墨汁日記

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徒然草 第二十三段 衰へ

2006-06-26 19:03:04 | 新訳 徒然草

 衰へたる末の世とはいへど、なほ、九重の神さびたる有様こそ、世づかず、めでたきものなれ。
 露台・朝餉・何殿・何門などは、いみじとも聞ゆべし。あやしの所にもありぬべき小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞ゆれ。「陣に夜の設せよ」と言ふこそいみじけれ。夜の御殿のをば、「かいともしとうよ」など言ふ、まためでたし。上卿の、陣にて事行へるさまはさらなり、諸司の下人どもの、したり顔に馴れたるも、をかし。さばかり寒き夜もすがら、ここ・かしこに睡り居たるこそをかしけれ。「内侍所の御鈴の音は、めでたく、優なるものなり」とぞ、徳大寺大政大臣は仰せられける。

__________________________________

<口語訳>

 衰えた末の世とはいえども、なお、宮中の神びた有様こそ、世付かず、めでたいものである。
 露台・朝餉・何殿・何門などは、すごいとも聞こえるはず。下賤の所にもあるはずの小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞こえる。「陣に夜の設せよ」と言うのこそすごかった。夜の御殿でだ、「かいともしとうよ」など言う、まためでたい。上卿の、陣にて事行える様子はさらにである、諸司の下人どもの、したり顔になってるのも、おかしい。そればかり寒い夜もすがら、ここ・かしこに眠り居るのこそおかしかった。「内侍所の御鈴の音は、めでたく、優なるものである」とだ、徳大寺大政大臣は仰られたそうだ。

____________________________________

<意訳>

 朝廷の権威おとろえた末世とは言え、今なお、宮中の神々しい様子だけは世間と異なり、素晴らしいものである。

 宮中では廊下を「露台」、食堂を「朝餉」と呼んだ。
 ただ「なんとか殿」とか「なんとか門」など言っているのを聞いただけで、格好よく思えた。
 粗末な家にもあるような窓や板の間でさえ、宮中では、「小蔀」とか「小板敷」とか「高遣戸」などと呼ぶ。すごく素晴らしく聞こえた。
 宮中の詰め所で、「陣に夜の設けせよ」と言ってるは、格好よかった。
 夜の寝殿で、「明かりに火を灯せ」と言うのも、素晴らしかった。
 儀式の責任者である上卿が、詰め所で指揮をとる様子は、素晴らしかった。
 従う諸司の下級役人達の、したり顔で任務行う姿も、可笑しかった。
 これ以上ない寒い夜ふけに、あちこちで仮眠をとっている役人達の姿も、可笑しかった。

「内侍所の鈴の音は、めでたく優しい」

 と、徳大寺大政大臣は仰られたそうだ。

____________________________________

<感想>

 『徒然草』は、前段から新機軸を展開し始めた。この段は、その新機軸2回目である。

 分かりやすいようにカテゴリに分けてみよう。

 序段から18段までが、「青春・苦悩編」。
 兼好が、出家に至るまでの苦しい胸の内が書いてある。

 19段から21段までは、「出家ほやほや編」。
 出家したての兼好の、ホヤホヤ産みたての気持ちが書かれている。
 世を捨てて、季節を愛で空を眺める境地に自分で自分ながらやや感動している。

 そして、いきなり兼好は22段から過去の回想に戻る。
 出家して、捨て去ったはずの過去を、いきなり懐かしく語り出したのだ。
 何故。

 兼好は、出家前は朝廷の役人で宮中に出勤していた。前段と、この段では、宮中生活の回想が書かれている。でも、なんで捨てたはずの過去を懐かしく思い出すのだろう?
 もしかしたら。
 兼好は未練たらしいのだろうか!

 未練たらしいうんぬんは洒落として、どうやら兼好は、ややエキセンドリックな上に、ブルーがかりセンチメンタルな気分に♪ジャァーニィとなっているらしい。

 なぜ、センチメンタル?

 そのワケは先を読まないとわからない。

 分からないんだけど、とりあえずカテゴリに分けてみよう。『徒然草』は、第22段から「センチメンタル編」である。
 乞うご期待!

____________________________________

<解説>

『九重』
 漢語で、宮中・皇居のこと。

『神さび』(かむさび)
 神々しいありさま。「さび」は接尾語で、らしく振る舞うの意。

『世づく』
 男女関係に理解・適応した状態。
 世間並みであること。
 この段では、世俗にそまるの意。

『露台』(ろだい)
 渡り廊下。

『朝餉』(あさがれひ)
 天皇が簡単な食事をとる場所。

『何殿』
 なんとか御殿。
 宮中にある建物を指す。

『何門』
 宮中に多数ある門。

『いみじ』
 すごいとかすてきの意。

『あやし』
 この段では、卑しい者や、身分低い者を指す。

『小蔀』(こじとみ)
 小窓。

『小板敷』
 板の間。

『高遣戸』
 高いところにある遣戸。

『陣』
 宮中で、政務や儀式を行う人間がいる場所。

『夜の設』(よるのもうけ)
 夜の備え。

『夜の御殿』
 天皇の寝所。

『かいともし とうよ』(かいともし 疾うよ)
 「かいともし」は、油を浸した芯をもつ灯籠そのものか、あるいは、「火気灯し」と言っている。
 「とうよ」は「疾くせよ」を省略したもの。とにかく、「明かりに点火、早く!」と言っている。

『上卿』
 宮中行事の運営責任者。

『諸司の下人』
 各係受け持ちの下級役人。

『内侍所』(ないしどころ)
 三種の神器のひとつ「八咫鏡」を納めているところ。

『御鈴の音』
 天皇が内侍所の「八咫鏡」を参拝する時に、内侍所にひかえた女官が、三度鈴を鳴らしたと言う。
 この鈴の音を聞けるのは、天皇自身か、ごくお側に控える高官達だけ。兼好は聞いた事がなかっただろう。

『徳大寺大政大臣』
 兼好が、官職についていた時の「大政大臣」。

 衰へたる末の世とはいへど、なほ、九重の神さびたる有様こそ、世づかず、めでたきものなれ。
 露台・朝餉・何殿・何門などは、いみじとも聞ゆべし。あやしの所にもありぬべき小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞ゆれ。「陣に夜の設せよ」と言ふこそいみじけれ。夜の御殿のをば、「かいともしとうよ」など言ふ、まためでたし。上卿の、陣にて事行へるさまはさらなり、諸司の下人どもの、したり顔に馴れたるも、をかし。さばかり寒き夜もすがら、ここ・かしこに睡り居たるこそをかしけれ。「内侍所の御鈴の音は、めでたく、優なるものなり」とぞ、徳大寺大政大臣は仰せられける。

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<口語訳>

 衰えた末の世とはいえども、なお、宮中の神びた有様こそ、世付かず、めでたいものである。
 露台・朝餉・何殿・何門などは、すごいとも聞こえるはず。下賤の所にもあるはずの小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞こえる。「陣に夜の設せよ」と言うのこそすごかった。夜の御殿でだ、「かいともしとうよ」など言う、まためでたい。上卿の、陣にて事行える様子はさらにである、諸司の下人どもの、したり顔になってるのも、おかしい。そればかり寒い夜もすがら、ここ・かしこに眠り居るのこそおかしかった。「内侍所の御鈴の音は、めでたく、優なるものである」とだ、徳大寺大政大臣は仰られたそうだ。

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<意訳>

 朝廷の権威おとろえた末世とは言え、今なお、宮中の神々しい様子だけは世間と異なり、素晴らしいものである。

 宮中では廊下を「露台」、食堂を「朝餉」と呼んだ。
 ただ「なんとか殿」とか「なんとか門」など言っているのを聞いただけで、格好よく思えた。
 粗末な家にもあるような窓や板の間でさえ、宮中では、「小蔀」とか「小板敷」とか「高遣戸」などと呼ぶ。すごく素晴らしく聞こえた。
 宮中の詰め所で、「陣に夜の設けせよ」と言ってるは、格好よかった。
 夜の寝殿で、「明かりに火を灯せ」と言うのも、素晴らしかった。
 儀式の責任者である上卿が、詰め所で指揮をとる様子は、素晴らしかった。
 従う諸司の下級役人達の、したり顔で任務行う姿も、可笑しかった。
 これ以上ない寒い夜ふけに、あちこちで仮眠をとっている役人達の姿も、可笑しかった。

「内侍所の鈴の音は、めでたく優しい」

 と、徳大寺大政大臣は仰られたそうだ。

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<感想>

 『徒然草』は、前段から新機軸を展開し始めた。この段は、その新機軸2回目である。

 分かりやすいようにカテゴリに分けてみよう。

 序段から18段までが、「青春・苦悩編」。
 兼好が、出家に至るまでの苦しい胸の内が書いてある。

 19段から21段までは、「出家ほやほや編」。
 出家したての兼好の、ホヤホヤ産みたての気持ちが書かれている。
 世を捨てて、季節を愛で空を眺める境地に自分で自分ながらやや感動している。

 そして、いきなり兼好は22段から過去の回想に戻る。
 出家して、捨て去ったはずの過去を、いきなり懐かしく語り出したのだ。
 何故。

 兼好は、出家前は朝廷の役人で宮中に出勤していた。前段と、この段では、宮中生活の回想が書かれている。でも、なんで捨てたはずの過去を懐かしく思い出すのだろう?
 もしかしたら。
 兼好は未練たらしいのだろうか!

 未練たらしいうんぬんは洒落として、どうやら兼好は、ややエキセンドリックな上に、ブルーがかりセンチメンタルな気分に♪ジャァーニィとなっているらしい。

 なぜ、センチメンタル?

 そのワケは先を読まないとわからない。

 分からないんだけど、とりあえずカテゴリに分けてみよう。『徒然草』は、第22段から「センチメンタル編」である。
 乞うご期待!

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<解説>

『九重』
 漢語で、宮中・皇居のこと。

『神さび』(かむさび)
 神々しいありさま。「さび」は接尾語で、らしく振る舞うの意。

『世づく』
 男女関係に理解・適応した状態。
 世間並みであること。
 この段では、世俗にそまるの意。

『露台』(ろだい)
 渡り廊下。

『朝餉』(あさがれひ)
 天皇が簡単な食事をとる場所。

『何殿』
 なんとか御殿。
 宮中にある建物を指す。

『何門』
 宮中に多数ある門。

『いみじ』
 すごいとかすてきの意。

『あやし』
 この段では、卑しい者や、身分低い者を指す。

『小蔀』(こじとみ)
 小窓。

『小板敷』
 板の間。

『高遣戸』
 高いところにある遣戸。

『陣』
 宮中で、政務や儀式を行う人間がいる場所。

『夜の設』(よるのもうけ)
 夜の備え。

『夜の御殿』
 天皇の寝所。

『かいともし とうよ』(かいともし 疾うよ)
 「かいともし」は、油を浸した芯をもつ灯籠そのものか、あるいは、「火気灯し」と言っている。
 「とうよ」は「疾くせよ」を省略したもの。とにかく、「明かりに点火、早く!」と言っている。

『上卿』
 宮中行事の運営責任者。

『諸司の下人』
 各係受け持ちの下級役人。

『内侍所』(ないしどころ)
 三種の神器のひとつ「八咫鏡」を納めているところ。

『御鈴の音』
 天皇が内侍所の「八咫鏡」を参拝する時に、内侍所にひかえた女官が、三度鈴を鳴らしたと言う。
 この鈴の音を聞けるのは、天皇自身か、ごくお側に控える高官達だけ。兼好は聞いた事がなかっただろう。

『徳大寺大政大臣』
 兼好が、官職についていた時の「大政大臣」。


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