時たま登場する将棋ネタです。
今回は藤井聡太王位・棋聖についてです。
デビュー以来数々の最年少記録を更新し、昨年はついに初タイトルである棋聖を獲得して更には王位も続けて獲得して2冠王に。10代での複数タイトル保持は正に前代未聞の出来事です。
多少は将棋に興味のある人が「人が思い付かない手を指す」と評したりする事があります。確かにそれは彼の強さの一面であって、決して間違った見方ではないとは思いますが、どうも物足りないというかその言葉を聞いた人が誤解する可能性があるような気がします。
「思い付かない手を指す」からと言って、それは決して意表を突くとか相手を惑わすとかそういった意味ではありません。
変わった事をやるから、それで相手の調子が狂ってミスをしてそれで勝つとか、「ああ、あれのおかげでやられたなあ」とかそんな事はありません。
ちょっとした思い付きだとか、ひたすら相手の読みを外したから勝てるだとか、将棋というのはそんなに底の浅いゲームではないし、ましてやプロの世界でそんな事で勝ち続けられるようなものではありません。
思い付かない手・驚くような手というのはつまりはそれだけの『力』あるからこそ発見出来るわけで、速く深い読みを武器に盤面全体を把握して高いレベルから手を読んでいるからこそそんな凄い手が指せるのです。
デビュー当時というかデビュー前から彼の終盤での読みの力というのは高く評価されてその将来性を恐れられさえしていました。読みの速さだけで言えば14歳の時で既に名人を上回っていたと言えるでしょう。
だけど将棋で勝つためには他にも色々な条件があります。序盤作戦や大局観、間合いの計り方、トップクラスの押し引きの強さや駆け引き、長い持時間での戦い方や工夫の仕方……「18歳くらいで一つのピークを作りたい」と14歳当時の藤井2冠が言ったようにまだ足りないものを自分自身で感じていたのではないでしょうか。
順調に昇段・昇級を重ね実力をつけ、昨年にとうとう高校在学中にタイトルを獲得しました。(この世界ではクラスを上げないとなかなかタイトルに挑戦するのが難しいという面があります)
タイトルを獲るという事は最強の一角となるという事です。
彼の将棋は正に王道を行く将棋で、特に対戦相手を研究したりとか、相手に合わせて何かを変えるとかそういった面が見えませんでした。自分の信じる道を貫くだけで、それでずっと勝って来ました。序盤作戦に関しては学業との両立の難しさからか限られた戦法を指していて、対戦相手からすると対策を立てたり研究して狙い撃ちのし易い作戦のレパートリーでした。
それでも高い勝率を誇ったのはその限られた作戦を徹底的に深く研究していたし、やはり力の強さが桁違いであり信じられない底力を持っているのでした。
今年2月についに高校を自主退学して、全ての時間を将棋の勉強に向けられるようになりました。すると彼は今迄と違った面を見せるようになりました。それまで苦手だと言われていた戦法を自ら進んで採用して(相手の誘導でやむを得ず、ではなく)それを見事に使いこなしたのです。
これは明らかに苦手戦法を克服する勉強をして、それが実ったという事実を周囲に知らしめました。
これまでにもいくつかの弱点とかまだ力不足な面とかを囁かれてきましたが、それらを驚くべきスピードで克服して恐ろしい成長力を見せてきました。
とにかくそういった流れの中で、最初のうちは分が悪くても段々と克服して互角の流れにして更に勝ち越す、という事を色んな強敵を相手に成し遂げてきました。そうした流れで順調に成長を続けてついにタイトルを獲りました。
特に現役最強と言われる渡辺明3冠に対して相性が良いのが大きく、対戦成績は8勝1敗。タイトル戦の勝敗も2勝0敗です。
殆ど視角が無いと言ってもいいでしょう。
しかしそんな藤井2冠にも相性の悪い天敵とも言える存在がいました。それが最強の双璧とも言える豊島将之2冠でした。
昨年までの対戦成績は0勝6敗。
デビュー直後は明らかに豊島2冠が格上だったようです。だけどその後の成長でトップクラスと肩を並べる位置にまで来たというのに、それでも何故か豊島2冠にだけは勝てませんでした。
いくら何でもこのまま負け続けるわけもないし、勝つのは時間の問題に見えました。そしてようやく今年に入って初白星を上げました。しかし時間の短い将棋での勝利で、本当に追いついたとは言い切れない状態でした。
そしてついにタイトル戦での激突。出だしこそ黒星でしたが、その後の対局でついに両者の力関係が逆転したかと思わせる展開になってきました。
藤井2冠の将棋に変化が見えました。
ジリジリとした展開の中で辛抱を重ねて、機が熟するまで前に出ない、徹底的に間合いを計って相手の足を浮かせるような蟻地獄のような将棋。洗面器に顔を突っ込んだような我慢比べ……
渡辺3冠にはそのままのスタイルで通用しても、どうやら豊島2冠には通じないようでした。
どうした豊島2冠に勝てるか、必死に考えて対策を立てて、血のにじむような研究を重ねてようやく身に付けた攻略法でした。
妥協というよりは芸域を広げたと言うべきでしょう。渡辺3冠の将棋には王道で通じた、それは渡辺3冠の将棋も王道の将棋だった。豊島2冠はやや足が遅いというか複雑な作戦や間合いの計り具合があり、その攻略を見付ける事で将棋の別の一面、深奥に触れたのではないでしょうか。
歳の差で時間さえ経てば勝てる、という生易しいものではありませんでした。成長なくしては決して勝てない相手でした。
まだ10代。並のプロならまだ奨励会の修行時代でデビューすら出来てないような年齢で、驚異的な成長力でトップクラスにまで登って、そして最強の棋士に勝つために悩んで悩んで必死に勉強を重ねた……日々、信じられないような世界が展開されているのです。
今回は藤井聡太王位・棋聖についてです。
デビュー以来数々の最年少記録を更新し、昨年はついに初タイトルである棋聖を獲得して更には王位も続けて獲得して2冠王に。10代での複数タイトル保持は正に前代未聞の出来事です。
多少は将棋に興味のある人が「人が思い付かない手を指す」と評したりする事があります。確かにそれは彼の強さの一面であって、決して間違った見方ではないとは思いますが、どうも物足りないというかその言葉を聞いた人が誤解する可能性があるような気がします。
「思い付かない手を指す」からと言って、それは決して意表を突くとか相手を惑わすとかそういった意味ではありません。
変わった事をやるから、それで相手の調子が狂ってミスをしてそれで勝つとか、「ああ、あれのおかげでやられたなあ」とかそんな事はありません。
ちょっとした思い付きだとか、ひたすら相手の読みを外したから勝てるだとか、将棋というのはそんなに底の浅いゲームではないし、ましてやプロの世界でそんな事で勝ち続けられるようなものではありません。
思い付かない手・驚くような手というのはつまりはそれだけの『力』あるからこそ発見出来るわけで、速く深い読みを武器に盤面全体を把握して高いレベルから手を読んでいるからこそそんな凄い手が指せるのです。
デビュー当時というかデビュー前から彼の終盤での読みの力というのは高く評価されてその将来性を恐れられさえしていました。読みの速さだけで言えば14歳の時で既に名人を上回っていたと言えるでしょう。
だけど将棋で勝つためには他にも色々な条件があります。序盤作戦や大局観、間合いの計り方、トップクラスの押し引きの強さや駆け引き、長い持時間での戦い方や工夫の仕方……「18歳くらいで一つのピークを作りたい」と14歳当時の藤井2冠が言ったようにまだ足りないものを自分自身で感じていたのではないでしょうか。
順調に昇段・昇級を重ね実力をつけ、昨年にとうとう高校在学中にタイトルを獲得しました。(この世界ではクラスを上げないとなかなかタイトルに挑戦するのが難しいという面があります)
タイトルを獲るという事は最強の一角となるという事です。
彼の将棋は正に王道を行く将棋で、特に対戦相手を研究したりとか、相手に合わせて何かを変えるとかそういった面が見えませんでした。自分の信じる道を貫くだけで、それでずっと勝って来ました。序盤作戦に関しては学業との両立の難しさからか限られた戦法を指していて、対戦相手からすると対策を立てたり研究して狙い撃ちのし易い作戦のレパートリーでした。
それでも高い勝率を誇ったのはその限られた作戦を徹底的に深く研究していたし、やはり力の強さが桁違いであり信じられない底力を持っているのでした。
今年2月についに高校を自主退学して、全ての時間を将棋の勉強に向けられるようになりました。すると彼は今迄と違った面を見せるようになりました。それまで苦手だと言われていた戦法を自ら進んで採用して(相手の誘導でやむを得ず、ではなく)それを見事に使いこなしたのです。
これは明らかに苦手戦法を克服する勉強をして、それが実ったという事実を周囲に知らしめました。
これまでにもいくつかの弱点とかまだ力不足な面とかを囁かれてきましたが、それらを驚くべきスピードで克服して恐ろしい成長力を見せてきました。
とにかくそういった流れの中で、最初のうちは分が悪くても段々と克服して互角の流れにして更に勝ち越す、という事を色んな強敵を相手に成し遂げてきました。そうした流れで順調に成長を続けてついにタイトルを獲りました。
特に現役最強と言われる渡辺明3冠に対して相性が良いのが大きく、対戦成績は8勝1敗。タイトル戦の勝敗も2勝0敗です。
殆ど視角が無いと言ってもいいでしょう。
しかしそんな藤井2冠にも相性の悪い天敵とも言える存在がいました。それが最強の双璧とも言える豊島将之2冠でした。
昨年までの対戦成績は0勝6敗。
デビュー直後は明らかに豊島2冠が格上だったようです。だけどその後の成長でトップクラスと肩を並べる位置にまで来たというのに、それでも何故か豊島2冠にだけは勝てませんでした。
いくら何でもこのまま負け続けるわけもないし、勝つのは時間の問題に見えました。そしてようやく今年に入って初白星を上げました。しかし時間の短い将棋での勝利で、本当に追いついたとは言い切れない状態でした。
そしてついにタイトル戦での激突。出だしこそ黒星でしたが、その後の対局でついに両者の力関係が逆転したかと思わせる展開になってきました。
藤井2冠の将棋に変化が見えました。
ジリジリとした展開の中で辛抱を重ねて、機が熟するまで前に出ない、徹底的に間合いを計って相手の足を浮かせるような蟻地獄のような将棋。洗面器に顔を突っ込んだような我慢比べ……
渡辺3冠にはそのままのスタイルで通用しても、どうやら豊島2冠には通じないようでした。
どうした豊島2冠に勝てるか、必死に考えて対策を立てて、血のにじむような研究を重ねてようやく身に付けた攻略法でした。
妥協というよりは芸域を広げたと言うべきでしょう。渡辺3冠の将棋には王道で通じた、それは渡辺3冠の将棋も王道の将棋だった。豊島2冠はやや足が遅いというか複雑な作戦や間合いの計り具合があり、その攻略を見付ける事で将棋の別の一面、深奥に触れたのではないでしょうか。
歳の差で時間さえ経てば勝てる、という生易しいものではありませんでした。成長なくしては決して勝てない相手でした。
まだ10代。並のプロならまだ奨励会の修行時代でデビューすら出来てないような年齢で、驚異的な成長力でトップクラスにまで登って、そして最強の棋士に勝つために悩んで悩んで必死に勉強を重ねた……日々、信じられないような世界が展開されているのです。