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徒然草 第四十四段 <口語訳>

2005-09-07 20:56:09 | 徒然草
 あやしの(粗末な。あるいは、賤しい身分の者の家の)竹の編戸(あみど)の内より、いと(とても)若き男の、月影に色あい定かならぬが、つややかな狩衣(かりぎぬ)に濃い指貫(さしぬき・貴族のはかま)、いと(とても)故づきたる(由緒ありげ)様子にて、ささやかな童(こども)ひとりを具して(お供にして)、遥かなる田の中の細道を、稲葉の露にそぼち(濡れ)つつ分け行くほど(あいだ)、笛をえならず(“うまくない”という意味にもとれそうなのだが、“上手く”という意味。“え”は良いと言う意味。“うまくなくない”というまわりくどい表現だ)吹き遊んでいる、『あわれ』と聞き知るべき人もあるまいと思うに、行かん方(行く先)知らまほしく(知りたく)て、見送りつつ行けば、笛を吹き止めて、山のきは(際)に惣門(正門)のある内に入った。榻(しじ・牛車の先についた二本の棒、ながえをおく台)に立てた車の見えるも、都(京)よりは目止る(目につく)心地(気持ち)して、下人に問えば、「しかじかの宮(とある皇族)のおわしますころにて、御仏事など(死者の供養)さうらうにや(なさってるんや)」と言う。
 御堂(仏間)の方に法師ども参って。夜寒の風(夜の冷たい風)に誘われてくるそらだきもの(香)の匂いも、身に沁(し)みる心地(気持ち)する。寝殿より御堂の廊(廊下)を通う女房(下女と言うと風情はないが、女のお手伝いさん)の追風用意(屋敷中に香の薫りをただよわせる事らしい。貴い人が風上にいたとしても、その体臭を周りにいる人々に感じさせぬよう、屋敷中に香をたきこめた事らしい)人目なき山里とはいえ、心遣いしている。
 心のままに茂っている秋の野ら(邸内に気ままに生えている草木)は、置き余る(こぼれるほど)露に埋もれて、虫の音かごとがましく(うらみがましく)、遣水(庭園の川)の音のどかである。都(京)の空よりは雲の往来(ゆきき)も速い心地(気持ち)して、月の晴れ曇る事は定め難い。


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