これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

くわばらくわばら

2011年07月31日 17時25分39秒 | エッセイ
 娘を連れて、湯島天満宮まで出かけた。
 ここは、学問の神様、菅原道真公を祀った神社だから、受験生がたくさんやってくる。かくいう娘も、高校受験を控えている。実力がない分、神様に頼らなければならない。
「菅原道真って、学問の神様だったっけ?」
 娘が、腑に落ちない顔で聞いてくる。
「そうだよ。知らないの?」
「だって、社会の先生が、怨霊になったって言ったよ」
 そうそう、最初は怨霊だったのだ。政敵に左遷され、京を追われた道真公は、遠く離れた大宰府で果てる。しかし、その後、京では政敵をはじめ、病での死人が相次ぐ。さらには、平安京の殿舎が落雷の被害を受け、大惨事となったことから、道真公の祟りであると恐れられるようになった。
 以来、道真公イコール雷神の扱いを受け、祟りを鎮めるための天神信仰が、全国に広まったらしい。
「そうか、それで湯島天神ともいうんだね」
 娘は、ようやく納得したようだ。私は余計なことを付け加える。
「雷が鳴ったら、『くわばらくわばら』って唱えるんだよ」
「何それ」
「菅原道真の故郷は、桑原ってところだったんだって。怨霊になっても、桑原にだけは雷を落とさなかったから、雷よけのおまじないなんだよ」
「初めて聞いた」
 おしゃべりをしていたら、到着したようだ。立派な鳥居が目に入る。



 まずはお手水だ。手を洗ってたら、近くに牛が2頭いるのに気づいた。





 あとから知ったことだが、これは「撫で牛」といわれ、牛と縁の深かった道真公ならではのものらしい。鼻が悪いからといって鼻を撫で、足が悪いから足を撫でるなど、信仰の対象となっているという。私は最近、右腕が冷えて重いので、右の前足を撫でてくればよかった……。
 本殿には、修学旅行生が何人かいた。さすがに、参拝する年齢層が若い。



 絵馬には「早稲田大学」「開成高校」などの文字が見え、相当な数が下げられている。受験シーズンを迎えた日には、とてつもない量にのぼることだろう。
 お参りしたあとは、言うまでもなくおみくじを引く。凶に縁のある私でも「小吉」だったから、「凶」は入れてないのかもしれない。娘は「吉」で、「学業 少しなりとも毎日なせば吉」とあった。なかなかいいことを書いてくれる。
 お守りや御札なども、たくさん販売されていた。
 娘に買ってやったのは、ボールペンとシャープペンのセットと、学業守りと御札のセットである。



 そして私が買ったものは……。



「何で、ここまで来て、あぶらとり紙なのよ~!」
 娘の呆れた声がした。

 このところ、不安定な天気が続いている。その夜も、ときおり雨が降っていた。
 やがて、遠くからゴロゴロゴロと、雷の音まで聞こえてくる。
「お母さん、雷だよ!」
「パソコン消して。コンセントも抜いて」
「あっ、今、録画中だよ~」
 不運なことに、買ったばかりのDVDレコーダーは作動中である。これではコンセントが抜けないではないか。万一、落雷したら、目も当てられないことになる。ミキは、おぼえたばかりのおまじないを唱えはじめた。
「くわばらくわばら~」
 私も一緒に口にする。
「くわばらくわばら~」
 雷が、こちらに来ないことを祈るばかりだ。私は、これまでに3回、落雷で電化製品を壊されている。ボーナスの半額近くを投入したDVDレコーダーを死守せねばと焦った。
 祈りが通じたのか、間もなく雷の音が遠のいていった。
「ああ、よかった。アタシのあぶらとり紙が効いたのかしら」
「そんなもの、効くわけないでしょ。お札だよ!」
「いやいや、ボールペンかもしれないよ」
 何だかわからないが、ひとまず助かった。
 これも、湯島天満宮のご利益なのかもしれない。



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まちがいさがし

2011年07月28日 18時58分45秒 | エッセイ
 5月に沖縄で面シーサーと呼ばれる焼き物にチャレンジした。(詳しくは、こちらからどうぞ)
 見本を参考に、粘土で形を整えるのだが、豊かなたてがみとヒゲ、眉毛などを表現するところが難しい。ひとまず、お手本通りに作ってみる。



「あまり薄くのばさないでくださいね。薄いと、焼いたときに割れてしまうんです」
 講師からの注意を聞き、焼く前と後とでは、形が変わってしまう場合もあると知る。かなり、火力が強いのかもしれない。
 完成したシーサーは、ひと月乾燥させてから、釜に入れるそうだ。
 先日、ようやく作品が送られてきた。
 上部の納品書には、「割れた部分は、できる限り修復しました」などと書かれている。開けるのが、ちょっと怖い。
 おそるおそる、梱包材を解いてみると、見覚えのあるお面が登場する。



 ひとまず、割れた部分はないようだ。記憶を頼りに、間違い探しをしたら、「ギャッ」と悲鳴をあげそうになった。
 さて、どこに問題があったのか、おわかりになるだろうか。





 残念なことに、眉の一部がはがれ、頬のたてがみが増えている。



 おそらく、焼いたときに取れてしまい、どこにあったものかわからなくて、「この辺でいいんじゃねぇ~?」と適当に貼り付けたのだろう。

 こんな修復をされてもなぁ……。

 空白になった眉毛が淋しい。
 代わりに、こんなものを貼り付けてみた。



 うーん、ピッタリ!!



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ワンクリックの悲劇

2011年07月24日 17時45分27秒 | エッセイ
 ときどき携帯に「出会い系」だの、「出張ホスト」だのといった迷惑メールが届く。こういうメールは、無視して削除すればよいと聞く。その後は、続いて送信されることもなく、大きな問題に発展することはなかった。
 しかし、一昨日からメールをよこす出会い系業者は、やたらとしつこい。「○○様からメッセージが届いています」だの、「会員様専用トップページ」だのといったURLを貼り付け、30分おきに次から次へとメールを送り続けるのだ。
 放っておけばよいとわかっていても、こう何度も送りつけられては落ち着かない。たまりかねて、「配信停止」のURLをクリックした。
 これが間違いのもとだった。リンク先では、「利用料金が発生しております。配信停止手数料¥5000をお支払い下さい」とのメッセージが表示され、支払方法のURLが待ち受けている。さらに、決断を迫るように、新規メールが15分おきに送り付けられるようになった。

 これが噂の、ワンクリック詐欺!?

 ワンクリック詐欺とは、架空請求の一種で、クリックしたことによってサイトの利用者とみなし、利用料金などを請求するものである。ウン万円もの請求が来るとも聞くが、私のところは控えめな5000円だった。だが、「これくらいなら払ってしまおう」と考えるのは大間違いだ。一度、業者の言いなりになったら、いわゆる「カモリスト」に載ってしまい、あらゆる悪質業者から狙われるという。もう、これ以上、サイトとのかかわりを持ってはいけない。

 さて、どうしよう。
 メールアドレスを変更するのは、ひとつの手段であろう。でも、友人・知人に連絡するのが面倒だ。
 受信拒否をするのもよさそうだが、やり方がわからない。しかも、届いたメールのアドレスが微妙に違うのでキリがない。考えている間にも、新たなメールがじゃんじゃん送信され、不安を煽られる。
 ふと、料金プランの変更をするため、ドコモに電話をかけようとしていたことを思い出した。用事のついでに、対応策を相談してはどうだろうか。
 フリーダイヤルにかけてみると、「迷惑メールの担当者におつなぎします」と、思惑通りに話が進んでいった。
「たとえ、相手がお客様のメールアドレス、電話番号、お名前などの個人情報を入手していても、それだけでは利用料金は発生しませんので、ご安心ください」
 迷惑メール担当の彼は、心強い言葉から始めた。むしろ、慌てて退会手続きをとろうとして、余計な情報を業者に知らせてしまうほうが怖いという。
「対策としては、何もする必要はないのですが、メールが送られてきて不快だという場合には、受信を拒否する設定ができます」
「はい、それでお願いします」
「迷惑メールの多くは、パソコンから送信されていますから、パソコンからのメールを受信しない設定にすることで、かなりの数をシャットアウトすることができます」
 なるほど!
 たしか、姉がそういう設定にしていたはずだ。一緒に通っているエッセイ教室で、食事会をすることになったとき、幹事がパソコンから詳細メールを送った。ところが、姉だけ場所を知らなかったということがある。
「もし、シャットアウトしたくないパソコンアドレスがあれば、登録することで、これまで通りにメールを受信することができます」
「はい、いくつかあります」
「操作方法は、まずiモードからiメニューを開き……」
 手順を教わり、言われた通りにボタンを操作する。その間にも、しつこく出会い系メールが送られてきて何度か中断させられたが、イライラしてはいけない。どうにか、幹事や友人のパソコンアドレスを登録し、それ以外のパソコンメールを受け取らない設定が完了した。

 完璧ッ! これで、オーケーでしょ!!

 私は、彼にお礼を言って受話器を置いた。
 それ以来、私の携帯は平和だ。
 でも、よく考えてみたら、自分のパソコンアドレスを登録していない。
 加えて、ブログへのコメントを知らせるメール、メッセージの受信メールなどはどうなるのだろう。おそらく、受け取れなくなっているのではないか。
 やっぱり、どこか抜けているんだな……。



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禁句

2011年07月21日 20時46分10秒 | エッセイ
 中3の娘に、「ミキはお父さんにそっくり」と言ってはいけない。
 目元がよく似ており、幼い頃からそう言われ続けてきたが、白髪交じりのオジさんと比較されることが気に入らないらしい。たちまち目を吊り上げ、「似てないよ!」と否定する。
 しかし、母親の私から見ても、この2人には共通点がありすぎる。
 まず、血液型が同じA型だ。色白で、髪に天然のウエーブがかかっているところもそっくりである。大きな声で言えないが、後頭部のふくらみがなく、いわゆる「絶壁」なのも同じだ。
 性質もよく似ている。負けん気が強くて、すぐ言い返してくるところや、感情的で、すぐカッとなるところは何とかしてほしい。
 先日、こんなことがあった。娘と買い物に行った。帰ったら、冷房の利いた部屋で、夫がお腹を出して昼寝していた。娘は夫をまたいで先に進もうとしたが、あいにく、足が腹に当たってしまった。
 昼寝を邪魔された夫は怒り、大声で「痛いじゃないか!」と叱った。だが、娘も負けていない。
「そんなところで寝ているのが悪いんだ」などと言い合いになり、双方頭に血が上った結果、つかみあいに発展してしまった。2つの塊が壁やドアに激突し、「謝れ!」「うぜえよ、ジジイ!」といった罵声が飛び交う。
 あまりにもレベルの低い争いに、いい加減ウンザリした。この2人は、お互いに中に、自分のイヤな部分を見ているのではないだろうか。
 ようやく、決着が着いたようだ。「虐待は犯罪なんだよ!!」と娘が仁王立ちになり、夫は下を向いて、スゴスゴと階段を下りていった……。
 あらら。
 テレビが好きなところもよく似ている。
 受験生だというのに、娘は何時間もテレビの前に釘付けになり、ガハガハと笑いながらバラエティ番組を見ている。話しかけても、テレビに夢中で聞いていない。
「塾に行っていないんだから、家でも勉強しなかったら、他の子との差が開くでしょ!」
「わかってる」
「わかってないよ! いつも口ばっかりなんだからっ」
 ガミガミ言ったら、娘はようやくテレビを消し、机に向かった。
 しかし、今度は夫がテレビの前に滑り込み、笑顔を浮かべて旅番組をつけるではないか。「空いた~♪」くらいの気持ちだったのかもしれない。
 私はあぜんとし、「受験生がいるんだから、ちょっとは我慢しなさいよ」とリモコンを取り上げた。
 うしろから、「けけっ」と笑うミキの声が聞こえる。
 そうそう、人の不幸を喜ぶところも同じだったんだっけ。
 ホント、そっくり。



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明暗くっきり

2011年07月17日 20時32分22秒 | エッセイ
 授業を終えて戻ると、机の上に私あてのメモが置いてあった。
「午前9時30分頃、何やら新聞社からお電話がありました。またあとでかけるそうです」
 この時期になると、毎年、何やら新聞社から調査の依頼が舞い込んでくる。都内のさまざまなタイプの高校で同じ調査をし、分析した結果を社会情勢の移り変わりとして取り上げるのだ。
 こちらには何のメリットもないが、断る理由も特にないので、「まあいいか」と引き受けている。
 コーヒーでもいれて休憩しようと思ったら、別の電話がかかってきた。
「株式会社○○ですが、本日2時にお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です。お待ちしております」
 受話器を置くと、「笹木せんせぇ~」と生徒の呼ぶ声がする。
「この前、出せなかったノートを持ってきたんですけど、今提出してもいいですか」
「はい。じゃあ、2学期は遅れないようにね」
 パソコンを開けば、メールが何通も来ているし、期限の迫っている仕事もたくさんある。どれから手をつけようか迷っていると、また次の電話や来客というように、学期末はわけのわからない忙しさである。
 グチャグチャの机から資料を探すと、すでに提出期限が過ぎている書類が見つかった……。
「コーヒーなんか飲んでいる場合じゃない、まずこれを片付けなくちゃ」とならないのは、私の悪いところである。「どうせ遅れているんだから、まずコーヒーを飲もう」と都合のいい判断をし、香り豊かなマンデリンをいれた。

 午後5時を回ると、嵐のような一日が終わる。私は残りの仕事を片付け、よれよれになって駅へと向かう。7分ほど歩いたところで、背中のデイパックがやけに軽いことに気づいた。

 いかん、水筒を忘れた!!

 毎朝、ポリフェノールたっぷりといわれるルイボス茶を沸かし、アツアツを水筒に入れて持参しているのだが、それを職場に置いてきたらしい。あまりの忙しさに集中力を欠き、デイパックに入れ忘れたのだろう。
 さて、どうしよう。とるべき道は2つだ。
 ひとつは、水筒を取りに職場に戻る道。でも、暑い中をここまで歩いたのだから、このまま帰りたい気持ちが強い。
 もうひとつは、水筒をほっぽらかして、次に出勤するときに持ち帰る道。他にも水筒はあるから、ひとつくらいなくても困らない。だが、その日は金曜日だったため、土日をはさむ点がネックである。ひさびさに再会したら、カビだらけになっていたりして。
 そこで、はたと気がついた。

 違うよ、海の日があるから3連休だ……。

 私は覚悟を決め、来た道を戻ることにした。やはり、水筒を取りに行くほうが正しい判断であろう。カビだらけの水筒を洗うことに比べたら、ちょっと遠回りしたほうがマシだ。
 しかし、足取りの重いことといったらない。さっきまで歩いた距離が、まったく無駄になったのだから無理もないが、ぬかるみを歩いているようなもどかしさであった。
 ようやく職場にたどり着くと、思った通り、机の上に水筒が出しっぱなしになっていた。少々ホッとしてデイパックにしまったところで、電話が鳴った。
 受話器を取ると、「何やら新聞社ですが」という声が聞こえる。
「はい、笹木です。朝方お電話をいただいたそうで」
「その件なんですが、29日の10時でいかがですか」
「結構ですよ」
「では、よろしくお願いいたします」
 なんと運のいい男だろう。絶妙のタイミングで電話をかけてきて、本来ならば、いなかったはずの私に用件を伝えたのだ。
 一方、こちらは重くなったデイパックを背負い、疲れた足を引きずるようにして、ヨレヨレと歩き始めた。
 明暗の分かれた者が、電話で交差した瞬間だった。



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お風呂あがりに何を飲む?

2011年07月14日 20時23分22秒 | エッセイ
 暑い夏、お風呂で半身浴をすると、代謝の悪い私でも結構な汗をかく。流れた汗が、目にしみることもあり、読んでいる本に、ポタッと落ちるときもある。
 そんなわけで、お風呂あがりには、冷たい飲み物が欲しくなる。
 さて、何を飲もう?
 おそらく、「ビール」が多数派なのではないか。カラカラに渇いたのどに、よーく冷えたビールは相性がいい。風呂あがりの一杯はたまらない、とはよく聞く話だ。
 しかし、私はビール党ではない。同じ麦でも、ノンアルコール、ノンカフェインの麦茶が好きだ。
 冷蔵庫でよく冷やした麦茶が、口の中を駆け足で通り過ぎると、香ばしい風味が残される。これが何ともいい感じである。幸せな気分で、「あー、美味しい♪」とひとりごとを言う。
 口の中をサッパリさせたいときや、疲れていて難しいことを考えたくないときには、麦茶よりもミネラルウォーターがいい。あの、素っ気ない、クールな味が恋しくなる。余計な世話は焼かないけれど、本当に必要なものは与えてくれるような飲み物だ。
 昔の同僚で、今でも年賀状のやり取りをしている女性はまた違う。
「お風呂あがりは、やっぱり牛乳よね!」
 彼女は、牛乳を飲んだらすぐに寝てしまうらしい。でも、決して牛のような体型ではなく、大変スレンダーだ。見た目は骨と皮しかないけれど、これもカルシウムを十分摂っているからであろう。
 20代のときは、冷え性を治そうと思って、養命酒を飲んでいた。清涼飲料水ほど、美味しいものではない。冷やすと、まずまずいけるので、お風呂あがりに飲んだ時期もある。
 しかし、話した相手が悪かった。
「最近、養命酒を飲んでいるのよ。あれは、なかなかいいね」
 高校時代からの友達に、そんな話をしたら、彼女は苦笑して言った。
「養命酒? 商売敵だよ~!」
 ようやく思い出した。彼女の勤務先は、ライバル会社の陶陶酒だったのだ……。
 そのあとのことは、聞かないでもらいたい。
 無神経な発言を悔やんだことは言うまでもない……。

 みなさんは、何を召し上がりますか?



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テカる鼻

2011年07月10日 18時02分40秒 | エッセイ
 梅雨が明け、本格的に暑くなってきた。
 首にも顔にも汗をかき、常にベタベタしている。
 特に、私が気にするのはTゾーン、つまり、おでこから鼻にかけてのオイリーな部分である。どうも、私は人より脂が多いようで、鼻のテカりが目立つ。キラキラと輝いているわけではなく、ヌメヌメとしていて、光が鈍く反射するような感じだ。
「お母さん、あぶら取り紙使った? 鼻がテカテカしているよ」
 娘に指摘されたら、どこにも逃げ場がない。コソコソと、化粧ポーチからあぶら取り紙を出し、鼻に載せてみる。すると、鼻に紙が吸い付くように密着し、しばらくは仲よくしている。ペロッとはがすと、脂分がしみ込み、鼻にくっついていた部分だけが透明に変わる。
 量の多さに、無口になる瞬間だ……。
 この脂は、まったく何の役にも立たない。化粧が崩れやすくなるばかりか、サンオイル効果を果たして、日焼けの原因にもなる。夏の終わり頃には、私の顔は、コアラのように、鼻だけ色が濃くなってしまう。
 たとえば、鼻をフライパンにこすりつければ、脂で目玉焼きができるとか、パンのバターがいらないなどの特典があれば別だ。だが、今のところ、いいことは何ひとつない。この体質を、どうにかできないものかと悩んでいた。
「毛穴パック使ったら?」
「毛穴パック?」
「脂を取り除く効果があるみたいだよ」
 娘のアドバイスに従って、ドラッグストアに行く。しかし、商品が多すぎて、どこに目的のものがあるのかわからない。近くにいた店員に、「毛穴パックはどこですか」と声をかけようと思った。
 しかし、店員が「毛穴パックですか、ええと」などと答えて、私の鼻に視線を走らせたら恥ずかしい。結局、聞けず仕舞いとなり、店内をウロウロさまよい、10分かけて自力で発見した。
 結論からいうと、毛穴パックはたしかに効く。角栓が根こそぎ取れて、スッキリするところは素晴らしい。でも、毛穴が引き締まる年代を通り越しているので、翌日、化粧をすれば、角栓の抜けた毛穴に新たな汚れが詰まってしまう。つまり、根本的な解決には結びつかない気がする。
 がっかりして、そのまま放っておくことにした。
 先日、出勤したときのことだ。コンタクトレンズを入れようと、鏡に向かったら、鼻にほくろのようなものがついている。
 触れてみると、ほくろではなく、ショウジョウバエのような小さな虫だった。おそらく、鼻にとまったはいいが、ベタベタしていて身動きが取れず、逃げられなくなったのだろう。

 コバエ取りかよ~!

 初めて、オイリー鼻が役に立ったのかもしれない……。
 だが、ちょっと哀しすぎる。



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許容範囲

2011年07月07日 20時50分46秒 | エッセイ
 先月、娘のミキが、英検3級を受験した。ようやく結果が出て、得意げに成績表を差し出した。
「一次試験には受かったよ! 今度の日曜日に二次試験があるから、受験票の写真を撮らないと」
 英検に一次と二次があるとは知らなかった。二次は面接試験になるそうだ。
「写真? プリクラでいいよ」
 夕食時だったので、面倒くさくて適当に答えた。ミキはしばらく沈黙したあと、むっつりと続けた。
「お母さん、本気で言ってるの?」
「い~や、冗談」
「ほら、ここ読んでごらん」
 ミキが、二次試験の受験票を持ってきた。

 写真貼付欄(縦3cm×横2.4cm) プリクラ・サングラス着用・写真のコピーは認められません。

「あっ、ダメって書いてある……」
「わかった?」

 他の欄にも目を通してみたが、あれこれと細かいことまで書かれているので驚いた。

 禁止事項
 ①試験会場への道順などの問い合わせ ②自動車・オートバイでの来場 ③会場内での携帯電話等の使用。理由のいかんにかかわらず、携帯電話等を使用した場合は試験を失格とします。

 きっと、常識のない受験者が多くて、対応に苦慮したことがあるのだろう。
 だが、こまごまと書かれると、逆に「書いていないことはオーケーだな」と考える場合があるかもしれない。不意に、私のいたずら心が刺激された。
「ミキ、メガネはいいんだよね?」
「そりゃあ、大丈夫でしょう」
「これなんか、どうかな?」
 私は引き出しの中から、古いおもちゃを取り出した。



 学生時代に、東急ハンズで購入した、パーティー用グッズの鼻つきメガネである。
 ミキは食事中だというのに、大笑いしてイスから転げ落ちた。
「これなら、サングラスじゃないから許容範囲でしょ?」
「ダメに決まってるでしょ! そんな写真じゃ落ちるよ!!」
 ……そうだった。
 英検の写真を撮ることではなく、二次試験に合格することが目的だったことを思い出した。ならば、機械ではなく、七五三のときにお世話になった写真館に行ったほうがいい。
「は、鼻に明太子が入った……」
 食事中の話題としては、ふさわしくなかったようだ。



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グラタンの気持ち

2011年07月03日 17時35分49秒 | エッセイ
 昨日は、区内の公園で「なにやらフェスティバル」というイベントがあり、娘の所属する吹奏楽部が演奏するというから見に行った。
 しかし、天気がよくない。雨ではないけれど、灰色の分厚い雲が空を覆っている。屋外ステージだから、雨が降ったら中止だという。せっかく行っても、中止になったら無駄足となる。私は、空とにらめっこしながら「大丈夫だろう」と判断し、家を出た。
 電車に乗り、5つ目の駅で降りれば公園はすぐそこだ。演奏時間よりも早く着いたせいか、保護者の姿はまばらである。前のほうの席に腰を下ろし、ステージ上の和太鼓を見ながら待っていた。
 小学生とおばさんたちで構成された和太鼓グループは、額や頬から汗を流して熱演している。「滝のような」と形容されることもあるが、そこまでの量ではなく、「白滝のような」汗であった。それぞれのおでこから、二、三本、汗の細い足あとが目に入る。それもそのはず、見上げると、さっきまで空で胡坐をかいていたモクモク雲が割れ、太陽が誇らしげに顔をのぞかせていた。
 
 ジリジリジリ……

 これは予想外である。天気が持てばラッキーだと思っていたから、紫外線対策はほとんどしていない。顔にだけは日焼け止めを塗り、サンバイザーで防御しているものの、半袖のTシャツでは、むき出しの腕を守れない。
 だが、太陽は、雲に遮られていたうっぷんを晴らすように、情け容赦なく照らし続けた。

 ジリジリジリ……

 なにやら、オーブンの中のグラタンになった気分である。予熱が完了し、230度になったオーブンに、ホワイトソースベースのカニグラタンを入れたらどうなるか。私も、7分後には茶色の香ばしい焦げ目がつき、アツアツの出来立てになってしまうのだろう。とろけるチーズがなくて残念であった。

 ジリジリジリ……

 和太鼓が終わり、ようやく吹奏楽部の演奏が始まった。童謡のメドレーから始まり、いきものがかりの「ありがとう」、ラストは、アニメソングのメドレーである。25分はあっただろう。銀河鉄道999も、宇宙戦艦ヤマトもいい曲で大好きなのだが、両腕を焼かれてはかなわない。燃える腕に顔を歪め、「早く終わってくれ~」と念じていた。
 暑さの中、中学生たちはよく演奏したと感心する。
 そして、私も頑張ったのだが、誰も褒めてくれないのが淋しい。

 お風呂の前に、日焼けの状態を確認した。



 肩は白いが、二の腕から下が赤い。いわゆる「土方焼け」になっている。
 ほんの40分ほどだったのに、こんなに焼けてしまうとは……。まるで、両腕に赤い長手袋をしているようだ。
 貴婦人の正装、ローブ・デコルテを着るときには、手袋をするものだという。
 今なら私も、赤のローブ・デコルテとコーディネートできそうな気がする。
 湯船に体を沈めたら、腕が沸騰したのかと思うくらい熱かった。



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