ringoのつぶやき

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為替の節目が示す株価水準 円高リスク考慮し判断

2016年05月21日 08時30分56秒 | 為替

円相場の変動が企業業績と株価を揺さぶる展開が続いている。今後の為替相場を考えるために、長期的なモノサシである購買力平価(PPP)の基礎的な考え方を知っておこう。同時にPPPの示す節目ごとに、業績と株価のシナリオを点検してみた。

 

 「これまでは為替の追い風をうけ実力以上に収益の拡大局面が続いた。今年に入り大きく潮目が変わった」。トヨタ自動車の豊田章男社長は11日の決算発表でそう語った。同社は2017年3月期の想定為替レートを1ドル=105円と見込み、連結純利益は35%減の1兆5000億円とした。

 円安という「追い風」は去りつつあるのか。PPPの考え方からは、そうである可能性が見えてくる。

■異次元緩和で乖離

 インフレ率の高い国の通貨は、買えるモノの量が少なくなるので価値が下がり、長期では為替相場も下落するというのがPPPの考え方だ。2国間の物価上昇率の差から為替相場の均衡点を計算する。短期的な相場予測には適さないが、長期のトレンドや水準感を見る上で有効だ。

 グラフAでは円の変動相場制が始まった1973年を基準年に、企業物価を使って円相場(対ドル)のPPPを計算してみた。長期で右肩下がり(円高)に推移しているのは、日本のインフレ率が米国より低い(円の通貨価値は相対的に高くなる)状況が長く続いてきたため。足元では約99円になっている。

 

 円相場は日銀の異次元緩和を契機にPPPから円安方向に大きく乖離(かいり)し、2015年に乖離率は一時、過去最大だった80年代前半に並んだ。日米金利差拡大や日本のインフレ率上昇という期待を事前に大きく織り込んだからだ。

 しかし今年、円はPPPの水準に大きく近寄ってきた。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストはこれを「米国の利上げピッチ縮小や日本のインフレ率の上昇鈍化で円相場が本来あるべき水準に戻ってきた」と表現する。

 ただしPPPの数値の絶対視は避けたい。基準年の採り方や対象とする物価の範囲でも変わるからだ。例えば基準年を80年にすれば現在のPPPは90円台前半だし、経済協力開発機構(OECD)の計算では106円。「PPPを基にした適正レートは1ドル=95~105円程度」(唐鎌氏)とざっくり考えておきたい。

 では円相場の水準によって日本企業の今期業績はどう変わるのか。日経平均株価採用銘柄ベースでSMBC日興証券に推計してもらった(表B)。

 

 円相場が足元のPPPである99円に近い100円なら、企業の1株利益は平均1080円。株価が1株利益の何倍かを示す株価収益率(PER)をここ数年の平均的な水準の約15倍とすると日経平均は1万6200円という計算になる。

 SMBC日興証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは「年後半には米国景気が強さを増し利上げがありそう。円相場は通期で110~115円程度と想定、年末にかけての日経平均高値は1万8000~9000円と見ている」。

 一方で90円台への円高進行もリスクシナリオとして考えておきたい。実際の円相場は73年以降の平均でPPPより約9%円高水準で推移してきた。これを今のPPPに当てはめると90円程度だ。龍谷大学の竹中正治教授はこの水準を意識し「今の妥当なレートは90~100円くらい」と話す。

 仮に米国景気の減速などで円高が進み、通期の円相場が95円なら1株利益は1015円。そうした状況下ではPERも切り下がりやすい。PER13倍なら株価は1万3000円台だ。

 今後も株価は為替しだいで揺れ動きそうだ。どれくらいの為替水準を想定するか、自分なりのシナリオを立てて相場を考えることが重要性を増している。

■PBRにも注目

 業績が不透明な中では、株価が1株純資産の何倍まで買われているかを示す株価純資産倍率(PBR)にも注目したい。ぶれやすい利益に比べて純資産は安定しているからだ。日経平均採用銘柄ベースのPBRは足元で約1.1倍だ。

 グラフCは、横軸が2000年以降、各月末にPBRが何倍だったかを示し、それぞれ5年後に日経平均がどれだけ上昇・下落したかを縦軸に表してみた。PBRが低かったときほど、その5年後に株価は大きく上昇。反対にPBRが高いと株価は大きく下落した傾向が見てとれる。

 

 傾向線によると、現在のようにPBR1.1倍のときに株式に投資していれば、5年後に7割程度の利益を得ていた。株価は今後、短期的には一段安もありうるが、経験則で考える限り、中期的に投資が報われやすい水準にあるといえる。

 中期的な株価上昇を左右するのが、自己資本利益率(ROE)改善に向けた企業の取り組みだ。PBRは算式上、「PER×ROE」と分解できる。PERが変わらなくてもROEが高まればPBRは上昇する。

 例えばROEが15~20%で推移する米国でPBRは2倍を超えている。仮に日本企業のROEが10%(現在は8%前後)に上がれば、PBRは1.5倍(PER15倍の場合)に上昇し株価は大幅に上がる計算だ。

 ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「日本企業は自社株買いを通じた自己資本圧縮に加えて投資による収益拡大を急ぎ、ROEを高めるべきだ」と話している。(編集委員 田村正之)

 

[日本経済新聞朝刊2016年5月18日付]



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