前回報告の様にブーメラン・気球プロジェクトによってWMAP報告に先立つ事3年前に「宇宙は平らである」という結果が得られていました。
『2000年 BOOMERamG (http://archive.fo/G6ykd)
CMBのはじめてシャープな分布図が得られた。(COBEの観測により得られた分布図は、まだピンぼけ画像のようなものに過ぎなかった。)
そして、今回ブーメラン・プロジェクトにより得られたマイクロ波宇宙背景放射のゆらぎの分布は、宇宙が「平坦な宇宙」であると仮定した場合予想される分布と非常によく一致していた。』
実際は宇宙の歴史の初期(37.5万年)の所で起きていたであろう物理現象を推測して、その結果として現時点で地球から観測できる「マイクロ波宇宙背景放射のゆらぎの分布」がどのように見えるのか、ということで、およそ137億年という時間の長さ、そうして空間の広がりとしては137億光年という広がりをもつ時空連続体の曲率を調べた、と言う事になります。
つまりは「遠い場所、そして遠い過去から届く光の歪み具合を調べる事で、その光が通過してきた空間の曲率を調べた」ということで、これは「重力レンズを使ってダークマターの分布を調べる」という方法と似ている所があります。
そしてこの調べ方は空間のトポロジーとして、ある時までは宇宙はプラスの曲率を持っていたが、ある時以降はマイナスの曲率になった、などと言う事は起こりえない、という前提に立っています。
そのようにして、言ってみれば宇宙という時空連続体の平均曲率を求めた、とそういう理解でいいのではないかと思います。(注2)
ブーメラン・プロジェクトの結果を視覚的に表現したものが「第4講 宇宙の幾何学」9ページに載っています。<--リンク(注3)
それを見ますと空間曲率がマイナスの場合は温度分布のゆらぎの分布がより細かい様に、あたかも凹レンズを通して見たかの様に見えるはずである、と言う事がわかります。
空間曲率がプラスの場合はより粗く、あるいは凸レンズを通して見る様に像が拡大されて見える事が分かります。
そうして、フラットな場合はその2者の中間の状態に見えるであろう、というのが前もっての予測シミュレーション結果です。
その上で実際の観測結果を見ますれば、程度問題ではありますが、なるほどフラットである予測に一致している事が分かります。
さて「WMAP報告」はその絵の左側のグラフになります。
「見た感じ」というのではやはり心もとないので、見え方を数値化した、とまあそう言う事になります。
その様に数値化しますと『2005年現在の観測結果によると、Ω は 0.98 と 1.06 の間にあるとされている。』などと言う様に言える事になります。(注1)
ちなみにオメガが0.98はマイナス側に0.02ほど、1.06はプラス側に0.06ほど曲率がずれている、と言う事を宇宙の空間のエネルギー密度(質量密度+エネルギー密度)の尺度で表現したものになります。
そうして、現時点でのこの程度のずれであれば
『言い換えれば、現在の我々の宇宙の密度は臨界密度に非常に近いか、あるいは正確に臨界密度に一致している。』(注1)
などと言える様です。
但し測定できたのは37.5万年~137億年という範囲の宇宙であって、0秒~37.5万年の範囲の宇宙の曲率については今の所は以下の様にして推定するしか方法はない、と言う事になります。
↓
『しかし宇宙論の基礎方程式(フリードマン方程式)から、もし宇宙のごく初期に Ω が 1 よりわずかに大きい値から始まったとすると、宇宙はあっという間につぶれてビッグクランチに達してしまうことが知られている。
逆に Ω が1よりわずかに小さな値から始まったとすると、宇宙は非常に速く膨張してしまい、恒星や銀河が形成される時間がなかったはずである。
宇宙創生から約140億年が経過している現在でもなお Ω が非常に1に近い値をとるためには、宇宙創生直後の Ω は約 10^15分の1の精度で1に一致していた必要がある。』(注1)
と言うような事になり(注2)
『この問題は1980年代初めに提唱されたインフレーション宇宙の仮説によって解決される。
インフレーション宇宙論では、宇宙が生まれた直後に宇宙のサイズが指数関数的に膨張する。
よって、元々の宇宙が平坦でないどんな曲率を持っていたとしてもこのようなインフレーションの過程によって極端に引き伸ばされて平坦化され、宇宙の密度は自然に臨界密度にほぼ一致する値をとることになる。』(注1)
と言うストーリーで現状では皆さんの了解が取れている、と言う事になります。
注1
Wiki「平坦性問題」から引用<--リンク
http://archive.fo/a5xGg
注2
宇宙の最初期(宇宙創生直後)においては現時点よりも相当に厳しく空間曲率≒ゼロでなくてはならなかった、というお話については、以下の記事を参照願います。
「インフレーション」<--リンク
http://archive.fo/2R3G
平坦性問題について wikipedia(英語版)を読んでみる(1)<--リンク
http://archive.fo/keiEl
『・・・宇宙の現在の密度はこの臨界値に非常に近いことが観測されていて、総密度は宇宙時間にわたって臨界値から急速に逸脱するため、初期宇宙は臨界密度にさらに近く、1/10^62 以下の部分でしか逸脱していないと思われる。・・・』
↑
精度の部分の記述について、ですが10^15程度と言う記述から10^60程度という記述まであるようです。
いずれにせよ「相当なファインチューニングが必要」と言う事は確かな事の様です。
平坦性問題について wikipedia(英語版)を読んでみる(2)<--リンク
http://archive.fo/GTTil
「平坦性の問題」<--リンク
『・・・ 確かに、初期宇宙における1からのΩのごくわずかな逸脱は、何十億年もの拡張の間に拡大され、その結果は臨界から非常に遠い値の現在の密度値を生み出したであろう。
過密度の場合( Ω が 1 よりわずかに大きい値から始まったとすると:Ω>1)これは非常に稠密な宇宙につながり、数年以内にビッグクランチ (すべての物質とエネルギーが極端に稠密な状態に戻る<--ビッグバンとは正反対の状況)に至るだろう。
過少密度の場合( Ω が1よりわずかに小さな値から始まったとすると:Ω<1)宇宙はとても急速に膨張してとてもまばらになるでしょう。
それはすぐに本質的に空っぽに見えるでしょう。
そして重力は物質を崩壊させ、銀河を形成させるのに比較して十分に強くはならないでしょう。
いずれの場合も、宇宙には銀河、星、惑星、そしてあらゆる形態の生命体といった複雑な構造は誕生しません。・・・』
注3
同じ内容についての説明ではありますが、以下の記事の方が理解しやすい所がありますので、こちらも参照願います。
「7 宇宙の運命」7~8P<--リンク
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/7MOQm
『2000年 BOOMERamG (http://archive.fo/G6ykd)
CMBのはじめてシャープな分布図が得られた。(COBEの観測により得られた分布図は、まだピンぼけ画像のようなものに過ぎなかった。)
そして、今回ブーメラン・プロジェクトにより得られたマイクロ波宇宙背景放射のゆらぎの分布は、宇宙が「平坦な宇宙」であると仮定した場合予想される分布と非常によく一致していた。』
実際は宇宙の歴史の初期(37.5万年)の所で起きていたであろう物理現象を推測して、その結果として現時点で地球から観測できる「マイクロ波宇宙背景放射のゆらぎの分布」がどのように見えるのか、ということで、およそ137億年という時間の長さ、そうして空間の広がりとしては137億光年という広がりをもつ時空連続体の曲率を調べた、と言う事になります。
つまりは「遠い場所、そして遠い過去から届く光の歪み具合を調べる事で、その光が通過してきた空間の曲率を調べた」ということで、これは「重力レンズを使ってダークマターの分布を調べる」という方法と似ている所があります。
そしてこの調べ方は空間のトポロジーとして、ある時までは宇宙はプラスの曲率を持っていたが、ある時以降はマイナスの曲率になった、などと言う事は起こりえない、という前提に立っています。
そのようにして、言ってみれば宇宙という時空連続体の平均曲率を求めた、とそういう理解でいいのではないかと思います。(注2)
ブーメラン・プロジェクトの結果を視覚的に表現したものが「第4講 宇宙の幾何学」9ページに載っています。<--リンク(注3)
それを見ますと空間曲率がマイナスの場合は温度分布のゆらぎの分布がより細かい様に、あたかも凹レンズを通して見たかの様に見えるはずである、と言う事がわかります。
空間曲率がプラスの場合はより粗く、あるいは凸レンズを通して見る様に像が拡大されて見える事が分かります。
そうして、フラットな場合はその2者の中間の状態に見えるであろう、というのが前もっての予測シミュレーション結果です。
その上で実際の観測結果を見ますれば、程度問題ではありますが、なるほどフラットである予測に一致している事が分かります。
さて「WMAP報告」はその絵の左側のグラフになります。
「見た感じ」というのではやはり心もとないので、見え方を数値化した、とまあそう言う事になります。
その様に数値化しますと『2005年現在の観測結果によると、Ω は 0.98 と 1.06 の間にあるとされている。』などと言う様に言える事になります。(注1)
ちなみにオメガが0.98はマイナス側に0.02ほど、1.06はプラス側に0.06ほど曲率がずれている、と言う事を宇宙の空間のエネルギー密度(質量密度+エネルギー密度)の尺度で表現したものになります。
そうして、現時点でのこの程度のずれであれば
『言い換えれば、現在の我々の宇宙の密度は臨界密度に非常に近いか、あるいは正確に臨界密度に一致している。』(注1)
などと言える様です。
但し測定できたのは37.5万年~137億年という範囲の宇宙であって、0秒~37.5万年の範囲の宇宙の曲率については今の所は以下の様にして推定するしか方法はない、と言う事になります。
↓
『しかし宇宙論の基礎方程式(フリードマン方程式)から、もし宇宙のごく初期に Ω が 1 よりわずかに大きい値から始まったとすると、宇宙はあっという間につぶれてビッグクランチに達してしまうことが知られている。
逆に Ω が1よりわずかに小さな値から始まったとすると、宇宙は非常に速く膨張してしまい、恒星や銀河が形成される時間がなかったはずである。
宇宙創生から約140億年が経過している現在でもなお Ω が非常に1に近い値をとるためには、宇宙創生直後の Ω は約 10^15分の1の精度で1に一致していた必要がある。』(注1)
と言うような事になり(注2)
『この問題は1980年代初めに提唱されたインフレーション宇宙の仮説によって解決される。
インフレーション宇宙論では、宇宙が生まれた直後に宇宙のサイズが指数関数的に膨張する。
よって、元々の宇宙が平坦でないどんな曲率を持っていたとしてもこのようなインフレーションの過程によって極端に引き伸ばされて平坦化され、宇宙の密度は自然に臨界密度にほぼ一致する値をとることになる。』(注1)
と言うストーリーで現状では皆さんの了解が取れている、と言う事になります。
注1
Wiki「平坦性問題」から引用<--リンク
http://archive.fo/a5xGg
注2
宇宙の最初期(宇宙創生直後)においては現時点よりも相当に厳しく空間曲率≒ゼロでなくてはならなかった、というお話については、以下の記事を参照願います。
「インフレーション」<--リンク
http://archive.fo/2R3G
平坦性問題について wikipedia(英語版)を読んでみる(1)<--リンク
http://archive.fo/keiEl
『・・・宇宙の現在の密度はこの臨界値に非常に近いことが観測されていて、総密度は宇宙時間にわたって臨界値から急速に逸脱するため、初期宇宙は臨界密度にさらに近く、1/10^62 以下の部分でしか逸脱していないと思われる。・・・』
↑
精度の部分の記述について、ですが10^15程度と言う記述から10^60程度という記述まであるようです。
いずれにせよ「相当なファインチューニングが必要」と言う事は確かな事の様です。
平坦性問題について wikipedia(英語版)を読んでみる(2)<--リンク
http://archive.fo/GTTil
「平坦性の問題」<--リンク
『・・・ 確かに、初期宇宙における1からのΩのごくわずかな逸脱は、何十億年もの拡張の間に拡大され、その結果は臨界から非常に遠い値の現在の密度値を生み出したであろう。
過密度の場合( Ω が 1 よりわずかに大きい値から始まったとすると:Ω>1)これは非常に稠密な宇宙につながり、数年以内にビッグクランチ (すべての物質とエネルギーが極端に稠密な状態に戻る<--ビッグバンとは正反対の状況)に至るだろう。
過少密度の場合( Ω が1よりわずかに小さな値から始まったとすると:Ω<1)宇宙はとても急速に膨張してとてもまばらになるでしょう。
それはすぐに本質的に空っぽに見えるでしょう。
そして重力は物質を崩壊させ、銀河を形成させるのに比較して十分に強くはならないでしょう。
いずれの場合も、宇宙には銀河、星、惑星、そしてあらゆる形態の生命体といった複雑な構造は誕生しません。・・・』
注3
同じ内容についての説明ではありますが、以下の記事の方が理解しやすい所がありますので、こちらも参照願います。
「7 宇宙の運命」7~8P<--リンク
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/7MOQm