墨汁日記

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徒然草 第四十四段

2005-09-07 20:54:29 | 徒然草
 あやしの竹の編戸の内より、いと若き男の、月影に色あひさだかならねど、つややかなる狩衣に濃き指貫、いとゆゑづきたるさまにて、ささやかなる童ひとりを具して、遥かなる田の中の細道を、稲葉の露にそぼちつつ分け行くほど、笛をえならず吹きすさびたる、あはれと聞き知るべき人もあらじと思ふに、行かん方しらまほしくて、見送りつつ行けば、笛を吹き止みて、山のきはに惣門のある内に入りぬ。榻に立てたる車の見ゆるも、都よりは目止まる心地して、下人に問へば、「しかしかの宮のおはします比にて、御仏事など候ふにや」と言ふ。
 御堂の方に法師ども参りたり。夜寒の風に誘はれくるそらだきものの匂ひも、身に沁む心地す。寝殿より御堂の廊に通ふ女房の追風用意など、人目もなき山里ともいはず、心遣ひしたり。
 心のままに茂れる秋の野らは、置き余る露に埋もれて、虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。都の空よりは雲の往来も速き心地して、月の晴れ曇る事定め難し。


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