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徒然草 第三十六段 久しく

2006-08-03 19:31:01 | 新訳 徒然草

 「久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと、我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地するに、女の方より、『使丁やある。ひとり』など言ひおこせたるこそ、ありがたく、うれしけれ。さる心ざましたる人ぞよき」と人の申し侍りし、さもあるべき事なり。
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<口語訳>

 「久しく訪れない頃、いかばかり恨むかと、我が怠り思い知られて、言葉ない心地するのに、女の方より、『仕丁あるか。ひとり』など言い寄こしたのこそ、ありがたく、うれしかった。そういう心様する人が良い」と人が申しました、そうもあるべき事だ。
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<意訳>

「女の家に、しばらく行けなくて。どれだけ恨んでいるかと思うと、自分の怠慢が思い知らされて、言い訳も思いつかないかんじでいたら、女の方から、『下僕あるか。ひとり』なんて言いよこして来て、ありがたくって嬉しかった。そんな心遣いできる女は良い」

 と、人が語っていた。
 それも当然だ。
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<感想>

 もはや、世を捨て遁世者。
 そのうえ兼好、もうすぐ40才。
 そんな兼好、立ち聞きしたのか、じかに聞いたのかは知らないが、ある男の語る言葉をつれづれと書き付けた。

 いろいろあって忙しい貴族の男、彼女との逢瀬をかなり怠ってしまった。
 マジ、かなり長いあいだ彼女と会ってない。
 彼女は恨んでいるんだろうなぁーと考えたら、ますます足が遠のく。
 そんな時に彼女からの伝言が届く。

「使用人余ってないかな? 一人でいいんだ」

 男は彼女の家に行く良い口実ができたとホッとして、適当な使用人をみつくろって彼女の家に行く。
 会えない恨みなんてサラリと流して、用件がてらにでも会いに来てくれないかな、なんて言える女は良い!

 と、ある男が語るのを兼好は聞いた。
 聞いた兼好の感想は「さもあるべき事なり」ようするに「そうあるべき事だ」という肯定。

 だが、兼好は坊主で女とは縁を切っている。
 なおかつ、たぶん40才前後の中年まっ盛りの熟しきった親父だ。
 そんな恋話には縁がないはずの人間なら、女がらみの話には冷めた感想を抱くはずなのだが、どうも兼好はこの話に共感している。
 なんだよ、おい。兼好は坊主で中年親父のくせして、女への愛着をまったく捨てきれていないよ!

 ところで皆さんは、この段のこんな女をどう思う?
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<解説>

『使丁』
 律令制度の時代に、各国より徴収されて朝廷の雑役をおこなった人夫。ようするに税が足りない分を肉体労働で奉仕した。
 というのがもとの意味だが、律令制度のくずれた兼好の時代では、金で売り買いされた奴隷か、それに近い身分の人間を差していると考えられる。

『さもあるべき事なり』
 「さもある」は「然も有り」で、そうあるはずとか当然とかいう意味。で、しかも「べき事なり」なので、まとめると意味は「当然のはずのことだ」となる。当たり前であるはずのことを、そうあるべき事だと強調している。
 女がなかなか自分に会いにこない男を恨まずにいるのは当然な事なのだろうか? 兼好が結局なにを当然と言いたいのかは良く分からない。


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