昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

ビクター(Victor) MODEL 6A-2209とVOA"Music USA"

2006-03-26 | ビクター 真空管ラジオ
              
   VICTOR MODEL 6A-2209

 いつもジャンク品の安っぽい小型卓上タイプの真空管ラジオをレストアし、夜な夜なラジオを聴いている毎日だが、たまに「高級中型卓上タイプの真空管ラジオ」でゆったり音楽番組を楽しみたい気分の時がある。
 オークションで見つけたこのVictor MODEL 6A-2209は洗練された高級感漂うデザインだ。
写真を見てもキレイに整備されており、出品者の方の説明も非常に丁寧かつ真摯な内容であり、価格も手ごろだったため思い切って入札したところ、すんなり落札できた。

 型 式  :6A-2209 マジック・アイ付 5球2バンド・スーパー
        フェライト・アンテナ内蔵(アンテナ切換器付)
 周波数範囲:BC(535KC~1605KC)/SW(3.8MC~12MC)
 中間周波数:445KC
 感 度   :極微電界級 30db(30μV)/50mW
 出 力   :無歪1.5W 最大2.5W
 スピーカー:16cm PMスピーカー(SK-2039-L)1個
        9cm  PMスピーカー(SK-2050-A)1個
 真空管  :6BE6 6BA6 6AV6 6AR5 6X4 6E5
 使用電源 :100V、115V(ヒューズ挿換)50、60c/s
 消費電力 :40VA 35W
 端 子   :レコードプレーヤー接続ジャック、イヤホン・ジャック(2個用)
 寸 法   :高さ27.1cm 幅41cm 奥行18cm 重量6.2kg

              

 数日後、元箱とともに届いたラジオは肉厚のベークライト製キャビネット、フロントパネル、サランネット、4個のツマミいずれも高品質な材質が使われている。
年代を感じさせるシミ・汚れ、小さなひび割れ・擦れなどは若干あるものの、デザイン的にも落ち着きと高級感が漂う。
まだしっかりとした裏蓋を開けるとキャビネット内部はキレイに掃除され、すべてのペーパー・コンデンサはフィルム・コンデンサに交換され、マジック・アイ(6E5)まで新品に交換されています。
 出品者のコメントには「製造後相当の年数を経ていますので、あまり過大な期待はしないでください。」と書かれていたが、ご自身の手による回路図、取扱説明、メンテナンス・測定記録まで添付いただき、まったく手のつけようも無いほど十二分に満足できる製品です。

 前回「かなりやFS」の記事で触れたVOA、Voice of America(アメリカの声)は第二次大戦中の1942年に放送を開始した国際放送局。文字通り、アメリカの声(政策)を世界に向けて発信することを主目的としている。
もちろん、モスクワ放送などの共産圏の放送局に比べると宣伝色は薄かったのだが、報道の客観性を重視しているイギリスのBBC(英国放送協会)とは性格の異なり、イラク戦争の正当性を声高に主張する放送局である。国際情勢が緊迫するとBBCの聴取者が急増すると言われるのは、この理由によるところが大きい。
 そのVOAで永年にわたりジャズ番組 "Music USA" のDJを務めていたのが Willis Conoverであった。

              
   "Music USA" のDJ Willis Conover

 80年代前半のことだった。いつものように短波ラジオのスイッチを入れ、特定の放送を聴くというよりも、チューニングダイヤルを回しながら、気に入った音楽を見つけては気ままに耳を傾けることがボク流のBCL(海外放送受信)の楽しみ方である。
当時、夜の10時15分から放送されていたVOAの "Music USA" にダイヤルを合わせることも多かった。Willis ConoverがDJをつとめていたウィークデイ45分間のジャズ番組である。

 ボクが最も好んで聴くジャズ・ピアニストでもあるビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビィ」を知ったのも、この "Music USA" である。
 ただひたすら美しい旋律・・・・初めて耳にされた人には「おや?ちょっと歯切れが良くないピアノだな」と思われるかもしれない。
しかしその音色からはエヴァンスのあまりにも優しい情緒的な旋律とはまさに彼のピアノを指す言葉であろう。

              
   ワルツ・フォー・デビィ(Waltz for Debby)Bill Evans

 ちなみに「ワルツ・フォー・デビィ」はアルバムタイトルにもなっている。
このアルバムはニューヨーク・マンハッタンにあったヴィレッジ・バンガード(一時閉鎖したことを聞いたが今はどうなったのだろうか。)にて収録され、ライヴ盤らしくお客の笑い声や食器の鳴る音なども聞こえ、ライヴハウスの臨場感が溢れている。

 ジャズ演奏の善し悪しは、アドリブ演奏に見られる他楽器とのインタープレイ、つまり相互作用がポイントとなる。
ピアノトリオ(基本的にピアノ・ベース・ドラムス)というと、メロディーラインを奏でるピアノを中心にベースとドラムスが横から支え音を作り出していくピアノ頂点型のトリオもあるのだが、エヴァンスのトリオはベースのスコット・ラファロ、ドラムスのポール・モチアンがお互いに対局し正三角形の形をなして音を紡ぎ上げていく。随所に現れるラファロの天才的なベースセンスも大きな聴きどころである。

 ボクが真空管ラジオのレストアへと強引に引き入れた友人・音響の達人さんは音楽関係の師匠でもある。
ジャズを聴く人もそうではない方でもきっとどこかで一度は耳にしたことがあるであろうスタンダードの中のスタンダード「Autumn Leaves(枯葉)」。
ジャズに興味を覚えた頃、彼は、まずは色々なジャズプレイヤーの演奏する「枯葉」をとにかく手当たり次第に聞いてみて、その中から自分のフィーリングに訴えかけてくるジャズプレイヤーの他のアルバムを少しずつ聴いてみるという手法を教えてくれた。 

 雑音を押しのけて強力に入感するVOAの放送にチューニング・ダイヤルを合わせると、"This is Willis Conover, Music USA, Jazz hour." とゆっくりした語り口のアナウンスが今でも聞こえてきそうな夜である。