昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

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ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (1)

2008-07-25 | アメリカ製真空管ラジオ

アメリカの高級通信機メーカHallicrafters社から第二次世界大戦終戦の翌年1946年に発売されたS-38は、高名なデザイナーRaymond Loewyがデザインしたと言われる普及型の中・短波受信機である。このたび自分へのご褒美に、この憧れの名機を入手した。
 今回ヤフオクで入手した S-38は、20世紀を代表するデザイナーと言われ、「アメリカを形作った男」の異名を持つレイモンド・ローウィ(Raymond Loewy)がオリジナルデザインを手がけ、1946年から15年間にわたって、製造・販売されたHallicrafters社の民生用受信機のプロトタイプモデルである。
        
        ▲自分へのボーナス♪ Hallicrafters社 S-38 初期型('46年製)
 レイモンド・ローウィは、1935年、シアーズ・ローバック社の依頼を受け、冷却装置がむき出しであった冷蔵庫を、「白いホウロウ引きされた鋼鉄製のケース」でカバーし、さらにボディと同一平面状を形成する扉をつけた。この結果、冷蔵庫の機能性を変化させずに、年間の販売量は20倍近くに跳ね上がり、デザインが販売に大きな影響を及ぼすことを実証した。
彼は著書『口紅から機関車まで』の題名でもわかるように日用品から機関車まで広範囲な工業製品を手がけ、そこで彼は工業製品の機能と美的感覚の一致を提唱し、優れたデザインが商品の販売促進に大いに貢献することを実践し、ペンシルヴァニア鉄道の電気機関車GG1や、自動車メーカー スチュードベーカー社のコマンダークーペなど傑出した多くの作品を生み出している。
        
 S-38の前身は、1940年にHallicrafters社が買収したEchophone社のブランドで発売していた極めて安価な民生用短波受信機 Echophone EC-1 に遡る。第二次大戦勃発と参戦に伴い、短波受信機や短波ラジオの生産は制限されたが、 Echophone EC-1 だけは例外的に終戦まで供給され続けた。
大戦終了後、Echophone EC-1A、BをベースにしたHallicraftersブランドの S-41G SkyRider Jr. をごく短い期間だけ発売したが、高級通信機メーカHallicrafters社は、その名に恥じない商品としてレイモンド・ローウィに外観の意匠設計を依頼する。
        
        ▲Echophone EC-1シリーズ('40年~)の最終モデル EC-1B('46年製)
 1946年、レイモンド・ローウィのデザインとHallicrafters社の再設計により S-38 は、中波で放送される通常のラジオ番組に加え、短波帯で放送される外国のニュースや音楽番組、さらにはアマチュア無線・船舶・航空無線のモールス信号も受信可能な、6球構成の初心者向けの民生用受信機として生まれ変わった。
        
        
        ▲1946年当時のHallicrafters社 S-38 と 上級機種 S-40 の雑誌広告
 その基本設計は、トランスレス5球スーパにBFO回路を加えた6球構成のシンプルな回路だったにもかかわらず、中波~32MHzを4バンドに分割・連続カバーし、短波帯のデリケートな選局微調整を容易にするスプレッド・ダイヤル機構、雑音を低減するANL(オートマチック・ノイズ・リミッター)やモールス信号を受信するピッチコントロール付BFO回路、送信機を組合わせて使用するためのスタンバイ機能をリメイクすることにより、通常のラジオでは聞けない世界中の電波をキャッチする手頃な価格の受信機として、爆発的な人気を集めた。
        
 戦後のメーカー製民生用受信機の原点といえるHallicrafters社の S-38 だが、翌'47年に発売された S-38A では、BFOとANL回路を構成していた12SQ7が取除かれ、中間周波数増幅管12SK7で兼用することになり、BFOピッチコントロールとANLを削除した5球構成へとスペックはダウンされた。
続く S-38B も回路スペックはほぼ同等だが、底板および裏蓋は厚紙になり、S-38C ではケースの塗装が黒からシルバーグレイのハンマートーン塗装に改められ、 中間周波数増幅とBFO兼用の真空管も12SK7から12SG7に変わり、コストダウンと生産効率の追求へと向かう。
        
 通常の製品は、後期の方が改良・改善されるものだが、本機の場合は、'46年に発売された最初の S-38 から徐々に機能の省略化が行われ退化していった点が興味深い。
いずれにしても '46年にリリースされた S-38 は、S-38A,B,C,D,E,F と数年ごとにモデルチェンジを重ねながら15年間にわたり生産され続けられる大ヒット商品となり、戦後日本のアマチュア用受信機にも大きな影響を与えた。
        
        ▲S-38の型番・バージョンの変遷と年代、外観の塗装仕上げの分類
 当時はまだ知的所有権の概念も希薄な時代であり、S-38のデザインをコピー(リスペクト? 笑)した受信機が、'53年頃に春日無線(後のトリオ、現ケンウッド)からは6R4S、三田無線からはDELICA CS-6として販売され、そのレプリカのケースまでが秋葉原や日本橋で売られていたそうです。その後、両メーカーはS-38をリスペクトしたモデルに改良・機能を加え、6R4Sは9R4、9R42J、CS-6はCS-7、DX-CS-7へと発展する。
        
        ▲春日無線(現ケンウッド) 6R4S(左)と三田無線 DELICA CS-6(右)

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17 コメント

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RE:S-38受信機 (kts999jp)
2008-07-14 23:46:45
先日はコメント頂き有り難う御座いました。

この受信機、最初見たときはTRIOの9R42かと思ったのですが6球スーパーなんですね。
それにしても年代の割に、外観が綺麗なのが素晴らしいです。
大事に使って上げて下さい。
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やったね! (かめ)
2008-07-15 07:30:53
店長様

やりましたね!
写真で見る限り程度も良いし、懐かしいデザインだし。一度見せて欲しいです。
1946年製と言えば、私と同じ年齢です。私もS-38も還暦を過ぎましたが、現役かな?
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S-38 やりました♪ (店長)
2008-07-16 22:53:00
kts999jp様
以前からS-38のデザインが気に入っていたのですが、キャビネット&フロントパネルはRaymond Loewyのデザインだと知って納得しました。
60年以上前の受信機がちゃんと作動することに、さらに驚きを禁じえません。

かめ様
半年間、自分なりに頑張った自分から自分へのご褒美のつもりで入手しました。
まだ中身を見ていませんが、とりあえずはちゃんと調整された5球スーパ並には聞こえてくれます。
平成の時代では、「還暦」と書いて「げんえき」と読むそうですよ♪
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やりましたね (赤いコルトプラス)
2008-07-18 21:58:03
ラジオ親父さんのホームページで同じラジオを見ていましたけれど60年以上まえのラジオとは思えない、きれいなラジオですね。
店長さんの熱い気持ちが伝わってきます。詳しいレポートを楽しみにしてますね。
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S-38 (ラジオ親父)
2008-07-19 11:32:48
店長殿
いや~実に綺麗なS-38ですね!
1946年生まれの62歳で、このルックスを維持しているとは驚きです
若干の性能低下はあるでしょうが、動作品とはさすがハリクラフターズと思います
リペアの楽しみが、またまた増えましたね(笑)

かめ殿
S-38と同級生なんですね~
まだまだ現役?でがんばれると思います
ちなみに私はS-38Bと同級生です

赤いコルトプラス殿
はじめまして
親父のHPをご覧いただきありがとうございます
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S-38 (店長)
2008-07-20 09:11:51
赤いコルトプラス様
以前から気になっていたS-38ですが、ラジオ親父様から20世紀を代表するインダストリアル・デザイナーRaymond Loewyの作品だということを教えていただいて以来、さらに魅せられ、とうとう恋してしまいました(笑)

ラジオ親父様
ところどころタッチアップペイント補修はされていますが、S-38シリーズの原点のレアモデルがこの状態ですから、末永く大切にしたいと思います。
100Vでもちゃんと動作し、数メータのショートワイヤでもBBCやVOAがガンガン入感します。中身の点検も楽しみです♪
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Hallicrafters受信機 (白い恋人)
2008-07-23 21:10:08
店長様
 
 普段忙しい自分へのご褒美にたまには嬉しくなるようなプレゼント大切ですね。
 この受信機はシンプルですが精巧な感じがしますね。素人目ですが・・・大事になさってください^^
 技術がしっかりとしていると、美しく見えるんですね。
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Unknown (赤いコルトプラス)
2008-07-23 23:06:15
ラジオ親父様 

はじめまして。ラジオ親父様のホームページに触発されて、店長さんはS-38を入手されたんですよネ!?
<山小屋のハリクラフターズ>のログハウスで奥様のステンドグラスに囲まれた生活が素敵だと思いました。

店長様

こまめに文章を推敲されていることに、店長さんのこのラジオ受信機への愛情を感じました。専門用語はわかりませんけれど、こんな昔の受信機S-38からラジオ放送がちゃんと鳴ってることに驚きました。

白い恋人様

店長さんはデザイナーらしくない方ですけれど、こうしてお書きになった文章を拝読すると、やっぱり工業製品にお詳しい、こだわりの人ですよね。


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団塊世代ですね! (かめ)
2008-07-24 11:43:46
ラジオ親父様

私のほうが、少し年上のようですが、お互い団塊の世代ですね。店長が懐かしい受信機を手に入れられましたが、私にとっても懐かしいデザインです。
現在では、デジタルで周波数を読むことができますが、当時は周波数がわからなくて、いい加減な時代だったように思います。それでも、ローカルに学生時代に秋葉原で米軍放出の水晶を一杯買って、VFOを使わずに、オフバンドしない人が居ました。
話は飛んでしまいますが、暑いですねー!!
CO2削減と言われても、とても無理な気がします。
ガキ(小学生)のころはもっと気温が低かったと思います。ばあさんに「30℃越えたら、泳ぎに行っても良い」と言われ、午後になって30℃を越えたら、帰りのカキ氷代(10円だったような?)を持って近くの川に泳ぎに行ってました。そんなに毎日30℃を越えなかったように思います。
受信機から水泳になりましたね。ではまた
かめ
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S-38 (ラジオ親父)
2008-07-24 21:24:15
赤いコルトプラス殿
山小屋のハリクラフターズをご覧いただきありがとうございます
ハリクラやステンドグラスに囲まれ一杯飲るのを、ささやかな楽しみにしています
房総半島の海の幸を肴に、つい飲り過ぎてしまうのが悩みです(笑)

かめ殿
親父は団塊世代から少し離れた、1952年生まれです
昔は川ガキで、夏休みになると朝から晩まで川で遊んでいました
その甲斐あってか、現在も泳ぎや潜りを得意としており、海の幸調達に事欠きません(笑)

店長殿
これから中身の点検に入られると思いますが、つまみの取り外しにはインチ規格の六角レンチが必要です
どんな状態か楽しみですね~
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