これは したり ~笹木 砂希~

面白いこと、妙なこと、不思議なことは、み~んな私に近寄ってきます。

頑固なドライアイに

2015年03月29日 16時51分27秒 | エッセイ
 頑固なドライアイに悩んでいる。
 1月末は仕事が忙しくて、連日のように帰宅が9時10時を回っていた。コンタクトレンズを外す時間が遅くなったことと、乾燥しているせいで、目にキズができたらしい。2月上旬に眼科に飛び込んだときには、目薬を2種類と軟膏を処方され、コンタクト禁止を言い渡された。
 目薬をさすと、シュワシュワシュワ~と音が出そうなくらい、キズにしみる。歯を食いしばり、「ううう」と堪えるが、涙があふれて流れ出す。目薬は一週間ほどでなくなってしまった。
「まだ治りませんね。目薬を続けてください」
 シュワシュワ、ううう~。
「まだですね~」
 どうやら、今の私の状態は、乾燥しているだけで目にキズがついてしまうのだとか。コンタクトを入れていないのに、3月下旬になっても一向によくならない。目薬をささないと、まぶたに眼球が引っかかる感じがして不快だし、目薬をさすと、塩を塗り込まれたように痛い。
「湿度が上がるまで、治らないかもしれません」
「そんな~」
 目の乾燥を防ぐにはどうしたらいいのか。6月まで待つなんてできない。
 困り果てていたら、花粉症の生徒が私にヒントをくれた。

 勤務先の高校では、生徒の3人に1人が花粉症のようだ。
「ナツミ、寝ないで」
「先生、ごめんなさい。花粉症の薬を飲むと眠くなっちゃって」
 ナツミは居眠りを薬のせいにしていたが、秋も冬もフガフガしていたような気が……。
「先生、鼻水がとまらない」
「大変だね」
 ダイスケは、ティッシュを箱ごと持ってきているが、すぐに底をつくようだ。
「ああもう、きりがないから鼻に詰めちゃおう」
「……」
 一方、目のかゆみに悩むジュンヤは、変わったメガネをかけている。レンズと顔の間に、すき間ができないゴーグルタイプだ。珍しがって、友達があれこれ聞いていた。
「あ、それ、花粉症対策のメガネ?」
「そう」
「へー、効果あるの?」
「うん、全然違う」
 興味を惹かれ、私も会話に飛び込んでいく。
「ねえ、ジュンヤくん。それ、玉ねぎ切るときにもいいんじゃない?」
「あははは」
 他愛ない会話ではあるが、これが分かれ道となったのだ。
 たまたま、文房具を買いに100円ショップに出かけたら、ジュンヤが使っていた花粉症対策メガネを見つけた。フレームが内側に大きく張り出し、レンズと顔の間にすき間ができない構造になっている。

 もしかして、これ、乾燥対策にもなるんじゃない?

 安いものだから、ためしに買ってみることにした。



 プラスチックの容器に入っているのに、開けてみると、なぜかレンズにはいくつもの指紋がついている……。
 まあよい。洗えば落ちる。
 かけてみると、驚くほどに似合わなかった。
 まあよい。かけなくたって、大した顔ではないのだ。
 樹脂のニオイが、結構強い。
 まあよい。かけてしまえば気にならない。
 いったんメガネを外し、目薬をさしてかけ直す。湿度が逃げないせいか、まばたきをしても、眼球の引っ掛かり感ゼロだ。なんと快適な!
 しばらく使っていると、目薬もしみなくなってきた。これはいい。
 誰も聞いてくれないけれど、ジュンヤのように答えてみたい。
「全然違う~!!」


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計は3月にあり

2015年03月26日 21時09分21秒 | エッセイ
 3月は卒業のシーズンである。
 袴姿の女性は、クルクルっと巻いた髪に粋な花飾りをつけ、艶やかな着物をまとっている。街中で見かけると、ちょっと得した気分になるのは私だけだろうか。
 彼女たちの晴れ姿から、隠された舞台裏を知ることはできない。
「美容院の予約が6時だったから、4時起きだったの」
「おんなじ、おんなじ」
「早いね。アタシは6時半よ」
 袴女子の軍団が、着付けと化粧、髪のセットのため、何時に美容院に行ったかを競っていた。6時だろうが6時半だろうが、早いことには変わりない。受入側の美容院も大変だ。6時に店を開けるには、もっと早くから準備をしなければならない。
 しかも、卒業生たちは式典で居眠りすることができるが、美容師には長時間労働が待っている。なんと過酷な仕事なのだろうか。
 私も、教員という仕事柄、来年の3月には袴姿で卒業式を迎える予定だ。15年ほど前に、妹から着付けを教わったことはあるが、何ひとつおぼえていない。誰かに着せてもらえばいいのだろうが、4時起きなんて真っ平だし、美容師さんを叩き起こすのも気が引ける。ここは自力でなんとかしようと考え、秘密兵器を購入した。
 ジャーン!



『森田空美のシンプル美着付け』
 中をのぞくと、写真や図が多用され、わかりやすい。これなら私にもできそうだ。
 着物や帯、小物類は一式そろえてある。月に一度くらいは自主練習をすれば、一年後には恥ずかしくないレベルになれる気がする。
「砂希さん、着付けだけじゃないのよ。髪はどうするつもり?」
 心の声が痛いところを突く。
 しかし、ここでも強い味方を見つけた。カツラだ。
 ネットで買える和装ウィッグには、手ごろな値段でスタイリッシュなものがいくつもある。
 これが一番気に入った。近いうちに購入したい。



 さあて、一年後を目指して、着付けもスタートさせなくちゃ。


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主婦とオバケ

2015年03月22日 20時16分27秒 | エッセイ
 今回は、ちょっとだけ怖い話です。
 苦手な方は、無理なさらないでくださいね。
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 箱根旅行のあとから、妹の周りで奇妙なことが起き始めたそうだ。
「肩が重くて脂汗が出るんだよね。電化製品のスイッチが勝手に入ったりするし、何か変」
 おやおや。
 妹は霊感体質のようだ。たとえば、秩父にドライブしたとき、橋を渡るところで具合が悪くなった。体中が重くなり、呼吸が苦しくて動けない。そこは、大血川といって、平将門の妻や家来が自害して果て、川の水が血に染まった場所だったらしい。もしや、箱根でも余計なものを拾ってきたのかもしれない。
 だが、決して怖がっているわけではなかった。
「スリープ状態のパソコンが動き出したり、寝ていたらいつの間にか寝室の電気がついていたりで、電気代がかかるのよ。まったくもう」
 ……怪奇現象よりも、電気代が優先するとは頼もしい。
 同じ姉妹でも、私にはそんな経験がない。せいぜい金縛りに遭うくらいだ。
「こっちは何ともないよ。気をつけてね」
 軽いメールを返して、それで終わりのつもりでいた。
 しかし、意外なことに、こちらにも来たのである。
 昨夜は23時半頃床に就いた。ぐっすり眠り、同僚と待ち合わせをする夢を見た。私は同い年の彼女と、話題の展示を見に行く約束をしていて、待ち合わせ場所に向かうところだった。ちょうど、反対からも彼女が歩いてきて、お互いに気づき手を振った。
「こんにちは~」
 じゃあ、行きましょうかと言おうとしたとたん、右側から学生服を着た男の子が飛び出してきた。知らない顔だが、体も小さく中学生のようだ。
「あのう、ちょっといいですか」
 話しかけてきたので、彼に注意を向けたとき、同僚の金切り声が聞こえた。
「砂希さん、ダメ! その子は……」
 続きを聞く前に、男の子が私の右手を強くつかんだ。急に真っ暗になり、ハッと目が覚める。
 夢の続きなのだろうか。現実の世界も暗闇で、右半身が金縛りにあったようで動かない。男の子の姿を借りた何かが、私の右腕をつかんでいるのである。つかまれた場所が、ひんやりとして冷たい。
 こういうときは、お腹に力を入れて、大きな声を出すといいらしい。幸い、左半身の自由は利くし声も出る。助走をつけるように息を吸って、私は大声で叫んだ。
「行け~~~ッ!!!」
 一瞬で金縛りが解ける。右半身はまだ冷たかったけれど、おかしな力から解放されて軽くなった。邪悪なものではなかったようで、あっけなかった。
 でも、金縛りが解けたあとは、すぐに眠れるものではない。ドアの開閉音から、娘がまだ起きていることに気づいた。布団から出て、娘に話を聞いてもらいたくなった。
「ねえ、出たよ」
「えっ、まさか!」
「そう、そのまさか。金縛りにあったの。でも、もういなくなったから大丈夫」
「やだやだ、怖いよ~」
 娘は私が寝たあと、一人で暗闇にいることに耐えられず、部屋に塩を持ち込んだらしい。以前、塩には浄化作用があり、お浄めに使うのだと教えたことをおぼえていたのだろう。
 朝になってもなかなか起きてこないので、部屋まで様子を見に行ったら、皿に盛られた塩が目に入った。



 うわあ、こんなに使って。

 皿を回収し、塩を容器に戻す。戻した塩は、野菜スープや焼きそばに使ってしまった。
 主婦は、オバケよりも無駄が嫌いなのかもしれない。
 それとも、私と妹だけ?


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お肌ツルツル♪ 箱根ツアー(2)

2015年03月19日 20時49分21秒 | エッセイ
 朝風呂のあとは朝食をとり、大涌谷に向けて出発した。
 紅葉でもないのに、箱根の観光客は相当数に膨れ上がっているようだ。近くまで来たところで駐車場待ちとなり、「ここから約30分」との看板が出ている。ドライバーの義弟には悪いが、待ち時間を利用して居眠りし、無事停められたときには頭がスッキリしていた。
 車外に出ると、寒暖差の大きさに驚く。
「さ、寒い~」
 ここはかつて、地獄谷と呼ばれる場所だったそうな。寒氷地獄に身震いし、バッグの中の手袋を出した。
 地面から噴き出す火山ガスが、観光気分を盛り上げる。人混みの中にも外国人が目立ち、国際都市HAKONEを実感した。



 この寒さでも、売店には「たまごソフトクリーム」が売られている。そして、それを食べる人もいる。だが、決して美味しそうな表情ではない。「食えるもんなら食ってみろ」と挑発された気がして、「おう、上等だぜい」と応じただけなのかもしれない。
 頭の中で、くだらない妄想をしながら、ひたすら石段を上る。
「着いた~」



 上まで登ると、妹が黒たまごを買ってくれた。生卵を温泉池でゆでると、地熱と火山ガスが化学反応を起こし、黒い殻のゆで卵ができるそうだ。これを食べると、寿命が7年延びると言われている。
 だが、明らかに運動不足と思われる人々は、歩くだけでフーフー言っているではないか。プラマイゼロにならなきゃいいけど、と心配になった。
 売り場付近はメチャクチャ混雑していたので、下山し車内で食べることにした。



 買ってから15分ほど経っていたにもかかわらず、たまごはまだ熱い。釜茹で地獄を味わわされたのだろう。私はたまごに生まれなくてよかったと安堵し、黒い殻を剥く。中から、弾力性のある白身が登場した。
 パクリ。
 白身も黄身も、味が濃いような気がして、とても美味しかった。寿命7年分をゲットする。
 大涌谷のあとは、わがままを言って、ポーラ美術館に連れて行ってもらった。



 都内近郊の美術館にはいつでも行かれるが、ここは滅多に来られない。評判もいいし、一度は来たかった場所だから、思わず先頭を歩いた。
「紙片の宇宙」というテーマで、挿絵の展示をしているようだ。



 印象に残る作品をあげてみたい。
 マリー・ローランサンの名前は知っている。でも、どんな絵を描くのかは知らなかった。柔らかな輪郭の淡い色づかいが、ゆる~い印象を与える。日々、時間に追われ、あわただしい生活をしている身には、「肩の力を抜いてリラックスリラックス」と言われているようで、初対面で好きになった。



 お気に入りの、アンリ・ルソーも見つけた。



 茶を基調とした夕焼けのグラデーションが落ち着く。「今日も一日お疲れ様」とねぎらわれた気がした。
 そしてルノワール。
 彼の描く女性は、毎日、箱根の温泉に入っているような色艶のよさである。



 気位の高そうな流し目が、「私ほどじゃないけど、あなたもお肌がふっくらしたわね」とささやいている。「まあね」と応じた。
 名画をたっぷり堪能したあとは、ランチである。コラーゲンたっぷりの、牛シチューを選んだ。



 軟らかくて、実に口当たりがよかった。こちらのレストランは、見た目にも味にもこだわりが感じられる。やはり、来てよかった。
 自然に親しみ、美味しいものに舌鼓を打ち、芸術を愛でて箱根の2日間は終わりを告げた。
 東京に戻ってからも、お肌はツルツルのままだ。翌日はブルーマンデイだったが、鏡をのぞきこんでは「いい感じ~♪」とニヤけて出勤した。
 ところが、翌朝の洗顔でしくじった。洗顔料を使いすぎたのだ。つややかな頬から急激にハリが失われ、皮膚が白くケバ立っている。
 
 しまった、またカサカサに戻ってしまった!

 以来、ずっと東京乾燥肌が居座っている。
 哀しいかな、箱根ツルツル肌も、上京後は1泊2日で去って行った。


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お肌ツルツル♪ 箱根ツアー(1)

2015年03月15日 22時34分37秒 | エッセイ
 睡眠不足が続いているせいか、お肌がカサカサしていて困る。
 たまたま、妹一家と箱根に一泊旅行をすることになっていたので、たっぷり温泉に浸かり、お肌ツルツルになって帰ろうと考えた。
「ユネッサンはどう?」
「いいね~」
 10年以上行っていないが、ユネッサンに一日いたら、化粧のりが見違えるほどよくなったことを思い出す。東京から箱根まで、距離的には大したことはないとはいえ、環八も東名も渋滞するから時間がかかる。7時台に出発しても、ユネッサンに着いたのは正午近くであった。
 水着に着替え、記念写真を撮ったら、温泉三昧の始まりだ。チョコレート風呂、ワイン風呂、コーヒー風呂、緑茶風呂、フィンランドバス、酒風呂などなど、片っ端から入って温まった。
「スライダーもやろう」
「やろう~!」
 凍えそうな寒さだったが、屋外に出てすべり台に向かう。いい年をした大人でも、童心に返って遊べるところが魅力だ。ランチのあとも、しつこくお湯に入る。
「じゃあ、今度は森の湯に行こう」
 夕方は水着を脱いでお風呂に入る。人気ナンバーワンのコラーゲン風呂はもちろんのこと、サウナなどにも入り、たっぷり汗を流した。
 ユネッサンのあとは、30分離れた場所のホテルに泊まる。ここにも温泉があるから、しっかり朝風呂にも入って、お肌に磨きをかけようと決めた。
「朝食は何時にする?」
「7時でいいんじゃない」
「じゃあ、お風呂は6時だね」
「そうしよう」
 妹や義弟と打ち合わせをして、布団にもぐりこむ。長時間に渡る移動と、お湯につかって疲れた体は、すぐに眠りに落ちる。アルコールも手伝って、夢も見ずに深く寝入ったようだった。
 かすかな物音で目が覚める。義弟が布団から出て、部屋の外に歩いていく音だった。

 あれ? もう朝なのかな。

 時計を見ると6時。どうやら、朝風呂に行くようだ。遅れをとってはならじと、娘に声を掛けた。
「ミキ、6時だよ。お風呂に行こう」
「へ? もう朝? 眠いからいいや」
 何と、娘は眠気に負けて、朝風呂をパスするつもりらしい。不満だったが、私も眠かったし、一人で行くのも淋しいからいいやと我慢して、再び布団にもぐりこむ。朝食の7時に間に合うように起きなくては。
 しかし、次に目覚めたときには、9時を回っていた。



 キャーッ!

 私はびっくりして飛び起きたが、部屋の中は相変わらず暗くて、妹も甥、姪もぐっすり眠っている。義弟も風呂から帰ってきたら寝たようで、誰一人として起きていない。これはまずいだろうと驚き、声を掛けた。
「ねえ、もう9時過ぎてるよ。大丈夫なの?」
 熟睡していても、人は問いかけに反応するものらしい。妹が半眼になりながら答えた。
「えー、もうそんな時間? 朝食は間に合わないわねぇ……」
 義弟も、重いまぶたをこじ開けて返事した。
「まだ2時45分だよ。何ごと?」
 娘も腕時計を見て確認する。
「いや、2時47分だよ。何言ってるの」
 もう一度時計を見たら、上下が逆になっていることに気づいた。どうやら寝ぼけていたようだ。
「あっ、見間違えた。悪い悪い、アハハ」
 みんな、言いたいことはたくさんあったと思うが、寝る方を優先したようだ。一斉に布団に倒れ込み、物音ひとつしなくなった。
 本当に朝が来たとき、念願の朝風呂がまぶしかった。



 義弟がトイレに立った音を勘違いし、安眠妨害したことを詫びる。
 箱根の温泉は侮れない。鏡をのぞくと、期待通り、ツルツルすべすべのお肌になっていた。
 さて、お風呂のあとは出かけるとするか。




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3.11に思う

2015年03月12日 21時06分30秒 | エッセイ
 入学からひと月経ったころだった。
 勤務先の高校では、5月に防災訓練が実施される。体育館で東日本大震災の映像を見ていたとき、隣のクラスのリサがふらふらと立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。顔は血の気を失って真っ白だし、涙ぐんでいるではないか。相当具合が悪そうだ。
「どうしたの? 気分悪い?」
「……はい。保健室に行ってもいいですか」
「もちろん。でも、一人で行かれる?」
「大丈夫です」
 後姿を見送りながら、引っ掛かるものを感じた。リサの出身中学はもしや……。
「あっ、被災地の中学になっていますね」
 担任に確認すると、やはり福島から東京に避難してきた生徒だった。
「ああ失敗……。思い出させちゃった」
 とたんに胃が重くなった。羊かんを丸飲みしたような苦しさだ。隣のクラスの担任も同じ気持ちだったらしい。
「しまったぁ……」
 頭を低くして、足をひきずるように歩いている。
 でも、リサはもっと苦しかったのだ。結局、その日は早退することになった。この先の防災教育では、彼女に配慮しなくてはいけない。
 東日本大震災が起きたのは2011年3月11日。その日は2年後の2013年だったが、震災の傷跡は彼女の中でくっきりと残ったままだった。普段は明るく、何の悩みもなさそうに見えるだけに気の毒である。
 彼女の親戚は、まだ福島に残っている。東京での生活は楽しいのだろうか。不自由を感じていないかと心配になった。
 そして、一年後の2014年。ここでも、震災ボランティアをテーマにした講話があった。今度は、前もってリサに「無理に見なくてもいいんだよ」と根回しすることができた。
 彼女は、ほとんど表情を変えずに答えた。
「たぶん、大丈夫だと思います」
「ホント? ツラくなったら言ってね」
「はい」
 ドキドキしながら講話を聴いていると、またもや大震災の映像が流れた。津波が引いたあとの、がれきだらけの街が映っている。リサは無理していないだろうか。
 しかし、こちらの心配に反して、彼女は立ち上がらずに話を聴いていた。その場にとどまることで、戦っているようだった。きっと、いろいろなことを思い出し、苦しかっただろうに。そして、最後まで席を立たなかった。
 これはリサの勝利である。たった一年間で、よく成長したものだと胸が熱くなる。
「やっぱり大丈夫でした」
「ああ、よかった」
 リサは、何事もなかったかのように、友人たちと体育館から出ていく。心なしか、後姿がひと回り大きく見えた。
 この子をもっと伸ばして、立派な大人に育てていくことが、私にできる復興支援なのかもしれない。
 来年の3月11日は、卒業式の前日だ。


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青い瞳のキャスバル

2015年03月08日 20時38分16秒 | エッセイ
 私はガンダムオタクである。したがって、2月28日から3月13日まで公開されている映画「青い瞳のキャスバル」を見逃すはずがない。



 念のため、ネットでチケットを予約し、万全を期して劇場に向かう。思った通り、ガンオタで満席に近かったが、若者はほとんどおらず、9割方がファーストガンダム世代の中高年であった。
「すいてる……」
 開始前にトイレに行くと、何と誰もいなかった。熱心なガンダムファンは圧倒的に男性が多く、ここでは女子トイレに行列ができることもない。ゆっくり用を足してから、席についた。
 上映時間は62分。実に短い映画なので、料金は1300円だ。しかし、プログラムは1100円。ちょっと価格設定がおかしいのでは? と思いつつ、オタクは買ってしまう。哀しいかな……。
 62分はあっという間であった。ルウム宙域の戦いで、キャスバルことシャア・アズナブルが鬼神の働きをする場面から始まり、さかのぼること11年、キャスバルの父が暗殺された頃に戻る。政権争いに巻き込まれ、陰謀渦巻くムンゾからの脱出がストーリーの柱となっている。
 タイトルの割には、キャスバルの出番が少なく不満だった。また、妹のアルテイシアが、オツムの弱い子のように描かれているのもイヤだった。でも、ハモンさんの多才ぶりには感心したし、ランバ・ラルの行動力にもスカッとした。
 意外なことに、一番印象に残っているのは、暗殺者側の娘であるキシリア・ザビである。



 変な髪型のせいだろうか。角の生えたようなデザインのヘルメットを取ると、その下の髪も角のようになっていて、やたらとインパクトが強い。たとえ兄弟といえども、顔色ひとつ変えずに謀殺する割には、敵に無用な情けをかけたりする。そして、弟のガルマには、イライラするのか相当手厳しい。
 ファーストガンダムでの彼女は、エストロゲン枯渇かと思われる色気のなさであったが、今回は一糸まとわぬヌードシーンまであり、イメージが変わった。人間味が感じられ、話に奥行きができた気がする。
 続編は、今年の秋に公開されるらしい。
 だったら、最初から今回と次回の話を合わせて、2時間ものにすればいいのにと思うのだが、小出しにする作戦のようだ。
 また不思議な価格設定であることは予想できる。
 それでもオタクは楽しみにしてしまう。哀しいかな……。


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無芸大食の男

2015年03月05日 22時49分17秒 | エッセイ
 わが夫を四字熟語で表すと、間違いなく「無芸大食」である。とにかくよく食べる。そして、食べていないときはテレビを見るか、居眠りしているかのどちらかだ。
 だから、3月2日に、「明日はちらし寿司でも作ろうか」と言い出したときには、ついにボケてきたのだと覚悟した。大好きなテレビをつけ料理番組を見ているうちに、自分にもできると錯覚しているのではないかと。
 ああ、お先真っ暗だ……。
「ただいまぁ」
 翌日、米粒ほどの期待もせずに帰宅した。だが、専業主夫の声は明るく弾んでいる。
「おかえりぃ~」
 まさかと思ってキッチンをのぞくと、テーブルの上には料理番組で見たようなちらし寿司が載っていた。



 おりょりょ。

 いただきものの大皿には、きざみ海苔と胡麻をちらした寿司飯が、こんもりと盛り付けられている。上には、柔らかな黄色の錦糸卵、濃いめの赤のマグロ、白地にオレンジが映えるエビが放射線状に並んでおり、視覚に訴える美しさだ。鮮やかな緑で場を引き締めているのは、菜の花だろうか。
「へー、すごいじゃない! よくできてる」
 夫からの返事はなかったが、口元がキュッと上がっている。心からの褒め言葉は、ちゃんと相手に届くものなのだ。
「いただきまーす」
 マグロとエビの影から、とびっこにイクラ、ウニが転がり出してきた。ここに、甘く煮付けたシイタケが加わって、どこぞの料亭でとびきりの贅沢をしている味となる。
 美味しい美味しいと繰り返しながら、夫への評価を修正する。「無芸大食」は間違いだったようだ。「一芸一能」あたりが適切だろうか。
 私と娘が4分の1ずつ食べ、半分は夫がすべて平らげた。
「大食」は修正しなくていいようだ。


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スクールババア

2015年03月01日 21時46分06秒 | エッセイ
「スクバ」といえば、スクールバッグを指すのが普通だ。



 しかし、私はひそかに「スクールババア」ではないかと思っている。
 実は、わが家に生息している。
「お母さん、エアコンつけて」
「は? 自分でやれば」
「だって届かないもん」
 高3の娘は、とにかく動かない。座布団やベッドに寝そべり、スマホをいじりながら、私や夫をこき使って用を足そうとする。万歩計を持たせたら、学校が休みの日などは1000歩にもならないのではと感じるほどだ。
「動かないとダメだよ」
 見かねて声をかけたら、意外と素直に応じた。
「そうだね」
「ラジオ体操やるから、一緒にどう?」
「うん」
 狭い部屋に並んで、ぶつからないように体を動かす。
 チャンチャンチャチャチャチャチャーン、チャンチャッチャチャン♪
「いてててて」
 3つ目あたりから、娘のうめき声が聞こえてきた。日頃、動かしていない筋肉が悲鳴を上げているのだ。
「ううううう」
 チャンチャッチャ、チャッチャチャッチャチャチャチャチャチャー。
「グエー」
 しまいには、体がボキボキと音を立て始め、私は耳を疑った。
 ようやく終わると、息も絶え絶えになっている。たかがラジオ体操で、こんなに痛がるとは。本当に高校生か。まるで、おばあさんのようではないか。
 翌日は、見事に筋肉痛となったらしい。
「ミキはスクバだね。スクールババア」
 からかうと、むきになって反撃してくる。
「ふん、そっちこそ、スクールに勤めてるババアじゃないか」
 歯をむき出しそうな勢いだ。おそらく、自分でも気になっているのだろう。まめに体を動かすようになればいいのだが。
 そんな娘が、今日は卒業式を迎えた。曜日にかかわらず、毎年、卒業式は3月1日と決まっている学校なのだ。
「笹木ミキ」
「はいっ」
 卒業証書を受け取り、無事卒業した。
 4月からは大学生だ。
 ユニバーシティーのババアは、ユニバとなるのかな。


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