墨汁日記

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徒然草 第四十四段 <意訳>

2005-09-07 20:58:54 | 徒然草
 あばらやとも思えるほどの荒れた屋敷から誰かが出て来た。
 粗末な竹の網戸の中から出て来たのは年わかい男で、月明かりのなか色合いまでは定かでないが、艶のある狩衣に、濃い色の袴。童子ひとりをささやかな供として、田んぼの長い一本道を笛を吹きつつ歩き出した。
 刈り入れも近い稲穂の露に濡れながら歩く男の笛の音は、感心するほどのうまさで、男の育ちの良さを想像させる。どこのだれなのだと興味を抱いて、距離をおいてついて行くと、山際にあるお屋敷の門の中に入って行った。
 こんな山里には珍しく、牛車が停められている。屋敷の者に聞いてみると、この屋敷では現在、仏事が行われているらしい。
「偉い皇族の方もいらっしゃって、法事をなさってるんや」
 男の言う通り、こんなへんぴな山里では考えられないほど香の薫りが屋敷中に漂っている。
 屋敷の中を見ると女房たちが慌ただしく香をたき、廊下を移動している。法師も御堂に集まっている。
 庭に目をやると、小川がのどかに流れ、夏の間に気ままに生い茂った草木は露に濡れ、虫は死者を悲しみ鳴いている。
 空を見る。雲は都より速く流れるようだ。晴れとも曇りとも決められないほど雲は速く流れ、月がちらちらと見え隠れする。


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