最初に取り上げるのは、旺文社文庫版の内田百閒(うちだひゃくけん)作品。このシリーズは1979~1990年にかけて39冊が刊行され、すべて田村義也さんが装幀しています。
全冊揃えているわけではないので、手持ちの表紙を並べます。
内田百閒は夏目漱石門下のひとりで、最後の門下生として1971年に亡くなりました。
生涯において単行本が何冊出たのか把握していませんが、随筆を読んでいると、借金をしにあちこちに行っている感があります。
単行本とは別に全集や作品集が出ていたはずだと、記憶をたどると……古書展で函がヤケて茶色くなっている端本をときどき見かけたのは、版画荘版『全輯百閒随筆』(全6巻 1936~1937年)。全集は講談社版『内田百閒全集』(全10巻 1971~1973年)と、福武書店版『新輯内田百閒全集』(全33巻 1986~1989年)がありました。
……と書きながら、そういえば、六興出版からシリーズで出ていたことを思い出しました。
漏れがあるかもしれませんが、1980~1984年に刊行されました。
『サラサーテの盤』『青炎抄 内田百閒創作全輯』『たらちをの記』『内田百閒短編全輯』『大貧帳』『定本阿房列車 全』『居候匆々』『比良の虹』『狐の裁判』『王様の背中 絵入りお伽噺』『猫の耳の秋風』『鬼苑乗物帖』『定本 阿房列車』『阿房列車の車輪の音』『阿房の鳥飼』『贋作 吾輩ハ猫デアル』『百鬼園言行録』。
ずいぶんたくさん出ていたんですね。
文庫判で出たのは……
新潮文庫から『百鬼園随筆』『第一阿房列車』『第二阿房列車』『第三阿房列車』
中公文庫から『御馳走帖』『ノラや』
岩波文庫から『冥途・旅順入城式』『東京日記』……。
福武文庫から1990年~1994年にかけて出た30冊の装幀は、田村義也さんが手がけていました。
ちくま文庫の「内田百閒集成」シリーズもありました。『百鬼園写真帖』を入れて2002~2004年の間に24巻が刊行されました。
旺文社文庫に戻って……
39巻の完結を記念して発行されたのが『百鬼園寫眞帖』(1984年)。
サイズは文庫本ではなく、単行本です。
ジャケットを見ると、画題は「鬼の三味線引図」と呼ばれる、大津絵の中でも人気の高い絵柄です。この版画、誕生した頃は庶民のものだったのが、かなり早い時期から日本国内にとどまらず、コレクションの対象になっていったようです。その大津絵を素材にして、コピーで拡大縮小、濃淡の強弱をつけながら作業を繰り返し、ホワイトで修正を加えてスミの版下を作り、そこに色指定をして入稿原稿を作っていったのだと思います。
「店頭ではっきり書名が読めなければならない」というのが持論で、どのジャケットを見ても、まず書名が目に飛び込んできます。この書体も選んだ写植の書体から扁平率を変えたり、線を書き加えたり削ったりしながら作り上げていくのです。写植をベースにせずに、ご自身の書き文字という場合もあったに違いありません。
帯は装幀者にとっては表紙のデザインが一部分隠れてしまうので、やっかいな存在に違いありません。しかし営業的に見れば、いかに内容が素晴らしいかをアピールするためのものでもあります。
帯を外した状態。
帯がかけられることを前提にデザインされていることが分かります。
帯は破れてはずれてしまうこともあるので、帯が無くても間が抜けないように考えられているのです。
しばらく田村義也装幀本を紹介することにしますので、お付き合いください。
国会図書館の蔵書検索で調べましたが、巻数に誤りがあるかもしれません。お気づきの点はご指摘ください。