ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第一部ブロック・バスター 029体現? ![]() 医師は少年の足を見ていた。父親は医師に説明した。 「こうなるのに、一年以上かかりました。 半年くらいで一度なおりましたが、ご覧のように引きつりになったところが、 またすぐに切れて、傷になるのです」 少年は、両下腿の上部から、足の甲にかけて、強い熱線を受けていた。 両側が全く同じような障害を受けていることは、 真正面からの一撃だったことを示している。 行者と勇気は、広島の街にいた。 あの母親が子供を抱いている。 「まさか、原爆!今から受けるのか」 勇気と行者は戦慄を覚えた。強い光が彼らを襲った。 「第三度、即ち皮膚の全層が原爆の輻射熱、恐らく八〇〇度以上を、 十分の六秒ほど受けたのだろう。 言わば、赤く焼けた焼き饅頭を、ジュッと押しつけられたのと同じことだ。 皮膚は一瞬のうちに表皮がめくれ、灰白色の真皮が現われたのです」 輝代の声が頭でこだまする。 勇気たちの皮膚もそうなっていた。 「あまりの痛みのため失神した人もいるだろう」 と、行者は思った。 そして、子供たちの横に二人は寝込んでいた。 「十日後には真皮は真黒に炭化し、三週間で脱落し、 あとには赤い肉が盛り上がって来ただろう」 その通り、勇気や行者の体にもなった。 勇気は昔、大怪我をしたときのことを思い出さずにいられなかった。 そのときの怪我など、たいしたことではないとも思えた。 医師も薬もない。そんな状況でいた。 輝代の声が聞こえる。 「たぶんハエが卵を生みつけたことでしょう。 そして卵はかえり、ウジ虫が傷口に群がったことでしょう」 行者と勇気は痛みよりも、その様子を見て、気を失いそうになった。 これは、まるでホラー映画じゃないか!それも悪趣味の……。 「悪臭ある膿が布団を汚しただろう」 自分の体からそのようなものが生まれることの苦痛、 生きることが何とつらいことか、ここから逃げ出したいと思うが、 それは自分を捨てることになるのだろうかと行者は思うとともに、 これも人生の修行と思う。 彼は日本の僧侶で尊敬できる良寛という人の教えを思いだした。 「苦しみのときには苦しむ」 いい言葉である。 世の中の多くの人たちは、苦しみを悪と決めつけ、 愚か者が受けるものだろうと考えている人たちもいる。 しかし、良寛の教えは尊いものである。 「苦しみ」を知らねば、苦しむ人の心を癒すことも本当にはできないのである。 行者は日本に来たら、良寛のことを知りたいと思っている。 ジョン・レノンもこの良寛という人物を知っており、 日本に来たとき書道家でもある良寛の書を買い求めたことも行者は知っている。 良寛の書道は、良寛の人柄に似て、 自由自在という感じであり、かつ優しさを感じるものである。 実物を見たいと行者は思っていた。 だが、今、行者はそのようなことを考えている余裕はなかった。 どうして医師がいないのだ。看護婦がいないのだ。 赤十字はどうしたのだと、勇気は思う。
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