正月休みの頃だがこんな事があった。
昼飯の後に腹ごなしのため近所のコンビニまで歩いて買い物に行った。 コンビニでサッポロ黒ラベル4缶をカゴに入れてレジに立つ。レジには体格のいい若い男が店員としていた。レジにカゴを置くと、俺は店員にタバコを注文した。
「ハイライトひとつ」
「は?」
店員が不審な顔をした。 俺の滑舌が悪いのか声が小さいのか、とにかく俺の注文が聞き取れなかったらしい。 もう一度、今度は少し大きめの声でハッキリと言った。
「ハイライトをひとつ」
「2つですか?」
「ひ・と・つ!」
「はい…」
店員は返事しながら少し考えモサモサとした動作でゆっくりとタバコの置いてある棚に向かう。だが、なかなか注文したタバコをとろうとはしない。
店員はタバコの棚の前で一呼吸おいてから俺に尋ねた。
「すいません、何番のタバコですか?」
この店員は俺を怒らせたいのだろうか。
レジの奥にあるタバコの棚を見ると、タバコが並んでいる棚の下に品目ごとにそれぞれの番号が表記してある。ハイライトの下にふられた番号は「67」であった。
「67!」
俺は明らかにイラついた声でぶっきらぼうに答えた。
するとやっと店員はハイライトを手にしてレジに戻ってきた。
無言で5千円札を出すと店員は手慣れたかんじでおつりを返してよこした。ハイライトはすぐに取れないけど、おつりのやり取りには慣れているらしい。おつりをもらって外に出る。
帰り道に歩きながら考えると、どうやら今の店員はハイライトが何なのか知らなかったらしい。だから聞き返したり聞き間違えたりしたのだろう。そして、店員は名前からしてたぶんタバコの名前らしいとまでは察したものの、肝心のハイライトがどれなのだか分からなくて俺に聞いてきたものだと考えられる。 いじめる気はないが、客商売なら商品知識ぐらい身に付けておいて欲しいと思った。お互いの幸せの為だ。
と、いう経験をしたコンビニに今夜も歩いて行った。
夕方に少し昼寝をと思って横になったら、目を覚ましたのが9時前だった。それから少しウダウダして出発したので、ビールとタバコを買いにコンビニへ出かけたのは10時頃だったか。
コンビニでサッポロ黒ラベル4缶と鳥の唐揚げをカゴに入れてレジに立つ。レジには貧相な若い男が店員としていた。俺はレジにカゴを置くと店員にタバコを注文した。
「ハイラ…」
「温めますか?」
店員に先手をとられて鳥の唐揚げを温めますかと聞かれてしまった。
「いや、いい。ハイライトひとつ」
「あっ、少々お待ち下さい!」
そう言うと、店員は割り箸を手にしてコンビニの入り口に走っていった。
入り口でレジ袋を持った他の客が何か言っている。たぶん、箸が入ってなかったとかなんとか言っているのだろう。無精しないでレジまで来いよ、俺まで迷惑する。店員はすぐに戻ってきて言った。
「失礼しました。ハイライト・メンソールですね?」
「いや、普通の」
「4つでしたね?」
「いや、ひ・と・つ!」
どっから「4つ」なんて出てきたんだ。お前は落語の『時ソバ』か。いや、俺は時ソバよりときメモがいい。って落としてどうする。てか落ちてない。
やっと、普通のハイライトを1つだけ店員は手にしてくれた。
「温めますか?」
よほど唐揚げを温めたいらしいが、それはもうさっき聞いただろう。
「いいえ、温めないで下さい!」
帰り道に、ここのコンビニの店員はよほど俺を怒らせたいんだなと思った。人生とは耐える事である。忍耐、忍耐。