これは したり ~笹木 砂希~

面白いこと、妙なこと、不思議なことは、み~んな私に近寄ってきます。

2016 惜しい人

2016年12月29日 23時15分34秒 | エッセイ
 今年も、たくさんの著名人が亡くなっている。
「根津甚八が死んだって……。ショックだな」
 夫は今日、同年代のスターの死にショックを受けていた。
 7月に、九重親方が亡くなった際には、夫婦して「そんなぁ~」と悲鳴を上げた。ラグビーの平尾誠二氏のときにも、「早すぎるよね」と顔を歪めたものだ。
 年末を迎え、さらに訃報が続いている。
 スターウォーズファンの友人は、キャリー・フィッシャーの悲報に「信じられない」とコメントしていたが、翌日にはキャリーのお母さんまで亡くなったというから驚きだ。遺族の方が気の毒でならない。
 私にとって一番の衝撃は、元ワム! のジョージ・マイケルが、クリスマスに亡くなったことであった。
 ワム! はデビュー当時からよく聴いていた。「WHAM RAP!」「BAD BOYS」「WAKE ME UP BEFORE YOU GO GO」などはノリがいい。「LAST CHRISTMAS」「CARELESS WISPER」などは心に響く。「WHERE DID YOUR HEART GO?」「THE EDGE OF HEAVEN」なんかも、ジョージの伸びのある歌声を生かした曲で好きだった。
 そのジョージがいなくなったとは……。



 ジョージの死を惜しむのは、もうひとつ別の理由がある。
 20代の頃、とても好きだった男性がジョージに似ていたのだ。歴とした日本男児であったが、彫りの深い顔立ちがエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。決して、ジョージに似ていたから好きになったわけではないけれど、ワム! の歌を聴くたびに彼の顔が浮かんできて、やたらと幸せな気分になれたことを思い出す。
 まだ若かったせいか、当時はお互いにぶつかることが多くて、違う相手と結婚してしまった。でも、25年経った今でも年賀状のやり取りをしていたり、どこかで会ったときには言葉を交わしたりするのだから、彼の方も悪い気はしなかったようだ。もうちょっと頑張れば、別の人生が待っていたのかもしれない。
 亡くなる命があれば、生まれる命もある。
 3月に、プロゴルファーの東尾理子さんが第2子を出産された。不妊ではなく「妊娠活動をする」と公言された理子さんを、私はずっと応援していた。見事に、仕事との両立を果たされたわけで、直接お会いすることはないだろうが、遅ればせながら「おめでとうございます」と伝えたい。
 何年か前に卒業した生徒も、パパやママになっていて頼もしい。私はもう産めないけれど、若い人にはどんどん新しい命を誕生させてもらいたい。
 2016年も、あと2日で終わる。
 今年もご愛読いただき、本当にありがとうございました。


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2016 クリスマス会

2016年12月25日 22時02分38秒 | エッセイ

 毎年、天皇誕生日には、親族とのクリスマス会が待っている。
「私はケーキとテリーヌ、フルーツを持っていくわね」
 姉と妹には、前もってメールで連絡をしておいた。
「じゃあ、私は泡物とクラッカー、パテにしようかな。そうそう、お客さんから大きなチョコレートをもらったのよ。とても食べきれないから、みんなで食べようよ」
 姉はいつもアルコール係となっている。今年はそれに加えてチョコレートか。
 ん? 待てよ。となると、ケーキの種類が限られるってことね。
「今年はチョコレートケーキにしたのよ。で、こっちはチョコレート」
「えー、他のケーキなかったのぉ?」
 なーんてことになったら悲惨だ。チョコレートケーキは絶対に買っちゃいかん!
 私は気を引き締めて、オーソドックスなイチゴのデコレーションを予約した。
 そして迎えた当日。妹たちは、せっせと料理に励んでいたようだ。
「ミートソースを作ってみたけど、美味しいかどうか……」
 義弟が自信なさげに披露した。



 すかさず、姉が、いたずら心を起こしたような表情で尋ねる。
「セロリ入れたの?」
「入れてない」
「ふっふっふ~」
 どうやら、義弟はセロリが嫌いのようだ。ミートソースに入れるべきところを省略したから、姉にからかわれたのだろう。で、お味のほうは?
「うまっ」
「セロリなくても問題ないんだね」
 さっぱりしていて、挽肉の味が生きているミートソースだったから、大好評。飛ぶように売れた。
 こちらは、妹が作ったナントカジュレ。



 前菜にぴったりの軽さで、イクラでも食べられそうだ。なんて、寒いことを言っている場合ではない。
「キッシュは買ってきたヤツ。大豆を使っているんだって」



 義弟の説明に頷き、一切れ口に運んだ。うーん、ヘルシー。なかなかバランスがいいんでないかい?
「アタシも用意してきたんだよ。ほらこれ」
 母がタッパーを出して、皿に取り分け始めた。だが、それは、見間違いかと思う料理だった。
「ななな、なにそれ?」
「煮卵と茄子」
「はっはっは! だって、クリスマスだよ!?」



 思わぬ珍客もあったが、これが意外に美味しい。茄子は柔らかく煮えていたし、煮卵はしょうゆ味が利いていた。見た目で判断してはいけないと反省する。
 かくして、宴会は進んでいった。今年は料理が充実していたせいか、おしゃべりはそこそこに、食事を楽しんだ気がする。



 お腹がはち切れそうになっても、デザートは別だ。
「これが、白金台のショコラティエ・エリカっていうお店のチョコレートよ」
「うわあ、美味しそう!」



 中にはマシュマロやクルミなどが入っていて、結構なボリュームである。
「で、こっちがクリスマスケーキ」
「へー、可愛いじゃん」



 10等分に切り分けたケーキの隣に、これまた10等分にしたチョコレートを並べると、なかなかの迫力だ。まずは、フワフワのケーキからいただいた。だが、チョコレートの方は、硬くてフォークが刺さらない。少々行儀が悪いが、「エイッ」と手づかみで取り上げ、ガブリといくのが早い。チョコレートには適度な甘みがあるのに、マシュマロは予想に反して淡白だから、全然しつこくなかった。
 誰かに何かを贈るときには、エリカの商品も候補にしてみたい。
 宴会が終わったのは23時を回っていた。今年のカレンダーには感謝をしている。翌日は土曜で仕事がない。毎年、眠い目をこすりながら、早起きして電車に乗っていたことが嘘のようだ。
 天皇陛下が、生前退位をご希望されていることは、今年の10大ニュースのひとつである。
 今後、天皇誕生日がどうなっていくかはわからないが、親族で集まるイベントは続けたい。


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ロイヤルミルクなお飲み物

2016年12月22日 20時05分35秒 | エッセイ
 先月、ドトールに入ったら、ブルーベリー風味のロイヤルミルクティーがあり、なかなか美味しかった。
 でも、季節限定だったので、今月はすでになくなっていた。飲みたかったのに残念だ。
 ないとわかると、かえって欲しくなる。ちょうど、家には牛乳と紅茶の葉があった。
「よしっ、これからロイヤルミルクティーを作るぞ!」
 ドトール並みの飲み物ができるかどうか、自信はない。でも、楽しそうだから、ネットでレシピを確認しながら、見よう見まねで作ってみた。
 まず、茶葉を多めにすくい、耐熱容器に入れる。
 熱湯をかけて茶葉を開き、色が出やすくしておくのだ。
 水と牛乳を、1:3の割合で小鍋に入れて加熱し、沸騰直前で火を止める。
 小鍋に、開いた茶葉を投入し、蓋をして数分待つ。茶こしで濾して、カップに注げばできあがり。



 さて、お味のほうは……。
「なにこれ、うまッ!!」
 アッサムが、一番ロイヤルミルクティーに向いているようだが、私が使ったのはアールグレイ。これでも十分イケた。砂糖を入れていないのに、牛乳の甘みで十分こと足りる。紅茶の渋みは完全に中和され、実にまろやかだ。これなら、イライラしたときでも、気持ちが落ち着くに違いない。自家製だと、何でも美味しくできる気がする。
 しかし、そこで調子に乗ってしまうのが、私の悪いところである。
「日本茶を使ったら、どんな味になるんだろう……」
 もっぱら、私が好きなのは狭山茶だ。アールグレイの代わりに狭山茶を使い、ロイヤルミルク狭山ティーを作ってみることにした。
「抹茶ミルクみたいになるのかな?」
 好奇心を抑えられず、茶筒を開けて作り始めた。
 茶さじで3杯葉を入れる。でも、緑の色が濃くならない。ホットミルクのような仕上がりに、少々不安を感じた。



 果たして、お味の方は?
 牛乳にまみれながらも、一応、狭山茶の風味は残っている。しかし、抹茶ミルクのように調和がとれているわけではなく、お互いに「アンタ、邪魔なのよ!」「そっちこそ!」と罵り合っているような雰囲気だ。不味くはないが、美味しいともいえない。ひとつのカップの中で、狭山茶とホットミルクの不協和音が鳴り続けている味とでもいえばいいのか。
「これは、最初で最後にしよう……」
 かくして、ロイヤルミルク狭山ティーは、あっけなく消え去った。
 今度は、ロイヤルミルクジャスミンティーでも作ってみようかな?


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2016 忘年会

2016年12月18日 21時27分33秒 | エッセイ
 先週、通っているエッセイ教室での忘年会があった。
「そういえば、このメンバーで中華は食べていないじゃない? 今年は中華にしましょうよ」
「そうね、そうしようか」
 熟女たちは、ロケーションにもこだわる。丸ビル36階の、見晴らし抜群の家全七福酒家というお店に連れて行かれた。



 お料理も上品な味でよかったが、私には量が足りない。



 帰り道、虎屋東京でこんなプレートや



 コメダ珈琲で2人分はあろうというソフトクリームをいただき、ようやくお腹が満足した。



 胃拡張かもしれぬ……。
 さて、忘年会では、リーダーが毎回余興を考えてきてくれる。今年の余興は、「短所を長所に変えたいやき」というカードであった。
「はい、みなさん。これからカードを3枚引いてください。それがあなたの短所です」
「ええ~」
 メンバーから、どよめきが起きる。さて、どんなことが書いてあるのやら。
「じゃあ、笹木さん」
「はい」
 まずは1枚目。



 見た目はリアルなたい焼きだが、こんな辛辣なことが書いてあるとは! キイッ!!
 2枚目。



 これは当たっている。ドキッ!
 3枚目。



 これは違うんじゃね?
 一番心に突き刺さったのは「のろま」カードであった。実は、このとき、『本当は脳にいい習慣 やっぱり脳に悪い習慣』という本を読んでいる途中だった。



 認知症にならないための生活について書かれていたため、ぜひとも実行せねばと思っていたのだが、まったくできる自信のない項目があった。「十分な睡眠をとる」である。6時間半眠れば十分と書かれていたけれど、私の平均睡眠時間は5時間半。全然足りていない。
 風呂から出たあと、ふくらはぎのマッサージやストレッチ、目の体操などをしていると、知らぬ間に1時間経っている。だったら、風呂に入る時間を早めればいいのに、それができない。何とのろまなのか。
 かくして、ズルズルと就寝時間が遅くなり、毎日、寝不足のまま出勤している。こんなことの繰り返しでは、脳が萎縮していくのではないか。何とかせねば。
「じゃあ、今度はカードを裏返してください。先ほどの短所が、あなたの長所に変わります」
「へー」
 のろまの裏は



 行き当たりばったりは



 ミーハーは



「あはは、面白いわねぇ、これ」
 熟女たちにはウケていた。私も笑っていたが、頭の中では真剣に、風呂上がりのあとのことを考えていた。

「マッサージやストレッチを始める時間が遅いのよね。あと、ひとつが終わると座ってのんびりしちゃうところがいけない」
 その夜、私は、就寝前の時間の使い方を改善しようと試みた。モタモタから、キビキビに動作を変えると、無駄な時間が排除される。決して難しくはないのに、どうして今までやらなかったのか。
「やった~、今日は40分しかかからなかった!」
 いつも1時間かかっていた就寝前の儀式が、おかげで3分の2に短縮できた。これで20分多く睡眠を確保できる。もしかすると、他の作業も短時間でできるのではないか。
「よしっ、6時間半寝られるように、頑張ってみよう」
 思わぬところから、生活スタイルが変わっていく。
 今年の忘年会は、大きな成果があったなぁ。


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2016 今年の漢字

2016年12月15日 22時05分05秒 | エッセイ
 2016年の漢字は「金」。
 またかよ……。
 漢字は星の数ほどあるのだから、もっとバリエーションを豊富にしてほしい。
 さて、私にとっての今年の漢字は何だろう。
 うーん。
 「文」ではないだろうか。
 教員の世界では、文章が書けないと損をする。昇進試験には大概論文がつきものだし、「私はこんな取り組みをして、こんな成果を上げた」と申告するのも文章でだ。熱心で面倒見のいい先生なのに、文章力がないため、過小評価されている同僚を知っている。
 逆に、5時にはさっさと帰り、授業は手抜きの連続でも、それなりの論文を書けば昇進試験の合格率は高い。いや、決して私のことではないが。
 今年は4月から12月まで、論文や会議録、計画書などの提出に悩まされた。昨日も、大きな会議の記録を整理したばかりである。エッセイであれば、「〇〇は自分の発表が終わると、すぐさま寝に入った」とか、「××は、メモを取るふりをして内職を続けた」などと茶化すこともできるが、会議録ではそうもいかない。面白くない内容を淡々と書き連ね、キーボードの一部になった気持ちで進めないと、とてもやっていられない。
「やっと終わった!」と解放感を味わっても、何日か後には次の作文が待っていて、エンドレスである。
 書いている本人が「つまんね~」と思っているのだから、他人が読んだら「クソつまんね~」となるに違いない。モノ書きのはしくれとして、屈辱以外の何物でもないが、仕事だからやるしかない。
 


 そういえば、3月に卒業生を送り出して以来、学級だよりを書く機会がなくなった。
 月ごとの予定や日常の気づきに加えて、余ったスペースには作った料理や、出かけた場所を写真つきで書き込んでいた。毎日の学級日誌でも、生徒の感想にコメントを返したりして、自由度が高かった気がする。読んだ生徒が「クスクス」と笑ってくれると、「また明日も頑張ろう」と思ったものだ。
 もう担任を持つことはないかもしれないな……。
 ちょっぴり淋しいけれど、ますます増える「文」の攻勢に耐えていかなければ。


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ボーナスが出た~!

2016年12月11日 21時48分14秒 | エッセイ
 期末のボーナスが出た。新しい服を買いたい。
「年明けには服も値下がりするけれど、クリーニング代を考えると高くつきますね」
 同僚女性が嘆きが聴こえてきたが、もっともである。
 まずはクローゼットの整理をする。丈の短いスカートや、5年以上着ていない服は捨て、新しい衣装の場所を作らねば。
 それから店に行く。着心地も大事だが、私は断然デザイン重視。無難なものではなく、人目を引くようなインパクトが欲しい。フロアを隅から隅までうろついて、気の合いそうな服を探した。
 
 ほお、これはこれは。

 去年に引き続き、イッセイミヤケで足が止まる。
「プリーツ プリーズ」というブランドらしい。



 とても着られない奇抜なデザインもあるけれど、誰にでも似合いそうなデザインもある。店員さんとおしゃべりを交わしながら、欲しい服のイメージや色を伝え、商品を用意してもらった。
「パンツスーツであれば、こちらが4色揃っています」
「あら素敵」
「軽くて暖かい素材を使っています。ご試着いかがですか」
「はい」
 ペラペラで薄手の生地だから、とにかく軽い。身につけていないような感触だ。それなのに暖かいのが不思議である。残念なことに、パンツの裾が長くて、「殿中でござる」のようだった。
 キイッ!
「これは2号ですから、1号を持ってまいります。1号は少し裾が短いんです」
 店員さんが、ササッと小さなサイズを差し出した。再度チャレンジすると、今度はちょうどよかった。
 でも、メチャクチャ高かったら困るなと値札を見たら、上下で税込み5万円ほど。これなら手が届く。
「お洗濯はどうしたらいいですか?」
「ネットに入れて洗濯機で洗えます。逆に、ドライクリーニングはできません」
「へえ、便利ですね、これ、いただきます」
 冒頭の同僚女性ではないが、クリーニング代ゼロなら、かなりお得なのではないか。デザインも着心地も維持費も花丸で、もはや言うことがない。
「そういえば、10月頃にコートが出ていましたね。もうないんですか」
 ふと思い出し、店員さんに尋ねてみた。
「10月頃の商品は、もう残っていませんね。2週間に一度くらいで新商品が入ってくるんですが、売れても補充されないんです。また、別のデザインが出てくる感じなので、気に入っていただいたら、そのときお買い求めいただくのが一番ですよ」
「なるほど」
 お会計を終え、家に帰る。思わず笑顔になって、商品の入った袋を開けると、花丸の服がジャジャーンと登場した。



 うふふふふ~♪

 いつまでも若くはない。これからは、年相応の装いを目指そう。
 決して安くはないが、2週間に一度は、プリーツ プリーズを覗いてみたい。


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3年白組

2016年12月08日 20時43分40秒 | エッセイ
 今時分は、期末テストの終わった高校が多いのかもしれない。
 私の勤務校は、今日が最終日であった。試験監督のため、3年生のあるクラスに行くと、教室内に白が目立っていた。マスクの白である。このクラスは、他のクラスに比べて、マスクをつけている生徒がやたらと多い。
 いち、にい、さん、しい……。
 数えてみると、32人中18人がマスクをしていた。半数以上である。これでは、白く見えるはずだ。

 真面目な子が多いクラスだからかしら。風邪をうつされないように、予防しているみたい。
 
 一概にそうとは言い切れない。教室の暖房は20度に設定するよう決められているから、教室内は結構寒い。マスクで暖をとろうと考える生徒がいてもおかしくない。
 対人コミュニケーションが苦手で、他人との距離を作るためにマスクをする生徒もいる。つけているだけで、落ち着くのだと聞く。ストレスの多い試験期間中は、なおさらだろう。
 個人的は、息苦しくならない立体マスクが好きだが、主流は安価なプリーツ型である。



 このクラスでも、全員がプリーツ型を使用していた。毎日使うものだから安定した需要があるとはいえ、激しい価格競争の結果、適正な利益が出ているのか謎である。
 私も、通勤電車の中ではマスクをしている。仕事に疲れたときなどは、「熱が出たら休めるから、風邪ひかないかな~」と思うこともあるのだが、インフルエンザなんぞをもらった日には目も当てられない。イケメンからもらった菌なら許せる可能性はある。しかし、目つきのおかしい変質者っぽいオヤジからうつされたら、しばらく立ち直れない気がする。やはり、マスクは大事なのだ。
 試験中は暇で、そんなくだらないことを考えていた。
「失礼します」
 ノックの音とともに、出題者の20代女性教諭がドアを開けた。
 彼女もまた、プリーツ型のマスクをしている。

 19人目~!

 シンと静まった教室で噴き出しそうになり、私はグッとこらえた。


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ついでの幸運「ダリ展」

2016年12月04日 21時52分24秒 | エッセイ
 秋から冬にかけて、観たい展示が目白押しだ。
 デトロイト美術館展、ラスコー展、モードとインテリアの20世紀展などなど、せっせと美術館・博物館通いをしている。それなのに、職場の同僚と情報交換をしたものだから、ますます増えてしまった。
「シマダ先生、何かおススメの展覧会はありますか」
 シマダさんは、59歳の紳士で英語科教員である。若冲展のよさを教えてくれたのは彼だったので、感性が似ているのかもしれない。
「ダリ。ダリ展がよかったです」
「へ、ダリですか? あれって、シュルレアリスムでしたよね。マグリットがダメだったので、好きになれないかも」
「いやいや、マグリットよりもずっと上手いですよ。わけわかんないのもありましたが、そうじゃないのも多いですから、時間があれば行ってみてください」
「はーい」
 ダリ展は国立新美術館で12日まで公開している。行くなら早い方がいいだろう。
 2日の金曜日は、大きな会議が終了して肩の荷が下りたので、どこかに出かけたくなった。
「よしっ、ダリ展に行ってこようっと」
 そんな勢いで、乃木坂までひとっ飛び。行け行け~!
 ダリは1904年にスペインに生まれ、1989年に亡くなっている。つい27年前まで生きていたのだから、若い画家である。てっきり、19世紀に活躍したのかと勘違いしていた。構図や色彩に、モダンな印象を受けるのは当たり前だ。
 ピカソに影響を受け、キュビスム風の自画像などを残していることは知らなかった。1929年にはシュルレアリスムの仲間入りをするが、ヒトラーへの共感を公言したことから、1938年には除名されている。空気の読めないヤツだったのだろう。
 でも、ダリの人気は相当高いものだったらしい。除名後も、国際シュールレアリスム展などには必ず招待されていたというから恐れ入る。
 1929年には妻となるガラに出会い、互いに強く惹かれて、1934年には結婚している。ガラをモデルに描いた作品も多く、運命の人に出会えたダリを羨ましく思う。
 第二次大戦中は、戦禍を避けてアメリカに亡命するが、ヒッチコックの「白い恐怖」の舞台装置を手掛けるなど、活動範囲が広がっていく。1949年には宝飾品のデザインも始め、いくつかの作品が展示されていた。私は「トリスタンとイゾルテ」というタイトルの作品に心惹かれた。
 作品全般から、ダリの魅力は、安定感のある構図と卓越した色彩感覚なのではという印象を受けた。デッサン自体は、どの画家も上手い。しかし、色の塗り方が雑だったり、「ここにこの色?」と疑問を持ったりすることがある。でも、ダリにはそれがまったくない。完璧なグラデーションから生み出される立体感も、質感も、写真以上に表現されている。この画家は、自分で名乗ったように「天才」なのである。
 気に入った作品のポストカードを購入した。
「謎めいた要素のある風景」
 小さく描かれている画家は、ダリが敬愛したフェルメールだそうだ。



 この空の大きさがうれしい。生きている限り、人間関係の悩みは尽きないが、この絵の広大さに比べたら、人の一生なんぞ米粒のようなもの。「あんたが思い悩んでいることなんて、耳垢程度のもんさぁ」と軽くいなされた気分になれる。お守り代わりに飾っておこう。
「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」
 これは、1945年の広島、長崎への原爆投下を受けて描いた絵だという。「あの爆発の知らせが私に与えた大きな恐怖」と説明されていた。



 混乱、破壊、喪失、虚無……。
 そういった単語が次々に浮かんできた。ピカソの「ゲルニカ」に通じるものを感じたのは、私だけではないだろう。日本人として、この絵は手元に置いておきたい。
「素早く動いている静物」
 一番気に入ったのがこの作品だ。



 意味はまったくわからないけれど、テーブルクロスやボトルの質感が素晴らしい。



 こぼれる水が、上に流れていくところも好きだ。ツバメも飛んできて、何やらワクワクしてしまう。
 シマダさんに教えてもらわなかったら、こんなに素晴らしい絵を見逃すところだった。
 危ない、危ない。
 明日、出勤したら、真っ先にお礼を言わなくちゃ。


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切り紙の神様

2016年12月01日 21時58分58秒 | エッセイ
 進路の決まった高校3年生はやる気がない。
 授業をしていても、寝てしまったり、しゃべってしまったりで、集中力もない。
 私の科目は美術系。課題を仕上げるだけで、期末テストを実施しないから、余計に勉強モードにならないのかもしれない。ないないづくしである。
「ううーん、何かもっと、モチベーションの上がる教材はないかなぁ」
 ヒントを求めて図書室に行ってみた。
「ややっ、これはこれは!」
 すぐに、いいものが見つかった。



 切り紙というアートは知っているが、難しくて見るだけのものかと思っていた。
 でも、そうではなかった。
 この本に載っている型を使えば、簡単に素敵な切り紙が完成する。
 たとえばこれ。



 折り紙を半分に折り、ハサミで絵の外側を切れば天使が登場する。



「おお~」
 ちょうど、12月になったことだし、テーマはクリスマスにした。
 さて、これは?



 ろうそくでした。



 これは、おわかりになるだろう。



 クリスマスツリーでした。



 ちなみに、星の部分を切り取るのが難しく、下手するとこうなる。



「キエ~ッ!」
 星のもげたツリーにショックを受け、思わずキジのように、けたたましい悲鳴をあげた。
 じゃあ、これは?



 リボン!



 ふむふむ。今度は難しいですよ。
 紙は6つ折りにします。



 ????



 はい、雪の結晶です。
 最後に、8つ折りにした、これはわかりますか。



 いや、全然。



 薄氷です。難易度高いっす。
 すっかり気に入り、型紙を作って折り紙に印刷する。折り目と切り取り線がわかれば、ハサミを使って、誰でも切り紙を楽しむことができるからだ。
 さて、だらけた3年生にウケるかな?
「先生、何これ?」
 生徒は目新しいことが好きだ。教材を並べておいたら、すぐに近寄ってきた。
「点線で折って、実線のところを切るの。いろいろな絵ができて面白いよ」
「ふーん」
 多くの生徒が「全種類制覇する」と意気込んで折り紙を取っている。席に着き、ハサミを動かし始めると無言になる。
「できた」
 完成した図案を広げるときの期待感といったらない。予想を遥かに超える作品が出来上がるので、生徒の顔にも笑顔が広がる。
「すごい」
「やばい」
 今の子どもは、ゲームなどのバーチャルな遊びで育ってきたから、紙を切るなどのアナログ作業は経験が浅い。手先を動かせば、次々と美しい絵柄を生み出せることに驚いているようだ。
「面白いね、これ」
 次々と折り紙が減っていく。居眠りやおしゃべりもなく、彼らはひたすらハサミを走らせていた。できた作品は紙に貼り、クリスマスらしくデザインする。中には、切り取り線をアレンジして、オリジナルの絵柄を作り出す者もいる。「やっぱりプレゼントがないとね」などとつぶやきながら。
 もしかすると、今までで一番集中した授業だったかもしれない。
 何しろ、チャイムが鳴っても、まだ作業を続けている生徒がいたくらいだから。
「先生、余った折り紙、もらってもいい?」
 家でやりたいのか、持ち帰る生徒もいて、かなりビックリする。
 今日の授業はハナマルだ。
 こんなに高度な作業を、わかりやすく本にまとめ、誰にでもできるようにしてくれた作家さんに感謝感謝。
 すっかり、イワミ カイさんのファンになった。
 紙さま、もとい、切り紙の神様と呼ばせていただきます!


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