ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 205エリック関空へ 八月十六日、今日は三日間のお盆の最後の日である。 京都では、大文字の送り火がある。 大文字焼きと市民に親しまれているものである。 カメラマンがカメラを持っているのが大変そうである。 京都市左京区の東山・如意ケ獄に登る。 山といっても、そんなに高い山ではないので軽装の人たちが多いが、きちんとした靴をはかないと辛いだろうと思う。 朝早く、マイクたちは大文字の送り火の準備をしている山に登る。 「京都は山に囲まれているから、山菜がうまいなあー」 と、マイクが勉に話しかけた。 「そうかい、お茶もいいものがあるよ。日本一の玉露を飲ませてあげるよ。他のお茶とは味が違うからね。でも、あまりも贅沢品だからなあ。滅多に飲めない代物だよ」 「川があるなあー。何か生き物いないかなあー」 「僕の子供のころには、サワガニがいたよ。でも、採取しないでくれよ。環境保全だよ」 「そんなの常識だろう」 岩を持ち上げる勇気。 「ほら、いたいた」 小さなサワガニが驚いて逃げ出した。 山頂付近には、大文字保存会の関係者のメンバーをはじめ大勢の市民らが集まっている。 山頂付近で見ているマイクたち。 テレビカメラはマイクたちや、大文字の送り火を準備している人たちを撮影している。 作業をしている人たちは井桁に木を組んでいる。 時おり涼風が吹いてくる。 「自然があるのはいいなあー」 「京都の街はいろんなビルがたって、西洋化されているのが残念だなあー」 「僕もそう思う。でも、木造なら高層化は無理だし、多くの人が住むことはできないものなあー」 「京都タワーは東大寺の蝋燭といわれているらしいね。でっかい蝋燭だなあー」 と、マイクは喜んでいる。 「京都はごらんのように、盆地だから、自動車などの排気ガスが出て行きにくい構造になっている」 「ここはいい空気だよ。深呼吸しようよ」 「この作業をしているのも、ディズニー・ランドの職員ではなくて、京都の市民の人たちだよ。京都っていいなあーと思うよ。文化はお金を出して買うものだと思っている人たちが多くなっているのは、何か精神的には貧しくなってきている感じがするよ」 「いいこというじゃん」と勇気。 「汗が出てくるが、いい気分だ。もう少ししてから、ホテルに帰ろう」 鳥が飛んでいたり、白い雲をながめたり、自然とは本当にいいものだ。 心がくつろいでいく。楽しい気分になり、気持ちにゆとりが生まれてくるようだ。 テレビではエリックが大阪の新国際空港、通称“関空”に降り立つのが見えた。 マスコミがかけつける。 「今日は、お仕事ですか」 「また、日本のテレビ局を買収するのですか?」 矢継ぎ早の質問。 そんなことにも慣れているエリック、表情一つ変えない。 「あっ、京都の大文字の送り火を、子供たちと見ようと思ってやってきたのです」 「わざわざ?」 テレビを見ていた勉は疑問を持った。レポーターも同様の質問をしていた。 「イベントの終わりですし……」 「イベントって、あの宇宙船「地球」号ですか?」 「そうです……」 「あなたらしくない、企画ですね」 辛辣な意見が投げかけられる。 さすがのエリックも困っていた。
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