印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 2015年3月度会合

2015-03-23 15:32:46 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

      「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年3月度会合より)

●印刷産業がもっている“財産”を大切に

 文字は本来、公共のもので、原則として著作権は伴わない。しかし、書体となるとデザインが付随して、著作権が発生する。さまざまな異形書体が出現しているが、変形するほどに大元のかたちが分からなくなってしまう。許されるデフォルメの境が難しい。書体そのものがだんだんあやふやになっているのが実情だ。企業が独自の書体を他社に提供しても、それによって使用料を支払ってもらえるといった商習慣すらない。産業レベルで大元の「字体」を明確に定め、データベース化しておく必要がある。産業全体を俯瞰してものごとを考える業界人が少なくなってきた今こそ、真剣に取り組まなければならないと思う。見逃し素通りさせてしまうと、印刷産業がもっている貴重な資産を失うことになるだろう。書体に限らず、印刷産業が大切にしている固有の技術やノウハウを顧客に主張する努力もしない。重要性を印刷業界としてもっと理解して習熟し、次世代に教育していく必要があるだろう。


●大きな気持で印刷の文化を築いていこう

 印刷関係者は、もっとも身近な印刷産業の歴史を残そうという気がないようだ。印刷会社も自社の歴史を大切にしていない。古いものを壊してしまうことを厭わない。先達が注いだ努力、苦労が、情報化、デジタル化のなかでものすごい勢いで失われている。今こそ、印刷の歴史や文化を築くことに力を注いでほしい。例えば、デジタル情報は装置がなければ見られないのに対し、印刷情報は光さえあればすぐに見ることができる。人々に役立つそんな有用性を、印刷業界としてもっと喧伝すべきである。長寿企業が多いのは日本くらいで、これは、自分の儲けより他者の利益を考えてきた(商売三方良し)ことの“証”といえる。誇っていい。昔は、社会的価値とか文化財保護に気を配る器の大きい経営者が多かったが、そういう人も少なくなった。日本人全体も、先祖とか家系を重んじる欧米人に比べて、きわめてドライになってきている。どうなっているのだろうか? 非常に残念だ。


●「地域情報誌」の育成にビジネス領域がある

 地域繁盛店の誕生は、フリーペーパーで知れ渡ることがきっかけとなるが、今では、一歩進んでネットで情報が広がり、隠れた評判店にお客が押し寄せるようになった。ネットの力はすごいと思わせるが、しかし、ネットで流される情報は主観の集まりで、その主観に任せた意見が通用してしまう危うさがある。あくまで主観であるべきことが、ともすると客観になりがちな部分がある。ネットにはたくさんの情報が載っているが「本当に欲しい情報がない」と嘆く人も多い。再読もできないし、信用できない情報があるかも知れない。やはり、フリーペーパーによって得られる冷静さが必要だ。本には、自ら探して納得のうえで購入し、しかも精読できる強みがある。そこに、印刷特有の文化が育つ。地域情報誌を育てることは、印刷業界が取り組むべきビジネス領域だろう。こじんまりした市場でも成り立つような媒体をつくるところに、印刷会社の役割がある。情報をデジタル処理するノウハウがあれば、十分支援できる余地がある。


●イノベーションの現実から、何を掴み取るか


 文筆家のなかには、既存の出版社や流通機構を通さないで、読者に作品を届けたいという思いがある。現に街の書店には、作家本人あるいは小さな出版社が発行したエッセイ集や郷土誌、地元案内などの本が並んでいる。コンビニエンスストアの棚にも、選び抜かれた特定分野の売れ筋本が置かれている。取次を通さないで販売することが簡単に認められるようになったので、こうした傾向はこれからも増えていくだろう。出版ビジネスとして成り立つかどうかは、新しい発想、アイデア如何にかかっているが、イノベーションに類するビジネスであるに違いない。イノベーションの進展で技術が急速に進歩すると、ある時点で消費者が望む水準を超えるときがくる。それ以上の機能は、いわゆる過剰品質となる。各社同じ土俵でのコスト競争に陥ることになる。電気製品、電子機器の最近の動向をみれば、良く解る。土俵から脱出するためには、用途に応じた単機能の、それでいてニーズに即応した製品につくり分け、異なる顧客市場に販売していくしかない。出版界における既存の流通機構の限界も同じことがいえる。印刷会社としてこうした動きとどう付き合うか、じっくり観察して果敢に挑戦してほしい。


●教育を通じて、学生に印刷の魅力と将来性を

 大学の科目から「印刷科」がなくなって久しい。印刷業界の専門学校も、どちらかというと後継者教育に力を注いでいる。教養としての基礎教育、基本としての技術教育より、ビジネス知識に力が注がれるようになった。経営学の世界でも、理論的な基礎知識より、日常の実務に手っ取り早く役立つ実践的な手法を教えることが重点になってしまった。大学の専門学校化が指向されている今、もしかすると、あらゆる教育分野、産業分野で同じような方向にあるのかも知れない。底辺を拡げ、土台を固めるための学問の場がなくなってきている。若い人が落ち着いて学ぶ機会を得られない。重大な問題だと思う。これでは、進路先の産業について関心を深めることもできないし、将来の夢をもつことも不可能だ。印刷産業に関しても例外ではない。印刷メディアは社会的に必要なこと、印刷産業が魅力的であることを教えたいものだ。印刷業界からの積極的な発信、呼び掛けが欠かせない。


●ユニバーサル・デザインが紹介されて15年

 ユニバーサル・デザインの考え方が日本に導入されてから、15年ほど経った。健常者、目や耳の不自由な方、高齢者、子供など、多様な人々が誰もが等しく、しかも不便を感じずに利用できるようにと、インフラ設備、看板類、各種製品、その他あらゆる分野に浸透してきた。普及している背景には、バリアフリーへの理解、少子・高齢化の進展、災害対策など社会的課題の増大があるが、印刷物による協力も盛んにおこなわれている。印刷業界では、誰でも公平に読める印刷物を「メディア・ユニバーサル・デザイン」と称して、提案営業のツールに組み込んだりしている。印刷業界が提案するユニバーサル・デザインは、文字・書体、色彩・配色の切り口から、大活字本、角丸絵本、点字本に始まり、読みやすい書体(ユニバーサル・フォント)の開発、道路地図、交通路線図の色分け……と、枚挙に暇がない。電子フィルターを通して色補正し、デジタル印刷システムでユニバーサルに印刷するといった技術も使われている。


●印刷業界の社会貢献に結びつけたいものだ


実は「誰にでも公平に読めるように」という社会的要請と、「広告としてのアピール効果を」というプロモーション要求に、印刷会社は挟まれている。どちらを採用すべきか、つねに悩まされる。発注者の理解が足りないと、とかく混同視される。しかし、文字や色合いをデジタル処理し、そのデータを自在にデジタル印刷できる技術をもっている。同じコンテンツを使って、あらゆる読み手(顧客)の事情に応える印刷物を作成することができる。これは、絶対的な強みだ。無駄な生産を避けることも可能で、多様なニーズをもった顧客との共存共栄をはかれる。問題は、顧客ニーズを的確に見出すこと、その対象顧客に正確に印刷物を届けることにある。マーケティング企画から製品デリバリーに至るサプライチェーンを整えて、人間生活にやさしい印刷物を届けたいものである。共存共栄の道を、ユニバーサル・デザインを通じて開きたい。印刷技術の進歩で容易に可能になるだろう。受注促進に使おうとして、1社だけでユニバーサル・デザインに固執してはならない。印刷業界あげての用途提案、発注先を含む企業間の連携が欠かせない。ユニバーサル・デザインという領域のなかで、マーケティング感覚が醸成される。その発展形のなかで印刷業界の社会貢献ができるなら、それに越したことはない。


以上

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