ものを食べるとき、左の歯だけで噛む癖がある。口の中の、右半分はからっぽだ。
「左で十回噛んだら、右でも十回噛みましょう。左右で同じ回数を咀嚼することで、体のバランスが保たれます」
たしか、あるタレントが美を保つ心がけとして、こんなことを言っていた。
そこで、仕事が与えられず、窓際族と化した右側の出番である。暇を持て余している右の歯に、噛む仕事を与えてみたのだが……。左側の味覚ばかりが発達したのか、右側で食べてもさほど美味しく感じない。
舌先では「甘い」味を感じ、奥に進むと「塩辛い」「酸っぱい」味に敏感な場所がある。一番のどに近いところは「苦い」味を感じるところだ。
基本的には左右対称となっているから、右で噛んでも左で噛んでも同じ味になるはずなのに、どうして味が落ちてしまうのだろう?
やがて、仕事することに慣れていない右の歯は、頬の内側の肉を噛むという失敗をしでかした。
ううう、痛い……。
激しい痛みと血の味が、口の中に広がった。
結局、右の歯には仕事を任せられない。おかげで、酷使された左の歯はしょっちゅう虫歯になるし、銀歯が取れて歯茎は腫れるしで、もうボロボロだ。私がおばあさんになったとき、きっと左半分は残っていないだろう。でも、右半分は生き残るのではと思う。
一方、荷物を持つ手は右が多い。左手で持つこともあるが、やけに重く感じるのだ。どちらで持っても、同じ重さのはずなのに。
歯と同様で、交互に荷物を持ち替え、片方だけに負荷を与えないことが大切だと聞いたことがある。しかし、隙あらば怠けようとする左手に、それを求めることは難しい。
仮に、左手にバッグやスーパーの買い物袋を持たせたとしよう。5分も経たないうちに「もう持てな~い」と、ぶりっ子調で弱音を吐くのだ。
よせばいいのに、右手が奉仕精神を発揮し、「では、それがしが……」と荷物をバトンタッチすることになる。
かくして、右手は常に重いものを持たされ、左手はブラブラ遊んでいるというわけだ。
こんな毎日では体の歪みが心配なので、整体に行ってみたい。
働き者の左の歯と、労働をいとわない右の手で、うまくバランスが取れればいいのに~。
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「左で十回噛んだら、右でも十回噛みましょう。左右で同じ回数を咀嚼することで、体のバランスが保たれます」
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そこで、仕事が与えられず、窓際族と化した右側の出番である。暇を持て余している右の歯に、噛む仕事を与えてみたのだが……。左側の味覚ばかりが発達したのか、右側で食べてもさほど美味しく感じない。
舌先では「甘い」味を感じ、奥に進むと「塩辛い」「酸っぱい」味に敏感な場所がある。一番のどに近いところは「苦い」味を感じるところだ。
基本的には左右対称となっているから、右で噛んでも左で噛んでも同じ味になるはずなのに、どうして味が落ちてしまうのだろう?
やがて、仕事することに慣れていない右の歯は、頬の内側の肉を噛むという失敗をしでかした。
ううう、痛い……。
激しい痛みと血の味が、口の中に広がった。
結局、右の歯には仕事を任せられない。おかげで、酷使された左の歯はしょっちゅう虫歯になるし、銀歯が取れて歯茎は腫れるしで、もうボロボロだ。私がおばあさんになったとき、きっと左半分は残っていないだろう。でも、右半分は生き残るのではと思う。
一方、荷物を持つ手は右が多い。左手で持つこともあるが、やけに重く感じるのだ。どちらで持っても、同じ重さのはずなのに。
歯と同様で、交互に荷物を持ち替え、片方だけに負荷を与えないことが大切だと聞いたことがある。しかし、隙あらば怠けようとする左手に、それを求めることは難しい。
仮に、左手にバッグやスーパーの買い物袋を持たせたとしよう。5分も経たないうちに「もう持てな~い」と、ぶりっ子調で弱音を吐くのだ。
よせばいいのに、右手が奉仕精神を発揮し、「では、それがしが……」と荷物をバトンタッチすることになる。
かくして、右手は常に重いものを持たされ、左手はブラブラ遊んでいるというわけだ。
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