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最終回文庫 ◇◇雑然と積み上げた本の山の中から面白そうなものが出てきた時に、それにまつわる話を書いていきます◇◇

※2011年9月以前の旧サイトで掲載した記事では、画像が表示されない不具合があります。ご容赦ください。

私のコレクション 内田魯庵『讀書放浪』

2025年04月28日 | 内田魯庵
内田魯庵『讀書放浪』斎藤昌三・柳田泉/編纂 昭和8(1932)年4月3日 書物展望社/発行

最初は、昭和7年6月に「限定版」として1000部を刊行。それが僅かの間に売り切れたので、改訂増補を兼ねて、「普及版」として1000部を刊行したとあります。
限定版は天小口が藍染で、布袋に入っていたようですが、手元の「普及版」は函もジャケットも無い「裸本」です。
古書店の販売目録に載っている普及版は、ほとんどが「裸本」です。その訳は、普及版の本体は「輸送函」に入っていたために、函は捨てられてしまい、結果、裸本が多くなったと推測できます。

本書の装幀に使われたのは日刊新聞。

せっかくなので表紙全体を。
新聞紙そのものだと耐久性に乏しいので、工夫して、布以上の耐久性があるという加工法を発見して応用したという記述があります。

見返しは、内田魯庵の蔵書票2種で、右上は本名の「内田貢」、左下は木村荘八が描いた土俗玩具だそうです。


表題紙


目次の一部


奥付


刊行順で言うと、以前の記事で取り上げた『紙魚繁盛記』(昭和7年2月)と、前の記事、『續紙魚繁盛記』(昭和9年4月)が刊行される間に出版されました。

私のコレクション 内田魯庵『續 紙魚繁盛記』

2025年04月26日 | 内田魯庵
内田魯庵『續 紙魚繁盛記』斎藤昌三/編纂 昭和9年4月10日 書物展望社/発行



表紙

正編の天小口は「天金」でしたが、本書の天小口は銀色のような金属光沢があります。装幀に触れたところにも、天小口の装飾について書かれていません。

見返し

斎藤昌三が書いた「跋」に「『当世作者懺悔』を連載した「日本之少年」誌上に文芸滑稽欄があって、そこに挿絵とされたものがどうやら翁の好み、若しくは翁の関係あるもののやうに思惟されたので、翁の趣味の一端を生かす方便に応用して見た」とあります。

表題紙

目次の一部


奥付


何気なくページをパラパラとめくっている時に、小さな朱印があり、あれっと思いました。

印の部分を拡大します。

どっかで見たぞ。それも、ちょっと前に。そう、前の記事で紹介した内田魯庵『紙魚繁盛記』のマエ見返しを紹介した時に見たものでした。

虫食いのある本の一葉を裏打ちして使用したものですが、そこに押してあった印と同じなのでは? その部分を拡大します。

右から読むとすると、「〇静昭太〇」でしょうか。ほとんど同じですね。

『紙魚繁盛記』と、この『續紙魚繁盛記』は神保町の別々の古書店で、別々の時期に購入したものです。どちらの本も神保町に流れてくる前は、大阪の古書店に並んでいたことが、それぞれの本の後ろ見返しに、難波の「十二段家」と阿倍野区の「土田書店」のシールが残っていることからわかります。
この朱印の主がどこかにからんでいて、今は2冊とも私の手元にあるという、不思議な巡りあわせがあるんですね。
朱印の主が『紙魚繁盛記』を購入してから押したのではなく、前見返しに使われた、虫食いがある和本の元々の所蔵者だったりしたら、もっとスケールが大きな話になりますね。




私のコレクション 内田魯庵『紙魚繁盛記』 

2025年04月24日 | 内田魯庵
内田魯庵『紙魚繁盛記』斎藤昌三・柳田泉/編纂 昭和7(1932)年2月10日 書物展望社/発行

内田魯庵(1868年5月26日~1929年6月29日)の没後に刊行されたもので、編纂者の斎藤昌三の造本のこだわりが、至る所にちりばめられています。

函貼りは砂糖袋の紙を使い、「粋と甘いを利かしてみた」そうです。

表紙(セロファン紙が貼り付けてあるので、そのままスキャンしています) 

かぶせたセロファン紙が糊付けしてあるので、表紙に使われている布の感触を直接触れたことがなく、色合いからビロードだと何となく思い込んでいました。
ところが、斎藤昌三の「あとがき」を見てビックリ。表紙に使われている素材は「酒嚢」。「酒嚢」とは何かを調べると、「伝統ある造り酒屋で、日本酒の製造工程で、もろみを入れてお酒を絞るときに使われた綿の袋」なのだそうです。その袋には強度が求められるため、手織木綿(帆布)を柿渋に漬けた布が使われます。長年使用することにより、日本酒の成分と柿の渋が絡み合い、独特の色とむらが生じるのだそうです。
それを表紙素材として選んだ斎藤昌三の見識が素晴らしいですね。

表題紙

内田魯庵の近影のページの後に、蔵書票の紹介


その次に限定部数の表示ページがあります

目次の一部

□魚 の項のページを開いてみると、「」が朱色で印刷されています。


奥付 限定部数がここには表記されていません

斎藤昌三の趣意はこれだけにとどまりません。表紙から開き直してみます。
まずは、本の天小口は「天金」です。

オモテ見返し (右ページの半分はセロファン紙がかかっています)


ウラ見返し(左側半分にはセロファン紙がかかっています)


オモテ見返しとウラ見返しに銀色の、和紙を食い荒らす「紙魚」が印刷してあります。それだけではなく、見返し紙には虫食いがある和紙を印刷したのではなく、実際に虫食いがある和紙を使っているのです。触ると、虫食い跡が分かります。見返し紙をこのようにするために、虫食い本を集めたのだそうです。――ということは、一冊ずつ見返しが異なるということになります。いやはや、恐れ入ります。

そんな手の込んだ本を「買って満足」と、ただ積んでおいたのでは、バチが当たりますね。