アームに判子をセットして、印の位置が固定し力が均等にかかることようにするだけの単純な機械である。
 しかし、使いこなすには意外に時間がかかる。1組の1番、荒井の証書は、左上の陰影が薄くなってしまった。すでに筆耕ずみなので、多少の失敗は勘弁してもらうことになる。
「あーあ、荒井、ごめんね……」
 私は、穏やかで物静かな女生徒、荒井の顔を思い浮かべてお詫びをした。
 朱肉のつきが甘かったのだろう。次は左上にもインクが行き渡るように、慎重にアームを動かした。2番、伊東の印を押す。
「ああ、今度はキレイじゃないですか!」
 一緒に作業をしていた先生からほめられた。今度は陰影もくっきり写り、合格点である。
 しかし、伊東は3年間で300回以上遅刻をした、遅刻大王である。気持ちとしては、荒井の証書のほうをキレイに押してやりたかったのだが……。
 3番、稲川。今度はインクをつけすぎたようで、陰影にムラがでてしまった。
 稲川は成績優秀で、気持ちのやさしい子だ。なかなか上手くできず申し訳なくなった。。
 4番、植松。さっきはアームを押す力が強すぎたのかもしれない。インクはたっぷり、力は控えめでやってみた。
「ああ~、印刷されたみたいに完璧です!!」
 これは会心のできだった。が、植松は、授業中の私語が激しく、服装違反で毎日注意を受けている女子生徒だ。
 これも運とはいえ、「どうせ失敗するなら植松のほうを……」と考えてしまうのは人情であろう。
 幸い、5番目からは軌道に乗り、問題なく押印をすませた。

 二つ目の校長印にうつる。



 これは比較的スムーズにできた。が、ときどきインクをつけ過ぎたり、逆にかすれたりすることはあった。なぜか、イマイチになるのはよい子の証書ばかりで、保護者呼び出しの騒ぎを起こすような生徒の証書は上手くいく。

 不思議だ……。

 最後に、卒業生番号の上に、卒業生台帳を合わせて割印を押す。



 これは押印機を使わず手作業となる。慎重に押していたはずなのだが、放送が入ったことで集中力が切れたのか、気がつくと押す場所を間違えていた。
「キャー!!、幸田の失敗しちゃった~!!」
 私は思わず叫んだ。幸田は体育祭で団長を務めた女子で、明るく元気な生徒である。居合わせた先生方も、渋い顔をして言った。
「これは、別の用紙を使って、筆耕からやり直してもらいましょう」
 ついに、お直し第一号だ。
 しかし、以後は気合いを入れ直したせいか、これ1枚ですんだからよかった……。
 作業が終わると、2日分くらいの疲労が襲ってきた。
 家に帰り、自分の卒業証書を出してみた。小中高、大学と4枚揃え、印の状態を確認する。

 もしかして、かすれていたり、にじんでいたりしてっ♪

 よい子の証拠を探そうと、目をランランと輝かせて見たのだが……。
 そこに押されていたのは、何の変哲もない普通の判子に過ぎなかった。

 さて、あなたの卒業証書はどうですか?



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アルコール奉行がやってきた

2009年03月05日 20時11分58秒 | エッセイ
 私の姉はお酒が好きだ。自宅にはワインセラーがあり、30本ほどのワインを常備している。滅多に使われない炊飯器はホコリだらけだが、ワインセラーは常にフル稼働だ。冷蔵庫には、食材を押しのけるようにしてビールが並び、チーズやハムなどのつまみも幅をきかせている。
「炊事が苦手、酔事は得意」なこの姉は、アルコール奉行と呼ばれている。

 今年も、私の両親と妹一家、姉夫婦を呼んでひな祭りパーティーを行った。
一族揃う場にはお酒が欠かせない。アルコール奉行曰く、「飲み物は任せなさ~い」とのことだったので、私は一応エビスビールだけを用意して待っていた。
「はい、じゃあこれ冷やしておいて」
 姉は4本のボトルを保冷袋から取り出した。



 まずはシードルで乾杯した。
「子供達のりんごジュースと、見た目変わらないね」
 義兄が言うと、娘のミキが目を光らせた。ミキは、お酒がよほど美味しいものだと思っているようで、味見したがることがある。甘くて口当たりもよかったが、子供に飲ませるわけにはいかない。知らん顔をして飲み干した。
 2本目はスペイン産スパークリングワインをいただいた。
「シャンパーニュ地方のスパークリングをシャンパンというように、スペインのスパークリングをカヴァというのよ」
 姉の講釈が加わる。正確には、スペインのカタルーニャ地方ペネデス産の白またはピンクのスパークリングワインをさすようだが、安価でシャンパンに劣らない味わいということで、人気が高まっているらしい。さわやかで、すっきりした飲み口だった。
 3本目は炭酸から離れ、オーソドックスな赤ワインだ。Suenosと書いてあった。
「これもスペイン産だけど、ラベルが気に入って買っただけだから、おいしいかどうかは知らないよ」
 いやいや、酸味と渋みのバランスもよく、いいお味だった。
 最後に、オレンジ色と黄色の中間のような、マンゴー・スパークリングワインを開けた。マンゴーを主体にオレンジ・ライム・レモン・キウイの果汁だけで作ったフルーツワインと書いてある。ブドウは使っていないようだが、自称ワインと名乗っている。
「なにこれ、すごく美味しい!」
「フルーティーね~!」
 私も妹も、炭酸とマンゴーの意外な取り合わせを絶賛した。マンゴーの風味をそのままボトルの中に閉じこめたような、まったりとした味わいだった。ラベルを見ると、原産国ドイツとなっているではないか。これまた意外な国だ。

 アルコールが尽きるころには、お寿司とローストビーフ、温野菜に豚汁も平らげて、お腹いっぱいになってきた。



 満腹とはいえデザートは別腹だ。このあとは、妹が持参したケーキを食べた。苺を添えて、コーヒーをいれ、本日のお料理はすべて終了である。



 お奉行様の仰せのままに飲んだから、ついぞエビスビールは日の目を見なかった。
 我が家では晩酌の習慣がない。運転手を務める義弟が、コーラとアップルタイザーだけしかもらえず悲しそうだったので、お土産に渡した。

 客が帰ってから、ミキは淋しさを紛らわすようにオルゴールのネジを巻いた。曲目は『うれしいひなまつり』である。
 そういえば、ひな祭りといえば白酒だったな……。
 ……今年は、赤酒・黄酒になってしまった。



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読書感想文なら任せなさい

2009年03月01日 20時56分02秒 | エッセイ
 小学6年の娘が、昨年の誕生日プレゼントにねだったものは、あさのあつこ著『THE MANZAI』だった。
「前に図書館で読んだとき、すごく面白かったから、全部欲しいんだよね」
 日頃から読書の習慣がなく、テレビばかりを見ている子なので、ちょっと感動した。文庫本4冊を手にして大喜びだ。あっという間に読みきり、読書感想文を書くと張り切っていた。
 しかし……。
「何かうまく書けないから、お母さん見て」
 まだ4行程度しか埋まっていない原稿用紙片手に、私を頼ってきた。

「この本は、心のきずを負った歩が転校してきて漫才をする話です。
 友達はいいなと思いました。
 歩と秋本の漫才は面白いと思いました」

 なんじゃ、こりゃ。 

 文と文の関連はないし、感想が羅列されただけになっている。
 親としてはここが腕の見せどころ。適切なアドバイスをして、作文の書き方を教えなければならない。
「思いました、って言葉をつかい過ぎ。考えました、感じましたとか、違う言葉で表現しないと」
「どうして歩が心に傷を負っているのか、説明しないとわからないよ」
「一番心に残ったのはどの漫才? 本文を引用すれば、どのくらい面白かったのかが伝わるよ」
「友達はいいなと思いましたは、最後に持ってきたほうがいいね」
 何とか字数を増やすことばかりを考えていた娘も、描写や構成を丁寧に行えば、自然に字数が多くなると気づいたようだ。原稿用紙3枚をびっしりと埋め、得意げに見せてきた。
「いい感想文ができたね。これなら、読んだ人が面白そうな本だと思うよ」
 ほめられ、自信満々で感想文を提出したらしい。
 しかし、後日、思いがけないことに発展してしまった。
「お母さん、こないだの読書感想文なんだけど、先生がよく書けているから区のコンクールに出すかもしれないって言ってたよ」
 私は仰天した。

 しまった! 口出ししすぎたかな?

 ズルしたようで良心がとがめる。最初の段階の、稚拙な感想文が脳裏をかすめた。

 が、一週間ほどして、娘から報告があった。
「こないだの読書感想文なんだけど、結局、1組の人が代表になったって。『THE MANZAI』はまだ終わってないから、完結している本で書いた人を優先したんだって」
 口をとがらせて、ちょっと悔しそうだったが、私は逆にホッとした。

 ああ、よかった……。

 その一方で、こうも思う。

 1組の子も、親に教わっていたりして……。



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