(ダウ・ジョーンズ)ユーロ圏の首脳会議は、今回も市場を支えた。
合意はまたもや深夜までずれ込んだが、これを受けて通貨ユーロやユーロ圏周縁国のソブリン債、さらには域内
の株式を売っていた向きは買い戻しに殺到した。これは、リスクオン(リスク志向の回復)による取引ではなか
ったかもしれない(年金資金などのリアルマネーは依然として安全資産で運用されている)が、それでもリスク
オフ(リスク資産からの逃避)局面でなくなったのは確かだ。
しかし、こうした一連の騒動や展開は一体何を意味しているのだろうか。
スペイン、イタリアそしてアイルランドの国債利回りが低下、ユーロが上昇したほか、銀行株が欧州全域で上昇
した。だが、政治家たちが市場に期待していたのはもっと大きな動きだったのではないだろうか。
というのも、ドイツ国債の価格が(春先に急伸していたことを考えると)わずかしか下げていないからだ。10年
物ドイツ国債の利回りは現在1.55%で推移している。これは6月の1.12%よりは高いものの、同利回りは4月には
2%台にあったうえ、昨年11月には1年ぶり高水準の2.36%をつけていた。
スペイン、アイルランド、イタリアの国債価格や銀行株の上昇が、ドイツ国債を買っていた資金以外による買い
が背景なのだとしたら、一体誰が買っているのだろうか。
市場を信じるとすれば、それはドイツではない。
ただ、ドイツこそ(オランダとフィンランドの納税者による手助けが若干あるとはいえ)、ユーロ圏の最終的な
出資者である。だが、ドイツは今回の首脳会議までに合意した以上に、救済資金に対する責任を今後負いたくは
ないと考えている。今回の合意からも、ドイツの出資意欲を示唆するものは何も読み取れない。
欧州安定メカニズム(ESM)の規模は、すでに合意済みの5000億ユーロ(6320億ドル)を超えて拡大されること
はなかった。これ以上拡大する余裕などないからだ。また、スペインの銀行に対する資本増強資金となることが
決まっている1000億ユーロなど、すでにESMの拠出はかなりの額に上っている。ギリシャやキプロスへの支援はお
ろか、アイルランド政府に対し銀行救済策の支援を行った時点で、ESMには周縁国全体のソブリン債を支える力な
どほとんど残されていないだろう。
投資家は、ドイツが今後さらに救済資金拠出を強いられる、と考えているだろうか。
そうなったら、ドイツ財政の(ということは国債の)見通しが明らかに弱気へと傾き始めるだろう。
また投資家は、欧州中央銀行(ECB)が紙幣を増刷して何とかESMに資金供給するよう説得される、と考えている
だろうか。
その場合、ドイツのインフレ率が確実に上昇(おそらく急激な)を開始するだろう。欧州周縁国は深刻なリセッ
ション(景気後退)と大規模な需要減に見舞われているようだが、ドイツはここ数カ月の景気減速にもかかわら
ず、完全雇用の状態でフル稼働生産を行っている。また、ドイツ国債の利回りは現在1.5%前後だが、これでは(
ECBの政策が成功した場合に)3%か4%、あるいはそれ以上へと簡単に上昇する恐れのあるインフレに対しほとん
どヘッジの役を果たさない。
投機的な思惑で動いている他のどの市場でもなく、ドイツ国債こそが、ユーロ圏の救済措置が成功する可能性に
ついてのバロメーターとなっている。そして、現在のドイツ国債の状況は、ユーロが安全だとは告げていないの
だ。
-0-
Copyright (c) 2012 Dow Jones & Co. Inc. All Rights Reserved.