昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

ナショナル ラジオ社 (National Radio co.) SW-54 受信機 (1)

2009-12-30 | アメリカ製真空管ラジオ
第2次世界大戦が終結した翌年に発売され大ヒットしたHallicrafters社の入門用短波受信機 S-38シリーズに対抗し、1950年軍用&業務用無線機メーカーNational Radio社から発売された民生用入門短波受信機SW-54(’50-58年製造)を入手したのでご紹介する。
 第2次世界大戦を終えた米国では、短波受信機により世界中のラジオ放送やモールス通信をリアルタイムで聞けることが、一般市民にも広く知られるようになった。
’46年に発売されたHallicrafters 社S-38シリーズの爆発的なヒットに影響を受けた National Radio社は、’50年に入門用短波受信機 SW-54(’50-58年)を発売した。
    
    ▲National RADIO Co., INC.  SW-54 (1950-1958)
 Hallicrafters S-38シリーズは、’57年に発売されるS-38EまでのあいだGT管とメタル管を使用していたが、このNational SW-54は ’50年の発売当初から整流管35Z5以外はmT(ミニチュア)管を採用。そのためSW-54の筐体は、高さ(約178mm)×幅(約278mm)×奥行き(約178mm)と非常にコンパクトに収まっている。
20世紀を代表するデザイナーRaymond LoewyによりデザインされたHallicrafters S-38シリーズの秀逸な外観と比較すると、National SW-54の無骨な印象は否めない。
直方体の角を曲面処理されたキャビネットのフロントパネル上部に配置された横行き形状の周波数インジケータ、そして右側にある同調ツマミ(MAIN TUNING)と大型ダイヤル(BAND SPREAD)が印象的なデザインだ。
    
    ▲SW-54のボディは、H178mm×W278mm×D178mmと非常にコンパクト
 短波帯の受信を主目的とした受信機では、十分な感度や選択度に加え、同調ツマミをごくわずか動かしただけで周波数が大きく変化する特性にどう対応するか、という点も重要になる。
この問題をクリアするため、受信機の受信同調回路に電気的な周波数微調整を行なうバンドスプレッド・バリコン(BAND SPREADダイヤル)を装備することが一般的だ。
SW-54に先駆けて発売されたHallicrafters S-38シリーズのバンドスプレッドは、メイン・バリコンと一体になったバンドスプレッド・バリコンを糸掛けドライブで駆動し、バンドスプレッド・ダイヤルの指針はバンドスプレッド・バリコンのシャフトに直付けされている。そのためフリクションロスは最低限であり、最高にスムースなチューニングが行なえる。
    
    ▲キャビネットにBAND SPREADと刻印されているダイヤルだが・・・
 いっぽうNational SW-54にバンドスプレッド・バリコンは装着されず、キャビネットにBAND SPREADと刻印されているダイヤルは、100度に分割した目盛が描かれたプラスチック製の円盤を同調ツマミ(MAIN TUNING)のシャフトに直接取り付けただけの代物だ。
そのダイヤル目盛を、わざわざ窓穴に表示させて、「受信機」の雰囲気を演出するアイディアには感心すると同時に、思わず苦笑してしまった・・・ (^^;) 
    
    ▲同調ツマミのシャフトに円盤を直接取付けただけのBAND SPREADダイヤル
 確かに円周差を利用し、簡単に周波数同調の微調整を行なえる機構である。
S–38B の向うを張って天下のNational Radio社が市販したSW–54は、「ビギナーはこれでも大丈夫さ!」 といったアメリカ人らしい "It's OK." 的な割切り方が垣間見れて興味深い。

  メーカー  : National RADIO Co., INC.  SW-54 (1950-1958)
  サイズ   : 高さ(約178mm)×幅(約278mm)×奥行き(約178mm) 5 .9kg
  受信周波数 : 中波 540~1600kC/1.6~4.7MC /4.6~14.5MC /12~30MC
  使用真空管 :
     12BE6   局部発振・周波数変換
     12BA6   中間周波数増幅・BFO
     12AV6   検波・初段低周波増幅
     50C5    低周波出力
     35Z5    整 流
  電 源  : 105~130V AC/DC 0.26 A (117V AC)
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38E 受信機 (2)

2009-02-12 | アメリカ製真空管ラジオ
往年の名機 S38シリーズの最後を飾るにふさわしいデザインに引き寄せられ、落札した同シリーズ最終型S-38Eが届いた。フロントが平面的にならないよう周波数インジケータ部分のグラスと多面体ボディを採用した魅惑的なボディ、その使い心地をレポートする。
 1946年に発売されたS-38からS-38Cまでの機種は、Hallicrafters社のアイデンティティとも言える左右対象にレイアウトされた半円形状周波数インジケータが特長的なフロントパネルデザインだったが、S-38Dでは大型横行き形状の周波数インジケータがフロントパネルを占める平面的なスタイルへ変更され、デザイン的な魅力が失われたことは前稿ですでに述べた。
        
        ▲S-38Eはシリーズ最後期モデルながらHallicraftersの名に恥じない力作
 しかし1957年に発売されたS-38Eでは、大型横行き形状の周波数インジケータ部をさらに一回り大型化した。また選局ダイヤル/ヴォリュームつまみ等をフロントパネル下側へ配置し、シンメトリックなレイアウトへ変更するとともに、キャビネットが平面的にならないよう周波数インジケータ部分のフロントグラスを中心とする多面体ボディを採用した。
このフロントグラスとボディ部分の面構成が実に秀逸なのである。また多面体の各面をつなぐエッジに緩やかなラウンド処理を行なうことで、シャープさを損なうことなく鋭角なイメージを和らげ、洗練された豊かさと落ち着きを与えている。
        
        ▲S-38Eのデザインはフロントグラスとボディ部分の面構成が実に秀逸
人間に例えると齢(よわい)50才・・・ちょっと枯れた味を漂わせながら、菅野美穂や伊東美咲風のR35オンナを従え、20代のオトコ連中から
 「悔しいけど、このオヤジ、かっけー(カッコイイ)ぜ!」
と羨ましがられる艶っぽい(?)オヤジ像とS-38Eが重なる!  w(゜O゜;)w ワォ!
        
 実は世に溢れる工業製品のほとんどは多面体で構成されているのだが、それをいかに単純化し、S-38Eのように訴求ポイントとしてデフォルメし、プロダクトに仕上げるかが、デザイナーの腕のみせどころ。
        
 オークションに出品されていたS-38Eは、一部キャビネットの僅かな凹みと左端のバンド・スプレッド用ツマミに割れの補修跡があるそうだが、写真で見る限りコンディションも良さそうだ。職場の若手を数名引き連れて、居酒屋に行ったつもりで入札ボタンを押す・・・・。 他の入札者もあらわれず、すんなり出品価格で落札できた。落札から数日後、宅配便で送られてきた S-38Eは、キャビネットの焼付け塗装にも艶があり、ダメージやツマミの割れの補修跡も、指摘されなければほとんど気にならない状態だ。
        
 キャビネット裏側の段ボール製裏蓋を取外すと、50年の歳月を感じさせないキレイなシャーシの上に、Hallicraftersブランドがプリントされた'58年当時の真空管(mt管)とIFT、高周波同調バリコンが整然と並ぶ。
        

  メーカー: Hallicrafters社 S-38E (1957-1961)
  サイズ : 高さ(約178mm)×幅(約324mm)×奥行き(約235mm) 4.7kg
  受信周波数 : 中波 540~1650kC/1.7~5.1MC /5.0~14.5MC/13.0~31.0MC
  使用真空管 :
           12BE6 局部発振・周波数変換
           12BA6 中間周波数増幅
           12AV6 検波・初段低周波増幅
           50C5   低周波出力
           35W4   整 流
  電 源  : AC 115-125V/50-60cycles
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

 S-38Eと同時代の日本製真空管ラジオとの経年劣化の度合いを比べると、配線などの仕上げはともかく(笑)、コンデンサーなどパーツの品質ひとつとっても当時のアメリカがいかに頑丈な製品を供給していたのかが分る。
        
        ▲Hallicrafters社 S-38Eのシャーシ内部には高級パーツが並ぶ
 S-38Eのシャーシ内部部を見ると、50年代半ばから後半にかけてGIBSONのエレクトリックギター Les Paul、LP Junior、ES-335他、伝説のモデルに採用されていたSprague社Bumble-BeeやCornell Dublier社TINY CHIEFといったコンデンサが使われている。
        
コンデンサは、ギター内部パーツの中で、音色に最もかかわりが深いといわれているが、コンデンサを交換することにより確かに大きく音質の差がでます。
現在、多くのギターはトーンコントロール回路にセラミックコンデンサが搭載され、グレードアップと言うとオレンジドロップに変える事が定番のように言われています。コンデンサによる音質を変化を考えると、ヴィンテージコンデンサは、音の抜けが良く万人に好まれそうな音色、音抜けへと変わる。
 ヴィンテージ・コンデンサは、現在Les Paulモデルの価格が高騰していることも関係し、ギターマニアの間では1個の価格が数千円~2万円で取引きされている。本来なら安全上、コンデンサや抵抗類はリキャップしたほうが良いのは判っているが、オリジナルのヴィンテージ・コンデンサを残しておきたい気持ちに傾いてしまう。
        
 前稿でご紹介したNational Radio社 NC-60 "NC-Sixty Special" と比較すると、コイルをはじめとする高周波回路等すべての作り込みにおいてHallicrafters社のほうが高級感が漂う。
        
        ▲National Radio社 NC-60 "NC-Sixty Special"のシャーシ内部
 S-38Eの特長でもある大型横行き形状のメインダイヤル周波数インジケータには、POLICE、AMATEUR、GOVERNMENT、WWV(標準電波)といった短波帯を使用する業務区分別の帯域表示と主要国名が細かくプロットされている。
ちなみに写真の△CD(Civil Defense:民間防衛)マークが、640KHzと1240KHzの周波数にプロットされている。ソ連から発射されるミサイルは各都市のラジオ局の周波数を目標にして飛来するため、ミサイル発射を察知した時点でミサイルを攪乱させる目的で全米の全ラジオ局が同一周波数で放送を行なうという、当時の東西冷戦構造のなごりである。
        
まだ今ほどグローバル化が進んでいない50年前、アメリカの青少年たちは電波に乗って届く "未知なる世界の情報" がギッシリ詰まっているこの箱(S-38E)を前に、胸躍らせたことだろう。
        

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38E 受信機 (1)

2009-02-07 | アメリカ製真空管ラジオ
20世紀を代表するデザイナーRaymond Loewyによりデザインされ、Hallicrafters社から1946年の発売以来15年間にわたり製造・販売された不朽の名機 S-38シリーズの最終型である S-38Eを入手したのでご紹介する。
 Hallicrafters S-38シリーズを語るとき、その秀逸なデザインについて触れないわけにはいかない。 初代S-38の魅力は、すでに本ブログの「ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 」にて述べているが、プロダクト・デザインに携わるプロの立場で見た場合、やはりS-38シリーズの意匠は60年の時空を超えた現代でも、人々の琴線にふれる作品であると言えよう。
        
        ▲S-38E(1957年発売)は、往年の名機S-38シリーズの最終型機種
 同シリーズは、’46年から仕様の変更を重ねて ’61年まで、15年間にわたり生産され続けるほど大ヒットした入門用受信機である。通常の工業製品は、後期になるほど改良・改善されるものだが、本シリーズは'46年に発売された最初の S-38 から徐々に機能の省略化とコストダウンが図られ、1957年に発売されたS-38Eが最終型となる。
このような場合、最終型はすでにユーザーのニーズは薄れ、メーカー側もモチベーションの下がった駄作となることも多いのだが、S-38シリーズのS-38Eに関して言えば、そのデザインは有終の美を飾るにふさわしい力作である。
        

 S-38シリーズのアイデンティティとも言える、左右対象にレイアウトされた半円形状周波数インジケータが特長的なフロントパネルデザインは、1954年にS-38Cで終了。同年に発売されたS-38Dからは大幅なイメージチェンジが行なわれ、大型横行き形状の周波数インジケータがフロントパネルを占めるスタイルへ変更されたが、Raymond Loewyによるデザインのこだわりは消え、魅力の少ないシンプルなデザインとなった。
        
        ▲S-38シリーズの特長的な周波数インジケータは、S-38Dより変更
 その後、シルバーグレーのキャビネットである通常のS-38Dに加え、落ち着いた木目を生かしたマホガニーのプリントを施したカントリー調のS-38DMを追加。さらにS-38DからBFOとSTANBAYスイッチ回路を省略し、短波用ラジオだと割り切った5R-10も発売された。
        
        ▲落ち着いた木目のS-38DM(左)とBFO/STANBAY機能を省た5R-10(右)
 1950年代中頃になると、アマチュア無線や業務用受信機は、高機能な高周波増幅1段・中間周波増幅2段シングルスーパーの回路構成が標準的になっていた。
そして所詮、一般家庭で通常のラジオ放送を聴く5球スーパーをベースとしながら、効率的に短波の電波をキャッチすることを目指したS-38のマーケティング戦略は、 " 入門用短波受信機 " から、「手軽に短波放送を味わってみよう」と考える人々を対象とした " 短波用ラジオ " へシフトしてきたことが下記の広告からもうかがい知れる。
        
 今回入手したS-38Eでは、回路構成は従来のS-38シリーズとほぼ同じながら、真空管は従来のGT/メタル管からすべてmt管へと変わり、風貌や操作性を含め完全に中・短波 " ラジオ " へ移行した。  例えばキャビネットのカラーリングもS-38E(シルバーグレー)、S-38EM(マホガニー)、S-38EB(ベージュ)と3種類のラインナップを揃え、リビングやベッドルームでのんびりと世界各地から届くラジオ放送の番組を楽しむBroadcasting Listenerたちに裾野を広げた“ チョット高級そうに見える短波ラジオ ”といったところだろうか。
        
        ▲S-38E(左上)、S-38EB(左下)、S-38EM(右上)のラインナップ
 Hallicrafters S-38Eから2年遅れてNational Radio社から NC-60 "NC-Sixty Special " という横行きダイヤルのラジオ受信機が発売された。
どちらも同じようなコンセプトだが無骨なNC-60と比べ、Hallicrafters S-38Eの方は造形美も含め "大人の短波ラジオ" としての趣が醸し出され、断然スマートだ。
        
        ▲Hallicrafters S-38E(左)とNational Radio NC-60 "NC-Sixty Special " (右)
 いずれにしても往年の名機 S38シリーズの最期を飾るにふさわしい魅惑的なデザインのS-38Eに引き寄せられ、ヤクオフに出品されていることを発見したボクは思わず入札ボタンを押してしまっていた・・・(〃'∇'〃)ゝエヘヘ

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (3)

2008-11-16 | アメリカ製真空管ラジオ
Hallicrafters S-41 Sky Rider には、S-41Gの他にS-41Wというキャビネット全体をホワイトに塗装したモデルが存在する。第2次大戦が終わり、平和が訪れた世相を反映したためなのか、思い切った塗装を施した点が興味深い。 
        
 '40年前後から70年代前半の通信機や受信機は、Military仕様の影響を受けているのか、ブラックやダークグレー系のカラーリングが主流であった。
民生用入門短波受信機 ECHOPHONE EC-1シリーズのキャビネットは、ライトグレーのカラーリングだったが、第二次大戦の終了した ’46年 に、ブランドをECHOPHONE からHallicrafters へ変更して発売されたS-41は、赤味がかったグレー/ワインレッドに塗装されたS-41Gと、全面ホワイトに塗装されたS-41Wの2タイプがリリースされている。
        
 すでにこの時代の米国では、洗濯機や冷蔵庫といった白物家電の属する家事用具を指したホームアプライアンス(Home appliance)と呼ばれるマーケッティング分野が確立していた。
            
上の写真は、大東亜戦争前の'40年代初頭に雑誌に掲載されていた、アメリカの家庭用冷蔵庫の広告である。清潔そうで堅牢な真っ白い筐体の2ドア冷蔵庫の中に、ギッシリ詰まったゴージャスな食料品の数々! こんな国と戦った当時の日本は、たまりません。。。
        
 民生用入門短波受信機にHallicrafters ブランドの使用を躊躇いECHOPHONE ブランドを使った同社だが、終戦とともに平和へと移行する世の中の空気を敏感に感じ取り、マーケティング戦略をシフトしたのであろう。 当時の米国は、マーケティングとデザインの重要性がすでに確立しており、短波受信機も、"情報ツール" という一般家庭のホームアプライアンスの一部として位置づけようとされていたのかもしれない。

 EC-1からEC-1AおよびB、S-41Gを経てS-38に至るまで、Hallicrafters の入門用受信機は、高価なトランスを使わないトランスレス電源回路と中間周波数455kHzのシングル・スーパーヘテロダインにモールス信号を復調するためのBFO回路を加えた6球構成のシンプルな回路である。つまり家庭用5球スーパーと同じ回路構成でありながら、利得重視のIFT(中間周波トランス)の設計に助けられて世界中からの電波を聴くことができるパフォーマンスは本当にすごい。

National RADIO NC-60 - NC-Sixty Special - (1)

2008-11-10 | アメリカ製真空管ラジオ
大ヒットした入門用受信機Hallicrafters S-38シリーズの最終モデルS-38Eに対抗して発売された、米国National Radio社 NC-60 "NC-Sixty Special" (’59-64年製造)を入手したのでご紹介する。
    
    ▲National RADIO Co., INC.  NC-60 "NC-Sixty Special"(1959)
 Hallicrafters S-38シリーズは、’46年から仕様の変更を重ねながら’61年まで、15年間にわたり生産され続けるほど大ヒットした入門用受信機であり、日本製の受信機にも大きな影響を与えた。通常の製品は、後期の方が改良・改善されるものだが、本機の場合は、'46年に発売された最初の S-38 から徐々に機能の省略化とコストダウンが行われていった点が興味深い。S-38の爆発的ヒットに影響を受けた National Radio社は、’50年に入門用短波受信機 SW-54(’50-58年)を発売し、そこそこ売れたようである。
    
    ▲(左上)S-38  (左下)SW-54      (右上)S-38E  (右下)NC-60
 一方、Hallicrafters 社の S-38は、そのアイデンティティとも言える、左右向い合わせの半円形状周波数インジケータがレイアウトされた秀逸なフロントパネルデザインをS-38Cで終了した。S-38Dからは大型横行き形状の周波数インジケータがフロントパネルを占めるデザインへ変更し、大幅なイメージチェンジが行なわれた。
Hallicrafters 社 S-38の大幅なモデルチェンジに伴い、National Radio社は、SW-54の後継機として、’59年に大型横行き形状の周波数インジケータを採用したNC-60(NC Sixty Special)を発売。これを追うように、日本製受信機も横行き周波数インジケータ・タイプの9R-59などの機種が相次いで発売された。まだこの時代の日本は、工業先進国アメリカのデザインに追従しつつ、機能と品質向上を重視する時期だった。
    
    ▲落札したNC-60は天板と側面に錆が浮いている・・・・残念!
 National Radio社NC-60 "NC-Sixty Special"は、すべての真空管にミニチュア管を採用したトランスレス5球スーパにBFO回路を加えたシンプルな回路で、中波540kHz~31MHzを4バンドに分割・連続カバーする。短波帯のデリケートな選局微調整を容易にするスプレッド・ダイヤル機構、モールス信号を受信するBFO回路を搭載し、世界各地からの電波をキャッチする受信機として登場した。なおSW-54は、’50年の発売時点で既にHallicrafters 社に先駆けミニチュア管が採用され、整流管のみGT管35Z5だったが、NC-60では整流管もミニチュア管35W4に変更されている。
    

  メーカー  : National RADIO Co., INC.  NC-60 "NC-Sixty Special"(1959)
  サイズ   : 高さ(約195mm)×幅(約343mm)×奥行き(約220mm) 5 .4kg
  受信周波数 : 中波 540~2000kC/2.0~8.0MC /8.0~30.0MC
  使用真空管 :
  12BE6   局部発振・周波数変換
  12BA6   中間周波数増幅・BFO
  12AV6   検波・初段低周波増幅
  50C5    低周波出力
  35W4    整 流
  電 源  : AC 110-120V/50-60cycles
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

 ヤフオクに出品されていたNC-60は、ブルー/ブルー・グレーのコンビネーション・カラーのスチール製キャビネットの天板と側面に錆が浮いている。フロントのプラスチックパネルには一部ひび割れがあるが、比較的キレイな状態である。通信型短波受信機というより、盆踊りの時に拡声器と一緒に使われるチューナー・アンプ・・・?! に似てると感じるのはボクだけだろうか(笑)
    
    ▲お洒落なブルー/ブルーグレーのカラーリングのキャビネット
NC-60 "NC-Sixty Special"のキャビネットは、①ブルー/ブルーグレー、②ブラック/グレーのコンビネーションおよび③ブルー単色の3種類のヴァリエーションがあったようだが、その仕様の詳細な違いは不明。
    
    ▲(上)ブラック/グレーのコンビネーションおよび(下)ブルー単色 のキャビネット
 インダストリアル・デザイナーの視点で見た場合、同じ横行きダイヤルの短波受信機でも、ライバルであるHallicrafters S-38Eは、造形美も含めて "大人の短波ラジオ" としての趣が醸し出され、無骨なNC-60と比べ断然スマートだ。
    
    ▲ライバルであるHallicrafters S-38Eは、NC-60と比較すると断然スマート
 戦後、高級通信型受信機が続々と市販されている米国で、「手軽に短波放送を味わってみよう」という人々にとって、ブルー/ブルーグレーの明るい色調にカラーリングされたNC-60は、"通信機の重さ" を感じさせず、入門者に敷居の低い短波受信機として提供されていたことが、当時の広告から推察できる。
        
 NC-60の特長でもある大型横行き形状のメインダイヤル周波数インジケータには、marine(船舶無線)、aircraft(航空無線)、amat(アマチュア無線)、foreign(海外放送)、wwv(標準電波)といった短波帯を使用する電波の業務区分別の帯域表示が細かく印刷され、世界各地から届く微弱な電波に乗った "情報" に浸る楽しみが、この箱にギッシリ詰まっていることを物語っている。
    
 世界中を駆け巡る微弱な電波は、季節や時間帯、電離層のコンディション、受信機やアンテナの機能などの様々な要因により、キャッチできたり、できなかったり日々変動する。そうした不確定要因の中から、偶然の延長線上として思わぬ遠方の電波を捉えたとき、受信者は発信元に手紙で受信状況をフィードバック(報告)し、発信者はその報告へのお礼を込めて「報告された電波が自分が発信したものに間違いない」ことを確認する証であるVerification Card(受信確認証)が発行される。こうして世界各地から届く業務無線の電波を傍受するSWL(Shortwave Listening / Listener)や、遠隔地の放送局の番組をキャッチすることに勤しむBCL(Broadcasting Listening / Listener)たちにとっては、受信した証をコレクションすることも楽しみの一つなのである。

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (2)

2008-11-04 | アメリカ製真空管ラジオ
短波帯の受信を主目的としたラジオや受信機では、十分な感度や選択度に加え、チューニングダイヤルをごく僅か動かしただけで周波数が大きく変化する特性にどう対応するか、という点も重要だ。S-41G "Sky Rider Jr."の周波数同調回路について検証する。
 この問題をクリアするために、S-41G "Sky Rider Jr."にも周波数同調回路のメイン・バリコン(MAIN TUNINGダイヤル)に、電気的な周波数微調整を行なうバンド・スプレッド用回路(FINE TUNINGダイヤル)を装備している。
 S-41G "Sky Rider Jr."やS-38の元祖と言われるEchophone EC-1 のバンドスプレッド・ダイヤルのスケールは左右に動く横行きタイプだった。
    
    ▲Echophone EC-1 の横行きタイプのバンドスプレッド・ダイヤルスケール
EC-1A以降、メインダイヤルとバンドスプレッド・ダイヤルの周波数スケールを左右対称に配置した特長的なレイアウトを採用。以後、S-41GやS-38シリーズへと受け継がれ、Hallicrafters 入門用短波受信機のアイデンティティとなる。
    
    ▲S-41G "Sky Rider Jr." の左右対称タイプのバンドスプレッド・ダイヤルスケール
    
    ▲レイモンド・ローウィによりデザインされたS-38のバンドスプレッド・ダイヤルスケール
 通常、短波受信機の周波数同調回路には、メイン・バリコンの横へバンド・スプレッド用バリコンが取付けられているか、またはS-38のようにメイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンを糸掛けドライブで駆動する方式が採用されている。 ところがS-41Gのキャビネットの中を覗いて見たところ、バンド・スプレッド用バリコンが見当たりません・・・!
    
 ウェブサイト Noobow System Lab. の記事を拝読すると、EC-1/EC-1A とEC-1B/S-41Gとでは、バンドスプレッド機構が大きく異なることが判明した。
EC-1/EC-1Aは、メイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンを オーソドックスな糸掛け方式で左右のチューニングつまみから駆動します。
    
これに対しEC-1BやS-41Gは、周波数スケールを左右対称に配置したレイアウトは同じながら、 バンド・スプレッドはシャーシ下の局発コイルの中にあるコア棒を移動させる方式へ変更されている。この方式は、下記 ①、② の2連タイプの糸掛け方式であり、各糸掛けの途中にはロードスプリングが入っています。

① バンド・スプレッドつまみのシャフトとダイヤル指針のついたシャフトが糸掛けでつながれ、シャーシを垂直に貫通するシャフトを回す
②シャーシ下面の糸掛けにより、局発コイルの中にあるコア棒を往復作動させる
    
 複雑な機構でフリクッションロスが多く、ダイヤル操作感も良くないこの方式は、バンド・スプレッド機能としては不利である。なぜこうした複雑な機構を採用したのかは不明ですが、コストダウンを図ったのか、一体型バンド・スプレッド用バリコンの供給が滞っていたのか、その背景は定かではない。 いずれにしてもユーザーから不評だったため、 S-38 ではメイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンに戻されています。

 出品者の方によってあらかじめ電源平滑用の電解コンデンサ3個とPHONEジャックの抵抗を新品に交換されています。またIFT(455kHz)の調整も行なわれているとのこと。S-41Gは60年以上の時間を経過しても、これだけの部品交換だけでちゃんと動作する当時のアメリカ製製品の品質には敬服してしまう。
    
 電源プラグを家庭用の100Vコンセントにつなぎ、BAND SELECTスイッチを「1」(中波)に切替え、電源スイッチ付音量調整ヴォリュームをONにすると、フロントパネルの半円形周波数表示部にオレンジ色のパイロットランプが点灯する。裏蓋の無いリアパネルからは、GT管のプレートが灯り、部屋の電気を消すと幻想的な世界がそこに広がる。
ん・・・・・?? S-41Gのスピーカーから僅かなハム音は聞こえるが、空電ノイズは聞こえない。 そうだ、アンテナを繋いでなかった!(笑)
    
 しばらくするとスピーカーから静かに空電ノイズが聴こえ、左側にあるMAINダイヤルのチューニング用ツマミを回すと、ノイズから浮かび上がるように放送が聴こえてきた♪  短波帯の低域付近でチューニング用ツマミを回すと、何故かバリコンにガリがあります。バンド・スプレッドつまみを回すと、確かに周波数の微調整は行なえますが、可変範囲は狭く、フリクッションロスが多く、ダイヤル操作感もS-38と比べると不満が残る。ただ短波帯域の感度はイマイチながら、中波の感度はバッチリ!(^-^)v  所詮は5球スーパーと言いながら、感度や選択度は、あきらかに国産の家庭用5球スーパーと異なる。世界中からの電波を聴くことができるパフォーマンスは本当にすごい。

 S-41G "Sky Rider Jr."のチューニングダイヤルをアメリカ合衆国政府(USIA:合衆国情報庁)が公式に運営する国営短波ラジオ放送局、ボイス・オブ・アメリカ (The Voice of America 略称:VOA) の強力な電波に合わせ、彼らの主張する国際情勢やアメリカ国内の話題、歴史や文化・音楽などのプログラムに耳を傾けながら、日本とアメリカの関係に思いを巡らせた。

 戦後、日本は、アメリカの開発したラジオや通信機、家電あるいは自動車・産業機械といった様々な分野の工業製品の基礎技術を吸収し、発展してきた。また"アメリカ製"の堅牢な品質を分析・取捨選択することで、 "ビジネス" として改善・進化してきた "日本人のモノづくりへのこだわり" こそが、アメリカを凌駕し今日の日本の繁栄を支えているのだと思う。  
その反面、戦後、食料をはじめ教育、文化等あらゆる物質的あるいは精神的価値観がアメリカから流れ込み、それらを何疑うことも無く受け入れてきた自分自身を含めた日本のあり方に疑問を抱いた20代・・・ 
ボクは、アメリカや東南アジア、中東からヨーロッパを旅する中で、 "日本人としての何か" が自然派生的に芽生えていることに動揺を隠せない自分と対峙していた。
    
 バブルの終焉と自分の生き方の微妙なすれ違いに微妙な違和感を感じていた最中(さなか)、ブルース・スプリングスティーンを真似る悲しい日本人に扮したジャケット、浜田省吾のアルバム「Father's Son」に収録されている唄に出会った。
ボクに一つの答えを与えてくれた 『Rising Sun~風の勲章~』 は、戦後の焼け野原からバブル経済に辿り着くまでのこの国の姿が歌われている。

  焼け野原で学んだものと、経済大国になって忘れてしまったもの。

 真の国力とは、国家資産や経済力、軍事力などではなく、その国が培ってきた普遍的な価値観、歴史、文化である。
にもかかわらず、我々は  「日本とは何か」  「日本人として何を誇るのか」 という自らの問いかけすら忘れ、唯一の精神的支柱とも言える『恥』という概念さえも捨て去り、世界に向け主張できる価値観など、無くしてしまった。 それが国としての存在に関わる根源的な問題であることに、誰も気づこうとすらしない。 今、この国は、すでに国家としてのありようを完全に失ってしまっている。 日本はもはや、「亡国」と化してしまったのだろうか。本来、日本人の持つ "精神的価値観" さえも捨て去り始めた'90年代のバブル崩壊以降の "脆さと危さ" を、仕事やプライベートで日本を離れるたびに感じずにはいられない。
    
    ▲浜田省吾Father's Sonのジャケットはブルース・スプリングスティーンを真似る悲しい日本人
 『Rising Sun~風の勲章~』で時折流れるシーケンスのフレーズが心地良く、80年代のロック・サウンドのお手本になるようなアレンジ。深いディストーションでありながらも粒子の細かいギターサウンドは、理想の音の一つだ。
 いみじくもの今日、ダンスミュージックに乗せたギリギリの高音域の女性ボーカル-という新しいエンターテインメントで頂点に上り詰めた、某超大物音楽プロデューサーが大阪地検特捜部に巨額詐欺容疑で逮捕された。音楽プロデューサー、作曲家として、彼は時代に愛され、時代から見放されたのだろう。人々が真に求めていたものは、虚しいトランス状態ではなく、 "心に触れる音楽" だったのではないだろうか?

 時代認識や世相を歌うことに対して懐疑的なアーティストやオーディエンスも多い昨今、浜田省吾のそれは決して政治やイデオロギー的な立場からのものではなく、「君が好きだ」という感情も、この国の行方を憂う気持ちも、極めて個人的な感情から生まれている。
浜田省吾の歌う曲の主人公は常に迷い、もがき抗いながら生きていることが殆んどだ。だからメッセージは、いつもその背景の向こう側にある。そのメッセージを受け取れる人は、同じようにもがき苦しんでいる人だろう。だからこそあれだけ多くの人に届き、30年間を経てもなお多くのファンに支持され、共感を得ているのだと思う。

 日本敗戦の翌年に生まれたS-41G "Sky Rider Jr." から聞こえる、アメリカ合衆国の国営ラジオ放送局The Voice of America の論調に、親しみと敬愛するアメリカではあるが、彼の国の大義へ追従するだけの日本に疑問を抱く自分の中のDNAが葛藤するの夜、S-41Gのスイッチを切り、久しぶりに愛用のBOSEオーディオシステムで浜田省吾のアルバム「Father's Son」に聴き入った。

でもよく考えれば、このBOSEオーディオシステムも、しっかりアメリカ製じゃん!・・・・・などとどうでもいいことを "文化の日" に思う、店長の "憂い" はいつまで続くのやら・・・です(笑)

■前回の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (1)
■次回の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (3)

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (1)

2008-10-20 | アメリカ製真空管ラジオ
秋も深まりる夜、ヤフオクを眺めていると不朽の名機と言われた S-38の前作である S-41G "Sky Rider Jr." が出品されていた。オネーチャンとの休日ゴルフを1回キャンセルしたつもりで入札したところ、想定内の価格で落札できたためご紹介する (*^-^)v ィェィ♪
 Hallicrafters S-38 を手に入れてからというもの、この受信機にすっかり魅了されてしまい、夜毎、どこの国からともなく届くラジオ番組に耳を傾けながら眠りに就く日々が続いている。
不朽の名機と言われる Hallicrafters S-38の源流は、1941年に発売された ハリクラフターズ社の別ブランド Echophone EC-1から、1945年 新たにHallicraftersブランドで発売された S-41G "SkyRider Jr." の系譜へと遡る。
安価な入門用短波受信機 Echophone EC-1からEC-1A、B、さらに今回ご紹介する S-41G "Sky Rider Jr." を経て、S-38へと進化したプロセスは非常に興味深い。 
    
    ▲ヤフオクで落札した Hallicrafters S-41G "Sky Rider Jr." は還暦過ぎた63才!(笑)
 高級通信機メーカーであるハリクラフターズ社は、安価な入門者用短波帯受信機であるEC-1の発売にあたり、ブランドの失墜を懸念。Hallicrafters のブランドを使わず、1935年に買収合併したエコフォンラジオ社 Echophoneの名前で発売することにした。第二次大戦勃発と参戦に伴い、短波受信機や短波ラジオの生産は制限されたが、Echophone EC-1 だけはEC-1A、Bへとモデルチェンジを行ない、例外的に終戦まで供給され続けた。予想以上に高性能を発揮するEC-1シリーズはEchophoneブランドでありながら、実はハリクラフターズ社の設計・生産ラインから送り出される製品であることをユーザーは暗黙のうちに周知しており、大いに人気を得ていた。
    
    ▲Hallicrafters ブランドは冠されなかったEchophone EC-1(左)と EC-1A(右)
 第二次大戦の終了した1945年、ハリクラフターズ社はEchophone EC-1Bのキャビネットを塗り替え、ユーザー憧れの" Hallicrafters "ブランドと、さらには同社の高級受信機に与える" Sky Rider "の名前を冠して発売された機種が今回ご紹介する S-41G "Sky Rider Jr."である。
さらにその翌年 ’46年、 S-41G "Sky Rider Jr."をベースにして、20世紀を代表するプロダクツ・デザイナー、レイモンド・ローウィ(Raymond Loewy)による意匠デザインを加えた結果、Hallicraftersの名に恥じないシンプルかつ機能美を兼ねそろえた不朽の名機 S-38シリーズが誕生する。
    
    ▲Echophone EC-1からHallicrafters S-41Gを経て誕生した、不朽の名機 S-38
 落札から数日後、宅配便で送られてきた S-41G は、齢(よわい)63才・・・人間なら還暦を迎える受信機であり、キャビネットの汚れや錆、塗装の剥がれが、長い年月を経た趣を醸し出している。キャビネットへの大きなダメージは無く、ツマミ類もすべて揃っているが、残念ながら、裏蓋は欠品となっている。
このS-41G を目視点検していると、戦後すぐに生産された日本製真空管ラジオと比べ経年劣化を差引いても、当時のアメリカがいかに高品質な製品を生産していたかを物語る史料となり得るS-41G の出来栄えに感心する。
    
 キャビネットの天板を取外すと、60年の経年劣化はあるもののキレイなシャーシの上に、'45当時の真空管(メタル管、GT管)とIFT、高周波同調バリコンが整然と並ぶ。真空管も当時のアメリカでは、一般的なラインアップだ。

  メーカー: Hallicrafters社 S-41G (1946)
  サイズ : 高さ(約220mm)×幅(約00mm)×奥行き(約220mm) 4.7kg
  受信周波数 : 中波 540~2000kC/2.0~8.0MC /8.0~30.0MC
  使用真空管 :
  12SA7   (周波数変換用7極メタル管)    局部発振・周波数変換
  12SK7   (リモートカットオフ5極メタル管)  中間周波数増幅
  12SQ7GT (双2極・高μ3極GT管)        検波・初段低周波増幅
  12SQ7GT (双2極・高μ3極GT管)        BFO / ANL
  35L6GT  (ビーム出力GT管)          低周波出力
  35Z5GT  (2極整流GT管)            整 流
  電 源  : AC 115-125V/50-60cycles
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

    
    ▲天板を外すと'45当時の真空管とIFT、高周波同調回路が整然と並ぶ
 S-41G "Sky Rider Jr." は、550 kHzから30MHzまでをロータリー・スイッチにより3バンド切替えにてカバーするが、広い帯域の短波を2バンドにしか分割していないため、メイン・チューニングつまみをごくわずか動かしただけで周波数は大きく変化する。その対策として周波数の微調整を行なうためのバンドスプレッド機構を採用し、スムーズな選局が可能となっている・・・・はずだが、バンド・スプレッド用のバリコンが見当たらない・・・!
よく見ると、右側のバンド・スプレッド用ツマミのシャフトに糸掛けと何やらバネで細工が施してある。 これって・・・・??

■次回の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G "Sky Rider Jr." (2)

ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (4)

2008-09-07 | アメリカ製真空管ラジオ

S-38は、ごく平凡なトランスレス・タイプの中間周波数455kHzシングル・スーパーヘテロダインで構成された、普及型の中・短波受信機である。往年の名機と呼ばれるS-38の機能と実際に使ってみた操作性をレポートする。
 S-38で目を引くデザイン的特長は、左右向い合わせの半円状周波数ダイヤル表示にある。向かって左側が4バンドに分割した周波数を表示するメインチューニング・ダイヤル、右側がその微調整を行なうためのバンドスプレッド・ダイヤルの表示部分だ。

    

 各ノブやスイッチにレタリングされた文字と機能を、以下①~⑨に示します。

TUNING
S-38の周波数同調回路は、左側のTUNING、右側のBAND SPREADの2つのノブを回して、バリコンを糸掛け駆動します。目的の周波数に同調するための、メインチューニング・ダイヤルです。
短波帯は3バンドにしか分割されていないため、このTUNINGダイヤルをごくわずか動かしただけで周波数は大きく変化します。

BAND SPREAD
BAND SPREADダイヤルは、①TUNINGダイヤルで同調した周波数の微調整を行ないます。
このBAND SPREADダイヤルで駆動されるバリコンは、TUNINGダイヤルで駆動されるメインバリコンと一体となっています。

SPEAKER/PHONE
内蔵スピーカと、キャビネット背面にあるヘッドホン出力(ハイインピーダンス)の切替スイッチです。
ヘッドホンジャックにプラグを差し込むだけでヘッドホンに切替わる方式になるのはずっと後のことであり、’50年代の日本製家庭用5球スーパーにも同様の切替スイッチがありました。

A.M./C.W.
ラジオや音声通信に使われるA.M.と、モールス信号を再生するC.W.の受信モード切替スイッチです。 C.W.にするとBFO(Beat Frequency Oscillator)出力を検波回路へ注入し、モールス信号を再生します。

NOISE LIMITER OFF/ON
ノイズ・リミッタ(雑音低減回路)のOFF/ONを切替えるスイッチです。ONにしても若干感度が低下するだけで、効果はほとんどありません。

C.W. PITCH
C.W.の受信モードでモールス信号を再生する際に、再生音を調整するためのツマミです。

BAND SELECT
ロータリースイッチにより、中波から短波をカバーします。下記の1~4の周波数バンドに4分割し、選択するための切替スイッチです。
1 : 540~1650kC  2 : 1.65~5 MC  3 : 5~14.5 MC  4 : 13.5~32 MC

VOLUME(電源 ON/OFF)
電源 ON/OFFスイッチを兼用し、音量を調整するためのツマミです。

RECEIVE/STANDBY
S-38をアマチュア無線用の受信機として使う場合、隣に置いた送信機で電波を送信するとき、受信機の動作を一時停止した状態にするためのスイッチです。通常はRECEIVE にしますが、STANDBYにすると中間周波増幅管12SG7のカソードがオフになり、受信動作を停止し、送信機からの影響を受けません。
    
    ▲S-38を使用した米国Novice Classライセンスのアマチュア無線局

 短波帯の受信を主目的としたラジオ受信機では、十分な感度や選択度に加え、TUNINGダイヤルをごくわずか動かしただけで周波数が大きく変化する特性にどう対応するか、という点も重要である。この問題をクリアするために、電気的な周波数微調整を行なうバンドスプレッド・バリコン(BAND SPREADダイヤル)を装備したラジオが “ 通信型受信機 ” と呼ばれている。
 S-38のバンドスプレッドは、メイン・バリコンと一体になったバンドスプレッド・バリコンを糸掛けドライブで駆動し、バンドスプレッド・ダイヤルの指針はバリコンのシャフトに直付けされている。その結果、フリクションロスは最低限であり、また指針がバリコン直結になっているためチューニング範囲を超えて回しても指針のズレは発生しない。 その結果、糸掛けとしては最高にスムースなチューニングが可能となっている。

 S-38の電源を入れ、実際にBAND SPREADダイヤルのチューニング用ノブを回してみると、世界中から入感する電波を「探る」楽しみを十分に堪能できる。
発売から60年を経たS-38を使って海外からのラジオ番組を聴いていると、今のように “ 外国 ” が身近でなかった当時、アメリカの青少年がヨーロッパやロシア、オーストラリア、アジアからのラジオ番組に胸躍らせている情景が手に取るように伝わってくる。

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (1) 2008年07月25日

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (2) 2008年08月17日

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (3) 2008年08月31日


ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (3)

2008-08-31 | アメリカ製真空管ラジオ

S-38は、大変有名な受信機であり、米国は勿論、日本にも多くのファンがいる往年の名機だ。この世に送り出され、60年もの時を経て、今なお現役であり続けるアメリカ製受信機の “ 魅力 ” を探る。 
 S-38は、GT管とメタル管を使った真空管5球シングルスーパーヘテロダインに、モールス信号を受信するためのBFO (Beat Frequency Oscillator) 回路を加えた中波帯から30MHzを4バンドでカバーする6球構成の通信型受信機である・・・が、しかし所詮は、トランスレス5球スーパーラジオだ。 
ただ往年の名機と呼ばれていても60年前の代物ですから、はたしてどの程度使い物になるのか、不安は隠せません。
        
        ▲厚紙でできた裏蓋を外すとRCAやGE製のGT管、メタル管が整然と並ぶ

  メーカー: Hallicrafters社 S-38 (No letter / Early models : ‘46)
  サイズ : 高さ(約178mm)×幅(約327mm)×奥行き(約184mm) 5 kg
  受信周波数 : 中波 540~1650kC/1.65~5 MC /5~14.5 MC / 13.5~32 MC
  使用真空管 : V1 12SA7 (Converter:局部発振・周波数変換)
            V2 12SK7 (IF amplifier:中間周波数増幅)
            V3 12SQ7GT (Detector/AVC/AF:検波・初段低周波増幅)
            V4 35L6GT  (Audio output:低周波出力)
            V5 12SQ7GT (BFO / ANL)
            V6 35Z5GT  (Rectifier:整流)
  電 源 : AC 105-125V/50-60cycles
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

ヤフオクに出品されていた前オーナーのコメント欄には
「SSG&VTVM等を使って可能な範囲で調整を実施済み。中波ローカル放送ならアンテナなしでも十分受信可能ですが、良いアンテナをつなげば、BCLもそれなりに楽しめると思います。」
と書かれている。
        
        ▲こんなアンテナを張るのが理想だが、現実は・・・(TρT)
マニュアルによるとアンテナは、50~100 feetのLong-WireかDipoleアンテナを推奨している。しかし実際は、2階のテラスに張った僅か3mほどのShort-Wireをキャビネット背面の端子に接続してみた。
        
 電源プラグを家庭用の100Vコンセントにつなぎ、BAND SELECTスイッチを「1」(中波)に切替え、電源スイッチ付音量調整ヴォリュームをONにすると、フロントパネルの半円形周波数表示部にオレンジ色のパイロットランプが点灯する。
しばらくするとスピーカーから静かに空電ノイズが聴こえ、左側にあるMAINダイヤルのチューニング用ツマミを回すと、ノイズから浮かび上がるように放送が聴こえてきた♪ 
        
 日本の家庭用電圧100Vのせいか感度はやや抑え気味、高感度とは言いがたいものの、選択度や安定度は適度で、海外からの放送を受信するには十分実用的だ。前オーナーが何点かの部品交換と調整後発送していただいたため、全バンド受信可能である。操作時に多少ガリが出ることもあるが、60年以上前に製造された受信機であることを考えると感慨深い。

周波数の微調整を行なうためのBAND SPREADバリコンはMAINバリコンと一体となっており、ごくオーソドックスな糸掛け方式で左右のチューニング用ツマミから駆動され、選局時の同調操作はきわめてスムース。
        
        ▲ステータを共用し、ローテータが左右にある一体型バリコン
周波数直読は困難ですが、右側にあるBAND SPREADダイヤルのチューニング用ツマミを回し、バンド内を「探る」楽しみを十分に堪能できる。 
        
 誰もが寝静まった深夜、S-38のスピーカーから流れる優しく乾いた音が、疲れた心を癒してくれる。真っ暗な部屋で、キャビネットの隙間から漏れる真空管とパイロットランプの灯り、そしてフェージングとともに聞こえてくる外国の民族音楽が何とも幻想的な空間を醸し出す。
        

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (1) 2008年07月25日

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (2) 2008年08月17日


ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (2)

2008-08-17 | アメリカ製真空管ラジオ

名機と呼ばれ、戦後日本の民生用受信機や通信機の開発にも大きな影響を与えた Hallicrafters社 S-38 シリーズの中でも、大変貴重な初期モデルであるS-38(No letter/前期タイプ '46年製)を入手して約1ヶ月が経過した。
 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (1) でも書いたとように、第二次大戦の終了した翌年、EchoPhone EC-1B/Hallicrafters S-41G SkyRider Jr.をベースにレイモンド・ローウィのデザインと再設計を加え、初心者向け民生用受信機として登場した S-38は、大ヒット商品となり、戦後日本の民生用受信機や通信機の開発にも大きな影響を与えた。
        
        ▲Hallicrafters社 S-38 初期型で眠れぬ夜にジャズやR&Bを聴く
数年後、 S-38のデザインをコピーした、より高性能な受信機が日本の通信機メーカーから相次いで発売されている。
        
        ▲S-38をコピーし、高性能に進化させたデリカCS-7('59~)
それは60年以上前、『インダストリアルデザイン』という新しい価値観の重要性を日本人が無意識のうちに感じ取り、後年、アメリカの開発した通信機・家電をはじめ自動車・産業機械といったあらゆる分野の工業製品に “ 機能 ・品質・安価 ” という高い付加価値を与えることで AMERICA を凌駕し、彼らのマーケットを席巻する胎動期であったと考えれば、この S-38は “ 戦後の日本 ” を象徴する意味深い受信機である。
        
        ▲トリオは9R-4JをアメリカでLafayette KT-200/HE-10の名前で発売
 今回落札したS-38は、スチール製ケースの塗装色がダークグレー、底蓋もスチール製を採用しているS-38(No letter)前期型モデル。小キズ・汚れは多少ありるが、目立つへこみやひどい錆はなく、下の写真のとおり大変キレイな状態だ。
 レイモンド・ローウィによるデザインは、 S-38の立方体のキャビネット・ケースのエッジに柔らかな丸みを持たせ、フロントパネに専門用語で言うところの黄金比(最も美しいとされる線分比率 Golden ratio)に従ったレイアウトを採用している。 黄金比とは、線分を a, bの長さで 2 つに分割するときに、a : b = b : (a + b) が成り立つように分割したときの比 a : b のことであり、植物の葉の並び方や巻き貝、純結晶といった自然界にも見られる。黄金比は、神のもたらした神秘的な規則であるとも言われ、歴史的建造物、美術品は最も美しいとされるこの線分比で構成されていることが多い。
        
        ▲レイモンド・ローウィがデザインしたHallicrafters社 S-38 初期型('46年製)
 またS-38のデザインで目を引く特長は、左右向い合わせの半円状周波数インジケータにある。向かって左側がメインダイヤル、右側がスプレッドダイヤル表示だが、通常はスプレッドダイヤルの表示位置を「0」にして、メインダイヤルで大まかなチューニングを行ないます。
        
 このようにケース塗装、各ツマミ・スイッチ、裏蓋まですべてオリジナルのままの S-38は、60年以上前の受信機であることを考えると、極めて良好なトップレベルのコンディションではないかと思います。
        
 底蓋に貼ってある、むやみな調整を戒める警告ラベル(紙製)もきれいに残っている。ちなみにS-38A以降のバージョンの底蓋には、コストダウンのためにスチールではなく厚紙が使われており、アメリカらしい合理主義を垣間見ることができる。
        
 厚紙で出来た裏蓋を外し、キャビネットの内部を確認する。基本回路はトランスレス5球スーパ+BFOなので、シャシ上面は非常にスッキリしている。ほとんど錆のないシャーシ上には、RCAやGE製のGT管、メタル管が整然と並ぶ。スプレッドダイアル用に2軸方式となっているバリコンは、60年以上前の受信機とは思えないほど、輝きさえ放っている。シャーシに貼られたシリアルNo.ラベルがそのまま残っているのも嬉しい。
        
 近代の日本と最も関わりの深い国がアメリカであることに、誰も疑う余地はないだろう。ペリー来航による開国、明治におけるハワイ・西海岸への入植・移民、欧米列強のアジア支配に国家の存亡を賭けた闘いに敗れ焦土と化した日本・・・そこへアメリカが圧倒的な力とともに携えてきたのは映画と音楽にチョコレートだった。 彼らのもたらした文化の中で、物質的な豊かさを追い求めていた昭和世代の日本人にとって、AMERICA は “ 特別な国 ” なのかもしれない。
        
 20歳を過ぎた頃、自分の中に流れるその “ 特別な何か ” を知りたくて、シアトル郊外のSea-Tac空港に降り立った。小さなリズムボックスとカセットレコーダーをカバンに詰め込み、ギターを抱えてグレイハウンドバスに揺られながら、ラスペガスを目指した。 だが憧れの国だったはずのアメリカにボクの求めた居場所はなく、結局、AMERICA にたたずむ自分は “ 黒い瞳を持つただの日本人 ” であることを、思い知らされる旅だった。
        
 バブルがはじけて意気消沈したままの日本と自分自身の人生観との微妙なすれ違いに苛立ちを感じ、心の空白を埋めようと仕事にのめりこんでいた30代前半・・・ロサンジェルス郊外の工場に据え付けた産業機械のPRビデオ撮影現場に1週間立ち会った。
荒野に建つ真新しい広大な工場内で、汗にまみれて黙々と単純な肉体作業にいそしむヒスパニック系労働者と監督役のフィリピーナ。せわしなくフォークリフトを操るアフロ・アメリカンたちを横目に、電動カートに乗った白人エンジニアは日本からの撮影チームに気安く声をかけてくるが、経営陣とおぼしき白人は、決して目を合わせようとせず、ただ黙って横を通り過ぎる。 
“人種の坩堝(るつぼ)” と言われるアメリカの完璧なまでのヒエラルキーと、いわゆる “高品質なモノづくり” のみがこの国での日本人の存在意義である現実を肌で体感した。
        
 勤務先では毎年、7月下旬に9日間の夏季休業がある。今年は シアトル - ポートランド - サンフランシスコ - サンノゼ へプライベートの旅に出る予定だったが、諸般の事情でやむなく出勤。屋外は連日35℃を越える猛暑の中、オフィスのデスクに向かい「暑い~!・・・」と連呼するトホホな羽目になってしまった。

 蒸し暑い夜の続く深夜、浅い眠りから目覚めたボクは、ベッド脇に置いた S-38の電源スイッチを入れて、チューニングダイヤルを回す。ある日は雑音交じりに聞こえてくるジャズやR&Bに指を止め、また別の日にはどこの国からの電波ともわからない伝統音楽に耳を傾けているうち、いつのまにか眠りに落ちてしまう日々を過ごしている。

■過去の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38 受信機 (1) 2008年07月25日