日銀の金融緩和で市場にあふれるマネーが実体経済に波及するには、銀行の貸し出し増が欠かせない。企業の資金需要はまだ盛り上がりに欠けるが、銀行はあの手この手で貸し出しを増やそうとしている。商品在庫や機械設備を担保にした動産担保融資もその一つ。眠れる価値を生きたお金に変える現場に行ってきた。(木原雄士)
鹿児島県西部の薩摩川内市に、高級黒毛和牛「のざき牛」を育てる野崎喜久雄さん(64)の牛舎がある。「受賞おめでとうございます」。鹿児島銀行の萩原宗人さん(33)が声をかけた。数々の賞を総なめにするブランド牛が融資の担保だ。 「自分の手で」 野崎さんのような肥育農家は子牛を仕入れ、20カ月育てて出荷する。エサ代などに要する1頭数十万円の資金の回収に時間がかかる。このため、家畜商業協同組合がまとめて子牛を購入して農家に肥育のみを委託し、出荷前に引き取る形が一般的だ。しかし、野崎さんは「自分の牛を自分の手で市場に出したい」と農業生産法人をつくった。 頼りにしたのが鹿児島銀で、2500頭の牛を担保に15億円を借りた。牛は一頭一頭に固有の番号がついており銀行と個別に担保契約を結んだ。 野崎さんの事務所でスタッフがパソコンに向かっていた。鹿児島銀が開発した「アグリプロ」と呼ぶシステムだ。仕入れや出荷の情報を銀行と共有している。萩原さんは「どうすれば経営を伸ばせるか野崎さんと一緒に考えている」と話す。鹿児島銀は農業を産業として捉え「アグリクラスター推進室」を設置。牛と豚が担保の融資残高は約170億円にのぼる。 「融資で取扱量が増えて大助かりだ」。青森県弘前市のリンゴ卸、山福アップルの福沢慶一社長(79)は話す。 秋に収穫するリンゴを特殊な貯蔵方法で保存し、ほぼ通年で出荷する。悩みの種は15億円ほどかかる仕入れ代。従来の不動産担保融資に限界を感じ、1万トンのリンゴを担保にみちのく銀行から約4億円の融資を受けた。 倉庫には約20キログラムのリンゴが入る木箱が整然と並ぶ。みちのく銀行営業戦略部の秋田憲邦さん(34)は「倉庫がきれいなのは管理がきちんとできている証拠で、この宝の山を銀行が活用しない手はない」と話す。同行は米や日本酒、冷凍ホタテを担保にした融資を積極的に手掛けている。 地方だけでなく 地方に限った話ではない。東京・銀座に店を構える中古ブランド品販売のブランドオフ。店内には100万円以上の高級バッグが所狭しと並ぶ。銀座店だけで買い取り額は月1億円以上になる。 成長を後押ししているのはブランド品を担保に、三菱東京UFJ銀行など9行が設定した30億円の融資枠だ。仕入れなどで資金が必要な際は、いつでも銀行から資金を借り入れることができる。 従来の不動産担保では、伸び盛りの成長企業の資金需要に対応できないケースも多い。農産物からブランド品、衣服、家電などの消費財まで、動産担保融資の裾野は確実に広がりつつある。 融資や金融商品の販売などの最前線をルポし、分析する「金融探偵団」を始めます。月1回程度の頻度で掲載します。 出荷前の家畜や販売商品の在庫、工場の製造設備などを担保に資金を貸し出す手法。日本では2005年に不動産と同じように動産を登記できる制度が誕生し、普及し始めた。経済産業省の委託調査によると、12年3月末の融資残高は3324億円(売掛債権担保融資含む)。ただ、日銀の統計では、国内貸し出しに占める割合は2%程度。2割程度あるとされる米国とはまだ大きな開きがあり、今後の拡大が見込まれている。 【図・写真】牛舎で野崎さん(右)と話す鹿児島銀の萩原さん(左)ら(鹿児島県薩摩川内市) いいことです
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