墨汁日記

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平成マシンガンズを読んで 133

2006-11-15 21:17:42 | 

「じゃあさー、『学校』って言ってもたくさんあるよなぁ。
 小学校から中学校、高等学校から専門学校に大学校。
 ところで、今日はあんたの学校で遠足があったとする。
 家に帰って、お母さん、いや、帰ってきたお父さんに『今日の遠足どうだった?』と聞かれた。
 あんたは、『今日の学校の遠足は楽しかった』とお父さんに答えた。
 さて、この時の『学校』は、星の数ほどある学校のうちで、どの学校を差している?」

「どの学校も何も、私とお父さんの会話なら、私が行ってる学校以外に学校はありえないよ」

「その、私とお父さんの会話が、記号の成り立つ状況だ。
 次に、君は学校の帰り道に、見知らぬおじいちゃんに道を聞かれたとする。
 そのジジイはあんたに聞く『学校はどっちですか?』。
 はい、どっち?」

「どっちも何も、どの学校?」

「はい正解。
 見知らぬおじいちゃんは、実は来年から、あんたの学校の校長先生になる人であった。今日は、来年から赴任する予定の学校の視察に来たのだが、途中で道に迷った。
 困り果てていたら、赴任する先の学校の制服を着た女の子が歩いてきた。
 あぁ、この女の子に道を聞いたなら、目的地の学校に通う生徒なんだから間違いなく道をしっているはず。そう思ったとたんに、自分が女の子にとって見知らぬ人間であるという可能性を忘れて『学校はどっちですか?』とあんたに聞いてしまった。
 このジジイは、学校と呼ばれる建物が無数にあるコトは知っているくせに、自分のルールで、学校と言ったら、あんたが通い、自分が赴任するはずの学校以外にあり得ないと思い込んで、こう言ったんだが、このジジイの状況を知らない人間にはチンプンカンプンな質問だ。
 まず、どの学校に行きたいのか説明しろってかんじだ」

「あー」

「じゃ、次に『犬』という言葉の意味は?」

「え。ワンワン吠える動物」

「正解。
 ところで、この地球上にはワンワン吠える犬と呼ばれる動物は何万頭といる。なのに、どれも犬と呼ばれる。なぜか?」

「どれも犬と呼べる動物だから」

「正解。
 犬という単語は、犬という集合体に含まれる全ての犬をあらわす記号だ。犬と言うのがはばかれるほど犬っぽくなかったり、犬らしくなかったりしたら、いくら本当は犬でも、犬とは呼ばれない。ぜんぜん犬に見えない犬は、いくら本当は犬だとしても誰も犬とは呼ばないだろう。
 反対に、犬と呼べるモノはワンワン吠える動物の犬じゃなくても、全て犬と呼ばれる。これは犬型ロボットや犬のぬいぐるみに交番の警官まで含まれる。
 だが、目の前に今お散歩中の犬がいて、それを指差して、『ほら、あの犬』と言ったなら、犬という単語は現実に目の前にいる散歩中のその犬という意味以外は持たない。
 地球上に犬が何百万頭いようと、犬のカテゴリにおさまる範囲にいる単体としての犬をひとつ取り出し、ほらアレも犬だと固定して指し示す事ができるのは、犬という単語が、ただの記号だからなのだ。
 そして、記号は、状況や文脈がないと分からない、記号そのものはなんとでも置き換えのきくあやふやな物だからだ。状況や文脈が言葉に意味を与える。
 犬という言葉がただの記号であるというのは、犬の本質と何も関係なく、他の言葉でも置き換えが出来るからで、実際に言語が違えば犬はDogだ」


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