月例の木曜会が10月16日(木)に開かれましたので、内容をご報告いたします。
[印刷]の今とこれからを考える
(印刷図書館クラブ 月例会報告(平成26年10月度会合より)
●バリアブルデータを使った印刷は昔から
「貴社のバリアブルデータはどれだけ強いの?」と題した論文が、アメリカの印刷業界団体PIAの月刊雑誌に掲載された。かつて、住所録を使って個人向けの手紙に宛名印刷していたように、可変印刷は1950年代にはすでにおこなわれていたと、この論文は前置きしている。手紙一通ごとの作成コストは高かったにもかかわらず、営業利益率は非常に良かったそうだ。それは決して、デジタル機器を使っておこなわれていたわけではない。ターゲットである個客に向けて、何種類かの印刷物をつくっていた。マーケティングサービスプロバイダーとしての仕事は、昔からやられてきたということになる。ソフトウエアもデジタルプリンタも存在せず、可変印刷が非常に困難な時代にあってさえ、印刷会社は顧客のために機能していたのである。
●次第に商品になってきたバリアブルデータ
成功した印刷会社は、既存の仕事を受注するに当たり、付帯サービスによって受注の範囲を拡げ、より大きなパイの仕事をこなしてきたことがわかる。当初、バリアブルデータは簡単に処理できなかったことから、通常の業務ではなかった。それでも、印刷会社の努力でバリアブルデータは“商品”に育っていった。広告文のなかに顧客の名前を数回繰り返し書き込んだのだが、それでも、レスポンス率を大きく改善させる要素とはなり得なかった。個人名が記入された印刷物は非常にユニークとされたのに、何度も自分の名前を繰り返されると、顧客にとって不快な“雑音”が感じられ、新鮮な驚きを与え続けてくれるものではなくなった。しかし今、印刷会社は顧客ニーズを満たしているはず?である。たんなる紙への印刷という代替行為だけでなく、優れたソリューションを提供することが重要になったからだ。
●個々の消費者の心に訴える「メッセージ」を
バリアブルデータには、①見えやすい明白なデータ、②背後に隠れた巧妙なデータ――の2種類がある。デジタルデータの究極の目的は「消費者の動向をよく知っていることを明らかにして、企業が必要としているものを理解すること」にある。企業は情報をクロスさせることで、消費者(顧客の顧客)を驚かせるほどの個人情報を把握することが可能になっている。企業は消費者が次に購入する商品を予測するために、購入パターンを調べたがっている。印刷会社はバリアブルデータを、企業と消費者の関連性を示す偉大な道具(ツール)とすることができる。一方、企業がもっている消費者の情報は非常に複雑で、消費者のことをどのくらい知っているかを、当の消費者には知られたくないのである。年齢、性別、民族性などの基本属性はもとより、過去の経験、参加してきたイベント情報、これまでの購買履歴などに焦点を当てながら、消費者の“心に訴える表現”をすぐにでも選びたいと思っている。
●印刷紙面には購買を引き出す強い意図を
表現したメッセージがつねに個々の消費者に注目されるように工夫しなければならない。購買行動を引き出す呼び掛けがないのなら、バリアブルデータによる宣伝広告は効果を生み出せないだろう。バリアブルデータを利用して成功する“鍵”は、メッセージの効用で購買を確実に後押しすることにある。印刷会社は、印刷物の制作方法には関心をもっているが、広告代理店や顧客のデザイン部門へのメッセージの提供(価値提案)には、ともするとお座成りの傾向がある。紙面をパーソナル化(氏名と本文の一部のみ)し印字するだけでは、そして、バリアブル処理した紙面から強く意図したもの(表現)がなければ、印刷会社が顧客を支援する最大の機会は失われてしまうのである。顧客と相互に対話しながら、長期的な視野でマーケティング戦略を支援すること、ソフトとハードを適切に組み合わせて、消費者の生涯価値を高める付帯サービスを提供することに力を注がなければならない。
※参考資料:「How strong is your variable data?」 Lohn Leininger; The Magazine June 2014 ( PIA)
●中小印刷会社だからこそ有利な立場に……
印刷会社は、発注者からなかなかマーケティングサービスの仕事を任せてもらえない。「印刷に徹しろ」といわれて、発送業務すら任せてくれない。マーケティングを手がけて付加価値を高められればよいのだが、幸いにして中小規模の印刷会社が圧倒的に多い。同じく圧倒的に多い中小の顧客企業を相手に多彩な仕事をおこなうことができる。コンピュータ・トゥ・プリントの機能を前面に、そうした客層に働きかけることをお勧めしたい。個々のミニデータをマクロの市場データとくっつけてサービスすることである。個人情報を管理し、コンピュータを駆使し、バリアブル出力し……と難しい面があるが、仮に1社ではできなくても、地元のサービス会社と連携したり、それぞれの分野で強みをもつ印刷会社同士で手を組んだりして、付加価値を確保できる新たなビジネスを創造すればよい。中小企業こそ一番取り組みやすい立場にある。
●キメの細かい仕事で市場との親和性を築け
《9月度例会記事参照》 印刷会社の次代を担う後継者の6割は“ハムレット型”だそうだ。ほとんどの印刷会社には理念がないという。新しい技術を導入すれば儲かるはずという考え方ではダメだ、ソフトやサービスが大切だと悩む。実際に、①仕事に対する見返りや役割に見合う配分が少ない、②惰性の力技でただ仕事をしているように思える、③営業力などのスキルが残っていない――と嘆く。さらに本音でいえば、自社の財務計算はしたくないともいう。それにもかかわらず、地方の印刷会社が何とかやって行けているのは、顧客とのインタラクティブな営業をそれなりにおこなってきたお陰である。地域レベルでみると、印刷には非常に“親和性”があることがわかる。これからは、コミュニケーションメディアの機能を活かした印刷ビジネスをどう形づくるか、が課題になるのだろう。そのためには、顧客ニーズに応える経営ノウハウが必要で、例えば、キメ細かい仕事を得意とする女性社員の存在が価値を増してくる。市場の拡がりはまだまだ大きい。しかし、挑戦しようという気持がなければ、新たなビジネスの土俵は築けない。
●上り坂のパッケージ産業に着目すべきとき
パッケージに対しては包装、保護、物流といった従来の役割に加えて、最近は美装(デザイン)、情報流通、機能性に関するニーズが高まっている。用途開発を含めてアプローチすべき分野は限りなくあり、パッケージ分野はいまや総体的に上り坂の産業となっている。印刷業以外にもさまざまな業界が一斉に参入中だ。これまでパッケージ印刷はグラビア方式が大量生産を担ってきたが、多様性、機能性に富んだ高度な製品を多種類つくるために、インクジェットプリンタを使った「オンデマンド・パッケージング」が台頭してきた。それと同時に包装材料の研究も進み、いわゆる機能性包材が次々と開発されている。高齢者対策、個人志向対策としてのユニバーサル化、コンパクト化、内容物の小口化などもとうとうと進む。使用後のリサイクルを意識して、一気に畳めるようにした段ボール箱もごく身近にある。
●印刷業が中心となってコラボを呼び掛けよう
もはや、“箱”のイメージは払拭しなければならない。包材の表面に絵柄を印刷するのは当然、印刷業が担当すべき仕事だが、多品種・小ロット化に伴って高まるコストは、ITで縮小しなければならない。これからは物流、情報流通、機能性にまで視野を拡げて、業界としてどのような立ち位置をとったらよいかを真剣に考える必要がある。パッケージ分野は印刷業、デザイン業はもちろん、製紙、情報、流通などの各産業が連携して立ち向かうべき複合的なビジネス領域となった。消費者ニーズを捉えるマーケティング的要素も欠かせない。印刷業界は今こそ主体性を保てるプラットフォームを用意して、各産業にコラボレーションを呼び掛けていきたい。
以上
[印刷]の今とこれからを考える
(印刷図書館クラブ 月例会報告(平成26年10月度会合より)
●バリアブルデータを使った印刷は昔から
「貴社のバリアブルデータはどれだけ強いの?」と題した論文が、アメリカの印刷業界団体PIAの月刊雑誌に掲載された。かつて、住所録を使って個人向けの手紙に宛名印刷していたように、可変印刷は1950年代にはすでにおこなわれていたと、この論文は前置きしている。手紙一通ごとの作成コストは高かったにもかかわらず、営業利益率は非常に良かったそうだ。それは決して、デジタル機器を使っておこなわれていたわけではない。ターゲットである個客に向けて、何種類かの印刷物をつくっていた。マーケティングサービスプロバイダーとしての仕事は、昔からやられてきたということになる。ソフトウエアもデジタルプリンタも存在せず、可変印刷が非常に困難な時代にあってさえ、印刷会社は顧客のために機能していたのである。
●次第に商品になってきたバリアブルデータ
成功した印刷会社は、既存の仕事を受注するに当たり、付帯サービスによって受注の範囲を拡げ、より大きなパイの仕事をこなしてきたことがわかる。当初、バリアブルデータは簡単に処理できなかったことから、通常の業務ではなかった。それでも、印刷会社の努力でバリアブルデータは“商品”に育っていった。広告文のなかに顧客の名前を数回繰り返し書き込んだのだが、それでも、レスポンス率を大きく改善させる要素とはなり得なかった。個人名が記入された印刷物は非常にユニークとされたのに、何度も自分の名前を繰り返されると、顧客にとって不快な“雑音”が感じられ、新鮮な驚きを与え続けてくれるものではなくなった。しかし今、印刷会社は顧客ニーズを満たしているはず?である。たんなる紙への印刷という代替行為だけでなく、優れたソリューションを提供することが重要になったからだ。
●個々の消費者の心に訴える「メッセージ」を
バリアブルデータには、①見えやすい明白なデータ、②背後に隠れた巧妙なデータ――の2種類がある。デジタルデータの究極の目的は「消費者の動向をよく知っていることを明らかにして、企業が必要としているものを理解すること」にある。企業は情報をクロスさせることで、消費者(顧客の顧客)を驚かせるほどの個人情報を把握することが可能になっている。企業は消費者が次に購入する商品を予測するために、購入パターンを調べたがっている。印刷会社はバリアブルデータを、企業と消費者の関連性を示す偉大な道具(ツール)とすることができる。一方、企業がもっている消費者の情報は非常に複雑で、消費者のことをどのくらい知っているかを、当の消費者には知られたくないのである。年齢、性別、民族性などの基本属性はもとより、過去の経験、参加してきたイベント情報、これまでの購買履歴などに焦点を当てながら、消費者の“心に訴える表現”をすぐにでも選びたいと思っている。
●印刷紙面には購買を引き出す強い意図を
表現したメッセージがつねに個々の消費者に注目されるように工夫しなければならない。購買行動を引き出す呼び掛けがないのなら、バリアブルデータによる宣伝広告は効果を生み出せないだろう。バリアブルデータを利用して成功する“鍵”は、メッセージの効用で購買を確実に後押しすることにある。印刷会社は、印刷物の制作方法には関心をもっているが、広告代理店や顧客のデザイン部門へのメッセージの提供(価値提案)には、ともするとお座成りの傾向がある。紙面をパーソナル化(氏名と本文の一部のみ)し印字するだけでは、そして、バリアブル処理した紙面から強く意図したもの(表現)がなければ、印刷会社が顧客を支援する最大の機会は失われてしまうのである。顧客と相互に対話しながら、長期的な視野でマーケティング戦略を支援すること、ソフトとハードを適切に組み合わせて、消費者の生涯価値を高める付帯サービスを提供することに力を注がなければならない。
※参考資料:「How strong is your variable data?」 Lohn Leininger; The Magazine June 2014 ( PIA)
●中小印刷会社だからこそ有利な立場に……
印刷会社は、発注者からなかなかマーケティングサービスの仕事を任せてもらえない。「印刷に徹しろ」といわれて、発送業務すら任せてくれない。マーケティングを手がけて付加価値を高められればよいのだが、幸いにして中小規模の印刷会社が圧倒的に多い。同じく圧倒的に多い中小の顧客企業を相手に多彩な仕事をおこなうことができる。コンピュータ・トゥ・プリントの機能を前面に、そうした客層に働きかけることをお勧めしたい。個々のミニデータをマクロの市場データとくっつけてサービスすることである。個人情報を管理し、コンピュータを駆使し、バリアブル出力し……と難しい面があるが、仮に1社ではできなくても、地元のサービス会社と連携したり、それぞれの分野で強みをもつ印刷会社同士で手を組んだりして、付加価値を確保できる新たなビジネスを創造すればよい。中小企業こそ一番取り組みやすい立場にある。
●キメの細かい仕事で市場との親和性を築け
《9月度例会記事参照》 印刷会社の次代を担う後継者の6割は“ハムレット型”だそうだ。ほとんどの印刷会社には理念がないという。新しい技術を導入すれば儲かるはずという考え方ではダメだ、ソフトやサービスが大切だと悩む。実際に、①仕事に対する見返りや役割に見合う配分が少ない、②惰性の力技でただ仕事をしているように思える、③営業力などのスキルが残っていない――と嘆く。さらに本音でいえば、自社の財務計算はしたくないともいう。それにもかかわらず、地方の印刷会社が何とかやって行けているのは、顧客とのインタラクティブな営業をそれなりにおこなってきたお陰である。地域レベルでみると、印刷には非常に“親和性”があることがわかる。これからは、コミュニケーションメディアの機能を活かした印刷ビジネスをどう形づくるか、が課題になるのだろう。そのためには、顧客ニーズに応える経営ノウハウが必要で、例えば、キメ細かい仕事を得意とする女性社員の存在が価値を増してくる。市場の拡がりはまだまだ大きい。しかし、挑戦しようという気持がなければ、新たなビジネスの土俵は築けない。
●上り坂のパッケージ産業に着目すべきとき
パッケージに対しては包装、保護、物流といった従来の役割に加えて、最近は美装(デザイン)、情報流通、機能性に関するニーズが高まっている。用途開発を含めてアプローチすべき分野は限りなくあり、パッケージ分野はいまや総体的に上り坂の産業となっている。印刷業以外にもさまざまな業界が一斉に参入中だ。これまでパッケージ印刷はグラビア方式が大量生産を担ってきたが、多様性、機能性に富んだ高度な製品を多種類つくるために、インクジェットプリンタを使った「オンデマンド・パッケージング」が台頭してきた。それと同時に包装材料の研究も進み、いわゆる機能性包材が次々と開発されている。高齢者対策、個人志向対策としてのユニバーサル化、コンパクト化、内容物の小口化などもとうとうと進む。使用後のリサイクルを意識して、一気に畳めるようにした段ボール箱もごく身近にある。
●印刷業が中心となってコラボを呼び掛けよう
もはや、“箱”のイメージは払拭しなければならない。包材の表面に絵柄を印刷するのは当然、印刷業が担当すべき仕事だが、多品種・小ロット化に伴って高まるコストは、ITで縮小しなければならない。これからは物流、情報流通、機能性にまで視野を拡げて、業界としてどのような立ち位置をとったらよいかを真剣に考える必要がある。パッケージ分野は印刷業、デザイン業はもちろん、製紙、情報、流通などの各産業が連携して立ち向かうべき複合的なビジネス領域となった。消費者ニーズを捉えるマーケティング的要素も欠かせない。印刷業界は今こそ主体性を保てるプラットフォームを用意して、各産業にコラボレーションを呼び掛けていきたい。
以上
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