昨日は、久しぶりにロングスカートをはいて出勤した。
動きにくいから、長い丈のスカートは基本的に買わないのだが、寒くなった今では、その暖かさに感動する。
暖かいと心が広くなって、多少人から迷惑をかけられても、許せそうな気がする。
私の中学・高校時代では、今と違い、長いスカートが人気だった。
「ヤンキー」「つっぱり」となど呼ばれた、いわゆる不良少女は、ひきずるほどの長いスカートをはいていたし、普通の子でも、膝丈のスカートは「ダサい」と敬遠したものだ。
高校生のとき、通学には最寄駅までバスを使っていた。
ときどき、バスの乗客の中に、茶色に脱色した髪をなびかせた女子高生がいた。長さといい色といい、まるで、ライオンのたてがみである。当時私は1年生だったが、彼女は上級生に見えた。
ブレザーの丈を短く詰め、ローファーが見え隠れするロングスカートを合わせ、ペチャンコにつぶした学生鞄を抱えた、教科書通りの不良少女といえよう。目元が黒ずみ、唇は真っ赤という派手な化粧をしていた。車内でトラブルを起こすことはなかったが、サラリーマンもOLも、かかわりを避けているような感じだった。
「あの人、怖そうだね」
一緒に通学していた幼なじみの尚美は、目を合わせないようにしながら、彼女を横目でチラチラ見ていた。そういう風になりたいわけじゃないけれど、ちょっぴりワルに憧れる年頃だったのだ。
私もまた彼女に興味を惹かれた。普段はどんな生活をしているのか、どんな友人とつきあって、どんな悪さをしているかを知りたかった。
「毎度ご乗車ありがとうございます。まもなく、終点○○○駅に到着いたします。どなた様もお忘れ物のないように、バスからお降りください」
その日もいつもの車内放送が流れ、私は尚美と料金箱の列に並んでいた。たまたま、私の前にはかの不良少女・ライオン丸がいて、取り出した定期券を、運転手に見せているところだった。彼女は早足でステップに向かったが、1段降りたところで、なぜだか止まり、くるっと後ろを振り返った。
「砂希、足!!」
隣の尚美が、ほとんど悲鳴のような金切り声をあげた。
へ? 足??
急いで自分の足を見ると、なんと彼女のスカートが私の靴の下にあった。私は彼女の髪ばかり見ていて足元がノーマークだったから、思い切りスカートを踏んでいたのだ。
慌てて足をどけたが、スカートにはうっすらと足あとがついてしまった。
ひえええ、万事休す!!
私も尚美も、もしくは一部始終を見ていた運転手も、無言のまま、次に彼女が何をするかに注目した。
しかし、ライオン丸は、スカートが開放されただけで満足したのか、汚れを払うこともせず、私の顔を見ようともせず、そのまま駅に向かって歩き出した。
すたすたすたすた。
冬支度を始めた銀杏が落とした、黄色く色づいた葉を踏みつけて、彼女は何ごともなかったかのように去っていった。
かえって、こちらのほうが拍子抜けしたくらいだ。
心配性の尚美が、息を吐きながら言った。
「あーあ、よかった……。あの人、怒り出すんじゃないかと思った……」
「ごめんごめん、今度は気をつけるよ」
尚美に謝り、私たちも駅に向かった。
昭和末期のあの頃は、スカートも人間にも、ゆとりがあったのだろうか。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
動きにくいから、長い丈のスカートは基本的に買わないのだが、寒くなった今では、その暖かさに感動する。
暖かいと心が広くなって、多少人から迷惑をかけられても、許せそうな気がする。
私の中学・高校時代では、今と違い、長いスカートが人気だった。
「ヤンキー」「つっぱり」となど呼ばれた、いわゆる不良少女は、ひきずるほどの長いスカートをはいていたし、普通の子でも、膝丈のスカートは「ダサい」と敬遠したものだ。
高校生のとき、通学には最寄駅までバスを使っていた。
ときどき、バスの乗客の中に、茶色に脱色した髪をなびかせた女子高生がいた。長さといい色といい、まるで、ライオンのたてがみである。当時私は1年生だったが、彼女は上級生に見えた。
ブレザーの丈を短く詰め、ローファーが見え隠れするロングスカートを合わせ、ペチャンコにつぶした学生鞄を抱えた、教科書通りの不良少女といえよう。目元が黒ずみ、唇は真っ赤という派手な化粧をしていた。車内でトラブルを起こすことはなかったが、サラリーマンもOLも、かかわりを避けているような感じだった。
「あの人、怖そうだね」
一緒に通学していた幼なじみの尚美は、目を合わせないようにしながら、彼女を横目でチラチラ見ていた。そういう風になりたいわけじゃないけれど、ちょっぴりワルに憧れる年頃だったのだ。
私もまた彼女に興味を惹かれた。普段はどんな生活をしているのか、どんな友人とつきあって、どんな悪さをしているかを知りたかった。
「毎度ご乗車ありがとうございます。まもなく、終点○○○駅に到着いたします。どなた様もお忘れ物のないように、バスからお降りください」
その日もいつもの車内放送が流れ、私は尚美と料金箱の列に並んでいた。たまたま、私の前にはかの不良少女・ライオン丸がいて、取り出した定期券を、運転手に見せているところだった。彼女は早足でステップに向かったが、1段降りたところで、なぜだか止まり、くるっと後ろを振り返った。
「砂希、足!!」
隣の尚美が、ほとんど悲鳴のような金切り声をあげた。
へ? 足??
急いで自分の足を見ると、なんと彼女のスカートが私の靴の下にあった。私は彼女の髪ばかり見ていて足元がノーマークだったから、思い切りスカートを踏んでいたのだ。
慌てて足をどけたが、スカートにはうっすらと足あとがついてしまった。
ひえええ、万事休す!!
私も尚美も、もしくは一部始終を見ていた運転手も、無言のまま、次に彼女が何をするかに注目した。
しかし、ライオン丸は、スカートが開放されただけで満足したのか、汚れを払うこともせず、私の顔を見ようともせず、そのまま駅に向かって歩き出した。
すたすたすたすた。
冬支度を始めた銀杏が落とした、黄色く色づいた葉を踏みつけて、彼女は何ごともなかったかのように去っていった。
かえって、こちらのほうが拍子抜けしたくらいだ。
心配性の尚美が、息を吐きながら言った。
「あーあ、よかった……。あの人、怒り出すんじゃないかと思った……」
「ごめんごめん、今度は気をつけるよ」
尚美に謝り、私たちも駅に向かった。
昭和末期のあの頃は、スカートも人間にも、ゆとりがあったのだろうか。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)