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東芝はmT管5球スーパーラジオに鳥名の愛称をつけて発売を始めた。
木製キャビネット大型高級機種を「めじろ・かっこう」、中型には「うぐいす」、小型卓上型タイプを「かなりや」と分類し、シリーズごとにアルファベットをつけて発売していた。
その「かなりや」シリーズの第一号機が、昭和29年(1954年)に発売された『かなりやA』である。
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かなりやAが発表された時代は、茶の間の娯楽の中心がラジオからテレビに移行するとともに、ラジオがパーソナルな娯楽の道具へと移る時期である。機能・性能に関しては大差無いこのクラスのラジオ、特に東芝かなりやシリーズは、『デザインという付加価値』による消費者ニーズの掘起しを図った高度経済成長期の量産工業製品でもある。
「かなりやA」の角張ったボクシーなフォルムと正面右の円形周波数表示板を配置したデザインは、好みの分かれるところ。
先に紹介した「サンヨーSS-60」のアールデコ調のシンプルでエレガントなキャビネットと比べ、かなりやAの「無骨な潔さ」にボクは惹かれてしまう。
ブリティッシュ・グリーンとゴールドの色合わせも、色彩学的にはマル印であり、かっての木製キャビネット製ラジオのイメージを払拭し、プラスチック素材の特長を活かしつつ落ち着きを求めて試行錯誤した選択だったのではないかと想像される。
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昭和29年(1954年)から40年(1965年)頃までの約10年間に約30種類以上製造された「かなりやシリーズ」はmT管トランスレス式5球スーパーラジオと思い込まれがちだが、第一号機である「かなりやA」は唯一電源トランスが使われている。
メーカー:東京芝浦電気(TOSHIBA) 形式「かなりやA 5MB-42」
受信周波数 : 中波 530KC~1650KC
使用真空管: 6BE6(周波数変換)、6BD6(中間周波数増幅)、6AV6(検波&低周波増幅)、6AR6(電力増幅)、5M-K9(整流)
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かなりやシリーズの初号機「かなりやA」を手にすると、比較的小型だがトランスレス式と比べれば一回り大きく、電源トランスが装着されているため持ち上げるとズッシリと重い。厚目のプラスチック製キャビネットは、カッチリした作りだ。
裏蓋を外すと50年間の埃が堆積したシャーシーの上には、マツダ製のmT管とマツダと刻印されたIFTが並ぶ。シャーシー中央に電源回路を配置したため、通常のトランスレス式と異なり写真中央のIFT左隣に整流管5M-K9が位置する。
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今回も自慢がてら、友人の事務所に持ち込み、一緒に症状のチェックを行なった。
キャビネットから取り出したシャーシーの中央には電源トランスが座り、減速機構付バリコンや大型スピーカーも取り付けられ、卓上ラジオとしては堅牢な作りであるが、パイロットランプは破損しており、手持ちの新品と交換した。
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シャーシー裏側は、埃も少なく意外とキレイだ。 目視点検のみで通電テストに移ることとした。毎度の事ながら緊張が走る一瞬だ・・・ 意を決してスイッチON!! ん?PLは点滅せず、ウンともスンとも言わない・・・ ヒーターの灯りも灯らない。
ヒューズは正常だったのに! ??何で??どーしてなの??
テスターでACプラグの通電はOKだったのに・・・ ヒューズフォルダーの接触不良でもなさそうです。
友人曰く「ヒューズ切れ寸前だと、目視では溶断してないようでも、ヒューズ管の根本が切れかかっており、テスターの電流だと導通しても100Vの電圧がかかるとそのショックで切れることがある」とのこと。ヒューズを交換すると、無事に電源は入りました。でもまだ音が出てきません。
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ヒーター、B電圧はOKなことを確認し、シャーシーをドライバーの柄で軽く叩いてみると雑音が出る。 昔の家電製品は故障を発見・断定するために「叩く」「ひっくり返す」「揺する」といった技を使うが、怪しい・・・ボリュームが交換されており、パーツの取り付け処理ミスか?
結局、AVC用コンデンサーのリード線に半田屑が付着し、他のパーツと接触していため音が出なかたことが判明。パーツの取り付け位置の手直し、電源回路とカップリング回路のペーパーコンデンサーも交換した。
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修復完了後、チューニングダイヤルを回してみても感度が今一歩。おかしいな・・・と思いつつアンテナ線を伸ばし、アルミサッシの窓枠アンテナ?!に接続すると急に感度が上昇した。
当時のラジオは基本的に「アンテナ線をつなぐ」ことを前提に設計されていることを再認識した次第である。
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ブリティッシュ・グリーンに見えていたキャビネットをコンパウンドで研磨し、表皮を剥ぐことで、実は深みのあるミッドナイト・ブルーであることが判明した。
つまり元々ミッドナイト・ブルーのボディーなのにタバコのヤニの黄色でコーティングされていたため、青+黄=緑 と見えていたわけだ。
一部消えかかっているゴールド部分を再塗装するか、そのまま50年前の「味」として残すかは、嬉しい悩みでもある。
このラジオでNHK第一放送の毎週水曜21:30~放送されている「ときめきジャズ喫茶」を聴くと、いい雰囲気だろうなぁ・・・と考えてたところに藤岡琢也さんがご病気で長期療養に入られたニュースを知った。
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番組はスタジオをジャズのライヴ喫茶に見立て、俳優・藤岡琢也氏と写真家・浅井慎平氏が隔週でマスターを勤める。主として藤岡はスタンダードナンバーを、浅井はジャズをアレンジした曲を中心に選曲・構成しているため、スタンダードジャズファンのみならず音楽愛好家なら存分に堪能できる仕掛けが取り入れられている。
ある新聞のインタビューに対し、
「NHKラジオで『ときめきジャズ喫茶』って番組もやってるんです。
昔はミュージシャンになりたかったぐらいで、不遇、下積み時代もジャズを聴いてここまでやってこれたって感謝の気持ちもあるので、世の中に良質なジャズのサウンドを提供したい。
大人が聞ける音楽が不足してますからね。 大人を音楽で力づけたい。形はいろいろあるけど4ビートのスタンダードジャズを聴かせたいんですわ。」
と熱く語っておられた藤岡さん。じっくり治療されてラジオの向こうから再びボクらに永遠のスタンダードナンバーを届けてくださる日をお待ちしております。
その時はぜひこの50年前に世へ送り出され、今こうして甦ったミッドナイト・ブルーのかなりやAのスイッチを入れて、窓越しに夜空を眺めながら「大人のときめきの時間」を味わいたいものです。