磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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030苦しみの経過

2006年04月17日 | Ra.
ラヂオアクティヴィティ[Ra.]
第一部ブロック・バスター

二、怪物はどちら?

030苦しみの経過



「二か月後から、創口は少しずつ小さくなって行くが、その速度は遅い」
輝代の声がきこえた。

まだ二か月しかたっていないのか?勇気と行者はこの間がもっと長い気がした。

しかし、行者の横で話しを聞いているナンシーにとっては、三分もたっていないのである。

こんなウジ虫がいるから、また傷口が開いてしまうのだ。
このウジ虫はただ住んでいるのではなく、血を吸い、肉を食っている感じがした。
その都度、痛みがある。

「六か月でいちおう膿がとまり、傷口はとじた」
六か月か、なんと長い六か月だろう。苦痛とともにある六か月。
入院したことがある人にはそのことは理解できるだろう。

だが、こんなひどい状況であることを想像できるだろうか?

「その時の傷は、厚くて固いケロイドに置き換えられていた」
ケロイド……。痛みがないわけではない。

勇気と行者は元の姿になっていた。そして、医院にいた。
「そして足の甲(こう)は瘢痕(はんこん)のヒキツレによって
上の方に引っぱられて、現在のような変形した。
すなわち、足は踵(かかと)を先端とするV字形となり、
足の甲は下腿の方にほとんどくっついている。
足の指の関節は全部はずれて裏返しになっている。
特に四・五番目の足の指はケロイドの中に埋まってしまっている」

勇気たちは少年の足を見ていた。
輝代の適切な表現通りだった。

「だから男の子は、歩こうとすれば、
まるで竹馬に乗ったように踵の先だけで歩かなければならない。
畳の上なら少しは歩けるが、靴も下駄もはけないから家の外は歩けない」
目の前にいる父親は涙が目にあふれていた。重い口を開け語る。

「今年から小学校に上がるはずなのですが、
これでは諦めなければならないでしょうか?
よその子どもを見ると、この子が不憫でしてね」

外科医は訊ねた。
「この三年間、手術を受けなかったのですか?」

「受けました。二つの病院で、それぞれ一か月入院して、
ケロイドを切り取り、植皮してもらいました。
だけど初めはうまく行ったように見えたものが、
三か月も経つと、また元のようなケロイドは盛り上がって、
結局もとの状態にもどっていました」
子どもの両親は、この医師の表情を丹念に観察していた。この医師に望みを持っているからこそ、ここに来たのだ。

「外科医は子どもの足をひねくり回しながら、
どう治療するかを考えていました。
昭和二十一年、外科医の病院が再建されてから、
この三年間に、外科医は十数例のケロイドの手術を試みてきた」

外科医の手術をしているのを勇気と行者は見ることになる。

「手の甲に紐のような瘢痕があって、
手の指で物を握れない人、耳が後方に埋まっている人、
脇がくっついていて動かない人、指のまたがひっついて
動かすことができない人など、いろいろなケースがあった。
そのうち、普通の瘢痕による癒着や、索状瘢痕は、単純な植皮や、
Z字形成という皮膚の延長術で、
少なくとも機能面では満足のゆく結果が得られていた。
いや、それも簡単ではなかった。と言うのは、
当時はまだ日本では、まだ形成外科という学問は未開発で、
植皮という技術一つとってみても、
それが確信を持って成功すると断言できる専門家は一人もいなかった……」

行者と勇気は、少しはよくなって出ていく患者たちの
顔が光り輝いているのを見た。
この外科医は何と素晴らしい仕事をしていることだろうと思う。








閑話休題

この話に出てくる
外科医は原田東岷という
戦後、民間人として
努力された方をモデルにして
おります。

原田東岷の本を、
本日からupしたいと思っております。





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