感想文に本当に書きたかった言葉がふと脳裏をかすめた。
今、私は学園駅前のマックに居て小学校の時の一番の友人の洋子と話している。がんばらなきゃ、目の前の現実を持続させないと。自分の妄想に逃げちゃいけない。心を込めて話さないと洋子に失礼だ。
ところで、どうでもいいんだけど、さっきからななめ横に座っている男が気になって仕方ない。
いきなりマックに来て、いま『平成マシンガンズ』を読んでいるあの男だ。
私と洋子は対面で席についている。私の真ん前は洋子。私は窓際に座っている。ひとつ空席をはさんでつぎのテーブルにあの男は陣取っている。男は窓の方を向いてセットメニューのポテトをつまみながら本を読んでいる。位置的には私の正面45度のあたりにいるのでイヤでも目につく。
男が席に着いた時に、私はチラリと携帯で時間を確認した。
12時50分。
男は『平成マシンガンズ』のページを開いた。
手がタバコにのびかけたが「禁煙」なのを思い出したのか、のばした手の先をドリンクに変え、ストローでドリンクをすする。
最初は、大人の男はどんな顔して『平成マシンガンズ』を読むのだろうと気になってチラチラ見ていたのだが、男は表情ひとつ変えないで本を読む。ページをめくりながらポテトを貪り食い、手に付いた塩をなめなめしながらページをめくる。ポテトを食い尽くすと、バーガーの紙をむいてかぶりつく。トレーに落ちたレタスをひろって食い、むいた紙で口のまわりを拭きながら、ソースのついた指をなめた手でページをめくる。その間、まったくの無表情で眉一つ動かさない。表情とは裏腹にあさましくて汚い読書スタイル。
男が『平成マシンガンズ』を半分あたりまで読み終わる頃には食べる物がなくなった。
食べ物のなくなった男はたまにドリンクをすすりながら読書を続ける。
残るページの量から男がどのあたりを読んでいるのか想像する。あのあたりは主人公が行き場を失い、一番感動するあたりだ。私なんか思いっきり感情移入してボロボロ泣いてしまった。あすこで泣かない奴は人間じゃねぇ、人だぁ。
ところが、男は人であった。
まったく表情など変えないで、残りわずかとなったドリンクをズゥズゥ音をたてながらストローですすりつつページをめくっていく。
男の読書スタイルに、なんだか、私の感動や『平成マシンガンズ』が汚されていくようなかんじがした。
男はめくるページがなくなると、表紙裏の著者紹介をしばらくながめた後に読書を終えた。その時の時間は13時45分。
こいつ、人が一文字一文字、胸に刻み込むようにして思いきり感情移入しながら残るページの減る事にものの哀れを感じながら、涙流しゆっくりと味わった本を1時間かけずに読んじまった。
その読書スピードには感心するけど、あんた脳みそまで文字が届いてないんじゃないのと言いよりたい。脊髄で読んでるんだろうとぜひ突っ込みたい。
ガタタッといきなり男は席を立った。
出した時と同じように無造作に本をリュックに押し込んで、ジーンズのポケットに散開していた小物を詰め込むとトレーを持って去り始めた。
立ち上がった男は黒のTシャツにジーンズ。
あれ?
あぁそうか。『平成マシンガンズ』に出てくる「死神」は、「黒いTシャツに穴の開いたボロくさいジーンズを履いてお洒落心の感じられる装飾品をいっさいつけていない」。
帽子とメガネに惑わされてしまったが、私はあの男に「死神」のイメージを重ねていたのだ。穴こそあいちゃいないが小汚いジーンズに黒いヨレヨレのTシャツ。私の想像した死神のイメージに近かったから、私はどこかで見たような何かを男に感じたのだろう。
死神はマシンガンで人を撃つといい子いい子と頭をなでてくれるそうだが、現実のあの男には触られたくないな。そこらあたりもなんとなく「死神」のイメージに重なる。
「死神」は手に出刃包丁を持ってあらわれる。なんとなくあの男も出刃包丁が似合いそうなルックスだったのでついニヤリとしてしまったら、洋子に「人の話聞いてんの!」と怒られた。
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