一雨ごとに秋が深まる今日このごろです。
紅葉にはまだ早いですが、街路樹も日に日に落葉し、近所の公園では、落ち葉を掃く音が聞こえます。
さて、毎月第三木曜日に開かれている「月例木曜会」が、今月18日に開かれました。
レジメ担当の方よりデータが届きましたので、アップさせていただきます。(事務局M)
≪印刷の今とこれからを考える≫
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年9月度会合より)
●印刷は嫌いじゃけど、敷かれたレールでは否
印刷会社の経営を継承する立場にある若い人に聞くと、皆「印刷は嫌いではない」と答えてくれる。ただし、「親から引き継ぐレールではダメ」「自分なりの道をつくりたい」という。親の世代が築いてきた長年のプラットフォーム(ビジネスモデル)をリニューアルしたいと強く思っている。自分自身で何らかのイノベーションを起こしたい。しかし、そのための方法論がないというのが実情なのだろう。ある地方の印刷会社の例では、自分で考えた全く独自のマーケティング戦略を展開して、先代をはるかに上回る売上高を勝ち取ることに成功している。個々のリーダーが経営者として、自社の事業領域をどう構築するか、ポジショニングをどう定めるかによって、業績の良し悪しが決まる。まさに、次世代のトップがもつ経営資質にかかっていることを教えてくれる。印刷業は典型的な地場産業であり、近隣の地域市場、身近な顧客といったミクロ環境のなかでやっていける要素がある。マクロな視点で総論を語られても、現実的な取り組みは宙に浮くばかりだ。
●印刷業の地位向上のために、自ら動き出そう
印刷業は長い間、受注産業として過ごしてきた。営業の基準を品質・価格・納期に置き、往々にして安くやれることを受注獲得の条件とさえしてきた。そのせいだろうか、「印刷会社はお客さんからこう遇されるのか」という情けない思いをたくさんしてきた。印刷営業マンの提案を聞き入れ、議論してくれるクライアントがいなかった。残念ながら、印刷会社はその程度にしか扱われてこなかった。先人たちには、クライアントと同格で話(交渉)をしてきてほしかったと思う。このような過去を経験しているにも関わらず、今、経済界や産業界で活躍している印刷人、マスコミに出て印刷産業の動向を語っている印刷人はいるだろうか? 地域社会に溶け込むことは非常に大切だ。しかし受動的であってはいけない。目に見えるような利便性、効用を打ち出していくことに弱かった印刷業だが、これまで欠けていた部分に、新たな“何か”を能動的にプラスしていかなければいけない。印刷産業全体の有り様、社会や産業に果たしている役割をもっと主張しPRする必要がある。社会的地位の向上のために、一工夫してほしい。
●最新科学とマーケティングをどう組み合わせる?
かつて冠した「エリア」に始まり最近の「ニューロ」に至るまで、そのつど「○○マーケティング」が流行し、企業はそれらの考え方を日常の業務に採り入れようと努力した。印刷会社も翻弄されてきたに違いない。マーケティング戦略のプロセスは、市場のセグメンテーション―顧客のターゲティング―製品・サービスのポジショニングを主軸としているが、従来手法の消費者アンケートやインタビューでは、戦略構築の前提となる顧客ニーズをどうにも掴み切れなくなっている。そこで、脳の反応を科学的に調べて真のニーズを知ろうと「ニューロ・マーケティング」が開発されたのだが、それでも、正確な情報が得られるとは限らないだろう。調査に対する複雑な拒絶反応が脳自体に起こってくるからだ。印刷の本質は“工芸”にあるというのは、物理量と心理量のバランスで成り立っているからである。技術と芸術の掛け合わせといってもよい。最新の脳科学をマーケティングに活かそうというのは、それに近い手法だと思う。ただし、最先端の技術に頼る前に、人間(消費者)を幸せにするためにマーケティングをどう使うのか、両者をいかにマッチングさせるのかに配慮しなければいけない。
●真の「顧客起点」を実践することから始めたい
マーケティングの世界では「顧客起点」の発想が重要だといわれるが、顧客をよく調べてニーズを把握し、それに見合った製品を開発して数多く売る――と考えている間は、実は「企業起点」のままだと思う。販売促進は顧客起点といいながら、その考え方と実行している内容は企業起点に止まる。欧米とくにアメリカでは、顧客のことを標的(ターゲット)と称し、標的とした顧客に一生涯ずっと自社製品を買わせる忠誠心(ロイヤルティー)を如何に植え付けるかが、当たり前のマーケティング手法となっている。これでは販売戦略に等しい。企業である以上、自社製品を買ってもらい売上高をあげなければならない。しかし、顧客起点に立つというなら、少なくとも自社(供給者)と顧客(需要者)の両サイドの利害が一致し、かつ平等である必要がある。いわばWin-Winの関係を築くことが大前提となる。
●日本にある古くからのDNAに見習うものが…
現在は、本当に顧客を起点にして顧客自身の声に耳を傾けること、ニーズを的確に把握して商品化し、そのうえで持続可能なビジネスを成立させることが必須になってきている。日本には三方良しの「近江商人」、顧客と好ましい関係を築く「富山の薬売り」、顧客が役立つものを売る「松下商法」、人間尊重を経営の原点とした「出光思想」など、利他を第一とする素晴らしいDNAがある。それはまた、消費者自身が体験を通して価値を認め、ブランドと称し(賞し)、延いては供給者の企業ブランドを高めることになる。だからこそ、このような日本のビジネス文化は、新時代における経営価値観として必ず復活すると期待している。今こそ、そんな市場環境になってきているのではないだろうか?
●顧客企業と消費者を結ぶ“架け橋”になろう
印刷業も販売促進(セールスプロモーション)に取り組んできたといいながら、実際はクリエイティブな印刷物を企画提案するという一方通行のインフォメーションに過ぎなかった。顧客企業によるPR活動、SP告知のなかで多額の広告宣伝費が使われ、印刷会社はそのための印刷物を受注して、確かに潤うことができた。しかし、それは印刷物を売り込むあまり、企業から消費者への片道の伝達をお手伝いしていたに過ぎない。商品が売れるようにコンテンツを編集しデザインしてきたが、顧客企業と消費者を結ぶ双方向のコミュニケーションを支援していたわけではなかったのである。印刷業はそもそも受注産業であって消費者と直接触れ合う機会もなく、マーケティング感覚に未熟だった。売らんがためのマーケティングに陥って、コミュニケーション本来の機能を見失ってはいないだろうか? もしそうだとしたら、消費者と顧客企業とをつなぐ「情報コミュニケーション事業」――①協働して消費市場のマーケティングをおこない、②協創して商材のマーチャンダイジングを手がけ、③印刷業としてのマーケティング支援サービスを提供する――を自ら難しくしていることになる。
●「マーケティング・サービス・プロバイダー」へ
今こそ、双方向のコミュニケーションを支えながら、消費者に目を向けている顧客企業にとっての価値(顧客価値)を創造し、ソリューション(問題解決策)を提供するように業態変革しなければならない。両者を結ぶコミュニケーションに関わる「サービス・プロバイダー」(総合メディア産業)となるべく、顧客との対話を深める必要がある。現状を乗り越えられれば、たんなる“刷り屋”ではなく、印刷物づくりの“ディレクター”からも脱して、印刷メディアと電子メディアを駆使しつつ、顧客企業のマーケティング活動を支援・代行するサービス・プロバイダーになることができる。本当のマーケティング力があれば、現在のような印刷業界の縮小均衡は起こっていないはずだ。印刷産業のかたちも再定義され、新しい総合メディア産業としてのサービスをマネジメントしていけるに違いない。顧客起点とは、顧客の言いなりに過剰なサービスを提供することではない。一方通行の販促主体の支援サービスを続ける前に、取り組むべきことがたくさんある。“客の客”の真のニーズを掴むとともに、顧客が欲するソリューションを提供し、かつ顧客をリードする関係を築くべきである。
以上
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