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昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

早川電機工業 (SHARP)「シャープ 5X-76」

2006-07-02 | シャープ 真空管ラジオ

              

 真空管ラジオのコレクション&レストアの趣味で、40~50年前のラジオの『デザインを堪能する』という楽しみが、大きなウェートを占める。このブログも自ずと技術的な内容より、ラジオのデザインにまつわるコメントが多くなってしまう。
インターネットオークションで何気にウインド・ショッピング(ディスプレイ・ショッピング?)を楽しんでいて、「おぉ、いい感じのデザインじゃん♪」とビビッとくると、ついつい入札してしまう。
店員ユーをはじめとする友人・知人は、「店長、何台買えば気が済むんですか!」とラジオ病の進行具合を心配してくれるが、自分の意識とは無関係に入札ボタンを押してしまうのだから、病的趣味に手の施しようが無い。

 シャープ5X-76は、昭和31年(1956年)頃に製造された円形周波数表示グリルを採用したmT管トランスレス式ラジオである。機能的に差異のないmT管5球スーパーでは、各メーカーがキャビネット、スピーカーグリル、周波数表示パネルの形状、カラーリングといったデザインに工夫を凝らすことで、消費者に訴求している。とりわけ円形周波数表示グリルを持つ機種はコレクターの間では人気が高い。

              

 このシャープ 5X-76もオークションに出品されると多くの入札者から人気を集め、価格が高騰するため、予算的に制限のあるボクはいつも諦めていたのだが、今回はやっと予算内で落札することができた。

 メーカー:早川電機工業(SHARP)『シャープラジオ 5X-76』

 サイズ : 高さ(約15cm)×幅(約25.5cm)×奥行き(約10.5cm)

 受信周波数 : 中波 530KC~1650KC/短波 3.9MC~12MC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BD6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、35C5(電力増幅)、35W4(整流)

 電気的出力 : 最大1W  電源 : 50~60c/s 100V  消費電力 : 23VA

              

 宅配便で届いた荷物を開梱し、いつものように外観の目視点検から始めた。プラスチック製キャビネットは数十年の間に付着した汚れ、黄ばみ、擦り傷があるものの、パーツの欠品も無く全体的には美品の部類である。
裏蓋を取外すと、年代相応の埃が溜まっているが、修理された形跡は無い。

              

 パイロットランプのゴムブッシュが見事なまでに溶解し、パイロットランプ自体を覆ってしまっており、台座ごと新品に交換しなければ危険である。真空管を取外して、OA機器用エアクリーナーでシャーシ表面の埃を吹き飛ばし、ウエットティッシュを使いキレイに清掃した。

              

 シャーシー内部は部品が詰まって配線されているものの、修理した痕跡も無い。ブロックコンデンサーの状態を目視点検したが、外観は問題なさそうだ。ACプラグにテスターを当て、導通確認と内部抵抗値を測定。SPコイル、OPTの断線もなくOKだ。
ペーパーコンデンサーは、フィルムコンデンサーと交換することにして、事故が起こらないことを願いながら思い切って電源を入れてみた。

 真空管は灯るが、なかなか音が聞こえてこない・・・・不安がよぎる。やがて5球スーパー独特の小さなハム音が聞こえてきた。選局ダイヤルを回すと、市内にある民放中継局と10km離れたNHK中継局(共に1kW)、さらに弱いながらも隣接県の民放局まで入感する。
BC(中波)/SW(短波)切替えスライドスイッチをSW(短波)の位置にしたところ、何も聴こえてこない。スライドスイッチの接触不良が考えられるため、エレクトロニクス・クリーナーを吹きかけながら何度かカチカチとスライドを繰り返すと短波特有の空電ノイズが聴こえはじめた。

              
 
 キャビネットはいつもどおり、希釈したマジックリンを使い、塗装が剥げないよう気をつけながら洗浄後、コンパウンドとプラスチック・クリーナーで磨くと、新品の輝きをとり戻した。
 エッジにラウンド処理を施した横幅255mm×高さ150mmの一体形成プラスチック製キャビネットは、mT管トランスレス式ラジオの中では比較的小型の部類であり、キュートなデザインだ☆
正面右側に配置された円形周波数表示グリル(直径100mm)が目を引く。中央に描かれているヨーロッパ家紋調のマークの中に、白抜きで小さく描かれている電波(稲妻?)のシンボルはご愛嬌。

              

 レストア完了後、テストを兼ねて短波の放送を聴いてみた。
5球スーパーは、回路設計上、アンテナを接続しなければ感度が上がらない。シャーシーから延びるアンテナ線を窓枠アンテナに接続してみると、中国、台湾、朝鮮半島の国際放送に混じってハワイアンっぽいリズミカルな音楽が流れてきた。

「♪テレビニュースに映る砂の嵐ぃ~ 愛しい人の姿を探す・・・ ♪」    
  
 グアムのKTWR・・・?  いや、NHKの海外放送であるワールド・ラジオ日本だ。
NHKは、世界に向けて短波で放送しているラジオ国際放送「NHKワールド・ラジオ日本」を1日65時間、日本語と英語を含む22の言語で世界中に向けて放送を行なっている。

彼女の歌に続き、中東に駐在する商社マンの奥さんからのリクエスト・メールが紹介されていたのだが、その時はさして気にも留めず、聞き流していたのだが・・・。

  続きはこちら→

早川電機工業 (SHARP)「シャープ 5M-82」

2006-05-07 | シャープ 真空管ラジオ

              

 昭和31年当時の史料を見ると、メーカー各社は真空管ラジオの量産体制を整え、
  ①高級タイプ(大出力対応トランス式Hi-Fi型 中波/短波 ¥25,000~15,000前後)
  ②中級タイプ(トランスレス式 中波/短波 ¥15,000~10,000前後)
  ③普及タイプ(トランスレス式 中波専用 ¥10,000~6,000前後)
といった各クラス別けを明確に行ない、多くの種類の真空管ラジオを発売している。

 昭和31年(1956年)に発売されたシャープ5M-82は、普及タイプの中で最もリーズナブルな価格帯の¥6,200で売られていた中波(MW)専用小型卓上型mT管トランスレス式ラジオである。
デザインは、曲面を一切排除したボクシーなフォルムを基調とし、クラシカルな雰囲気が漂う。

              

 メーカー:早川電機工業(SHARP)『シャープラジオ 5M-82』

 サイズ : 高さ(約15.5cm)×幅(約31cm)×奥行き(約12cm)

 受信周波数 : 中波 530KC~1650KC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BD6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)
          35C5(電力増幅)、35W4(整流)

 電気的出力 : 最大1W  電源 : 50~60c/s 100V  消費電力 : 23VA

              

 50年の時を経た5M-82のキャビネットにはかなりの汚れ、傷があり、底板にも小さなクラック等がある。
底板にあるネジを外してシャーシーを取り出すと、周波数指針はダイヤル糸にネジ止めされていたり、バリコン、IFT、電源トランス・ケミコン・ペーパコン・抵抗の一部も自社銘柄を使用しているなど、丁寧なつくりである。
しかし真空管はメーカー不統一・・・やばい、また誰かの手によっていじられたのか。黄色の新しいアンテナ線が接続されている。トリマー等をいじってなければいいのだが。

              

 オークションのコメントでは「動作品」ということであったが、いつものように焦げた部品、膨れたコンデンサーはないか、PL配線の被覆等チェック。とりあえず電源プラグを挿して、電源を入れてみた。
 パイロットランプが灯り、5球スーパー独特の雑音が聞こえてくる。選局ダイヤルを回すと、雑音がひどく市内の民放中継局は強力に受信するが、10km離れたNHK中継局(共に1kW)は弱々しい。
 う~ん、微妙だぞ! 不安感が増幅する。

 自慢?と相談を兼ねて、ラジオ病仲間(本人は否定)の音響の匠氏の事務所に持ち込んだところ、先に来ていたラジ男氏が、「店長~、まだ懲りずに真空管ラジオ集めてるんですか?病気っすね!」 と、悪態をつく。
事務所で2時間ほどラジ男氏のGW四国一人旅の土産話やオーディオ談義ほかバカ話後、知人が設計した近くの洋風居酒屋&レストランでランチを食べ、帰宅した。

              

 やはりバリコンのトリマーをいじって修理した痕跡がある。またコンデンサーのキャパシティ、レジスタ不良、コイル関係の容量変化等などが発覚。
 初期のmT管トランスレス式ラジオは容量を変えれない発振コイルを使用しているため、新品時の規格まで調整することは困難らしい。(音響の匠氏は、各種測定器と長年の経験値を基にいつも限界値まで設定を追い込んでいただき、ホント感謝です。ただしナショナル製IFTは破損の可能性が高いため、絶対に調整してくれない。リスク管理を含めた匠氏の技に脱帽です)
ん~、困った。コンデンサーだけでも交換して様子を見みるか、しばらく放置するか・・・ アタシゃあ、こういったモヤモヤ感やストレスを楽しめるほど、人間ができてませんぜ。
 翌日、トホホ・・・な気分で事務所を再度訪ねると、「不燃ゴミは邪魔だから、早く持って帰ってくれよ!」と呟く匠氏。 こんなリアクションの時は、何か進展があった証拠。
怪訝がる匠氏をよそに、慌ててACプラグを差し込み電源を入れてみた。
おぉっ・・・!!   ボリュームには酷いガリ音があるものの、バリコンを回してみると今までとは雑音の状態が違う。地元の民放中継局とNHK中継局(共に1kW)、さらに弱いながらも隣接県の民放局まで入感する。
 嬉しくなって、思わず素手でシャーシーを持ち上げ、感電しそうになるボクを横目に匠氏はニヤリ。

              

 シャーシー内部の部品はオリジナルのままのため、硬化したACコード、ペーパーコンデンサー・抵抗の類(たぐい)は、安全のためにも後日、自分で交換することにした。せっかく調整を追い込んだラジオも、コンデンサーや抵抗を新品に交換すると定量変化が発生し、再調整を必要とする。
  その節は、匠氏、よろしくお願いしますぜ!

              

 汚れの酷く傷だらけのキャビネットと透明周波数表示パネルを洗浄し、コンパウンドを使って丹念に磨いたが、四角い孔でデザインされているフロント・キャビネットは特に根気がいる。透明周波数表示パネルには2つのダイヤルの裏に隠しネジがあり、取外すことができるため、プラスチッククリーナーとガーゼで丁寧に磨き、また左下の真鍮で装飾された脚、Sharpエンブレムもコンパウンドで研磨して酸化皮膜を取ると新品時のゴールドの輝きをとり戻した。

              
 昭和31年(1956年)当時発売されていた、シャープ5M-82と同クラスの中波専用mT管トランスレス式ラジオには、下記の機種がある。

  シャープ  5M-82 (¥6,200) ゼネラル  5M-408(¥6,700) オンキョー OS-12 (¥7,980)
  サンヨー  SS-35 (¥6,300)  ビクター  R-2000(¥8,800)  マツダ    かなりやG(¥6,900)
  ナショナル CX-430(¥―  )  トリオ    5M-2 (¥6,500) 

 サンヨーSS-35の記事では昭和31年の国家公務員の給与から当時のラジオの価値を計ったが、物やサービスの種類によって、価格の上昇率がまちまちであるため、お金の価値を単純に比較することはなかなか困難です。
そこで、「今の物価は、昭和31年と比べてどのくらいの水準なのか?」という設問に置き換え、昭和31年当時に 1万円で取引されていた物が、現在は何円ぐらいなのか?ということから、大体の価値が見えてきます。

 今回は、消費者物価指数で算出してみた場合、

  1776.7(平成16年消費者物価指数)÷300.2(昭和31年消費者物価指数)=5.92

 当時の価格を現在の価値観に照らし合わせると、約6倍となる。
つまり当時¥6,200の廉価版の中波専用mT管トランスレス式ラジオでも、今の感覚で言うと¥37,200ということになる。
いずれにしても国民にとって、ラジオはまだまだ高級家電製品であった時代という訳ある。