印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例≪木曜会≫報告 2013年2月

2013-02-22 15:07:20 | 月例会
印刷図書館倶楽部では一年ほど前から有志の方々に集っていただき、第三木曜日の午後自由参加による月例会を開いております。

印刷業界の有識者の方々による集いですので、中身は大変深く濃い内容だったにも関わらず、残念ながら記録して参りませんでした。その場限りではあまりにもったいないことですので、今月からは要旨をブログ上に報告することに致しました。
テーマ等は特に設けず、その時の自由発言による展開です。つきましては、今月の木曜会が昨日行われましたので下記の通りご報告させていただきます。




≪[印刷]の今とこれからを考える≫ (2013年2月21日(木)月例会より)   


●地産地消型の印刷ビジネスへ
 インクジェットプリンタなど安価なシステムが普及したことにより、ちょっとした印刷物なら誰でも簡単に作成できる時代になった。それによって、印刷業界がどういうかたちになるのかは解らないが、ヨーロッパの街中に見られるような“地産地消”型の印刷会社が増える方向に戻っていくのではないか。今は、その端緒なのかも知れない。校正に関してもデジタルシステムでおこなわれ、しかも紙に出力しないで、画像データを通信で飛ばして確認をとるまでになった。地域密着型の事業展開がしやすくなったといえる。


●アート的な価値が再び見直される
パソコンからプリントアウトできることは、年賀状をはじめどんな印刷物でもアマチュアの人がつくれるということを意味している。謄写版の原理を使ったパーソナル用の簡易印刷機は、パソコンの普及とともに急速に姿を消した。印刷会社のドル箱だった年賀状印刷も、メールに移行して急減した。ネットからはさまざまな画像が自由にダウンロードできる。それでも、いずれは飽きられるかも知れない。やはり、印刷でしか表現できないようなアート的な価値が再認識されるのではないか。


●感性と個性に応える本物の印刷を
衣類に繊維印刷する例では、東京の山手線を一周する間に同じ絵柄に出会ってしまうほどだった。あまりにも多いので、それ以上は量産しないという方針を決めた経緯がある。顧客にハーフメイドのデザインを提供するような“囲い込み”型の印刷は、感性が尊ばれて個性化した現在の市場では壁にぶつかってしまうだろう。
「単純な名刺」があったらいいと思う。どんなに優れたデザインであっても、字が小さ過ぎて読めなければ有効ではない。デザイン文字は本当に読みにくい。その点、ユニバーサルフォントにすると、小さい文字でも抵抗なく読むことができる。高齢者層からは逆に、活字による文字が欲しがられているほどだ。


●文字表現のあり方を提唱しよう
芥川賞を受賞した作品に、平仮名だけの文章を横書きした小説があった。読者にとっては、頭のなかで平仮名の漢字に変換しなければならないので、非常に読みにくい。組版ルールには沿っているが、版面まで他のページと異なるようにみえる。作者にしてみれば、コンテクスト(行間、文脈)を読んでもらいたいという狙いがあるのだと思うが、文芸作品であっても可読性は大切だ。作者が問題提起したのだから、印刷業界の方からも、文字表現の好ましいあり方を提唱すべきではないだろうか。


●印刷の用途や機能を考えてほしい
ポスターなどの印刷物をグラフィックデザイナーに依頼すると、文字を極端に小さくしてしまう。ユニバーサルフォントは読みやすいのに、出版社の編集者にはなかなか理解してもらえない。デザイナーや編集者は見る人、読む人の立場に立ちながら、その印刷物の用途とか機能を考慮に入れてほしい。人間工学から設計されたのが印刷用の書体であったはずで、現に内容は同じであっても、活字書体を使った本の方がデザインフォントの本より売れたという例がある。デジタル技術で容易になったのだから、印刷物の種類によって使い分けるべきだと思う。


●顧客と一緒にイノベーションを起こす
印刷業界は、いってみれば水の温度が20℃から50℃に変わるような範囲の中に留まっているようだ。本当のイノベーションは、凍結して氷になるか、気化して水蒸気になるかというくらいでないといけない。グーテンベルク時代から何世紀にもわたってイノベーションを起こしていないのは、印刷業界だけだといわれている。これまでにも技術的な革新はあったが、それは印刷物をつくるための進歩であって、根本的なところが変わったわけではない。
 今でも「クライアントの要望が優先」といっているが、よく考えると間違っていると思う。全ての産業から下に見られている現状を、逆に上から見るような関係に変えなければいけない。顧客を対等なパートナーとみなして、お互いによくなろうと取り組んでいくなかで、必ずイノベーションを起こせるはずだ。


●素晴らしい産業として自立すべきだ
印刷業界は、全産業とつながっている他に例のない素晴らしい業界だと思う。印刷の仕事は楽しいはずなのに、自ら卑下しているところがある。技術開発にしても“島国根性”で中途半端に終わらせてしまう。ビジネス上のリスクも自分で背負い込んでいる。著作物の隣接権(編集著作権)も、出版社などに渡さないで印刷会社自身が保持していなければいけない。
 印刷業界は長い間“低空飛行”を続けてきてしまったが、明治時代には、近代化と文化を創造してきたエリート集団だったはず。今こそ、産業として自立できるよう自己主張すべきだ。あらゆる面で委縮してしまっているので、気宇壮大な人材を育てる必要がある。