三菱電機(MITSUBISHI)「5P-468」
職場でお世話になった上司が定年退職を迎えられる。
その方が若い頃、「毎日、ラジオの英会話講座を聴いて海外との取引や出張のために勉強した」という昔の苦労話を聞かせていただいたことがあった。
今のように、気軽に短期海外留学や駅前留学!?で英語を習得できるわけではなく、生の英語を学ぶにも「ラジオ」が唯一の方法であり、それだけの根気と努力そして『気概』を必要とした時代だったことは容易に想像がつく。
三菱系の企業ということもあり、その方の半生を伴にしたスリー・ダイヤのマークのついたこのラジオをレストアし、退職記念のプレゼントにしたいと思い、オークションで手に入れた。
昭和34年(1959年)頃に製造された、mT管トランスレス、5球スーパーヘテロダイン方式のコンパクトでオーソドックスなデザインの真空管ラジオだ。
メーカー:三菱電機(MITSUBISHI)「5P-468」
受信周波数 : 中波 530KC~1650KC/短波 3.9MC~12MC
使用真空管:12BE6(周波数変換)、12BD6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)
キャビネットの外観全体の雰囲気をはじめ、つまみ、周波数表示、スピーカーのレイアウトは、オークションにもよく出品されている「東芝かなりやQ」とどことなく似ているが、フロントパネルの左上に輝く(!?)スリー・ダイヤのマークが、「三菱」ブランドのラジオであることを主張している。
プラスチックのキャビネットは艶を失い、フロントの透明パネルには埃が溜まり、透明感もなく曇り、40年の歳月を感じさせる。
三菱電機(MITSUBISHI)「5P-468」キャビネット内部
まずは裏蓋を外して内部の目視点検を開始。
真空管の熱で炭化したらしく裏蓋自体に欠けがあり、キャビネット内上部の耐熱材も剥がれている。シャーシーには40年間の埃と汚れが積もり、誰の手にも触れられることなく過ぎた歳月を物語っている。
フロントパネルのデザインは「かなりやQ」と似ているものの、シャーシー上のレイアウトや使用パーツはいくぶん異なり、バリコン、真空管、スピーカーには「スリー・ダイヤ」のマークが刻印されている。ただしスピーカーに「DIATONE」のマークがないことは、少し残念・・・・。
真空管は止め金具で固定されており、量産品のラジオでありながら、三菱ブランドならではの配慮を感じさせてくれる。
キャビネットから取り出し清掃したシャーシ
キャビネットからシャーシを取り外し、清掃作業にトライします。
前回の「かなりやOS」では、分解の際にツマミを割ってしまいましたので、今回は慎重に作業を進めます。
埃まみれの汚れたラジオの場合、取扱いが雑になってしてしまい、キャビネットやフロントの透明パネルを傷つけることがあります。作業周りの工具や分離したシャーシーに当てないよう、注意してください。
1.ツマミを取り外す。
2.キャビネット内部に見える「周波数指針」の止め金具を外す。
3.キャビネット底にある取付けネジを外す。
4.スピーカー、イヤホン端子、パイロットランプの取付けネジを外す。
5.キャビネットからシャーシーを取り出す。
ツマミやネジは小型タッパーに、キャビネット類は段ボール箱に入れておくように習慣づけています。
6.真空管をソケットから抜き取り、乾拭きする。
あまり強く拭くと、真空管表面の印字が消えてしまうので注意してください。
7.シャーシ表面と内部の埃を小型掃除機で吸引後、歯ブラシや刷毛で取り除く。
ベランダなど屋外で作業しないと、家族からクレームが入るので、注意してください。(笑)
8.部品にこびりついた汚れには、エレクトロニッククリーナーを吹きかけ洗浄する。
以上1.~8.の作業を行なうと、シャーシーに取り付けられている部品は見違えるほどキレイになります。頬擦りしたくなるほどです。♪
この時点で、ラジオに対する愛情指数は、かなり上昇しています。
ちなみに今回も清掃中に、スピーカーのコーンを一部破いてしまいました・・・トホホ。
シャーシ内部の点検
オークションや骨董市で手に入れた真空管ラジオに、いきなり電源を入れることは非常に危険です。
100台以上レストア経験のある先輩曰く、「真空管ラジオは鳴るといっても正常に動作しているとは限りません。そのまま使い続けると90%以上のラジオは、部品に無理が掛かっていて危険な場合が多いです。」
部品の耐用年数はとっくに過ぎており、コンデンサーが爆発したり、煙が出たり、火を噴いて火事になる可能性もあるそうです・・・・おぉ恐っ!
真空管ラジオの修理において予見される、あるいは潜在するすべてのリスクと結果は、自己責任に帰属することを認識した上で行なわなければなりません。
1.清掃を行ないながら、また終了後、じっくり時間をかけてシャーシーの内部を目視点検します。
・焦げた部品の有無
・コンデンサーの状態(膨れ、溶液の染み出しの有無ほか)
・ヒューズの有無と定格(トランスレスの場合は0.5A)
・配線の状態(断線や改造の有無)
2.次にテスターを使い、回路の各種電圧・電流をチェックします。
3.不具合のある部品、また予想される部品(出力管の結合コンデンサー、AVC回路のコンデンサー、電源の1次側のコンデンサーほか)も積極的に交換した方がよいそうです。
詳しくは、真空管ラジオレストアの達人である諸先輩方のホームページの記事がたいへん参考になります。
また「男の自由時間 -真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!-幻の5球スーパーで音がよみがえる」(技術評論社刊)という本に、チェックするポイントと修理手順が豊富な写真入で書かれています。
ちなみにアタシの場合は、シャーシ内の部品を眺めては「ウゥ~ン・・・・」と唸ってオシマイ。
なお古い真空管ラジオをレストアの達人である先輩にアシストしていただく場合は、先の「洗浄・清掃・点検」を十分に行なって依頼します。
埃まみれの汚れたラジオをいきなり持ち込むと、その清掃作業だけでも大変な時間と労力を費やさねばなりません。
「自分としてはここまでやったんだけど、これ以降の作業が手におえないので力を貸していただきたい」というように真摯かつ誠実に教えを乞う姿勢と社会人としてのマナーが大切だと思います。