トリオ TRIO というメーカー名を目にされ、「懐かしいなぁ~」と思わず反応されたアナタ・・・は、35才以上の立派な中高年!(笑) FMチューナーのトリオとも呼ばれていた同社から、昭和31年(’56年)に発売された中/短波2バンドラジオ5M-2をご紹介する。
トリオ TRIO と言われてもピンとこない世代の方でも、「今のケンウッド KENWOOD の前身の社名」と聞けば、納得いただけるはずだ。ヤフオクでアンティーク・ラジオのカテゴリをウィンド・ショッピング(ディスプレイ・ショッピング?)していて、このラジオを見つけ、“ トリオが発売していた珍しいラジオ ” という理由だけで落札したのだが、デザイン的な魅力はとぼしい。
▲昭和31年 発売の中/短波2バンドトランスレスラジオ トリオ5M-2
ケンウッド KENWOOD の前身であるトリオは、昭和21年(’46年)長野県駒ヶ根市に有限会社春日無線電機商会として産声を上げ、当初、ラジオ受信機の部品である高周波コイルの製造からスタートした。
▲TRIOの商標で製造されていた高周波コイル
“トリオ”の商標を使っていた同社は、その後 ’50年、春日無線工業株式会社と社名を変え、受信機の開発を始め、’52年に発売した第1号の受信機が6R-4Sである。
写真のように、Hallicrafters S-38を模倣したデザインと回路構成であり、同年に再開されたアマチュア無線や漁業無線をターゲットにしていたため、短波のハイ・バンドやモールス信号受信に対応することで、人気を集めてた。その後さらに高性能な9R-4シリーズを発売するなど、山に囲まれ放送波などの微弱な電波環境である伊那谷で培った高周波技術がFMチューナ、無線通信機器の礎となっている。
▲春日無線工業(現ケンウッド) 第1号の短波受信機 6R-4S
オーディオブーム全盛の頃、トリオ(TRIO)は、山水電気、パイオニアと並びオーディオ御三家とされ、特に“チューナーのトリオ”とも呼ばれ、’86年には同社が海外ブランドとして使っていたケンウッド(KENWOOD)へと社名変更した後は、家庭用オーディオ機器、カーオーディオ・カーナビゲーションなどカーマルチメディア機器、無線通信機器を主力製品としたメーカーに発展し、現在に至っている。
▲往年の名機トリオFMユーナKT-9700と現行のケンウッドKseries
現在では当たり前のプロ野球ラジオ中継だが、この時代はラジオ東京(現TBS)やニッポン放送といった既存の中波ラジオ局では行なわれず、NSB日本短波放送(現在のラジオNIKKEI)のみが、連日中継を行なっていた。今では考えられないことだが、昭和20年代後半、ラジオ放送でのプロ野球中継は、スポンサーの付いた他の人気番組が多く編成されていた中波ではなかなか放送されず、僅かに特番枠でナイターが一時間放送される程度であった。
しかし昭和29年('54)8月に開局したNSB日本短波放送は、従来の中波ラジオと異なった番組構成と昼夜全国で聴取可能な短波帯の特徴を生かし、昭和31年('56)に連日ナイター中継の放送を開始。
昭和34年('59)には中波でも、神奈川のラジオ関東(現在のラジオ日本)が連日ナイター中継の放送を開始したが、これらのラジオ局はゴールデンタイムでもあまりスポンサーが付いていなかったため、思い切った編成ができたのである。1960年代以後はテレビに押された中波各ラジオ局でも連日ナイター中継放送を行なう局が増え、今日のプロ野球ラジオ中継が確立した。
▲昭和30年代のRCCラジオ中国 カープ野球中継(広島市民球場)
このようにプロ野球中継を待ち望んでいた全国のファンの短波放送への関心が高まりったことが、トリオ 5M-2の開発・発売へとつながる。
昭和31年(’56)当時、小型卓上中波ラジオで短波放送を聴くためには、NSBチューナーを接続する方法が一般的だったが、感度や安定度不足は否めなかった。本格的な受信機を供給する無線通信機メーカーだったトリオの創始者の一人であり、後に高級オーディオメーカー アキュフェーズを創設した春日二郎氏による雑誌広告記事に、その開発背景やコンセプトが書かれているので、ぜひご一読願いたい。
またこの年を境に、各ラジオメーカーはプラスチックキャビネットを使った中波/短波2バンド対応の小型卓上真空管ラジオの量産を開始。電源回路もトランスレス方式が一般的となった背景を、5M-2を開発した春日二郎氏は広告記事で如実に著している。
今ではKENWOODブランドで人気を集めるオーディオ&通信機メーカーに成長したトリオだが、大衆向け家電メーカーではなくマニアやプロ向けの通信機器関連の専業メーカーだった同社が、コンシューマに向けて開発・発売したという意味で、5M-2は大変興味深いラジオである。
5M-2の設計コンセプトは、「小型、高感度、低価格、操作性、高音質」を目指し、以下の工夫により高性能化を図ったと、雑誌の広告記事に謳っている。
・コイルは、スチロール板トリマ付18mm径、発振コイルタップを最適な位置にすることにより
高感度、安定した発振を行う(電圧が80Vまで低下しても作動)
・小型・省スペースの新型スライドスイッチを採用
・12BD6のカソードは直接アースされ、スクリーンとプレートは100Vの同電位でOKだが、
専用IFTでQの低下をカバーする
・低周波増幅初段はリークバイアスで、出力管にカレーント・フィードバックをかけることで、
電源リップルによるハムを防いでいる
・小型キャビネットでの低音不足を補正するために高音域をカット
・整流管35W4、PL(パイロットランプ)と並列に60Ωの抵抗を入れると、ランプ切れでも整流管
に悪影響がない
ヒューズを省略するなど、アメリカ製ラジオをリスペクトした5M-2は、品質面においても合理性を追求した、ある種の“先進性”を自負していたのだろうか。
価格面では昭和31年(’56)当時に発売されていた他メーカーのmT管トランスレス式オールウェーブ(中/短波対応)ラジオと比較しても、確かに20~30%以上安い価格設定となっている。
■中波/短波2バンドラジオ
シャープ 5X-105 (¥8,350)
ゼネラル 5A-301 (¥9,800)
オンキョー OS-12 (¥7,980)
サンヨー SS-33TB(¥7,950)
トリオ 5M-2 (¥6,500)
昭和31年当時のラジオの価値を現在の物価水準に照らし合わせ、「今の物価は、昭和31年と比べてどのくらいの水準なのか?」という設問に置き換えてみた場合、昭和31年当時に1万円で取引されていた物が、現在は何円ぐらいなのか?ということから、大体の価値が見えてきます。 消費者物価指数で算出してみると・・・・
(平成16年消費者物価指数)1776.7÷(昭和31年消費者物価指数)300.2=5.92
当時の価格を現在の価値観に照らし合わせると、約6倍となる。 つまり当時¥7,950のmT管トランスレス式ラジオを、今の感覚に直すと¥47,700、そしてトリオ5M-2の¥6,500は¥39,000ということになり、他メーカーのラジオと比較してもかなりのお得感があることが想像できる。
はたして今の時代に4~5万円も出してラジオを買うかどうかと考えた場合、50年前の人々の生活における “ ラジオ ” は手の届かない範囲ではないが、まだまだ贅沢な家電製品であったという訳だ。
戦前からラジオを提供し続けてきたシャープやナショナルなどの家電メーカーの製品は、スマートなデザインが多い。その点トリオ5M-2は、エッジのきいた直方体の無骨なオフホワイトのプラスチックキャビネットと、ゴールド/ブラックに色分けされた円形周波数表示盤の組合せは、お世辞にも“オシャレ”とは言い難いデザインだ。当時他社は使わなかったオフホワイトのカラーリングを採用したキャビネットだけに、造形美の詰めの甘いデザインが残念である。
しかし肉厚の一体形成プラスチックキャビネットの作りはしっかりしており、スピーカーからは安定した音域でNHKや民放ラジオの音楽番組を奏でる。
トリオ TRIO と言われてもピンとこない世代の方でも、「今のケンウッド KENWOOD の前身の社名」と聞けば、納得いただけるはずだ。ヤフオクでアンティーク・ラジオのカテゴリをウィンド・ショッピング(ディスプレイ・ショッピング?)していて、このラジオを見つけ、“ トリオが発売していた珍しいラジオ ” という理由だけで落札したのだが、デザイン的な魅力はとぼしい。
▲昭和31年 発売の中/短波2バンドトランスレスラジオ トリオ5M-2
ケンウッド KENWOOD の前身であるトリオは、昭和21年(’46年)長野県駒ヶ根市に有限会社春日無線電機商会として産声を上げ、当初、ラジオ受信機の部品である高周波コイルの製造からスタートした。
▲TRIOの商標で製造されていた高周波コイル
“トリオ”の商標を使っていた同社は、その後 ’50年、春日無線工業株式会社と社名を変え、受信機の開発を始め、’52年に発売した第1号の受信機が6R-4Sである。
写真のように、Hallicrafters S-38を模倣したデザインと回路構成であり、同年に再開されたアマチュア無線や漁業無線をターゲットにしていたため、短波のハイ・バンドやモールス信号受信に対応することで、人気を集めてた。その後さらに高性能な9R-4シリーズを発売するなど、山に囲まれ放送波などの微弱な電波環境である伊那谷で培った高周波技術がFMチューナ、無線通信機器の礎となっている。
▲春日無線工業(現ケンウッド) 第1号の短波受信機 6R-4S
オーディオブーム全盛の頃、トリオ(TRIO)は、山水電気、パイオニアと並びオーディオ御三家とされ、特に“チューナーのトリオ”とも呼ばれ、’86年には同社が海外ブランドとして使っていたケンウッド(KENWOOD)へと社名変更した後は、家庭用オーディオ機器、カーオーディオ・カーナビゲーションなどカーマルチメディア機器、無線通信機器を主力製品としたメーカーに発展し、現在に至っている。
▲往年の名機トリオFMユーナKT-9700と現行のケンウッドKseries
現在では当たり前のプロ野球ラジオ中継だが、この時代はラジオ東京(現TBS)やニッポン放送といった既存の中波ラジオ局では行なわれず、NSB日本短波放送(現在のラジオNIKKEI)のみが、連日中継を行なっていた。今では考えられないことだが、昭和20年代後半、ラジオ放送でのプロ野球中継は、スポンサーの付いた他の人気番組が多く編成されていた中波ではなかなか放送されず、僅かに特番枠でナイターが一時間放送される程度であった。
しかし昭和29年('54)8月に開局したNSB日本短波放送は、従来の中波ラジオと異なった番組構成と昼夜全国で聴取可能な短波帯の特徴を生かし、昭和31年('56)に連日ナイター中継の放送を開始。
昭和34年('59)には中波でも、神奈川のラジオ関東(現在のラジオ日本)が連日ナイター中継の放送を開始したが、これらのラジオ局はゴールデンタイムでもあまりスポンサーが付いていなかったため、思い切った編成ができたのである。1960年代以後はテレビに押された中波各ラジオ局でも連日ナイター中継放送を行なう局が増え、今日のプロ野球ラジオ中継が確立した。
▲昭和30年代のRCCラジオ中国 カープ野球中継(広島市民球場)
このようにプロ野球中継を待ち望んでいた全国のファンの短波放送への関心が高まりったことが、トリオ 5M-2の開発・発売へとつながる。
昭和31年(’56)当時、小型卓上中波ラジオで短波放送を聴くためには、NSBチューナーを接続する方法が一般的だったが、感度や安定度不足は否めなかった。本格的な受信機を供給する無線通信機メーカーだったトリオの創始者の一人であり、後に高級オーディオメーカー アキュフェーズを創設した春日二郎氏による雑誌広告記事に、その開発背景やコンセプトが書かれているので、ぜひご一読願いたい。
またこの年を境に、各ラジオメーカーはプラスチックキャビネットを使った中波/短波2バンド対応の小型卓上真空管ラジオの量産を開始。電源回路もトランスレス方式が一般的となった背景を、5M-2を開発した春日二郎氏は広告記事で如実に著している。
今ではKENWOODブランドで人気を集めるオーディオ&通信機メーカーに成長したトリオだが、大衆向け家電メーカーではなくマニアやプロ向けの通信機器関連の専業メーカーだった同社が、コンシューマに向けて開発・発売したという意味で、5M-2は大変興味深いラジオである。
5M-2の設計コンセプトは、「小型、高感度、低価格、操作性、高音質」を目指し、以下の工夫により高性能化を図ったと、雑誌の広告記事に謳っている。
・コイルは、スチロール板トリマ付18mm径、発振コイルタップを最適な位置にすることにより
高感度、安定した発振を行う(電圧が80Vまで低下しても作動)
・小型・省スペースの新型スライドスイッチを採用
・12BD6のカソードは直接アースされ、スクリーンとプレートは100Vの同電位でOKだが、
専用IFTでQの低下をカバーする
・低周波増幅初段はリークバイアスで、出力管にカレーント・フィードバックをかけることで、
電源リップルによるハムを防いでいる
・小型キャビネットでの低音不足を補正するために高音域をカット
・整流管35W4、PL(パイロットランプ)と並列に60Ωの抵抗を入れると、ランプ切れでも整流管
に悪影響がない
ヒューズを省略するなど、アメリカ製ラジオをリスペクトした5M-2は、品質面においても合理性を追求した、ある種の“先進性”を自負していたのだろうか。
価格面では昭和31年(’56)当時に発売されていた他メーカーのmT管トランスレス式オールウェーブ(中/短波対応)ラジオと比較しても、確かに20~30%以上安い価格設定となっている。
■中波/短波2バンドラジオ
シャープ 5X-105 (¥8,350)
ゼネラル 5A-301 (¥9,800)
オンキョー OS-12 (¥7,980)
サンヨー SS-33TB(¥7,950)
トリオ 5M-2 (¥6,500)
昭和31年当時のラジオの価値を現在の物価水準に照らし合わせ、「今の物価は、昭和31年と比べてどのくらいの水準なのか?」という設問に置き換えてみた場合、昭和31年当時に1万円で取引されていた物が、現在は何円ぐらいなのか?ということから、大体の価値が見えてきます。 消費者物価指数で算出してみると・・・・
(平成16年消費者物価指数)1776.7÷(昭和31年消費者物価指数)300.2=5.92
当時の価格を現在の価値観に照らし合わせると、約6倍となる。 つまり当時¥7,950のmT管トランスレス式ラジオを、今の感覚に直すと¥47,700、そしてトリオ5M-2の¥6,500は¥39,000ということになり、他メーカーのラジオと比較してもかなりのお得感があることが想像できる。
はたして今の時代に4~5万円も出してラジオを買うかどうかと考えた場合、50年前の人々の生活における “ ラジオ ” は手の届かない範囲ではないが、まだまだ贅沢な家電製品であったという訳だ。
戦前からラジオを提供し続けてきたシャープやナショナルなどの家電メーカーの製品は、スマートなデザインが多い。その点トリオ5M-2は、エッジのきいた直方体の無骨なオフホワイトのプラスチックキャビネットと、ゴールド/ブラックに色分けされた円形周波数表示盤の組合せは、お世辞にも“オシャレ”とは言い難いデザインだ。当時他社は使わなかったオフホワイトのカラーリングを採用したキャビネットだけに、造形美の詰めの甘いデザインが残念である。
しかし肉厚の一体形成プラスチックキャビネットの作りはしっかりしており、スピーカーからは安定した音域でNHKや民放ラジオの音楽番組を奏でる。