小林真 ブログ―カロンタンのいない部屋から since 2006

2006年開設の雑記ブログを2022年1月に市議当選でタイトル更新しました。カロンタンは40歳の時に飼い始めたねこです

『きらいなはずだった“夏”に』―伊勢正三8月15日@逗子・音魂レビュー

2008-09-22 23:34:32 | 音楽
青い空+黄色い花=緑の秋のきゅうり 09/09


前回予告は、
>次回に「6月23-30日」分から一気に書き込んで追いつくことにします
でしたが、9月23日に伊勢正三@赤坂に行くことになったので、書いていなかった8月のライブレビューを。

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何度も繰り返していますが夏は苦手。
食糧の低自給率を考えても米ができないのは困りますが、できることなら「春~秋~冬~春~秋~冬」のシーズンサイクルを希望します。ついでにいえば内陸育ちにつき海もこわくて、「夏が待ち遠しい!」とか「夏だ! ビーチだ!」とかそういうことはいったことがないか、もし過去にそういうことを口走ったとしても、それは無理をしていたに違いありません。
そんな私でしたがお盆只中の8月15日は、敬愛する伊勢正三が逗子・音霊という海辺でライブをするというので、多分10年ぶりくらいに海に出かけました。

同行は昨年GWの品川に続き塾内伊勢正三研究部門一番手の26歳Y君。チケットは直前にYahooオークションで入手しました。Y君が、どういう場所なんですかね、というのに、ホームページで見たらヤシの木の写真なんかがあったから浜辺じゃねえか、レジャーシートでも持ってくか、じゃあ、うちのを持って行きますよ、おう、頼むぞ、ということでY君青いシート持参の上、湘南新宿ラインに乗りました。

逗子駅に降りたのは初めて。1時間以上時間があるので、「知らない町に行ってもラーメン」のルールに則り、駅前を見渡すと「歴史と季節の店」を感じさせる「ときわ軒」なる店を発見しました。おすすめと書いてあった「わんたんめん」を頼み、ビール、餃子で待とうとするも、すみません、おばちゃん:水しかないんです、おっさん:すみませんねえ、なかなかいい店じゃないか。味の方も見た目そのまま、うそのない一杯でありました。

ときわ軒を出て、そこらに立ってる地図を見ながら会場への道。海岸からは海水浴帰りの者どもがとことこ歩いてきます。
海への小さな路地はリッチなお宅が多い。80年代生まれの住宅業界のY君と、各宅のモードから、これは70年代前半じゃねえか、当時これだけの物を建てられたのは相当な金持ちだったはずだ、湘南といえば谷崎あたりの小説でも金持ちがいっぱいいたからな、などと適当な話をしつつ歩いていると、目の前にざぷーん、と海が開け、大勢の海水浴客がわいわいいっているのに、当たり前なのにびっくりしました。
これなら早く出て海パン持ってきてもばちは当たらなかったぜ、などといいつつ、体育館履きから久々に地上復帰のトレトンを脱ぎ、ズボンをまくって海に侵入。泳ぐには至りませんでしたが、しばらくの間寄せては返す夕方の波のリズムを味わい、ひざから下が砂だらけになったので帰るまでずっとトレトンは手に持っていました。

おお、ここだここだ、会場の音霊とやらは意外にも海の家風。なんだ、これじゃシートなんか必要なかったじゃないか、だがまあいいや。海の家では、どうやらリハーサルの最中のようです。伊勢さんの声で、『見上げてごらん夜の星を』がきこえてきました。これどこできいたんだっけ、伊勢崎のなごみーずだったか、なお、この日のライブではきけませんでした。

うっかり一枚余計に落札してしまったチケットを、Mixi経由のJさんという方に現地で渡すことになっていたので電話。うっかり電車内ですでに携帯の電池がなくなりそうになったので、リスクヘッジのため番号を控えておきました。
さすが観光地、何度かつながらなかったけど何とかアクセス。無事チケットをお渡しできました。

アナウンスがあったので整理券順に並びいよいよ入場。場内の状況はまったくわかりませんでしたが、ステージに向かって右側があいていたので前から2番目に。ここならギターワークも存分楽しめるぞ、と思ったのですが逆に近過ぎてとくに左手はほぼ死角に。でも、狭い会場だし距離でいえば史上最近で、息遣いまで伝わってきそうです。
ハイネケンだったか、ついてきたピックのドリンク券でY君が持ってきてくれた輸入ビールを飲んでいると「逗子日暮れ色」は深まり、予定通りの18:30に海のギターヒーローが登場しました。

「気持ちいいねっ、こういうところでやりたかったんだ!(引用不正確)」
いつにないハイテンションはきっと、空調のない会場でのいつにない熱気。そして何より、すぐ近くの浜辺からきこえてくる「汐風」のせいでしょう。
1曲目は意表をついて、
「『海辺のジャパニーズレストラン』へようこそ!」
のMCとともに、アルバム『out of town』からの同名曲。生できくのは多分2回目で、95年頃かなの大宮では確か、
「この曲は、一番渋いことをやって頃の曲で……」
と恥ずかしそうだったのを憶えています。そう、この日の会場はいつもと違って「アウト・オブ・タウン」。ひょっとしたらそういう意味があったのかも知れません。

続いてはかぐや姫再結成時の名曲『湘南夏』。
「『もう若くもないのに』って歌ったのは20代の頃だったんですよ」
と、とても嬉しそう。そして、時間はさらにさかのぼっていきます。
中学校の頃の思い出を語り、ウクレレで加山雄三の『闇夜のハネムーン』。いつだったか、多分NHKの番組で南こうせつと荒木一郎に憧れて高校の時に書いたという曲を歌った『星のシャンデリア』(だったかな)を思い出します。この日、初めて言及したのをきいた Stuff とか、歌ってくれた『イパネマの娘』のアントニオ・カルロス・ジョビンとか、現在の伊勢音楽はその後の人生で積み重ねてきたものは多いのでしょうけど、最初にあるのは加山雄三や荒木一郎なんだ、私たちファンの多くにとって「伊勢正三」がそうであるのと同じように。

次に「故郷の海を」と紹介して『青い夏』。
山本潤子とのデュエットしか発売されていませんが、みかん畑の若い恋を歌ったこの曲は『なごり雪』以来の「スタンダード」になる曲でしょう。これが単に「ノスタルジー」として響かないとしたら、日本の21世紀がどんなに変わってしまったかを嘆くしかありません。

そして、これもこの日のリストのハイライトとなった『夜のFM』。
82年、唯一のミニアルバム『Half Shoot』に収められたこの曲は、この日までそれほど思い入れはありませんでした。いや、正直いいますと、ちょっとサウンドがうるさ過ぎだった『Half Shoot』以降、93年の「復活」までは、『Heartbeat』など数曲を除いてあまり興味のない曲が多かったのです。
それがどうでしょう。ボサノバにアレンジされた『夜のFM』は、いままでとはまったく違った印象です。
昨年の品川も同じだった、正やんのほかギター1、キーボード、パーカッション(サックス)のミニマムな編成もありますが、音の隙間がはっきりしている。めずらしく歌い上げる歌唱は同じようですが、ボサノバのリズムの中でメロディーが明確にきこえます。
思い出したのは、ジャンルは違い、またそっちはライブ盤のCDでしたがプリテンダーズのアコースティックライブ The Isle of View。I go to sleep などスタジオではそれほどよく感じなかった曲が、まったく違った命を与えられていたのをきいたことでした。
それは次の『堤防のある町』、大久保和久(久保ヤン)の急病で公演中止になった4月の風ライブの代わりに歌った『星空』『22才の別れ』をはさんだ後半の、『シャワールーム』『PIER39』『バルコニーの休日』といった曲も同じ。これまでそれほどいいと思ったことのなかったこれらの曲が、めったに来ない「夏の海」というシチュエーションでまったく違った魅力を持って私の耳に響きました。

そう思っているうちにライブは佳境へ。
「座ってばっかじゃ……」というMCにお客さんが立ち上がる中、あのイントロが響き『海風』、そしてあっという間のすばらしい夜を『ほんの短い夏』で締めくくります。そう、「ほんの5分だけ」とファン願いますが、海辺のこの場所の夜は早いそうです。
メンバーがいったん消えてアンコール。公演のTシャツに着替えてきた正やんはありがとうといった後、屋根の下の細い窓を指差して波の音をきき、そして月の光を見るようにいったような気がしますが定かではありません。何がどうあれ、あの曲だと思ったその時、きこえてきたのはあのテンションコードから佐藤準さんのピアノのリフ、そう『月が射す夜』でした。
昨年の品川ではオープニングだったこの曲ができたのは中3の時。しばらくはよさがよくわかりませんでしたが、今はレパートリー中でももっとも好きな曲の一つです。

「君と居る夏が行く 暑すぎたね…
…音が跡切れた風鈴だけに さびしい人の心が解かる…
…ある時笑っていたね 流されればすべてが終わるなんて…
…季節が動く時の蝉の声響けば さびしい人の心も変わる」

何度もきいた、わかったようできっと永遠にわからないすばらしいフレーズと、しっかりとしながらたゆたうサウンドは、発表から30年後のこの夜のために書かれたような気すらします。

そして、静まって『夕凪』。そして正やんを呼んだのはお母さんだという会場オーナー、キマグレンの若いメンバーといっしょの『なごり雪』。もちろん冬の終わりの歌ですが、その辺にこだわらないのが今の正やんのおおらかさなのでしょう。

終わって横にいたY君が、いやあ、いいライブでしたね。よく知らない曲も多かったけど。ミー・トゥ。すっかり暗くなった外に出ました。
連絡すると約束してあったMixiの方に電池が切れたのでY君の携帯から電話。すぐそばにいて初めての対面となり、『月が射す夜』のイントロにはひょっとしてレッド・ツェッペリン Black Dog があるのではないかなどという私の珍説にもつきあってくれて、楽しいひと時を過ごしました。ありがとうございます。

そして駅への道は、乾いた砂を払ってトレトンは手に持って。途中で見つけたエスニック料理店でY君と話した感想を、かんたんにダイジェストとしてまとめておきます。

おれ、伊勢正三って、冬の人ってイメージなんだよ。そう、ボクもですよ。何といっても「温かい愛がなければ冬は越せはしない」の『冬京』だろ、『3号線を左に折れ』なんかも「しまっておいたストーブもう出さなければならない季節です」だし、『忘れ行く歴史』は「君のいないこの冬はどこまで寒くなるのだろう」、好きな曲は冬のが多いし、夏でも終わりの『月が射す夜』なんかもある、それで冬をきちんと描けるところが伊勢正三のすごさだとずっと思ってるんだ、夏の曲書くっていうのは実はかんたん、イメージがいっぱいあるし。そうですね……

今あげた曲はほとんど最も好きな風中期からソロ初期、「サウンド志向」といわれた時期のものですが、たとえばこの日に歌った『星空』『22才の別れ』、Y君とも何度も絶賛する名曲『あの唄はもう唄わないのですか』にしても、季節に関する部分がないのに冬の感じがする、それが伊勢正三の世界がほかの流行歌手と一線を画している、というのが私の持論だったのです。

でも、この夜わかったのは「夏の伊勢正三」もすごい。
こんな感じは、WOWOWで数年前にやった『巨人の星』の「花形満編」。同じ作品群を別の角度からみたらまったく別の世界が展開していたというそれでした。
ここで提案ですが、夏の曲を集めたコンピレーション、いや、できればセルフカバーでもライブでも何でもいいですからこの日の『夜のFM』のような発見を味わわせてくれる新音源をお願いします。

ひとまず、これもかぐや姫トゥデイに収められた転調と端正なアレンジが見事な佳曲をひねって『きらいなはずだった“夏”』が、海辺にこんなすばらしい時間を隠しているなら、来年以降は少しだけ楽しみになった夜でした。

うっかりしてたら、そこが神奈川だということを忘れ最終間に合わず。Y君とともに横浜に出てネットカフェで朝を待ちました。
明日は伊勢正三、City Side 赤坂 Blitz で、私は1)17:00スタート、2)季節の変わり目の秋分の日だということで、風~ソロの変わり目の曲である、まだ生ではきいていない『東京日暮れ色』をオープニング予想曲にしてます。

伊勢正三LIVE2007東京―「一番うしろで見てました」は
http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/188d425cb8d5e352a62b87b90fce18b0

(BGMはもちろん風&伊勢正三)

以下当日画像 08/15:

ときわ軒


わんたんめん


10年ぶりかなの海1


海その2


忘れちゃいけない「にゅ」 09/09
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